When stifled petal
「空を彩るは、硝煙か‥‥」
遠くで、争いの報せを聞く。
どうせ彩るのなら、この身を焦がすほどの情熱の華がよいと。
そんな事をそっと心の中で呟きながら。
◇◆◇
ゆったりとした空気が、二人の間には流れていた。
時折吹く風は心地の酔いものであり、少し汗ばんだ肌をサラッとした風で撫で上げていく。二人の距離は、変わらないまま。
つかず、離れず。それは、出会った当初から変わらぬものであった。
遠くの空を見ると、光がポーンと舞い上がり、そして華開いて散る。
色取り取りの光の華達は、まるで一つ一つが過ぎた思い出のように開いては閉じていくのだ。その様子にロジー・ビーはそっと息を吐いた。
弄るのは、ワインの入ったグラス。くるっと回しては、飲まずにまた降ろして。
視線を廻らせるのは隣に座る彼、カノン。カノン・ダンピールである。
こちらを気付いていてもいいはずなのに、彼の視線は綺麗に舞い上がる光の方に集中している。何を考えているのだろうか、何時も掴めない‥‥不思議な人、ロジーは感じていた。
心の置き場は、もう既に彼に支配されているというのに。それすらものらりくらりと何時もかわされてしまう。
彼が誰を好きでも構わないのに。
その相手すらも、あたしは愛すると誓ったのに。
それでも出てこない彼の言葉に、いつも想いで胸が張り裂けそうなほど悲鳴を上げているのだ。
ふと気を緩めると、視界が霞む。
それをごまかすかのようにロジーはワイングラスを口にしていた。
綺麗に大輪が開いた頃、ロジーはほんのりと頬を赤く染め始めていた。
「もしあたしが‥‥」
ガラス越しのワインを、そっと花火に照らし合わせながら、言葉が漏れた。
耳に入った音にカノンは振り返った。
その瞳は見開いており、地よりもなお深い紅い瞳がゆらゆらと揺らめいていた。
「もしあたしがあの花火のように散ってしまったら‥‥どうしまして?」
ふわりと微笑みながら、何処か影を残しつつ紡がれた音。ロジーはゆっくりとカノンに向き合っていた。
ゆらゆら揺れていた瞳は、やりきれないといったように強く閉じられる。
膝にあった掌は、強く強く握り締められ色が変わっていた。
その様子にロジーはただ見つめるだけ。そして小さくまた「どうしまして?」と、囁く。
「僕は‥‥」
息を呑みつつ、言葉を捜しつつ。閉じられた瞳は開くことなく、紡ごうとしているのはどんな言葉なのか。その様子に、ロジーはただゆったりと微笑んで見守っていた。既にワインはテーブルの上。もう、酔いで紛らす事は必要ではない事を願っている。
―― 彼は、言葉をくれるのかしら。
またくれないのではないのか、それとも‥‥不安と期待が織り交ぜになりつつも、待っているしか彼女は出来ない。
「僕は‥‥あなたが散るのは嫌です」
言葉に出しつつも、カノンはまだ告げたりないかのように拳は強く握られたままだった。それに気付かぬまま、ロジーはそっとくれた言葉に胸を撫で下ろす。まだ、望みは消えていないと。ささやかな事に、胸が再び躍るのだ。
「‥‥そして、散らせたくないと願っています」
安心したのも束の間、不意に何かに体が包み込まれた。カノンだった。
「ロジーさん‥‥」
カノンの思いは揺らめいていた。どう接したらいいのか分からない、だけど‥‥この腕の中にいつまでも留めていたいと思うのは確かで。複雑な思いが彼の中を支配していた。
そして、その迷いが余計ロジーを苦しめている事にも薄々気付いている。
包み込んだ相手の髪の香りが、そっと鼻腔をくすぐる。
甘く、切ない香り。
いつまでも嗅いでいたい、余計募る想い。
耳に聞こえる重低音の響きにそっと視線を遠くの空へと投げる。
打ち広がったのは、大きな大きな大輪。
―― あの、光の華のように。
この身も散りたい。
先程のロジーの呟きが、蘇ってくる。
きっと、彼女も々想いに馳せたのだろうか。そうであったのなら。
絡め取ったのは一房の髪、それとも心。
まだ残る暑さは、夏のためなのだろうか。
ただ、この収まらない動悸だけは‥‥自分を包み込んでいる黒髪の彼のためということだけは確信をロジーは持てただけだった。
いつまでも、この温もりが傍にあったなら。その想いが、一筋の透明な雫となり、地面へと吸い込まれていった。
◇
「んっ‥‥」
少し肌寒さを感じ、ゆっくりと開かれた瞳が映し出したのは赤い赤い夕焼け。
慌てて体を起こすも、少しバランスを崩し、胸の上に置かれていた本がバサリと床へと転がり落ちた。
「ね、寝てしまったのですね‥‥」
いつの間に濡らしていたのだろう、慌てて目元を拭いながら、そっと辺りを見回すと対面になるように置かれたソファーの上で上下する銀色が目に入る。
「‥‥」
その様子に少し胸を撫で下ろしながら、そっと傍にあった膝掛けを拾い上げ、上へと掛ける。規則正しく揺れる胸元、そして握り締められた眼鏡。その赤い縁の眼鏡をそっと取ると、もう片方の手で抑えられていた本と一緒にテーブルの上へと移す。
すっと顔に掛かった髪を指でよけると、いつもは見ることの無い穏やかな表情が覗けて。そのふっくらとした唇に思わず引き寄せられそうになる。
もっと近くで覗き込みたくて、近寄ると鼻を刺激する彼女の匂い。すっと吸い込むと、くらくらとなりそうで。
伸ばした手が、その白い肌へと触れかかる寸前で微かに動いた気配を感じ、思い止まった。これ以上は、まだ。
「‥‥いつか、僕の気持ちが固まる時まで‥‥」
―― あなたは、待っててくれるのでしょうか。
彼女の想いは既にわかっている。何度も何度も言葉を変え伝えられてきた。だけど、自分の中では形にするのがまだ怖い。
そして‥‥もう一つ気付いてしまった、大事な存在。
それでも構わないと、彼女は言うだろう。それすらもわかっている。
だけど。
「‥‥せめて、あの夢のように抱きしめていられたら」
先ほど微かに見た、引き寄せている自分。それはきっと今の自分の中の気持ち。
過ごしたいのは同じ空間、そして同じ時間。共有したい、温もり。
昔の想いが、まだ自分を縛る中。それを抜け出すことに足掻くしか自分を保てない事が悔やまれる。悲しませてるのは、自分の存在。彼女にとって自分が存在しない事が一番良かったのかもしれない、出会わなかったら‥‥巡る想いの中、出会って救われた自分がいることも否定出来ない。
穏やかに眠る顔を見ながら、そっと我が身を抱きしめる。
きつく、きつく。
「いまは、これだけ――」
遠く過ぎ行く気配にロジーはそっと目を開いた。
言葉と共に触れたのは、眠り姫を起すには物足りない、額へのキス。
今はまだ時ではないと、そう告げられた昼下がりの時間。
この、暑い時間が見せてくれたのはロマンスではなく、現実の延長で。
「せめて真夏の夜の夢‥‥そんなサービスしてくれても良いでしょうに」
まだまだ彼の成長をゆっくりと見守りなさいと、誰かにそう言われたようで。爽やかな笑顔が浮かんだと思ったら、溜息と共に苦笑が漏れた。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga1031 / ロジー・ビィ / 女 / 22 / ファイター】
【gz0095 /カノン・ダンピール /男 / 18 / NPC:一般人】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注ありがとうございました。
いつもの如く、丸投げ感謝しつつ。自由に弄って良いとの事でワクワクと。
いつものように、いつもと変わらない二人の距離。
そこを重視しつつ、いつもは描けない彼なりの想いもこめて。
少しでもモダモダが多くなるようにと。
CTSの中では描ききれない、普段の距離が出てるといいなと思います。
それでは、またお会いすることを願いまして。
雨龍 一
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