なつきたっ・サマードリームノベル
美環 玲



豪華絢爛・豪華客船ツアー

『夏も終わりに近づき、今年の夏の運を試してみませんか?』

これは近くのスーパーで配布されていたチラシ。
2000円以上の買い物をすれば『くじ』が引けると書いてあり、その特賞が『豪華客船ツアー』だった。
何でも今回はモニター募集の為にくじの景品にされているのだとか‥‥。
「まるで豪華ホテルのような設備、あなたもお試し下さい――か」
チラシを見ながら小さく呟く。
手元には2000円以上購入した証のレシート、ちょうど一回だけだがくじが引ける。
「当たらないだろうケド‥‥」
でも何処かで期待している自分に苦笑する。

そして‥‥。

「特賞! 大当たりだよ!」

がらんがらんとベルの音と転がってきた金色の玉を見て、ぽかんとするだけだった。

視点→美環 玲

 この日、美環 玲は美環 響と一緒に買い物に来ていた。玲が一回分、響は数回分のくじを引けるレシートを持っていたけれど、響は全てが『残念賞』だった。
「タネと仕掛けがあればいくらでも大当たりなんですけどね」
 外れた後に響が少し苦笑しながら呟き、奇術で手のひらにいくつもの金色の玉を出してみせる。しかし奇術で出した金色の玉は無効であり、響のはずれが覆る事はない。
「まぁ、響さんったら‥‥」
 玲は口元に手を当ててクスクスと笑っている。そして何気にくじをしてみると‥‥耳が痛くなる程のがらんがらんとベルの音が鳴り響く。
「あら‥‥」
 目を瞬かせながら金色の玉を見る、そして直ぐににっこりと穏やかな笑顔で響を見て「響さん、ご一緒しません?」と流し目をしながら言葉を投げかける。
「え?」
 響は先ほどの玲のように目を瞬かせた後「ふ」と笑って言葉を返す。
「あなたとご一緒できるなんて、僕は幸せ者ですね」

 それから数日後、二人は豪華客船が停泊している港へとやってきていた。
「まぁ、結構大勢の人がいるのですわね」
 玲が小さく呟く。確かに大勢の人たちがいて気を抜けば逸れてしまいそうなほどだった。
(「どうしましょう、逸れてしまいそうですわ‥‥」)
 玲が少し考え込んでいると「どうぞ、玲さん」と響が腕を勧めてきた。
「え?」
 すると玲はきょとんとした表情で響に向けて呟く。
「どうかしましたか?」
 響は少し心配そうな表情で玲に問いかける。きっと『何事だろう』とでも思っているのだろう。
「ふふ、私も同じ事を考えていましたのよ」
 くすくす、と可笑しそうに笑いながら玲が言葉を返すと「そうだったんですか、ソレではいきましょう」と二人は腕を組みながら豪華客船へと乗船したのだった。

 それぞれ二人は宛がわれた部屋へと荷物を置き、玲は舞踏会のパーティードレスへと着替える。元々名家の生まれの彼女は品があり、歩くだけで他の男性を魅了していた。
(「これからどうしようかしら、折角ダンスパーティーに来ているのだから、存分に楽しみたいですわ」)
 玲はノンアルコールのシャンパンを一口飲みながら会場を見渡していた。
 その時「お嬢様、踊っていただけますか?」と響が奇術で花飾りを出しながら玲をダンスへと誘ってきた。
「えぇ、もちろんですわ」
 にっこりと玲も笑顔で言葉を返し、二人は手を取り合ってダンスホールへと向かい行く。クラシックのゆったりとした曲の中、二人が踊りを始めると何処からともなく羨望のため息が聞こえてくる。同じ容姿をした二人、まるでお人形のように完成された二人に感動する者すら現れる。
「響さん、今の私達どのような関係に見えるかしら‥‥」
 玲は濡れた流し目で響に問いかける。同じ容姿を持つ二人、ほとんどの者が『仲の良い双子』のように思っているのではないだろうか。
 しかしそれが真実なのかはまだ誰も知らない。
「人の目なんて関係ありませんよ、貴女のパートナーは僕‥‥それでいいんじゃありませんか?」
 にっこりと響が言葉を返すと、玲は少し驚いたような表情をして「えぇ、そうね」と言葉を返したのだった。
(「響さんと踊るこの時間が永遠に続けばいいのに‥‥永遠に二人だけで踊り続ける事が出来たら‥‥」)
 玲は心の中で呟き、目を伏せ――そして響を見て笑う。
 それと同時に曲が終わり、二人のダンスを見ていた人物達から「わぁっ」と拍手が沸き起こる。
「ふふ、目立ってしまいましたわね」
 微笑みながら玲は響の頬にキスをして「また後でね、響さん」と言葉を付け足して二人はそれぞれ別々の人間とダンスを楽しむことにしたのだった。

「先ほどのダンスは素晴らしいものでした、ぜひ私とも踊っていただけませんか?」
 胸元に薔薇を一輪刺した男性が玲に話しかけてくる。
「えぇ、勿論喜んでご一緒させていただきますわ」
 ふわりと花が咲くような笑顔で言葉を返し、玲は男性と踊り始める。ちらりと視線を響に向けてみれば数名の女性に囲まれており、彼も一人の女性を選んでダンスを始めた。
 暫く踊り続けていた時だった、スタッフの男性が「少々問題が発生しており、解決するまで甲板でご休憩お願いします」とダンスホールの乗客たちを甲板へと誘導していく。
「‥‥響さん、あの方の様子がおかしくありません?」
 玲が視線を変えずに「入り口から右に三番目の方ですわ」と響に向けて呟く。響も相手にバレないように視線を向けると『問題が起きた状況』なのに何処か楽しそうな男が視界に入ってくる。他の乗客たちは平静を装ってもいても表情から不安を感じ取る事が出来るのに、その男だけは『不安』が感じられないのだ。
「少々お待ち下さいませ」
 玲はタロットを取り出し、占いを始める。彼女は霊感が強く、オカルト知識を豊富に持っている。それゆえ彼女の占いは外れることはほとんどない。
 響も何かを感じたようで玲のタロット占いが終わるのを静かに待っている。
「‥‥‥‥」
 玲のタロット占いが終わると、彼女の表情が険しくなるのを響は感じて何か起きているのだという事を直感的に感じる。
「どうかしましたか?」
 「えぇ‥‥この客船に爆弾が仕掛けられています」
 玲の言葉に「あの人に話を聞いて見ましょう」と響が怪しい人物の所へと向かう。
「うるせぇ! 俺に触るんじゃねーよ!」
 響が話しかけた途端に男性は暴れ始め、響に攻撃を仕掛けてくる。しかし傭兵として普段命の危険が飛び交う戦場に身を置く響にとって『ただのテロリスト』である男性の攻撃を避ける事など造作もない事だった。
「折角の優雅な時間なのですから、少々大人しくしていただきたいですね」
 響は呟きながら男性を軽く攻撃して気絶させてしまう。
「お疲れ様でした、この方を調べてみたほうが良さそうですわね」
 玲が呟き、響と一緒に男性の荷物などを調べてみるのだが、何か事件に関係していそうなものは所持していなかった。
「仕方ありませんわ、もう一度タロットに聞いて見ますわね」
 玲がタロットを取り出して再び占いをはじめ、その仕掛けられている場所を特定する。
「しかし爆弾の近くに複数の危険があると出ていますわ」
 恐らく爆弾を監視、実行する係りの人物なのだろう。
「お嬢様、もう一曲踊っていただけますか?」
 にっこりと響が微笑みながら玲に手を差し出すと‥‥玲は少しきょとんとしたような表情で「舞踏会の第二幕ですわね」と答え、二人で危険が待つ場所へと向かう。
 それから事件解決までは早いものだった。響と玲が向かった場所はボイラー室、恐らく乗客を人質にとって身代金でも要求するつもりだったのだろう。
「呆気ない幕切れでしたわ」
 犯人達を捕まえた後に玲がため息混じりに呟く。
「でも、また皆様の注目を独り占めですわね」
 玲が呟くと「そうですね」と響が言葉を返す。その後、犯人達を船長に渡すと、警察に犯人達を引き渡すために一時帰航する事となった。

「もうすぐでまた出航するみたいですよ、夜風は冷えますから部屋に戻りませんか?」
 響が玲に話しかけると「もう暫くだけ此処にいたいですわ」と風に漆黒の髪を揺らしながら言葉を返す。
「そうですわ、ここで踊りません? 音楽がないのは寂しいですけれど」
 苦笑しながら玲が響を誘うと、響は暫く考え込み、奇術で薔薇の花を取り出して玲に捧げる。
「ダンスを誘うのは男からですよ、レディ、僕と一緒に踊っていただけませんか?」
 響の手から薔薇の花を受け取り「喜んで」と玲は手を重ねる。
 その後、二人は甲板で音楽なしの少し寂しいものだったけれどダンスを堪能したのだった。


END

――出演者――
gb5471/美環 玲/16歳/女性/エキスパート

gb2863/美環 響/16歳/男性/エキスパート

―――――――
美環 玲様>
こんにちは、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注をありがとうございました。
ご希望の通りのノベルに仕上がっているかドキドキなのですが、ご満足して頂けるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、今回は書かせて頂き、ありがとうございましたっ。

2009/9/8


written by 水貴透子