■【島】粛■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 みそか
オープニング
「できることならば平和を‥‥争いのない世界を‥‥‥‥」

  少女の願いは、達成されたのだろうか?

<街>
「ケーキケーキ。どんぐりケーキは売っていないのかな?」
「‥‥売っていないと思いますぞ」
 街を歩く少年と青年。一房だけ跳ねている髪の毛が印象的な少年はケーキを探しているのか、それともただ単に街を歩くだけで楽しくなる年頃なのか、鼻歌交じりに町のショーウィンドウに目を這わせていた。

『‥‥ここで臨時ニュースをお伝えします。現在の体制に不満を持つ、過激派魔皇の一団がとある島にて蜂起し、人間と神に属する者を無差別に攻撃するとの声明を発表してきました。パトモスはパトモス神軍及びパトモス魔軍の派遣を決定し、すぐさまその対処にあたることを決定しましたが、沿岸に御住まいの方は念のため学校などの避難所に‥‥』

 にわかにざわめく街並み。和やかな雰囲気と、鼻歌は一瞬にして吹き飛ばされるが、ショッピングを楽しんでいた人間のほとんどは『関係ないこと』あるいは『過激派魔皇は恐ろしい』という二点を考えるのみで、緊張感は持っても危機感は抱いていなかった。
 そう、過激派魔皇は所詮分かり合えない存在。意見が180度違うし、彼らはそもそも同じ人間であって人間じゃない。分かりあうことも不可能だし、歩み寄る必要などないのだ。
 人間のことは人間が決める。それは、魔皇にどうのこうの言われるような問題ではない。
「厄介なやつらだよな。もともと俺達は魔皇や神帝軍に頼んで来てもらったわけじゃないんだから。‥‥俺達は仲良くしようとして『やって』いるのに」
 溜息混じりに率直な気持ちを述べる通行人の一人。
 感情の違いは、会うこともなく決定的なものとなっていた。

<デビルズネットワーク>
「おう、俺だ! 今回もきんきゅーじたいなんだ!! あの島でな‥‥」
 今回も日本海が似合いそうなオヤジサーチャーが依頼内容を説明していく。
 纏めれば簡単だ。島に集結した過激派魔皇達をパトモス魔軍の一員として殲滅して欲しいというのだ。今回の編成は傭兵扱いの魔軍9機に神軍16機。島にいる魔皇が10機だという話からすれば、決して無理な作戦ではない。
「よろしく頼むぜお前たち。‥‥現地にはひょっとすると魔皇じゃない奴も混じっているかもしれないが、そいつらも抵抗するなら敵だ。いっちょカタをつけてきてくれ」
シナリオ傾向 殲騎による殲騎との戦闘。殲滅戦。
参加PC 錦織・長郎
新居・やすかず
紬・玄也
ヒシウ・ツィクス
御堂・陣
風羽・シン
夜・黒妖
天剣・神紅鵺
タクマ・リュウサキ
【島】粛
 『島』が近付いてくる。『敵』のいる島が。

●一幕
「があああぁああああ!!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 落下していく『敵』である殲騎を眺めながら、タクマ・リュウサキは言葉にならない言葉を心の中に浮かべる。敵対している彼の立場から見ても、この殲騎に交戦の意志などはなかったことは明らかであった。
 23対2‥‥圧倒的な戦力の差を背景に、遠距離射撃で撃墜した敵。彼らが何を喋ろうとしていたかなど、背中にいる逢魔の声を聞かずとも分かる。
「過激派の割に積極的に攻撃してこないあたり妙ですね。連中が説得なんてするわけもありませんし、どうやら、単純な過激派の集まりと言うわけではなさそうですね」
「‥‥だからどうした? 単純だろうと複雑だろうと過激派は過激派だ。奴らの言うことにイチイチ反応などしていたらきりがない。囲み、殲滅するのだ!」
 新居・やすかずの発した疑問を完全に否定するグレゴール。その発言は魔皇への嫌悪感からきているのかもしれないし、戦闘に赴く前の仲間への諌言、あるいは神魔関係なくテロリストへの反感からきているのかもしれない。
「あ〜あ、めんどくさいね〜。こっちが圧倒的に優勢なんだから、そんなに意気込むこともないじゃない」
 『ふああ』と、あくびと溜息を同時に発する逢魔・ミルダ。他の機体に乗るパトモスの兵らの心中は当然穏やかではないが、兵力差が圧倒的ということもあって声に出すものはいない。情報が正しいなら残る過激派はたったの九機だ。
「やれやれ、治安維持に努めるのがお宮使いとはいえ難儀なものだねぇ。同族と‥‥それも殲滅指令すら出ていない同族と戦わねばならんというのは!」
「‥‥後方から機影! 敵は‥‥‥‥」
 錦織・長郎の吐き捨てるような独白と、逢魔・幾行の報告が終わらぬ内に、無線機を通して『想定外の敵から』メッセージが送られてくる。その声の主は‥‥
「都合の悪い者は叩き潰す。ヒトの過去の愚行の1つだ。ソレを繰返す様な胡散臭い横文字の国家には従えない。この作戦に義は無い。私、天剣神紅鵺は反政府側につく!」
「こんな中で新たな意志を生み出そうとしている者達が、嘘に塗りつぶされて消されていく。こんな事を認めるなんて出来るものか! 覆せる可能性があるというのなら、僕はそれに懸けて動く!」
 響く天剣・神紅鵺とヒシウ・ツィクスの声。それぞれ別方向からやってきているので連携しているわけではなさそうだが、口上を聞く限りとてもこちらの援軍に来たと判断はできない。
「内に敵をつくる羽目になるとはな。こうなれば‥‥」
「敵といってもたったの二機だ。下手に隙をつくるよりは、そのまま作戦を続行してくれ。こいつらの対処は俺と僚機だけで‥‥」
「俺も行こう。依頼遂行はより確実に進めなければならない!」
 追撃に向かおうとするタクマを制する風羽・シンと、それに呼応する夜・黒妖。残るパトモス軍は作戦通り島へ向かって進軍を再開する。
 ‥‥こうして、戦場には七機のパトモス軍とそれに反旗を翻した二機の殲騎が残った。

●二幕
「敵より交信が来ています、こちらとの話し合いを‥‥」
「捨て置け! 善だの悪だのという感情は戦場以外で生きている者に考えさせておけばいい。現場に立った以上、俺達がやることは目の前の敵を倒す、それだけだ!」
 幾行が伝えようとした言葉は神軍によって切り捨てられる。交信が遮断されたことを受けてか、島にいた魔皇達も危機に直面して次々と殲騎を召還していく。
「さてさて‥‥どうにも厄介な依頼だが‥‥‥‥やるしかないか!」
 善か悪かをどれだけ考えても自分たちは武器を握っているし、相手も握っている。この場が大衆居酒屋ならば議論の一つを交わしても酒が回る頃には肩でも組んで意気投合できるだろうが、武器で身体を貫かれてしまっては、憎悪以外の感情など抱けるはずもない。
 紬・玄也は射撃が機体を掠める中唇を噛み締めると、敵の前面を突き崩すべく突進していく! 目の前に迫るは殲騎! 突き出されたクロムブレイドは、必至となった交錯に臆する事もなくコクピット目掛けて突き進む!!
『‥‥っ! こぃつ‥‥ぅ‥‥!!』
 コクピットにはしる猛烈な衝撃を受け、回りきらない舌で相手の実力に驚く両者。間違いなく幾多の死線を潜り抜けてきたであろうその瞬時の判断力は、コクピットギリギリのところでクロムブレイドを受け流してみせる!
「ハッ! 苦戦しているようだな魔軍所属の玄也隊員。やはりここは神軍の力を‥‥‥‥‥‥」
「ボサッとするな!! かわせええぇええ!!」
 無線機から響き渡る御堂・陣の声。だが、銃器を構えたネフィリムは、視界に映った‥‥ネフィリムを前にして硬直したまま動くことができない。あの羽のような装飾は‥‥‥‥!!
「なぜヴァーチャーがここにいぃいいい!!!」
 海面へと落下していくグレゴールの脳裏に過ぎるプリンシパリティーの勇壮な姿。もしあのヴァーチャーに乗っているのがそれだとするならば、自分たちに勝ち目など‥‥
「少し落ちつけ。末期にはヴァーチャーも少数とはいえ一般グレゴールに貸与されていたことくらい知っているだろう。こいつは‥‥っ!!」
「右腕‥‥っ、左足にも被弾しました。制御しますが、これ以上の被弾は‥‥!」
 歴史に名をのこす戦術家を嘲笑うかのように、敵陣に単身切り込むヴァーチャー。動きの悪いネフィリムの間から放たれた攻撃に、タクマの言葉は中断を余儀なくされる。逢魔・セシリアから報告される被弾状況は、この戦いにギリギリの緊迫感を召還させる。
「離反者も出る、ヴァーチャーも出る‥‥ハルナ、いつものやつを頼む!」
「はいっ! 陣様の力と私の思いが合わされば、Jブレイカーは‥‥無敵なんです!!」
 落下していくネフィリムを視界に、逢魔・ハルナの声がコクピットに響き渡った。

<パトモス軍:20機 過激派:9機 反パトモス:2機>
 7対2‥‥しかも相手はヴァーチャーでもなければイレイザーナイツ仕様の殲機でもない。
戦いを長引かせるつもりなどパトモス軍の誰にもなかった。仲間内から裏切りが出るというイレギュラーな事態だからこそ、その事態は的確かつ迅速に処理しなければならないのだ。
「まともに殺り合えるとは思っていないのでね。卑怯でも生き残れればいい!」
 それだからこそ、天剣が操る魔皇殻の性能にはパトモス軍も焦りを禁じ得ない。彼女が操る魔皇殻はどれも見たことがなく、一撃離脱形式の戦法を大いにアシストしていた。
「速い! ‥‥そして攻撃も恐ろしく‥‥‥‥!!」
 攻撃を受け、破片を海へと落下させるネフィリム。たった一機の殲機に苦戦しているという事実を、コクピットまで伝わる衝撃が声高に主張していた。
「しんくん、あの魔皇核は‥‥」
「ああ、わかってる。任せろ」
 逢魔・刹那の報告を受けずとも、部下を指揮しながら戦う風羽にもこの状況はわかっている。見たこともない武器、それは確かに脅威となる。明確な性能がわからない以上、対処のしようがない。そしてそれは自らの命へと直結する。
「貴様にも分かるだろう!? この戦いに義など存在しない。存在するものはただ、胡散臭い国家の欲望だけだ!」
「お前が言っていることはその場限りのことだ。秩序を崩すだけで、その先のことなんて何も考えていない!」
「そうやってパトモスに懐柔されていくつもりか? この国は最初から腐っているんだ、正義は‥‥存在しない!」
 議論にも似た交信を打ち砕く天剣が放つ弾丸! 追尾機能を持つその一撃は、確実に風羽の殲機の背後につき‥‥‥‥唐突に爆発する! パトモス軍のネフィリムが射撃によって撃ち落したのだ。
「これまでも未見の武器と戦ってきた。いまさらその程度の魔皇殻を出されても‥‥動揺するか!!」
「叫ぶのは追い詰められている証拠だ! 悪の勢力の破壊もせずに‥‥‥‥ぃ!」
 突っ込んでくる風羽の殲機! 天剣は機体を上に向けて回避しようと試みるが、それはネフィリムによって阻止される。退路を絶たれた天剣は、絶叫しながら風羽へと向かい、突破口を切り開こうとする!
「アアアォオオオ!!!」
「叫ぶのは追い詰められた証拠だぜ。‥‥むしろ、お前は追い詰められているからそんな発想しか出てこないんだよ!」
 接近する両機! 天剣の背後に光球が激突し、殲騎は大きくバランスを崩す。
「‥‥失せろ、お前の破壊欲求を満たすほどこの世界は広くネェ!!」
 そして次の瞬間、風羽が突き出した刃は、天剣の殲騎のコクピット付近を貫いていた。
「わかってないのは‥‥お前だ。‥‥我々は‥‥化け物なのだ‥‥人に尻尾を振って‥‥‥‥」
 殲騎は落下していき、海の藻屑となった。


「生きることの何が悪い! 共存とは互いに譲り合ってこそ生まれるものだ。今のパトモスにはそれがない。邪魔なものを排除していき生まれた世界では、人も、神も、魔も、何も‥‥」
「喋るな。俺は議論に応じるつもりはない。ヒシウ、お前が依頼の障壁となるのなら、それを取り除くのが俺の仕事だ!」
 意見の相違など意に関せず、黒妖はネフィリムに指示を与えつつヒシウの殲騎を追い詰めていく。断続的に轟く金属が砕けるような破壊音は、ヒシウの殲騎から確実に装甲を奪っていった。
「悪く思うなよ!!」
 真正面に来た『敵』に銃を構える黒妖。ヒシウは未だこちらが武器を向けていることにすら気付いていないようだが、そんなことで情けをかけるつもりなどは毛頭ない。なぜなら‥‥
「戦場では、殺すか殺されるか、その二択しか有りえないからだ!」
「‥‥っ! ならばお前は何のために進化を果たした!? 殺すか殺されるかなんてその辺りにいる猫でもやっていることだ! それとも‥‥考えることも忘れ、獣に、悪魔になるのがお前の望みか!?」
 だが、ヒシウは戦場におけるその二択の世界に身をおくことをよしとはしない。黒妖の攻撃は逢魔・ステアが完全に予測しており、ヒシウの殲機は弾丸の中を突き進み、黒妖の側面につける! 死に体となった黒妖へ迫るは、光を受けて銀色に輝く真クロムブレイド!!
「何故戦う!? この世界は‥‥!」
「戦いたくないのならテレビの前で茶でも飲んでおけ! お前のやっていることは、結局ひとりよがりの子供のわがままなんだよ!!」
 機体を前進させ、致命傷を防ぐ黒妖。ヒシウは逃げようとする敵へ攻撃を放とうとしたが‥‥その行動は、背後からの攻撃によって、完全に中断させられた。
「アバヨ。‥‥こんな戦いはもうごめんだから復活してくるなよ」
 機体に重度の損傷を負った風羽と黒妖は、海中の索敵をすることなく、撤退していった。

●三幕
 絶え間なく鳴り響く爆音と、低空を巨大な機体が飛び交う度に荒れる海は、戦いが終わっていないことを戦っている本人たちに告げていた。
「化け物とは聞いていたが、ここまでだとはな! 陣、お前のスケールの大きさには脱帽する」
「嫌味をありがとうよ玄也。お陰でちょっとばかり目を覚ますことができたぜ」
 黒煙をあげてぐらつく陣の機体を援護する玄也。ヴァーチャーの機体はパトモス軍の間を今も縦横無尽に駆け、離脱しようとする味方を援護していた。
 そして‥‥再びこちらに向かってくる!
「‥‥思い出したぜ。お前と戦っていた頃をよ。あの時は俺たちが勝ったが、今はどうかな!?」
「こちらに意見、特に反論はありません。ただ、自殺するような人間にはなりたくないと子供の頃から考えていました」
 ヴァーチャーの前蹴りに弾き飛ばされる陣の機体。ヴァーチャーは戦闘不能に追い込もうと、銃のような武器を構える!
「ハルナッ、Jブレイカーの制御は頼むぜ。‥‥ちょっくら派手なフライトになる!!」
 銃弾を海中に飛び込んで回避する陣! 派手な水飛沫がたちのぼり、光を含んだ水滴は周囲の者の視界を奪う。危険を感じ取ったヴァーチャーは、すぐさま高度を上げようとする。
「油断大敵だよ! 君は君に相応しい相手と戦うがいいさ」
「‥‥もうお前たちの仲間は軒並み撃墜された。大人しく堕ちろ!」
 それを阻止しようとする長朗と玄也。数に劣る過激派は既にその半数以上が撃墜されており、その担当にあたっていたパトモス神軍達も次々と援護に駆けつける。
「洋平、自分の正しさを証明したければ、生きてこの場を切り抜けてみせろ!」
「勝ったほうが正しい、生きたほうが正しい! それなら一体‥‥僕たちは何のためにあの時を過ごしてきたんですか!?」
 海中より現れる魔獣殻! 殲機の機体は無理な運転でバランス感覚を失っていたが、一たびその強靭な腕で掴んでしまえばそんなことなど関係ない。この蝿のように動き回るヴァーチャーを捕らえて、一気に‥‥
「この‥‥さくせん‥‥をぉ‥‥‥」
「陣!!」
 腕はヴァーチャーを掴んだが、その少し前‥‥腕が動きを抑えるほんの少し前に、ヴァーチャーの剣は陣の機体を真っ二つに切り裂いていた。機体から外に放り出され、ハルナを庇うように海中へ落下していく陣。
「‥‥味方の被撃墜に動揺などするなっ、数では圧倒的にこちらが勝っている。このまま押し切るぞ!」
「わかっているよ。さっきまで脅えていたくせにいちいち命令しなくても‥‥ぃ!!」
 神軍からの命令が下るより先に、隙を見せたヴァーチャーへと向かっていったやすかずを、一筋の光条が貫く! あり得るはずのない方向からの攻撃に、言葉を中断して機体を反転させるやすかず。
「北から敵機だよ。識別は‥‥殲機!? どうしてこんなに早く‥‥」
「なるほど。どうやらやってくれ‥‥してやられたようですね。どうします、隊長殿?」
 見えた機体の機数はそれほど多くはないが、来るはずのない増援の存在はパトモス軍を大いに動揺させる。
「味方の裏切りにはじまり、ヴァーチャーの存在、そして挙句の果てには敵の増援だ。またどんなイレギュラーが起こるかわからない以上、これ以上の作戦行動は危険である。ここは勇気ある撤退を選ぼうと思う」
「やれやれ、勝利は目前だというのにパトモス軍は臆病だねぇ。‥‥もっとも、それだけ撤退を迅速に判断できるということは、既に目的は達したと思っているのかもしれないけどね」
 隊長機からの通信に、ため息混じりに‥‥後半は聞こえないように独り言をつぶやく長朗。他の魔皇達も、この理由の分からぬ戦いに不満を感じていたのか、特に反論することなくその場から撤退していったのであった。