■Breakin’ X−mas.【襲撃】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 UNKNOWN
オープニング
今日は、魔皇様方……シグルーンです。
本件は以前お話のあった傭兵・アンチェインからの依頼です。

目標はISCA第2管理区域の中心、中央公園の直上まで移動するアンチェインの援護。目標地点への到達が確認された時点で依頼は終了です。

第2管理区域は規模も大きく、またそれに比例して軍備も強固な管理区域です。
円形の外壁に覆われた内部は南半分を居住区域、北半分をISCAの企業・商業区域に仕切った構造となっており、南北は中央公園から東西に伸びる大水路で区切られています。また、南北間の移動は徒歩のみ橋、公共機関でバス、地下鉄、モノレールが整備されています。この都市は公共機関の配置、区画化が整っており、自家用車の所有率が極めて低い事も特徴です。

………襲撃予定日とされている日は12月25日。
クリスマスです。公園にも相当の人通りが見込まれ、襲撃と同時に発生する戦闘、爆発や粉塵、交通機関への影響……被害は相当な物となるでしょう。

……本来なら、私が言うべきではないのかもしれませんが……
私には、この依頼がどうしても全うされるべき物には思えません……例え依頼主にどんな理由があるとしても…
この依頼を完遂するのか、それとも阻止するのかはお任せします。

資料は可能な限り準備致しますので、どうか、宜しくお願いします。
シナリオ傾向 殲騎戦 市街地
参加PC 黒江・開裡
天剣・神紅鵺
真田・浩之
桜庭・勇奈
キルス・ナイトローグ
雪風・ノエル
Breakin’ X−mas.【襲撃】
───加圧

「………と、このような書面が届いたわけだが」
暗い会議室。ヴィズリングが提示したのは黒江の送付した物だった。
「この文の契約面に関しては、今回は断った。…直前にこのような物が送られてきた意図が不明だが……」
同じ部屋で面と向かっている人間の顔は見えない。光源は互いの手元にある画面の僅かな光だけだが、何より顔を隠していた。
『発覚の経路がDr……見限るタイミングを間違えたようだ』
「今はそれを言う時間ではない。警備を出すか、部隊を出すかだ」
『掻き入れ時なのだがね……軍人に商才は分からんか?』
「私の仕事では無いが」
『とにかく、3区が機能を失った以上……此処をも潰す訳には───失礼』
声の方向が変わり、どうやら口を隠して携帯を使っているらしい。
『………いや、困ったものだ』
「何か?」
『鼠が這入った……とんでもない針鼠のようだが』



「メリークリスマス、KKK。魔属排斥に励む貴様らに、死と破壊のクリスマスプレゼントは如何かな?」
キルスが持ち得る魔皇殻の砲火によって施設内を蹂躙する。
侵入口は桜庭の逢魔ハリエットが獣化によって見つけた水路の横道。東西に渡る川には排水も流されており、その排水を辿ると施設内に繋がっていた。
獣化したハリエット、桜庭も【野生の目覚め】によって別口の通風口から侵入に成功している。
ただ、研究所その物は地下に進む長い階層によって造られており、アンチェインの目的とされそうな物は見当たらなかった。
先に目標を破壊してしまえば、被害は最小限で済む筈……なのだが。
「あと4分!」
ブロック毎に区切られた施設内ではコアヴィーグルで移動する事も儘ならない。
ズン、と天井を揺らす音が響く。もう始まってしまったのだろうか。
真ショルダーキャノンを連発し、半端に立てかけられたバリケードを崩して行く。
研究員も粗方キルスが吹き飛ばした後、残す階層は僅かに2。
退路の時間を見た桜庭は此処で退いたが、ふと、壁の階層地図を見たキルスはそのまま突き進む。
──しかし、その足を止めざるをえない状況が発生した。
「おや……意外。来たのは君か」
黒いカソックを身にまとい、仰々しい十字架を下げた神父。
よりによって背景は最後の扉一枚。錆びた文字で『格納庫』とだけ書かれた向こう側の一歩手前。
「神父……」
「また以前のように彼が来るのかと思ったが……まぁ君でも良いだろう。結果は同じだ」
身構えるキルスを、神父はまぁまぁと聖書の黒表紙で宥める。
「君は聖書は読むかな?もし読まないのならば此処の図書館ででも読むといい。ルカによる福音書、1章67節から79節……あぁ、ちょっと」
得意顔でページを捲り始めた神父を肩で退け、キルスはおもむろに格納庫の戸を押す。
軋んだ音を立て、それは開くかと思われた。
「僧の説法は最後まで聞く物だよ。幾ら退屈でも」
「何……!?」
「君も御友達と共に“帰っておけば”良かったんだ。“戻る事を考えて”10分で帰っておけば………まぁ、何、また魔女の窯の寝台から始めると良い」
深々と己の腹腔を抉り破った十字架の先端を見つつ、キルスの意識は途絶えた。
微かに開いた格納庫の扉から、水晶色の輝きが漏れ出す………



───燃焼

「ボクと神紅鵺さんが先に都市へ侵入し警備を引き付けるから、その間に中央公園を目指して。後、真田さん達はあなたを止めるつもりだよ…気をつけて」
別個に渡したインカムを通し、雪風・ノエル(j374maoh)が伝える。
「では征こうか、“闇の幻・金色暴君”よ」
天剣機、雪風騎が先行する。明けきらない夜に紛れて空から。
その後方にアンチェイン、やや後方にライトニングガンナーが付いた。
案の定、守り手の厚さは予想を上回っている。
黒江、クレイメーアの騎は敵側だ。攻め手も他の参加者の姿は見られない。
「───ッ」
しかし吶喊する。あからさまに市街を狙う2騎を眼前に飛ぶアンチェインだが、舌打ちが漏れる。
「皆…壊れちゃえ…」
事前の垂れ込みにより、警備出撃をした数機。市街を守ろうと盾を構えて走るゼカリアだが、多くはその盾を砲火にもがれ身を晒して街を庇っている。
『SFを持つ機体は【聖障壁<ホーリーフィールド>】を展開しろ!!市民への被害は決して出させるな!!』
ようやく北、軍施設から本隊を従えてキッカー、ナイトが到着する。
「…来たね」
雪風騎の真カタストロフキャノンがキッカー率いる空域隊を強襲。数機が避け遅れ羽根を焦がすが、此れはむしろ標的を雪風騎に集める行為でしかない。
『……賊物が』
初撃より攻撃・高空退避を繰り返していた天剣機の動きを捉え、ナイトが高周波ホイールを構える。
強奪によりイレイザーナイツ仕様化を行った機体。だが実際、科学を用いた射撃は科学を用いた防策に阻まれるのが常道だ。
殲騎<機械化殲騎の利点こそあれ、そもそもが機械を纏わされたネフィリムであるゼカリアは、既に人の知識が加わっている。
しかしそれでも元の威力が違反的であることに変わりはない。単純な出力差で言えば押し負けるのは当然の帰結だ。
『“殻付き”は都市防衛に回れ、ヴィズリング隊が来るまで抑えるんだ!!』
戦況が安定しない間に、アンチェインは進む。途中でライトニングガンナーは道をずれた。
「……またこのシチュエーションとは、縁が無いのか、有るのか」
「クリスマス当日に安穏を乱す輩は許せんのでな」
と、言うことにしておいたらしい。黒江は以前と同じ状況の下、潤と対峙した。
「撃ちもせず、撃たれもせず──鰾膠も無い」
両者共に鳥型魔獣殻を装備。空中において基本速度は同じだが、真狼風旋の使える黒江騎にやや分があるか。
「……だが今日は、このまま立ち塞がっていてくれ」
「…ん?」
スラスターライフルを構えたまま、そのままライトニングガンナーは動かない。あまつさえ、トリガーに指はかけられていない。
「私も本意ではない……せめて足止めの役を持って、終わらせてもらうさ」
ライフルを送還し、緋色のハイヒール──真アンティスヒールのみを装着したライトニングガンナーが、黒江騎の寸前を切る。



───暴発

「……『魔女の窯』からの依頼と言えば説明は不要だな」
中心地点まで、あと10m。
防衛にも参加せず公園に先回りしていた真田、イルイが殲騎を呼び出し、眼前に立った。
「貴様らを抹消する」
「───……」
メビウスリングの加速を脚掛りに、真音速剣を付与した拳を翳して突撃する。
「───勝手に……もうっ!!」
【祖霊の衣】を纏わせ、苦手とする近接戦に対応するアンチェイン。
攻撃範囲……射線が真正面の一直線状で結ばれている限り、連射される真スラスターライフルは総て音速剣のリーチを潜らなければならない。
「───ッ!!」
近い。射撃で対応しきらない事を察し、【真撃破弾<ブレイクシュート>】を地面に放って爆風を盾にする。
だが、跳び退ろうとして【重力の檻】に掛かった。爆風に乗って領域から離れるが、その隙に間を詰めた真田騎がアンチェインを地面に押さえつける。頭を掴もうともしたが、そもそもガンスリンガーに頭は無い。
「…真意を聞きたい。…ここを破壊する理由もそうだが、貴様がこの件に関わる理由も知りたい」
「───……使い方」
「何?」
「───クリスタル・セルの本当の使い方……」
発声機に異常が起こったのか、空の声が少し掠れている。
「───此処にあるって分かったの……やらなきゃ…っ!!」
真田騎を振り払い、公園の木々を薙ぎ倒して転がるアンチェイン。巻き込まれる人影は無く、既に公園に居た人々は他と同じように避難勧告を受け、地下の公営鉄道を通じて避難施設へと向かっていた。
渋る住民を無理やり退去させるというやや強引な手も使ったが、この騒ぎの中でそれを咎める者は居ない。
木々の合間から立ち上がったアンチェインは、既に腹部の真メギドランチャーを展開している。
発射態勢に入ったその砲口を、【真燕貫閃<スワローピアッシング>】を付与した真スワローピアッシングで薙いだ。───霧の中で。
「下がれ、浩之!!」
【真幻魔影<ファントムシャドウ>】の気配を感じたイルイが叫ぶ。切り裂いた騎影が掻き消え、代わりに一歩後退した後の地面が爆ぜた。
霧を巻いて、雪風騎が降り掛かる。
「予測通りだね……」
逢魔アリュマージュが繋げていた通信によってアンチェインの危機を察知して来た雪風。
やや切り傷が増えた騎体だが、ゼカリアは墜として来たらしい。
この時点で、依頼目的遂行。
雪風騎が真カタストロフキャノンを構えるその後ろで、アンチェインは真メギドランチャーを地面……地下へと放つ。
地震に似た、基盤を揺する衝撃が街を襲った。



───排気

「はははははは!!ハハハハハハ!!」
思う存分の実弾を撃ちつくし、多くのゼカリアは炎上・大破した。
市街もあらかた焼き尽くした。見下ろしてくるキッカーと、見上げてくるナイトだけが目障りだ。
『………やってくれたな』
天剣機を睨みつけるキッカーは、その翼の外殻を破損している。雪風騎のキャノンを至近射で受けた跡だ。
『照合完了。敵機は優先破壊目標。危険度B+』
外殻のみを小破させたナイトが錫杖を振るう。
一歩。どちらかが踏み込めば戦争が再開される緊張感が満ちた。
その緊張を裂くようにして、地鳴りがする。メギドランチャーが地下の鉄筋基盤を撃ち、都市が揺れていた。
『“撃滅対象”と確認』
『“見つけたら殺せ”か……いや待て。ナイト、共通回線を開けろ』
天剣を挟み撃つ二機が少し離れる。
『……“緊急救助”だ。“聞いたら駆けつけろ”』
『了解。近い降下口から到達する』
ナイトが背を向けずに天剣から後退していく。市街の所々にはゼカリア搬出用の“穴”があった。
地下に張り巡らされた公道は、ゼカリアの移動にも用いられる。正確に整備された地下の公共鉄道。これは正確に配置された出撃分布に等しい。
そしてまた、外部から地下の救助に向かう際にも使われる。
羽根をたたんだキッカーもその穴から降下した。ただ一人、地上には天剣機が残された。
「………フン」
仕事は終わったが、損害を考えるとマシな仕事だったとは言えない。
機械部品は多くが無茶な機動に振られ疲労を起こし、特に搭載したFCSは劣化が激しい。
火器は弾丸の補充よりフレームの破損が激しいようだ。人の扱う銃よりも、ゼカリアや殲騎の扱う銃は戦闘時の破損が激しい。
引き返して行く雪風騎が見える。
そして、交差するように公園に向かう水晶の光が見えた。



───隠匿

『………成程』
綺麗に撃ち抜かれた施設跡。
焦げ付いた地面の大穴の奥深くで、フレームを露出した何かの残骸が土を被っている。
穴の傍らには、アンチェインの殲騎の色をした外殻が落ちている。
内殻の一部も確認できた。撃破されたと見るべきだろうか。
ヴィズリングのシナリオはこうだ。アンチェインの探していると言う物をKKK施設に搬入させ、後にその情報を流す。
おそらく魔皇達は妨害か、援助の手を出すだろう。その損害を抑えるための舞台が2区だ。
アンチェインはこの襲撃によって施設を破壊し、また魔皇達の妨害、軍の迎撃によって撃墜される。
発見されたKKK施設はその後的確な防衛部隊の出向により押さえられる。それら総てはマスコミ操作によって隠匿されてしまうだろう。
………その筈なのだが。
『隊長、KKK施設除去の“協力者”を“お呼びしました”』
“犯人”を“連行しました”と、言い換えたとしてもおかしくは無い。モニターを見ると、丁重に扱われる事に困惑しているような桜庭とハリエットの姿がある。
『如何しますか?』
『市民の事なら2区市長に通達して旧区画の居住施設を再生………彼等は此処で帰って貰え。後で報道に載せよう。多大な功績者だ』
ゼカリアに乗ったまま、残骸を検分していた手が止まる。
(………何故破片が残る)
『了解しました。では、ここはお任せします』
区の警察証を付けた警官が敬礼し、その場を去る。
ヴィズリングは尚も残骸を漁り続けた。
「………空め」
破壊跡は一箇所に集中している。それだけではない。“残されている”事が“証拠”になる。
2区で起こさせた戦闘で、アンチェインが跳躍による攻撃・逃走を可能にしている事は観察できた。
それを行わず、施設を完全破壊した後で殲騎を破壊される確率……見て居る限り味方をする殲騎も居た。限りなく低確率だろう。
「やってくれたな………だが、終わらんよ」



リンドブルムを結合し、高速離脱する真田騎。
通過する空域の下には戦闘跡がある。事件を察知した魔女の窯の監査役が襲撃をかけたのだろう。姿を見なかったのは迎撃された為か。
「───狭ーい」
窮屈なスペースに詰め込まれ、愚痴を漏らす空。逢魔とは分かれたのか、此処には居ない。
「『アンチェイン』は死んだ。…こんな幼稚な手で誤魔化せる連中とも思えないが」
「───はぁ……また鬼籍生活か」
事件により死亡を確認されている空は、既に戸籍を持っていない。無い物を誤魔化すのは難しかった。
「…依頼料はデート一回でいいぞ」
「───私頼んでないよ」
イルイが微妙に不機嫌な顔になっているのを察知し、空が隅に寄る。
「───だけど、うん……ありがとう」
発声機の故障か。最後の声は、直接喉を震わせて吐かれた。