■Dancing the Dark■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 EEE
オープニング


「依頼の説明は以上。OKかい?」
「あぁ、問題ない」
 言葉少なげにそれだけ言い残して、長髪の男がその場を後にする。
「あ、ローウェン…ったく。まぁ任せといてくれ、後その助っ人のやつらにも宜しく」
 ローウェンと呼ばれた男は全く止まる素振りも見せず、しょうがなく他の四人もその後に続いた。
「あぁ、しっかり伝えとくよ」
 それを見送りながら、サーチャーの男は分からないほどに小さく笑った。





* * *



「さて、今回の依頼の説明…とと、悪ぃ、俺とあんたらは初めてだったな。
 見ての通りサーチャーやってるリジェだ、まっ宜しく」
 何処となくチンピラのような軽い凶骨――リジェが軽い自己紹介だけ済ませて、早速本題に入った。
「あんたらにやって欲しいのは、とある施設の破壊と研究成果の奪取だ。なーんかどっかの企業かなんかが極秘に作ったとこがあるらしい。依頼者はそこの破壊をご所望だ」
 あくまで軽い態度は変えず、リジェは地図を開く。
「ここに小さな島があるだろ? 無人島なんだが、ここのど真ん中に施設はある」
 リジェはそれを指差し、全く悪びれる様子もなく煙草に火をつけ、その口から紫煙を吐き出した。
「まぁ破壊、つっても大して難しくはねぇ。いくらかの武装はあるみてぇだが、別にグレゴールやら魔皇やらに守られてるわけじゃねぇ。それに、あんたらとは別に五組行くやつらがいるしな。
 さて、ここからが本題だ」
 ニヤリ、と下品にその口が歪む。
「大したことのねぇ依頼だと思ったろ? いやいや、そんなことはねぇんだ。
 あんたらには、その一緒に同行する五組を消してもらいたいわけだ」
「…どういうことだ?」
 その場にいた魔皇の一人が、訝しげに聞き返す。それに、リジェは心底楽しそうに笑った。
「いやいや、これもその依頼人の意向なわけよ。ほら、魔皇ってのは強ぇ存在だろ? 是非その殺しあう姿を見てみたい、ってね」
 胸糞の悪くなる話だ。馬鹿らしい、それだけ言い残して彼はその場を後にしようとした。
「あーまちな。別に悪くねぇ話だと思うぜ?」
 その言葉に、一瞬その足が止まる。
「どうにもその消して欲しい五人ってのが、依頼人にとって気に入らねぇやつららしくてね。今回もそいつらが乗りやすい依頼をだしてきたってわけだ。
 ちゃんと仕事してくれるなら、あんたらの名前に傷がつかねぇように事後処理もちゃんとやるって話だ。謝礼も弾むってよ。何より…」
 そして、またニヤリと小さく笑った。
「…あんたら、最近殺し足りてねぇだろ? 罪にも問われず思う存分殺れるチャンスだ、悪くはねぇだろ」
 その言葉に、魔皇は少し戸惑いながらも小さく笑った。

「あーそうそう。分かってると思うが、一人でも逃がしたら足がついてやべぇからきっちり全員殺ってくれや。ついでにその研究結果の『処理』も頼むってよ」
 そんなものは言われずとも分かっている、そう無言で返して魔皇たちは出ていった。
シナリオ傾向 戦闘
参加PC 神成・トト
風羽・シン
天剣・神紅鵺
タクマ・リュウサキ
雪風・ノエル
Dancing the Dark

○序幕

「念の為だ。この話は何処の誰の意向か教えろ」
 相も変わらずやる気なさそうに煙草をふかすリジェに、天剣神紅鵺が問いただしていた。
 正直、今回の依頼は分からないことも多い。それを知っておくにはこしたことはないのだ。
「あー悪ぃ姉ちゃん…じゃねえな、旦那。そいつは秘密にしといてくれってことなんでな、勘弁してくれ。
 ほら、少しでもバラしちまったらそっちを殺りてぇとか言い出すかもしれねぇだろ?」
 くっくと笑うリジェに、神紅鵺は小さく不機嫌そうな息を漏らした。
「まぁいい。五組の写真をよこせ」
「へいへい」
 ぱっと取り出したそれを鷲掴みにし、神紅鵺はそのまま出ていった。
「おー怖ぇ怖ぇ」
 聞こえてくるおどけた声に、今度はお前を殺してやろうか、などと彼は心の中で呟いた。





○研究所にて



 暗闇の大地を警戒用のライトが照らしていた。侵入者警戒のサイレンがけたたましく鳴り続ける。その施設の中を、魔のものたちが疾走していた。
「お前さん達が何をやって睨まれたかは知らんし、知る気も無い」
 風羽シンが、かつての激戦で手に入れた呪われた剣を振るう。それをドイルの持つジャンクブレイドが受け止めた。
「ま、足掻いてみな、陥れた奴の喉笛に牙を突き立てたきゃな!」
 その余波だけで、近くにいた研究所員の命が消えた。しかし、それを気にかける余裕などなかった。



* * *



「…一緒に動いても…いいかな? ボクもサポートしたくて…」
 施設潜入前、雪風ノエルがローウェンに切り出した。その隣には、ピッタリとアリュマージュが寄り添っている。
「…好きにしろ。行くぞ」
 そっけなく返して、ローウェンとジューダスは歩き始めた。その後を、ノエルたちが歩いていく。
 何でもないように前を歩きながら、ローウェンは二人に聞こえないほどの小さな声でインカムに話しかける。
『聞こえるか烈…返事はいい。分かっているな、一緒にいるやつらに絶対に気を許すな』
 その声に、烈は少しだけ目を細める。
「よーし分かった。それじゃ作戦はそんな感じでいくか!」
 最初の部分を特に大きめにしながら烈が立ち上がる。その声に、ローウェンは小さく笑った。





 施設への侵入はあまりにも簡単だった。見張りはいたが、数も少なく一般人だったので苦労することはなかった。
「ちょっ…何を!」
 司が思わず声を上げた。その見回りをしていた男たちを、エルヴェイルが簡単に殺していたからだ。
「後々面倒なんでな、騒がれては」
 さも当然と言わんばかりに、隣で怯える残り一人の喉をやはり貫いて確実にその動きを止める。そして、それを止めるものは誰もいなかった。
「でもっ、何も殺すことは!」
「……」
 今にも掴みかかりそうな司を、フェイが後ろから抑え、小さく首を振る。
「さぁ、先を急ごう」
 さして気にした様子もなく、タクマ・リュウサキとセシリアが研究所を歩いていく。他のものもその後を続いた。



 施設内は、深夜であることも関係してか、不気味なほどに静まり返っていた。特に今の時間研究などが行われていることもなく、途中多数の研究者や警備員などがいたが、例外なく悲鳴を上げる暇すら与えられずその命を奪われていた。
 そして、その最深部。
「…酷い」
 悠が、小さく呟きながら『彼女』へと触れた。目的のナイトノワールがそこにいた。
 しかし、全く反応は返ってこない。度重なる実験による苦痛が、彼女から思考能力を奪っていた。
 その小さな全身を貫く無機質なチューブを全て剥ぎ取ると、やっと少女の身体が自由になる。しかし、それでも少女は動くことはなかった。
「こんな…こと…」
 救いは、小さくその胸が上下していることだろうか。精神に異常はきたしているが、確かに少女は生きていた。
「それじゃ、そいつを渡してもらおうか?」
 言うが早いか神紅鵺が魔力弾を放つ。それが合図となり、タクマとシン、刹那たちが一斉に動き始めた――。





「……!」
 狙撃場所を動きながら細かく変えていたローウェンの目に、施設の奥で起こった爆発が見えた。
「…向こうも始まったんだ…」
 そして、その声と同時に、ノエルから一つの魔弾が放たれる。
「ちっ…」
 放つ寸前、ローウェンがそのことに気付いたため真狙撃弾は本来の威力を発揮することはなかったが、それでもローウェンの左肩を少し抉っていた。同時にアリュマージュが主から受け取っていたグレートザンパーでジューダスに斬りかかるが、それは寸でのところで避けられる。
「誰かが…」
 少し距離をとった二人を逃がすまいと、ノエルがミサイルを放っていく。
「ボクの中で言うんだ…殺せ…壊せ…滅ぼせって…!」
 その爆炎の中に消えていく二人を見ながら、ノエルの顔は確かに小さく笑っていた。





 しかしその爆発の中で、彼等は平然と立っていた。それを守るのは、二つの浮遊するディフレクトウォール。
「な…にぃ…!」
 そして、同時に動き始めたはずのタクマとシンの動きは止まっていた。
「ざーんねん、でした」
 二人の前で笑う、この依頼では仲間であるはずのリジェーナと、そしてそれとは正反対に少女を抱きながら睨みつける悠の姿があった。
「しんくん…!」
「っ…」
 刹那とセシリアの前には、フェイが巨大な爪を振りかざし静かに立っている。
 その攻撃は既に予測されていたかのように、二人のナイトノワールの重力の檻によって阻止されていた。
「どういうことだ…」
 膝をついたシンに、リジェーナは小さくフフッと笑いを漏らす。
「今は亡き相棒がこんな仕事を知ったら何と言うかと思いまして。多分、『くそくらえ』とでも言うでしょうね」
 そう、最初からリジェーナはこの仕事を壊すつもりだったのだ。

「ちぃぃ!!」
「させねぇさ!」
 複数の触手と槍を構え動こうとした神紅鵺に、ドイルの魔力弾が放たれる。神紅鵺もやはり魔力弾を放っていくが、それは司の構える二つのディフレクトウォールに悉く阻まれ、その威力を発揮することが出来ない。
 その間に、烈とマクスウェルが動いていた。狙いは…エルヴェイル!
(いいか烈、相手にナイトノワールがいるなら、まずはそちらを潰せ)
「わーってるよローウェン!」
 烈は、合流する前ローウェンに言われたことを思い出していた。
「てありゃー♪」
 聊か緊張感に欠ける掛け声とともに、マクスウェルが逢魔の短剣を振るう。その一撃は蟹型魔獣殻のフォルメタルに阻まれたが、真狼風旋で素早さをました烈がその目前に迫っていた。
「なっ…」
 その速さは恐竜型魔獣殻ヴァーンズィニヒでは追いつけず、エルヴェイルへの接近を許したのだ。
(ナイトノワールの弱点は目だ。目を潰されたら、その力をほとんど発揮できない)
「これでっ!」
「くっ…ぅあ!」
 烈がその手に残像を残す音速剣を振るう。寸でのところでエルヴェイルは烈を直視し重力の檻を発動させ、それを止めた。が、その先から発生した真空波までは消すことが出来ず、結果それが彼女の瞳を切裂いていた。



* * *



「そうか…だからといって、簡単に壊されるわけにはいかんな」
「ッ!!」
 爆炎を、さらなる爆発が引き裂いた。
「ノエル…!」
 主を包もうとするそれに、ジューダスの前に立ちふさがっていたアリュマージュが咄嗟に動いた。グレートザンパーを盾にするように構え、その爆発の被害を最小限に食い止める。
 それを眺めるように、引き裂かれた炎の中からゆっくりと長髪の男が現れた。体の所々から血が流れていたが、それも静かに寄り添うジューダスの力によって癒されていく。
「聞いていた通りだな…」
「どういう……ことだ……」
 爆発がゆっくりと収まると、傷だらけのアリュマージュと、それに守られたノエルが姿を現す。幾ら最小限に食い止めたと言っても、それでもアリュマージュは結構なダメージを受けていた。
「何…お前たちの仲間の一人がこちらに接触してきただけのことだ」
 彼がそっと触れたインカムは、どうやらまだ機能を失っていないらしい。
「烈。今すぐそこから脱出しろ。俺たちは外で合流する」
 短く用件だけ伝え、ローウェンは手にもつライフルを二人に向ける。
「答えろ。お前たちを仕向けさせたのは一体誰だ?」



* * *



「あいよ了解! 皆、ここから脱出するぞ!」
 インカムから伝わってきたローウェンの声に、烈は目を押さえ倒れたエルヴェイルをそのままに、すぐさま後退する。
「司、頼んだ!」
「うん!」
 いまだタクマとシンは二人のナイトノワールにより動きを封じられ、刹那と神紅鵺もその動きを止められていた。その目の前で、司が壁に向かってバスターライフルを構える。
「いっけぇぇぇ!」
 チャージが完了し放たれたエネルギーが、施設に巨大な風穴を開けていく。それは一直線に外へと向かっていった。





○因縁



「まぁいい。ジューダス」
 施設を貫き消えていったエネルギー光を確認し、ローウェンはジューダスにコアヴィークルの準備をさせた。
「次に会うことがあるかどうかは知らんが、そのときはきっちりケリをつけてやる。今回はここで幕だ」
「ぁ…!」
 言うが早いか凍浸弾を放ち二人の動きを止め、ローウェンたちはコアヴィークルで駆け始めた。

「お姉ちゃん、大丈夫…?」
「……大丈夫だ……」
 後ろから聞こえた不安そうな声に、アリュマージュは滅多に見せない笑みを小さく浮かべた。
 そして、もう既に見えないローウェンたちを目で追う。
(……確かに……厄介で強い、な……)
 だがそれゆえに、もう一度会ってみたいものだと思いながら、アリュマージュは痛みに目を閉じた。





 その頃、まだ烈たちは動けずにいた。ナイトノワールの重力の檻は、その視線を外せば解ける。今は動きを封じているとはいえ、目の前にいるシンやタクマは魔皇たちの中でも間違いなくトップレベルの実力なのだ。
「…烈」
 お互いを牽制し合うその中で、初めてフェイが口を開く。
「コアヴィークルで脱出しろ。ローウェンたちも待っているはずだ。ここは俺が食い止める。後で追いつくから、行け」
 それ以上の言葉はなかった。
 しばしの逡巡の後、烈たちはコアヴィークルを召喚する。
「ちょっ、それでいいの!?」
 それの意味するところを知り、油断なくタクマを睨みながらリジェーナが叫んだ。
「…これでいい」
 そのリジェーナの脇腹をフェイが不意に殴る。突然の衝撃に、リジェーナの意識が飛んだ。同時にタクマの拘束が解ける。
 そのリジェーナをミューズに投げつけ、フェイはまたタクマと向き合う。それと同時に、一行のコアヴィークルが発進した。
「ローゼンのことを頼んだ…」
「行かせん…!」
 当然のようにタクマはそれを追うが、それをフェイが阻止する。
「ちぃ!」
 また、悠もコアヴィークルに乗ったため、シンの拘束も解ける。しかし、その前には二人の少年が立っていた。
「ドイル…」
「ダメだってフェイ、楽しみ独り占めはよ」
 にっと笑って、ドイルはシンに、マクスウェルは刹那へと向かっていった。やはり追おうとした神紅鵺に対しては、ドイルからの魔力弾が飛び掛る。
「邪魔だな…なら貴様等から始末するまで」

 タクマのバーニングクローと、フェイのサベイジクローがぶつかり合い、火花を散らした。お互いの体には真狼風旋が宿り、そのスピードは目で追うのも困難なほどだった。
「フン…」
 元々両方そう喋る方ではないためか、戦いは静かに、しかし確実に激しさを増していた。
「大丈夫ですか?」
 しかし、タクマにはセシリアという逢魔がついている。それに対し、フェイの近くにローゼンはいない。セシリアが戦わないまでも、その傷を癒していくだけで確実に勝負はタクマへと傾いていた。
 肩で息をするフェイに、タクマは一つ深呼吸をして、そしてあらためて向き合った。
『……』
 しばしの静寂。そして、二人の身体がぶつかり合う。真燕貫閃の宿った爪は、フェイのサベイジクローごとその心臓を確実に一撃で貫いていた――。

「フェイ!!」
 ジャンクブレイドと生贄の短剣でシンと接近戦を繰り広げていたドイルの気が一瞬それる。無論それを逃すシンではない。
「結局お前も甘ちゃんだな!」
 呪われしラザフォードの剣がジャンクブレイドを弾き、そうして出来た致命的な隙に、シンは零距離でショットオブイリミネートを叩き込んだ。
「ぁ…」
 近距離からのショットガンの威力に、血の華を咲かせながらドイルの腹に風穴が開く。
「これで終わりだな」
 吹き飛んでいくその小さな体に、神紅鵺は無慈悲に分裂する槍を降り注がせる。何かが千切れるような生々しい音が、その着地点から鳴り響いた。

 さらに神紅鵺から放たれた無数の触手が、刹那と交戦していたマクスウェルへと襲い掛かる。その触手がマクスウェルの体に絡み自由を奪ったところに突き刺さり、さらには切裂いていく。
「ぎぃぁぁぁぁぁ!?」
 あまりの激痛に、マクスウェルが絶叫を上げた。
「痛い?」
 その前に、刹那が立つ。己の篭手にワイルドファングを融合させ、その手は一種異様な生物のようになっていた。
「痛いのも辛いでしょうから、助けてあげますね♪」
 にっこりと禍々しい笑みを浮かべながら、その腕がマクスウェルの頭に当てられ――そのまま抉り取った。
「あはははははは!!」
 その頭を投げ、ただ狂ったように笑いながら刹那は腕を心臓へと突き立てた。





* * *



「結局逃がしちゃいましたね」
 セシリアが、施設を破壊しながらそんなことを呟いた。
「まぁ数の上で不利だった上に裏切りがあったんだ…三人殺れただけでもよしとするべきだろう」
 研究所に残っていた残りの人間も、次々にその命を刈り取られていく。
「どうせそのうちに、あいつらとはまた会えるだろうからな」
 ラザフォードの剣が、まだ血が足りぬとばかりに頭を砕く。その横で、刹那が実に楽しそうに笑っていた。
「ふん、手駒にするのは失敗か…」
 不機嫌そうに小さくもらし、神紅鵺はその手に持つ魔皇殻とダークフォースを一斉に放つ。

 そうして、一つの研究所と数多の命がこの世から消え去った。



『あーご苦労さん。まぁ今回のことはしょうがねぇってことで依頼人もお許しだ。
 後のことはやっとくから、あんたらは帰ってきていいぜ』
 リジェから入った通信に、魔皇たちは返り血を洗い落とし帰途へとついた。



「さて、これでいいかい?」
「あぁ、問題はない。いい情報は得られたし、また次の楽しみが出来たというものだ」
 暗い部屋の中、リジェと男は小さく笑った。