クリエーター名  深海残月
コメント  手前はふかみ・ざんげつと申します■文章は主に感覚系で緻密な描写は少々苦手。人物描写はそれなりに掘り下げますが周囲の状景等の描写は甘め。得手は個人〜少数の戦闘&考え過ぎ位の心情描写かと。好みは闇色・二面性・固ゆで・自然体等■各種禁断の愛取扱許容範囲内。但し「恋愛小説」をキーワードに入れていない通り(?)『行為含む真剣な恋愛絡み発注』は程度ともあれ御勘弁頂けると。精神面のみなら真剣でも歓迎。挨拶・冗談・ギャグ扱い等コメディ系なら少しの行為は問題ありません■タイアップゲームではPC様のキャラクター性重視でやらせて頂いてます■楽しんで頂ければ幸い。…作成が遅い傾向あり、御容赦★★当家雑記にて20160620納品分までの依頼系ライター通信相当掲載■「Extra Track」参加多謝、〆ました■どさイベ絡み品開放中、もし需要がありましたら。
サンプル ■サンプル1
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…目次。
サンプル1 この目次
 +当方の常設ノミネート対応商品の受注はこんな感じになってます。
 +PCシチュエーションノベル系のちょっとした提案。
 +WTノベル系について。
サンプル2 昔書いた回想系サンプル(鬼・丁香紫@東京怪談)
サンプル3 昔書いた戦闘系サンプル(真咲・御言@東京怪談)
サンプル4 『炎舞ノ抄』序幕・堕 地獄絵図 〜 狂い舞う獄炎の
 (@聖獣界ソーン内、当方展開中シリーズ『炎舞ノ抄』序幕の一編)
サンプル5 『炎舞ノ抄』序幕・曇 日々徒然 〜 再生の歯車が軋む音
 (@聖獣界ソーン内、当方展開中シリーズ『炎舞ノ抄』序幕の一編)
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★当方の常設ノミネート対応商品の受注はこんな感じになってます。

 ★通常窓口はゲリラで時々開きます。

 ★ノミネート窓口は余程の事が無い限り常時開放です。
 で、ノミネートだけが開いている時は、こちらのその時々に余裕があるか否かで、受けたり受けなかったりになると思います。受注になるかどうかは指名対応猶予期間の一週間見て頂ければ幸いです。
 ちなみに、ノミネートを常時開放にする理由は、お客様の側で窓を捕まえ易いように、と思っての事なので、もし一週間が過ぎた事が理由で指名却下されてしまっていても、タイミングが悪かっただけと言う事も充分ありますので…その場合はお手数ですが再び指名してみてやって下さい。すぐ受注になる場合もあるかもしれません。余程の事が無い限り――普通に規約の範疇になる発注である限り(※スターコインの残にも御注意下さいまし)お受けしますので。
 通常窓口の方が発注自体はし易いのでしょうが…当方のやり方ですとしみじみ窓が捕まえ難い事になると思いますので、ノミネートを基本に考えて頂いた方が確実です。
 そんな訳なので、ノミネートだからと言ってあまり難しくは考えないでやって下さい。ノミネートだからと畏まる必要もありません。御用命の際はノミネートでもお気軽にどうぞ。
 当方のノミネートの判断材料は基本的にこちらの時間的な余裕があるかないかだけなので。

 また、大変申し訳ありませんが、そんな訳で…指名対応猶予期間の一週間が過ぎた事で自動的に流れてしまう可能性も無いとは言えません。ので、ノミネート指名の際はお手数ですが発注文の控えを手許に取って置く事をお勧めしておきます。…その方が安全かと(汗)

 それから、作成日数が派手に上乗せしてありますが、これは単に当方の執筆がトロい故の保険なので、この日数、増える事はあっても減る事はありません(汗)
 ただ、上乗せした分確り納期ぎりぎりにお渡しになる可能性もありますが――納期より前に納品の可能性も、基本の作成期間程度でのお渡しの可能性も、ごく稀にですが受注後一日そこらでのお渡しをする可能性も――充分有り得ます。つまりは予測が付き難くて申し訳無いのですが…これら御承知の上で通常窓の場合は発注、ノミネートの場合は指名掛けてやって下さると…幸いで御座います(礼)
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★PCシチュエーションノベル系のちょっとした提案。

 ↑の項タイトル通り、ちょっとした提案なのですが、
 依頼系等シナリオあり商品で面識が無くとも、PCシチュエーションノベル系で初見で当方NPCにいきなり声を掛けて下さっても(=当方NPC選択で発注(ノミネート)して下さっても)構いません。
 その場合、こちらの手が遅くてシナリオで展開出来ていないNPC絡みの設定とか実は結構あるので、発注された本筋に混じる形で、その辺りがひょっこり出てくる事もあるかもしれません。
 また、結果ノベルに続けてMTRPG的?なキャッチボールを振って下さるのも歓迎です。どうぞお気軽に。

 …ひょっとすると、後に出す依頼系等シナリオあり商品に、それらの結果ノベルが響いてくる可能性もあるかもしれません。

(某様の発注からやらせて頂いているものが面白かったので、味をしめてこんな事を書き出しておいてみました(笑)。この場で何ですが有難う御座います(礼))
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★WTノベル系について。

 該当商品の発注を考えてこの場所を見て頂けている方なら御承知の通り、当方マスターはしておりませんので、WTについては基本的にまっさらで御座います(とは言えどさイベ絡みの商品でWTのPC様をお預かりした事は何度かありますが)。なのでWT本編の方での詳細…そこまで行かずともPC様の人物像などについて…PCデータから辿れる程度なら何とかなるでしょうし…努力もしますが、それでも把握し切れない可能性がありますので御了承の上御容赦下さい。
 …開き直ってしまうのもアレですが…当方の場合、むしろ完全に「if」を御希望の場合などにご利用下さるといいのではと思われます。
 お気が向かれるようでしたら、上記の「PCシチュエーションノベル系の提案」じゃないですが、その「if」の状況下で、結果ノベルに続けてMTRPG的?なキャッチボールを振って下さっても構いませんし。

 リリース時点では舵天照さんの方の対応となっているようなので、取り急ぎ和風方面のサンプルでもと思いまして、サンプル4と5に幾分それっぽい(?)サンプルを挙げておいてみました。
 ちなみにこの二編の初出は当方が聖獣界ソーンで展開している和風絡みのシリーズになります。

 他、当方の文章をサンプルとして確認したい場合は、統合ギャラリーに加え、窓口のすぐ横にある「クリエーター紹介ページ(Creator's Room)」の、「旧デザイン版」の下方にある納品物一覧(東京怪談・聖獣界ソーン・サイコマスターズアナザーレポート・学園創世記マギラギ/分量多い順に表記)などを御参照頂けると、一番確実かと思われます。
 …窓口に置いてあるサンプルは時々とんでもなく古かったりするので(汗)
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■サンプル2
■回想系?(@東京怪談 Second Revolution)

 遠い遠い遥かに遠い。
 時間の中にボクは居た。
 仙籍に入って、洞も持ってからどのくらい経つっけ?
 500年くらいは優に経つよね。

 ――丁香紫は回想する。

 えーと、確かまず。
 なかよしさんの春梅紅と湖藍灰が手に手をとって(人界に)下りてって。
 次に凋叶棕がちょっくら遊んでくるぜ、って下りてった。
 ボクはと言えば今更特に興味もなくって。
 書籍巻物呑気に漁って宝貝作りに没頭してた。
 だってわざわざ居座る程の事もないじゃん。
 人界なんてさ。
 そりゃ時々興味深い代物あるから、全然下りて行かないって訳でもなかったんだけどね。

 でもボクは凋叶棕ほど人間が好きな訳じゃないし。
 春梅紅ほど人間に知的興味を持ってもいないし。
 湖藍灰みたいに人間の文化やら風俗に浸るのが好きでもない。
 ボクが興味あるのは時折創り出される偶然の結晶。
 ひとが創り出してしまえたうつくしいもの。

 それだけあれば構わない。
 だから時々は下りていく。
 けれど居座る気なんか更々無い。

 ずっと、そう思って居たんだけれど。

 …いやあ、人生って思いも寄らないことの連続だよねえ。
 こんなボクが人界に留まりたくなるなんて。

■■■

 下りてきてからこの方、ほぼ常駐しているネットカフェ。
 時々変な顔されるけど、春と凋がふたりしてお節介焼いてやった真咲ちゃんとこの瑪瑙ちゃんがここの店員さん仕切ってるから、特にお咎め無しで居られるのは煩わしくなくて嬉しい。
 まー、ボクってば外見がどっから見ても小学校高学年だか中学校入りたてくらいに見えるもんねえ。
 そんな小さなコが年がら年中ネットカフェなんかに居れば気にされちゃうのが普通。
 だから、「わかってる」ひとが居るのは楽でいい。
 でも、わかってて平然としてる、って人間たちもスゴイよね?
 それが当然みたいにボクたちみたいなのも馴染める。

 他の時代、もしくは他の場所じゃこうは行かなかったからねえ。
 正体を隠すのがまた面倒で。
 バレたら最後、怖がられたり、頼るどころか依存されたり、利用されかかったり、煩わしい事この上ない。
 …だから人界に居座る気にはなれなかったんだよね。
 でも今この場じゃ「それ」はないんだよね。

 火や水を使う能力者が、その異能を特に隠しもせず、単なる得意技の範疇としてその異能を取り扱っていて普通にそこらを歩けていたり。
 吸血鬼が人間と平和にお茶飲んでたり。
 幽霊が雑誌編集部に居座ってお手伝いまでしていたり。
 座敷わらしと同居しているアパート管理人が居たり。
 狂った科学に造られてしまった霊能者のキメラが、周囲のはからいで人間として普通に生活できていたり。
 ボクらみたいな仙人が、実年齢を平気で公表できもする。

 ――そしてそれらを、特別視されない。

 どんな存在でも節操無く受け入れる『東京』と言う街。
 つい先日、偶然、ここに来てから正直びっくりした。

 …それは一部の人間だけの話かもしれないけど。
 だけどその一部の人間の間だけでも、はっきり言って桃源郷並みに異種族の共存ができてるからねえ。
 びっくりしたよ。
 本当。
 それも桃源郷みたいに、不自然なくらい平和に何事も無く共存してるだけじゃない。
 ちょっとしたいざこざや騒ぎまで普通にある。
 それは、自然に。
 …こりゃ、ある意味本当に理想郷なんじゃない?

 そんな風にね、面白いと思っちゃったから、ボクは今ここに居る。

■■■

「てぃーんちゃん。なーにぼーっとしてるの? 珍しい」
 話し掛けて来る声。瀬名雫。
 怪奇好きの女子中学生。抜け目もなくて、可愛いコ☆
「んー、ここはイイところだなってね。ちょっと再確認を♪」
「そうだよね! こんなに怪奇情報がたっくさん集まる世界なんてステキだよね☆」
 言っている事が多少ズレているがそれはまあご愛嬌。
 ボクの言う『理想郷』は結局、こんな人種の周りだけなのかもしれないし。
 それでもこの小さな空間は、相当に貴重なものだと思えるから。
「しーずくちゃん?」
 ボクはきょろんと首を傾げる。
「?」
 目をぱちくりさせる雫。
 そんな彼女を、ボクはぎゅーと抱き締めた。
「だぁい好き」
 この場所が。
 雫ちゃんみたいなコが。
 この、『東京』が。
 ――こんなにも平和で剣呑な混沌の坩堝、他の場所じゃ見た事ないもん。

...sample-fin.

■登場NPC
 鬼・丁香紫(自前)
 瀬名・雫(公式)
■サンプル3
■戦闘系?(@東京怪談 Second Revolution)

 夜。暗い廃屋。
 闇に溶け込むような黒服の男たち――IO2捜査官がそこに居た。
「本当にここか?」
「上の指令にあった住所は、ここだ。間違いない」
 小声で確認する男たち。

 その姿を梁の上で確認する小さな影があった。

 何だあの男どもは。
 …気に食わない。

 小さな影は軽やかに飛び降りた。

■■■

「なっ…!?」
 目前に飛び降りてきた何かに黒服のひとりが面食らう。何事かと構えようとするが時既に遅し。何をする間もなく降りて来た小さな影に腹を強か殴られていた。くぐもった声が響く。よろめく黒服。だが次の瞬間には彼を殴った影は移動していた。次。弧を描く腕の軌跡。斬り裂かれるもうひとりの黒服のコート。袖。咄嗟に庇っていなければ首を掻っ切られて居ただろうその位置。失敗したと見るや小さな影は思い切り低く沈むと、前転――逆立ちする要領で、勢いと腕のバネを最大限に利用し、今仕損じた黒服の顎を鋭く蹴り上げた。あっけなく倒れる大柄の姿。着地がてら確認すると小さな影は次の黒服を見遣る。そちらはもう戦闘体勢に入っていた。だが小さな影は動じない。間髪入れず低い位置で突進する。躊躇いの一切無い動きに戦闘体勢に入っていた筈の黒服が怯んだ――何故ならここに出ると予備知識として渡されたその妖怪と同じ対処法ではどうにもならない相手だと悟ったから。小さな影の冷徹な眼光が、その黒服を明らかに凌駕する強さを雄弁に告げていたから。
 今度は行ける。
 小さな影が思った刹那、黒服のリーダー格らしい貫禄の男が唐突に目前に現れる。
 小さな影は瞬間的に躊躇った。
 その数瞬の躊躇い――油断が、致命的な隙になる。
 次の刹那には小さな影は、黒服のリーダー格らしい男に、容赦無く叩き伏せられていた。

 倒れている姿はなんと年端も行かぬ少年だった。
 櫛も簡単に通らないようなぼさぼさの髪。垢染みた薄汚れた着衣。
 なのにその少年の印象は誇り高く、気高く、凛々しい。
 戦禍に置かれた子供のように。
 賢そうな鋭い異形の瞳が闇の中、光っていた。

 黒服たちを、真っ直ぐに睨み上げて。

■■■

 何を望んでいるかなんぞ知らない。
 ただ他人の領域に土足で入って来た野蛮人ども。

 …偉そうな顔してンじゃねえよ。

 IO2だ? なんだそれ。聞いた事ねえな。
 当然だ秘密結社だからな。
 だがその筋じゃ知らない者は居ない巨大組織。
 国家さえも頭が上がらない。

 …だったら何しても良いっての?

 追い詰められていた筈の小さな黒い影は、一向に視線を外そうとしない。
 まだ幼いとも言える程の、けれどそれにしては厳し過ぎる顔立ち。いったいどんな生活をして来たものか。
 猛禽のようにぎらりと煌く琥珀――金色の鋭い瞳。
 黒服の男たちでさえ一瞬、怯む程の。
 そんな眼光を持つ、少年。

 構えるでもなく逆手に握られていた短刀――いや、小さな刃が付いた、ナックルガード。
 それが次の瞬間、黒服の中のリーダー格らしいひとりに向けて唸りをあげていた。
 が、
 その拳はぱしりと受け止められている。…拳を受け止めた男はその強力さに思わず眼を見開いていたが、黒いグラスに遮られていたのでその驚きに少年は気付かなかっただろう。
 受け止めた黒服は青黒い液体に塗れた少年の拳とナックルガードを見、静かに口を開いた。
「…お前はここに巣食っていた妖怪ではないな?」
「…たりめぇだ。ンなもんとっくにぶっ殺した」
「…何?」
「殺したっつってんだよ。文句あるか」
「…お前がか」
 俄かに驚いたような声。
 少年は怪訝そうな顔をした。…元々の役目に加え、顔を隠す黒いグラスもあって感情が読み難いだろう、黒服の動揺に今度こそ気付いている。
「…手前ら、ここに何しに来た」
「調査だ」
「…調査?」
「君が殺したと言う、その妖怪の調査だ。――退治する為の、な」
 心持ち声が変わる。黒服たちの敵意が減少した。今度は「お前」ではなく「君」と呼ばれ、少年はいよいよ眉を顰める。
 何なんだこいつらは。
「だったら…残念だったな。もう居ねえよ。その妖怪とやらは」
「…何故殺した?」
「手前らに言う義理はねえ」
「理由が言えないと言うのならば我らも、君を危険人物として処理せねばならなくなる」
 …あの妖怪を倒してのける事ができるだけの力を持つ、だがIO2に敵対する存在として。
 淡々と告げながら、黒服は少年の腕を捻り上げる。
「ぐ…」
「正直に言い給え」
「…るせえ」
 みゃ…ぁ
 その時。
 遠くから。
 子猫と思しき頼りない鳴き声が響いた。
 数匹、こちらにちらりと顔を覗かせている。
「来んな!」
 みゃー…
 少年の声に反し、のそりと子猫たちが近寄ってきた。
 少年を心配するように。
「…そうか」
 黒服の手が緩む。
 解放された少年はぼろぼろの床面に崩れ落ちる。
 そこにみゃーみゃーと子猫が寄ってきた。フーッ、と黒服に向け、つたない威嚇まで始める。
 それらを黒服から庇うよう、少年は自分の影に追いやった。
 再び、じろりと黒服を睨め上げる。

 …この少年は、この子猫らを守ろうと? その為だけにここに巣食う妖怪を、倒したと?
 大した特殊能力を振るう訳でもなく、ただ己の力だけで対抗し得たと?
 青黒い液体――妖怪の血に塗れた拳、我々に向けた殺意と行動で簡単に察せられる事実。

 何て奴だ。

「…我々の許に来る気はないか」
「おいっ」
「弱い者を守る心がある強者ならば、歓迎する。――俺の名は、真咲巽と言う。名前を聞いても良いか」
「名前だァ? …ンなもん無えよ。ただ――やつらは、ミコトって呼んでる」
「やつら?」
 聞き返す黒服にミコト――御言は猫に目を遣った。
 ただの猫がそんな風に呼ぶ訳はない。…つまりは思い込み、の類だろう。元々その名が、彼のものとしてあったのだ。何らかの方法で。
「…悪いかよ」
「いや。年は」
「11。多分」
「――!」
 そこまで幼いか。
 黒服たちは驚きを隠せない。
「…だから何だってんだよ」
「その子猫ごと俺が面倒を見てやっても良い」
「…なに?」
「条件はひとつだ――今日から俺のガキになれ。御言」

...sample-fin.

■登場NPC
 真咲・御言(自前。幼少の砌の話。ちなみに現在は32歳)
 真咲・巽(自前。現在は故人)
■サンプル4
★『炎舞ノ抄』序幕・堕 地獄絵図 〜 狂い舞う獄炎の

 人々の歩く姿が未だある。
 喧騒がまだ残る。
 旅装の者が立ち寄る小さな集落。
 そこに至る道。
 自分の踏み締める大地――足許を改めて気にする事もせず、旅人がひとりまた、その位置を、歩き過ぎる。
 少し、天気が崩れそうだ。
 こんな場所でそう思えば、誰でも早足になるのが道理の事で。

 …そんな中。
 歩き過ぎるのを見送った、そこ。

 地面が僅か、波打った。
 そうは言っても、地震いとは違う。
 母なる大地の、ごく一部。
 盤石な筈のその地表に、何故か微かな漣の波紋が浮かぶ。
 円形のその源。
 中心。
 …音も無く、ぬう、と浮き出た泥塗れの『何か』。

 まるで水面に見立てたように。
 泥を引き摺り滴らせ。
 浮き出たそれは。
 人の頭の――上半分にしか見えず。
 辛うじて顔が判別できた。
 目元がやっと見えるくらいの高さで、止まっている。
 地上の様子を、じっくりと窺い、睥睨するように。

 少しして。
 再び、音も無く沈み込む。

 ――…それで、これから。
 何が起きるのかを知る者は、その場に――その集落には、誰も居なかった。
 …否、それが明らかになる時には。
 顕れた『その者』以外にその場で生きている者自体が――誰も、居なかった。



 建物も家畜も人も。
 満足な形は残っていなかった。
 炎に舐められ、壊し尽くされ。
 炭に染められ異臭が漂う。

 不運と呼ぶにも生易し過ぎる。
 小さな集落の中、現れたのは――ふと佇んでいたのは袴姿の和装。
 旅慣れた者としては不自然、だが属すべき界が異なる者が突如この場に招かれてしまった、それならば不自然ではないだろう姿。それならばむしろこの程度、よくある差違と言える。
 そう、この袴姿の若者、異界人である事はすぐに見て取れた。
 服装や髪型、持ち物――それら外見的にはそれ以上は、何も際立って目立つものがあるようには見えなかった。

 けれど。
 それとしても――その黒血の如き微妙に移ろう瞳の色が。
 何でもない外見のその身が纏う、背筋を凍らせるような何処か異様な気配が。
 底知れない、尋常でない何かを秘めて見え。
 何もわからずとも、見ただけで。
 理由は何かと考える余地も無くただひたすら恐ろしくなるような。
 …それは、異界人が抜き身の日本刀――と呼ぶべき、ひとたび閃けばいつでも凶器となる得物をぶら下げていたからかもしれない。
 否。
 それだけでは、なくて。
 もっと違う、何か。

 この、『彼』は。
 握り持つ刀を振るうでも無くただ、佇んでいる。
 話し掛けると、その声に気付いたかぎこちなく小首を傾げた。
 それ以上の反応はない。
 声も返らない。
 言葉を発する事が出来ないのだろうか?
 そう思われる。
 手振り身振りを絡め、その異界人に何か伝えようとする。

 …何事も無く済んだのは、そこまで。

 その異界人からの、返答は。



 刀はその手に握られていても。
 最早その身は武士にはあらず。

 動く姿を見た者は居なかっただろう。
 …その身ごなしを追えるような者は、そこに居なかった。
 身体どころか。
 目でさえも。
 …ただ、その姿を目で追う事さえ。
 ましてや、その異界人の突然の凶行を、制し止める事など。
 誰一人。
 出来なかった。

 若者の纏う鬼気は荒れ狂う炎。
 それは躍動する豊穣の大地――その証が示す色。
 若しくは。
 ――…生きとし生けるものが還る最期の形が持ち得る色彩。

 どちらと取るのが正しかったか。

 ただ、その彩りが破壊と殺戮に舞い狂う。
 その結果。
 何が、起きたか。

 ――…煉獄の炎が数多の恵みを舐め取った。

 いつから降り出していたのか、叩き付ける雨だけがその『集落であった場所』を冷却、慰撫している。
 足りない、ながらも。

 数多の瓦礫と屍に囲まれる中で。
 ただ、立ち尽くす人影ひとつ。

 棒切れのような足。
 力無く両脇に下げられている両手。
 握り持たれているその一振りの刀すら、今にも手の中から滑り落ちそうな。
 いや、それどころか――その刀すら、雨に打たれ、そのまま何故か陽炎のように半ば消え掛けており。
 元から刀など持たなかったとでも、言うように。

 元の色など忘れ去られ、いつの間にか全身泥と黒血に塗れたその姿。
 血の朱を浴びた姿は、既に剣鬼を思わせた。
 今までの動きを見ていれば――その所業を考えれば嘘のように、剣鬼はその場に静かに留まる。

 水を打つような静寂が訪れる。
 微かに腕が動く。
 刀を握るその手。
 …その動きで、佇む姿が人型であった事が初めて思い出される。

 ぎこちなく動くその腕、黒血に濡れそぼった袖口からは鐡の鎖が垂れている。
 その鎖、刃とぶつかり微かな異音を耳に齎す。
 導かれるように目線の位置が移動する。
 音の位置を確かめる。
 ふ、と瞳の色が揺らめいた。
 ほんの僅か、感情の起伏を思わせる揺らめき。
 それもすぐに消え、舐めるように血脂塗れた刀身を見てから、そのまま仰のき。

 呵呵と哄笑。
 …狂気半ばのその声は、次第に嗤い声とは聞き取れなくなり。

 喉も涸れ裂けよとばかりに上げ続けられる音声。
 ただ、血刀をぶら提げて。

 …仰のいたそのまま。
 黒血の如き虚ろの瞳が空を見上げる。
 茫洋と。
 焦点など疾うに忘れた。
 ただ、黒雲が漠然と視界に映る。
 意味などない。
 ただ全てが見えればそれで事も無し。

 まだ、嗤う――嗤う?

 違った。
 今は、もう、その声は。
 …その見た場は並としか思えぬ人型・大きさの体躯からこれ程の声が出るものか。
 そう思わせる程の――凄まじき音声の。

 獣の如き咆哮が。
 若しくは――慟哭が。

 叩き付けられる雨の中、冷ややかな闇に見下ろされ、ただ、響き、轟く。

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■初出:
 OMCタイアップゲーム『聖獣界ソーン』内、当方『冒険紀行(ゲーム対応個室)』展開中シリーズ『炎舞ノ抄』の序幕サンプル三本の内一本。

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■サンプル5
★『炎舞ノ抄』序幕・曇 日々徒然 〜 再生の歯車が軋む音

 ――…聖獣界ソーンユニコーン地区、聖都エルザード。アルマ通りの裏通り、シェリルの店近くに当たる場所――同時に白山羊亭とも然程離れていないと言える場所。
 少し前に異世界からの来訪者、夜霧慎十郎がここソーンに住み付く為――と言うか寝泊まりする為に賃貸で借りた部屋。
 そこに、黒く長い髪を無造作にひとくくりにした着流しの男が一人居た。胡座をかき、作業机で何やら施している姿がある。店子当人が仕事中。手製と思しき非常に細い刃を持つ小刀だか鑢のような道具を用い、意外にも御当地風な腕輪と格闘中。…どうやらブレスレットに彫金をしている模様。
 ちなみにこの慎十郎、ここソーンでも故郷に居た頃と殆ど同じ仕事で食って行けそうだと漸く確信が持てたところになる。…それは刀の拵え用の金具を作る白銀細工が一応専門。とは言え、職人の常で元々殆ど何でも屋である事が功を成したよう。結果、あまり苦労する事無く少しずつ顧客を増やす事が叶っている。
 例えば彼の場合、今やっているような御当地風の腕輪の彫金細工なども平気でこなす事が出来るので。…それは初めの内は客の方でも慎十郎の風体から考えての物珍しさが大半、駄目元な余興程度のつもりで頼んで来たようだったが――細工の結果があまりに微細で完成度が高かった為逆に驚かれ以後本気で御得意さんになられたり等々、こなした仕事は殆どの場合で良い方に転がっている。
 …故郷の細工技術は案外高いものだったんだな、と慎十郎はこちらに来て――比較対象が出来て初めて実感。
 それと、ソーンの人々の――異郷の者への拘らなさには恐れ入った。故郷での常、髪の色肌の色身分の差――それらほんの僅かな差違で大騒ぎするのがどれだけ狭量かと思えてくるくらい。
 確かにこんな場所であるなら、蓮聖が龍樹に勧めたのもわかる気がする。
 が。
 …その懐の深さこそ、逆に今――自分たちにとっての懸念の一つ、あの蓮聖の目で見てさえ『有り得ない事』が起きている原因である可能性もある訳で。
 それは間違っても『悪い事』では無い。それが何か悪い事象の切っ掛けになろうと、その事自体は――むしろ喜ばしく思われて当然の事。それは理性の部分ではわかっている。
 だが同時にそれは――『あってはならない事』であるのも確かで。
 だからこそ、どう反応したら良いのかどう反応するべきなのか――ただ、困り果てる。
 ――…『あの』蓮聖が疾うに諦めていた望みだ。
 元より人か否かも不明、ここソーンと故郷への行き来さえ自在と言う何処か超越したあの禅僧をして――娘の身に起きたその事実を他の誰より認めたくない、諦めたくないだろうあの親をして――疾うの昔に血を吐く思いで無理だと判じていた筈の話。
 なのに、今。
 その蓮聖が過去尽くした全ての努力を嘲笑うよう、何事も無かったかのように――今この異郷の地で唐突にその望みが叶えられている。
 引き換えにした代償は、過去に娘の許婚でもあった己が高弟の正気。
 その身を案じこの異郷にまで導く事をした、息子同然と呼べる相手。
 ――…たとえ亡くした娘を取り戻せた男親でも、素直に喜べぬ状況下ではなかろうか。

 と。
 慎十郎がそこまでつらつらと考えていたところで。
 華やかな色の小袖を着た少女が、ばんと乱暴に扉を開け飛び込んできた。その髪は腰を通り越して長めで、緩く三つ編みをしている。彼女の顔は見慣れているがその髪の結い方はまだあまり見慣れていない。故郷では見た事がない結い髪。恐らくこちらに来てから覚えたのだろう。…何だかんだで彼女も確りこちらの世界に馴染んでいるらしい。
 その彼女は飛び込んでくるなり慎十郎の作業机の前まで来て、何か言いたげに乗り出し加減でずざっと座り込み慎十郎を見る。…が、何も言わない。
 と、まさに彼女が座り込んだそのタイミングで慎十郎は当然のように仕事の手を休め、邪魔にならないよう――そして何かの拍子に傷が付いたり等の影響を受けないよう、道具商品諸々を丁寧に脇に退かしていた。
 その上で飛び込んで来た少女――舞を見るでも無く、作業机の脇に置いておいた煙管を取ると、思案げに眉間に皺を寄せつつ、無造作に煙草を詰めた。詰め終えたそこで初めて舞を見てから、目顔で彼女を落ち着かせようとでも言うのか少し間を置き、漸く火を付け喫していた。
 慎十郎にしてみれば、舞が飛び込んできた理由は先刻承知。
「…白山羊亭の一件だろ、舞姫様?」
「…うん」
「お前でも見てらんねぇ、か」
「だってあれ…本当に『何でもない』」
「…」
「慎十郎さんが確かめてくれたのはわかってるんだけど、でもそれなのに『何の問題も無い』んだよ。『本当にそこに居るだけ』なの。あの人…」
「…蓮聖様行ってんだろ」
「…うん。そうだけどさ。…でもだからこそ見てられない」
「…ちゃんと話、通じてんのか」
「うん。さっきあたしの前で話してた限りでは、全部通ってるみたいだった」
「…ったく何なんだかな。当の親父でそれじゃ龍樹が迷うのも無理ねぇか」
「………………龍樹さん何処行っちゃったんだろ」
「今はそれより目の前の事だろ」
「そうなんだよね。今のあの人の事がわかれば、その方が闇雲に捜すよりよっぽど龍樹さんへの近道になるんだもんね」
「…そういう事だ。…例え『本当は死んでいようが』関係無い。間違い無く『あの女』が鍵なんだ」

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■初出:
 OMCタイアップゲーム『聖獣界ソーン』内、当方『冒険紀行(ゲーム対応個室)』展開中シリーズ『炎舞ノ抄』の序幕サンプル三本の内一本。

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