なつきたっ! 〜アスレードと魅惑のチョコプリン・夫婦編〜
―2009年 8月22日 0600 プエルト・プラタ―
UPC軍の名前を借りた黒服集団によるアスレードのチョコレート工房制圧の知らせを受けたハインリッヒ・ブラット少将は2人の傭兵を調査に派遣している。
任務はイスパニョーラ島で何が起きているかを探り、またUPC軍にとって害のある事象であれば可及的速やかに対処することだった。
だが、派遣された傭兵は‥‥。
「アルー、こっちよこっち」
ココナッツハットに、様々な花のレースが施されデコルテと背中の開いた純白の半袖ドレスを着た百地・悠季が恋人‥‥いや、夫に向かって手を振った。
「わかっている‥‥。緯度の低い位置にあっても風があって少しやすそうだ」
呼ばれた夫ことアルヴァイムはスラックスにYシャツ+チョッキという出で立ちで悠季に近づく。
観光客としてすんなり入れたが町並みは崩れかかっている部分が多く、地球とバグアの戦闘による傷跡を深く残している状況だった。
「レンタカーがあるみたいだから借りていかない? 早く回れるし、美味しいお店は隣町みたいよ?」
いつの間に買っていたのかガイドブックを片手に悠季はアルヴァイムに詰め寄る。
「わかった。軍事警察の詰め所を尋ねるにしても足は必要のようだ」
どうみても観光気分の嫁を言外に仕事できていることを示唆しながらアルヴァイムは足を進めていった。
車で走ること数時間、軍事警察の大きな詰め所に二人は訪れる。
「アスレードの居城‥‥というか工房に入っていったのはUPC軍ということになっているのね? おかしな様子はないの?」
以前にアルヴァイムが関わっていたこともあって責任者とはすぐ会えたのだが、情報は得られていた様子はなかった。
(「バグアに適する謎の集団がいるのは確かなようだが‥‥何ものなんだ?」)
工房を制圧したまま何の動きも見えないようで、軍事警察としてもバグアを警戒するだけで精一杯なのが実情である。
「そういうことか‥‥最近人が来た建物といってもわかんないわよね。結構広い場所だし、バグアの領土の方が多いみたいだから」
イスパニョーラ島は北海道くらいの広さなのだ。
半分がハイチという国であるとしても、全てを把握できるほど情報のネットワークが完成してもいないのである。
競合地帯というよりもバグアの方が戦力的に優位なこの場所でできることは自衛だけだ。
「戦闘などがあった場所の確認だけはしておきたい」
何かの手がかりになるかとアルヴァイムは軍事警察から情報を聞き始める。
小さな島国で果たして何が起こっているのだろうか‥‥。
―同日 1400 プエルト・プラタのビーチ―
「午前中の収穫はなかったな‥‥逆に言えばそれが一番の収穫ともいえる」
水掛けをして遊び、ビーチで横になっている悠季の背中にサンオイルを塗りながらアルヴァイムが静かに呟く。
悠季が目をつけていた怪しい建物に出向いてみたもののアジトとなっている様子はなかった。
制圧しているだろう工房を警戒してみたものの仲から人が出入りしてもいない。
不気味ではあるが、動きがない限り下手に刺激もできないためビーチで休憩している最中だ。
「そうね。丁度リゾート過ぎずにリラックスできていいわ‥‥こうしているとここが荒れている土地ってことを忘れそうね」
観光客を入れていることもあり、南の島のビーチはそこそこに活気がありバグアが幅を利かせて軍事警察といがみ合いのある場所とは思えない。
そんな感じで二人がのんびりしていると、学生服を着た男女が浜辺の上を歩いていた。
「ねぇ、ちょっと休んでいこうよ、イザーク君」
「四賢者からの仕事が先だぁ。パンドラの存在がこの世界のヤツラに知られるのはマジィんだよ」
「それはわかっているけど‥‥ちょっとくらいこの世界の人に協力してもらったっていいと思うよ」
二人はそのままあーだこーだと互いに意見を交えながらアルヴァイムと悠季の前を通り過ぎていく。
「今の話を聞いていたか?」
「もちろん、あの子達何か知っていそうよね? ちょっとおかしい話をしていたきもするけど‥‥」
悠季の背中にオイルを塗っていたアルヴァイムは手を止めずに静かに悠季に囁いた。
変った学生服ではあるが、話ぶりからすれば観光をしているようには見えない。
そんな存在がこの荒れた土地に用があるとすれば同業者くらいだろうが長く戦っているアルヴァイムは彼らのような能力者を見たことはなかった。
「休憩は終わりだ。目的が出来たので移動するとしよう」
「もう少しアルに私の水着姿見てもらいたかったけれど仕方ないわね」
活路が見えたとあって元気になるアルヴァイムに悠季はクスリと笑いながら同意する。
オレンジのセパレート水着をじっくり見せるのはまた次の機会となりそうだった。
―同日 1600 プエルト・プラタのファーストフード店―
「ちょっと、相席してもいいかしら?」
赤のタンクトップに袖なし革ジャケットと黒のハーフパンツ姿の悠季がビーチで見かけた二人に近づき平静を装いながら声をかける。
「あ、ど、どうぞ‥‥」
大きな帽子を被った日本人らしい少女はどこか緊張した様子で悠季を促がした。
「春奈よぉ、飯食い終わったらとっとといくぞ」
だが隣の青髪の少年は少女を春奈と呼んですぐさま立ち上がろうとする。
「生憎、少し話を聞かせてもらいたいので付き合って欲しい」
青髪の少年、イザークをアルヴァイムは諌めた。
無論、言葉だけでなく懐に隠し持った消音器付き拳銃を押し付けた上である。
「ちっ‥‥座れよ」
面倒な相手に目をつけられたと言わんばかりに舌打ちをしたイザークは席に戻り、顎で悠季達を正面の席に座られた。
「どうも、貴方達の制服って何処でも見たことないようなものだけれど、一体何者なの?」
「えーと、どこまで話せばいいのかな‥‥」
悠季が笑顔で尋ねると春奈は飲み終えたドリンクのストローを指で弄んで悩みだす。
「テメェらとは関係のねぇ話だ。いっても信じねぇだろうし、話すことでこっちの世界に歪みがでる」
悩む春奈に苛立ってか口を閉ざしやすいイザークが面倒そうに話した。
「つまり、お前達は別の世界から来たと‥‥信じられないが、もし謎の集団が同じような存在であるなら可能性はあるか」
「そういう風にいってくれた人って初めてです。謎の集団というのは『パンドラ』という組織で、私たちみたいにいろいろな世界を渡りあるいてある物を回収する組織です‥‥でいいよね、イザーク君?」
アルヴァイムの柔軟な反応に驚く春奈だったが、話をあやふやにさせながらイザークへ確認をとる。
「俺に聞くんじゃねぇよ‥‥けどなぁ、それくらいだろうよぉ。話が済んだんなら、俺たちは動かせてもらうぜぇ」
これ以上は待てないとばかりにイザークは立ち上がり席を離れていった。
「ごめんなさい、えっと‥‥でも、事件は私達の管轄ですのでお二人はそのままレジャーを楽しんでいてください」
イザークの後を追うように春奈は悠季達に一礼するとパタパタと駆け出していく。
「どうするの?」
「依頼としては解決だが‥‥南の島で変わった出会いをしたのにこのままというのは惜しい」
二人を見送った悠季が隣のアルヴァイムにハンバーガーを食べながら尋ねると、アルヴァイムはポテトを齧りながら静かに答えた。
何か起きるなら今夜だと、二人は傭兵の直感で感じている。
夕日の街は綺麗だというのに物騒な予感が酷く不釣合い二人は思えた。
―同日 2100 アスレードのチョコ工房内チョコレート城―
「これが【創界の書】の欠片たるチョコプリンか‥‥冗談のような形になったものだな」
黒いスーツにサングラスをかけた男が部下に探させた物を手にしながら静かに呟く。
「冗談とはいってくれるなぁ!」
ガシャァンとガラスが割れてローブを身に纏った男が工房の中に突撃してきた。
ローブで隠れた顔に残忍な笑みを浮かべ、金髪を揺らしながら床に足を着くとそのままアスレードは黒服に向かって駆けて拳を振るう。
「サイコバリア」
アスレードの拳が男の顔を叩こうとしたとき、男は静かに懐中時計を掲げ言葉を紡いだ。
顔に当たろうとした拳が見えない壁に阻まれて男に届かなくなる。
「おもしれェェ! ぶち割ってやるぜぇぇぇっ!」
一瞬驚くアスレードだったが、口をサメのように開いて笑いだすのだった。
―同日 2130 チョコ工房の敷地―
「爆発があったと聞いたけど、何があったというの」
「わからないが‥‥」
車を走らせて現場に向かう悠季とアルヴァイムがチョコ工房の敷地に入った瞬間に違和感を感じる。
「今、何か感じなかった‥‥あぶないっ!」
悠季に確認を取ろうとしたアルヴァイムだったが、空から降ってきた岩にハンドルを強引にきってふきりった。
「岩が飛んでくるって何事なの?」
車にしがみついていた悠季が疑問符を浮かべると目の前の光景がその答えをしめしていた。
アスレードに向かって黒服の男達がテレキネシスでも使っているのか周囲の物を動かし攻撃を仕掛けている。
飛翔しながら戦う黒服たちとアスレード‥‥そして、先ほどであった春奈とイザークが戦闘を繰り広げていた。
「戦闘は最終手段としたかったが、仕方ないか‥‥戦闘からは逃げられないらしいな」
数時間までホテルでのんびりしていたはずだが、目の前で繰り広げられる普段とは違う戦闘の光景にアルヴァイムは楽しそうに二丁拳銃を抜く。
「本当ね、今夜はいつもとは違う意味で眠れなくなりそう」
車から降りて男に奇襲をかけようと動くアルヴァイムの後ろを追うように悠季も動きだすのだった。
―後日 UPC本部通信室―
「報告は以上よ。謎の集団は爆破事件を起こしたあと姿を消したわ。必要であれば続けて調査もするわ」
後日、事件の概要を悠季は報告していた。
異世界からの集団が超能力を使って暴れたなどとは書けず、当たり障りの無い部分での報告となる。
春奈やイザークから異世界の情報を残すことでガーディアンが世界を破壊させてしまうという話も聞いていたこともあるが、それが全てではなかった。
(「せっかくの貴重な経験なんだから二人だけの秘密にしたいもの」)
『わかった。今後同じようなことが起きないとも限らないが、当面の安全確保ができたのであれば問題はない。苦労をかけてすまないが、これからもよろしく頼む』
依頼主であるハインリヒはそれだけを返すと通信をきる。
「アスレードともまともに遣り合える相手とは‥‥今後他の場所で遭遇したくない相手だ」
通信を終えた悠季に壁にもたれかかっていたアルヴァイムが目を伏せながら腕を組み息をついた。
「そのときはまた、あの子達が来るわよ。でも、デートの時は勘弁して欲しいわ」
息をつくアルヴァイムに悠季は抱きつきつつ微笑む。
ひと夏の出会いを胸に秘め、二人はまたバグアとの戦いに身を投じる戦士へと変ろうとしていた‥‥。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス 】
ga5051 /アルヴァイム/ 男 / 26 / スナイパー
ga8270 /百地・悠季 / 女 / 17 / ダークファイター
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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どうも、いつもお世話になっています。橘です。
OMCでCTSが対応ということもあり、頑張って書かせていただきました。
マギラギのNPCと競演という普段では見れないようなノベルにしています。
いちゃいちゃ具合を個人的にあげてみたのですが、いかがでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
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