■FAITHLESS.【違法企業粛清】■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 UNKNOWN
オープニング
皆様今日は、或いは初めまして、サーチャー・シグルーンです。
本件の説明に入る前に、背後関係の確認をさせていただきます。

数ヶ月前、GDHPが違法銃器の一斉摘発を行った際、とある企業がその流通元にあるのではという情報が逮捕者から共通して得られました。
以来、ここ数ヶ月間立ち入り調査などを行おうとしてきたのですが、その企業と言うのが戦前よりかなりの財・権力を有していた企業であり、今でも平和な地域で消費される幾つかの工業製品の生産シェアを占めており、中々手の出せる状況ではありませんでした。

しかし、最近になってテロリストとして名指されている魔皇をかくまっていることがミチザネ特務軍の得た情報によって判明、是をもって捜査令状を取るも、今度は『魔女の窯』の傭兵を雇って実力的に是を拒んでいます。

依頼内容は、全工業施設の破壊です。
人間については、抵抗するようなら生死は問わないとの事です。

では、ブリーフィングを開始します。
シナリオ傾向 戦闘・破壊行為【殲騎使用可】
参加PC 月島・日和
天剣・神紅鵺
真田・浩之
ティルス・カンス
キルス・ナイトローグ
シメオン・エルスター
FAITHLESS.【違法企業粛清】
───炎の海で

工場の壁が音を立てて崩れ去る。
重機を駆り、壁を立て、非力な抵抗を続けていた工員の叫びは崩れていく瓦礫の音に消えず、月島・日和(w3c348maoh)の耳にも、彼女の逢魔悠宇(w3c348ouma)の耳にも届いていた。
「…………」
主の表情が沈んでいる事は、背を見れば分かっていた。
真マルチプルミサイルの一斉射撃を受け、広範囲の工場が黒煙を噴いている。幾つかの施設には強可燃性の物質が積載されたままだった。
その炎の中を、逃げ遅れ………否、逃げずに立ちはだかった工員達が彷徨っている。
「………あ」
そんな赤の海で、一瞬走った影が作業着の男を炎の波から救い上げた。
何が起こったのか分からない男は、自分が助けられた事をしばらくしてから確認したようだった。
「………あの方は、自分の成す事を遂げているんですね」
なら、自分は躊躇っていられない………自分のやっている事がすべて正しいのだとは思わない。でも、ここで躊躇ったら、ここからさらに多くの人を傷つける武器が、それによって悲しみが生み出されてしまう。
それは、駄目だ。
いくらこの炎の海が、魔の者に相応しい紅蓮の花園でも………。
───ショセン、アクマハ、アクマダ
「!!」
撃ち放った真マルチプルミサイルが、高空から降り注ぐ真スラスターライフルの弾丸に弾かれて爆散していく。
真水炎を咄嗟にその殲騎の手に構えさせる日和の視界にも、その姿は映っていた。
───ソウシテ、セカイハアヤマチヲクリカエス
「こちら月島です、傭兵───アンチェインを確認しました」
予め用意しておいた無線越しに、全ての仲間に敵の到来を告げる。
「方向は………入り口高空!」
尚も狙いを自分に代え、装甲を掠めていく真スラスターライフルの弾丸を避けながら、日和はその攻撃の余波が全く施設に被害を与えていない事を見て取っていた。
練度の差、直感的にそれを感じ、【真旋風弾<スケイルシュート>】を放ってその場を逃れる。
「おっと、此方は行き止まりだ、残念だがね」
「きゃ………!?」
ギシュ、と硬い物の擦れる異音が響く。
「日和、コントロールが!!」
「後ろから………何が?」
魔皇殻の刀を振ろうとするその腕は、何かに固定されたかのように体に縫い止められて自由が利かなくなっている。
見下ろすと、丁度殲騎の間接部分、肘や肩に当たる部分が、何か魔皇殻のような物でがっちりとホールドされていた。
ダメージは少ない。が、その固定する力は異様に強い。
悠宇が【凝縮する闇】を使用してはいるが、このままでは………
「【アンチェイン】、盗んだ魔皇殻を試すのに良い機会だ、撃ちたまえ」
───リョウカイシタ、どくたー
殲騎は宙に縫い止められたかのように動かない。
そして、空に明星のような光点を見つけて───視界が何かに遮られた。



───傭兵

「やあ博士。先日は世話になったねぇ。しかし此処でお別れだ。Auf Wiedersehen」
「……初めまして、同業者。貴様らは、この傭兵『仮面死神』(デスオブマスク)が相手をする」
日和の殲騎を庇うように上空から降り立った二つの殲騎。
天剣・神紅鵺(w3d788maoh)とキルス・ナイトローグ(w3i318maoh)、それぞれ異様の殲騎。
「おや………天剣君じゃあないかね、いやぁ君の事は本社へ帰ってからも心配だったのだよ、メイド服着たテロリストが一般社会に復帰するには幾千回のカウンセリングと薬物投与が………」
「そんなキャラだったのか、博士」
長々とありもしない思考を話し始めるドクトルの言葉を遮る天剣。
「ツッコミながらも重力の檻と真幻魔影は忘れんかね、天剣君。しかも最近古の隠れ家から発見されたばかりの魔皇殻まで持ち出して」
過重で工場の屋根に足を突かざるをえなかったドクトルを見下ろし、天剣は尚も軽口を続けるその口を潰そうと、真ファナティックピアス投げを放つ。
───シーケンス・インタラプト
しかしその魔槍は、上空より飛来した魔弾によって遮られた。
空中で衝突し雲散霧消する魔力弾を突っ切り、アンチェインが銃口を天剣機に向ける。
「私の雇用主はドクトルとの一騎討ちがお望みなのでな、貴様は私が相手をする」
───コヨウ?ソレハコウジツノカンヨウヒョウゲンデハナイ
斜線上に現れたキルス機に真スラスターライフルの掃射を浴びせかけつつも、見知らぬ魔皇殻に押し込むまでの攻めは見せられないアンチェイン。
一旦空中まで後退する。と、そこには体勢を立て直した日和の殲騎とシメオン・エルスター(w3i669maoh)の殲騎の姿があった。
「ここはお任せします、私は、施設の破壊を」
キルスとシメオンがアンチェインを射程に捕らえたのを確認し、日和は殲騎を旋回させる。
火の手は回り、既に大部分の建物は損壊、崩落している。
それでも、この作戦を迅速に終わらせるには、最低限の破壊で必要定数の被害を出す以外に無かった。
「さて、足止めで終われば良いがな」
キルスが唐突に仕掛ける。真スラスターライフルの掃射を前傾になって被害を最小限に抑えながら、禍々しい気を放出する大鎌魔皇殻ダスグリーパーを振り上げる。
───0.4秒、オソイ
刃が触れる直前、機体を揺らし一気に弧を描かせて紫の殲騎が死神の鎌をすり抜ける。
「この真ダスクリーパーを、ただの大鎌と思うな」
が、放出された闇のエネルギーが、アンチェインの無防備な左脇腹を打つ。
───!!
「貰ったぁっ!!」
キルスとアンチェインの戦闘を半ば静観気味に観察していたシメオンが、コレを好機と取り、ランスシューターを召還して一息に距離を縮める。
「待て、シメオン!」
「………!?」
───シャセン、カクホ。2.5秒、オソイ
真っ白な糸が一直線に伸びたかのような前触れの後。
アンチェインの召還した魔皇殻が、その砲口から爆発的な光の奔流を吐き出した。
「シメオンさんは………無事です!何とかコクピット部分への損害は回避できたようです、マスター」
エルミラージュ(w3i318ouma)が安堵の混じった声で主へと告げる。が、その主人はそんな事を聞いてはいない。
「あの魔皇殻………何だ?バスターライフルとも違うようだが」
キルスが睨みつけているのは、アンチェインの左腕。それと一体化した魔皇殻である。
大雑把に言えば土管を腕に括りつけてその尻部に大きなノズルをくっつけたような物だが、その無骨で巨大な姿は先程の砲撃に説得力を帯びさせている。
「そ、そう言えば、さっき無線で発掘されて使い手の居ない魔皇殻が幾つか盗まれたという報告が………」
「………そういう事は早く言え。………あれだけの高出力、チャージがあるのが当然だろうが………」
施設の破壊が完了するのはもうまもなくだろう。だとすれば、依頼内容の完遂まで時間を稼ぐ事は容易い。
地下を掘り進んで突入し、残った人々ごと次々に工場を崩壊させていくティルス・カンス(w3g025maoh)、空中から真マルチプルミサイルを掃射して工場施設のみを破壊していく日和。
80%は破壊されたように見える。そして、雇い主の仕事もまた………
「アンチェイン、聞こえているか」
キルスが予め予定してあった行動を前倒しにして、その口を開いた。
「現在の依頼主との契約が完遂される。その後、魔女の窯の社員の席を開けて欲しい」
「マ、マスター!?何言ってるんですか!?相手はテロリストなんですよ!?」
そんな話は全く聞いていなかったエルミラージュが驚いて声を上げる。やはりキルスは聞いていない。
「実力は先の戦闘で実証済みだ。悪い話ではない筈だがな」
───コヨウケイヤクハワタシノカンカツデハナイ
即答気味にアンチェインが答える。
───ホンシャニデンワレンラク、ノチニリレキショヲソウフセヨ
「了解した」
それからも、銃撃はあった。応酬はあった。
しかし、キルスにとって、それは記憶する必要も無いような、つまらない出来事であった。
───サクセンモクヒョウノボウエイニシッパイ………キカンスル
飛び去っていくアンチェイン。その後に、ドクトル機が続く事は無かった。
それが依頼の完遂を報せていた。




───憎悪

「何……だと言うっ!!あの傭兵は足止めもできないのかっ」
突如降り注いだ高出力の砲撃系魔皇殻の所為で、外装として装備していた魔獣殻の殆どが機能を停止し、殲騎から除装されてしまっている。
運が悪い、訳ではない。あの殲騎は自らを攻撃しようとしたシメオンの殲騎ごと天剣の殲騎をも砲撃してみせた。
「天剣、そろそろ重力の檻が切れる」
短く告げたエルヴェイル(w3d788ouma)の声に眼下を見下ろす。
徐々に立ち上がりつつあるドクトルの殲騎に向け、その手に持った“槍”を投げ落とした………
「く、ぬぅ……老人を敬う気は無いのかね!!」
辛うじて直線上から離れた黒の殲騎。しかし、真魔皇殻ファナティックピアスはその刃を無数に分散させ、逃げようとする脚に、腕に食らい付き食い破る。
真ディフレクトウォールも主を守るに至らず、真ヘレティックテンタクルが殲騎腹部を切り裂いた。
ドクトルの姿が露わになり、その歪められた顔に刻まれた皺がありありと天剣には見て取れた。
「老体には早々に退場願う物さ!!」
行動不能に陥ったのを確認し、天剣は再び殲騎に槍を握らせる。
その切っ先は、強引に抉じ開けられた黒の殲騎のコクピットへと吸い込まれていった。



───不実

「平和を乱す者への粛清…。5年前の神帝軍と…何が違う!!」
上空を走り抜けていった光芒を尻目に、真田・浩之(w3f359maoh)は焼け落ちそうになる工場の中を走った。
もう殆ど人は居ない。だが、立ちはだかる者、逃げ遅れた者は確かにまだ火の中に居る。
それを一つ一つ、見つかる限り助けながら、助けられなかった者も引き上げながら、浩之は走った。
時々、身に纏う魔皇殻を何かに間違えられながら。
『退け、巻き込むぞ』
「うおっ!?」
空中で魔皇殻を連射する殲騎───ティルスが施設破壊優先で放った魔弾が、真田の足元を穿つ。
『馬鹿が、依頼内容は施設の破壊だぞ』
言い放つティルスの声を背に、真田は走った。
「馬鹿って、言われるか、俺は………俺が何をしようと、この状況、変わるものではないからな……だが、信義は貫いてこそ、意味を成す。
俺は…拾える命は全て拾う、一人でも多くの命を守る、その為なら…昨日の友を殺すことだって厭わない」
走って、助けて、コアヴィーグルも駆って、そうしてやっと、目的の本社に辿り着いた。
破壊され続ける工場とは打って変わって、その壁は多少の煤以外は白いままだ。
しかし、その建物が発する気配は酷く重く、危険だった。
「テロリスト魔皇と、この企業の繋がり…そして魔女の窯。十分に調べる価値はある」
助けた人々に聞いて回って得た物は、『そんな物は見ていない』という答え一種類だけだった。
疑念を確信に変えるため、真田が本社の敷地を踏もうと、植え込みを乗り越えた時。
この鉄火場に酷く不釣合いな神父服の男が、正面玄関の自動ドアを手で押し開けて本社から出てきた。
未だ銃火の燻るこの場所。反射的に、真田は神父に声をかける。
「神父さん、ここは危な──」
「残念でしたね。真田浩之GDHP刑事」
「!!」
名前を知っている。そして神父が掲げた右腕に、思わず腰の拳銃に手が伸びる。
無造作にスッと神父が上げた掌は、意味を持って突き出されていた。
「5分です」
「………何?」
「5分。私がこの施設を爆破する仕掛けを行った時間。そして、貴方が“誰も助けずに”真っ直ぐここに来れば、私がこの事件の証拠を消し去る事を容易に止められた時間です」
「お前っ!!」
今度こそ、腰の拳銃が抜き放たれる。
「残念です。実に残念でした。これで貴方のした事は無駄になり、そしてまた、お仲間さん達のしている事すら無駄になる」
神父は淡々と、銃口を向けられている事を全く意に介さず、その口を動かす。
「この企業に隠されていた物はテロリストなんて生易しいものではありませんよ、刑事さん………私が見た物は、“そんなもの”よりもっと酷かった。悪魔より深い人間の業でした」
「業………人間の………?」
「はい」
慇懃に頭を垂れる神父。
彼の言に嘘の気配は微塵も感じられない。
しかし、だからと言ってこの男の怪しさが拭えた訳でもない。
「お前、一体」
「申し遅れました。私、巡回神父です」
鮮やかに長い黒髪を翻して一礼。その黒瞳にふざけた様子は無い。
「…………」
「本当ですよ?本当ですからその引き金にかかった指を外してください………私は、【魔女の窯】の派遣社員です」
「魔女の窯………施設の防衛が依頼じゃなかったのか?」
「それは………おっと、時間です。それでは、まだ貴方がこの事件を追い続けるのなら、会う事もあるでしょう」
「待て、この事件は───!!」
神父の姿が掻き消える。と同時に、幾重も折り重なって起こった爆発が、本社ビルを一瞬にして吹き消していった。
砕け散った残骸が降り注ぐ中、真田は………………

『こちらティルス。施設の全破壊を確認した。繰り返す、施設の全破壊を確認した』



───残滓

「ティルス達が何か見つけたって?」
破壊された本社ビルに何の痕跡も見出せなかった真田は、一旦仲間達の元へ戻ってきた。
工場地帯の中心辺りだろうか。ユリア(w3g025ouma)が作戦中に起こった事を説明していた。
「たまたま、地中で後方確認をしている時に見つけたんです」
真ドリルランスで掘り下げられた地面から露出しているのは、ゼカリアの物と思しき装甲。
どうやら、掘り進んだ後の空洞に崩れ落ちてきたらしい。
機械知識のあるエルヴェイルとティルスが中をチェックしているが、どうやら機関部や駆動系等の“中身”はごっそり失われているらしい。エネルギー周りも全て取り払われているらしく、まるっきりゴミの姿をしている。
打ち棄てられていたそれは、中身の無い、ゼカリアの殻だった。



「流石に、回収できなかったのは失敗ではないのか?【神父】君」
「いえ、あれでいいのです。神はお導きになる。必ず、あるべき姿に」
「世界が同じ事を、違う形で繰り返すとしても?」
「それが神の御心とあらば。其れ即ち“運命”です。社長………」
ブラインドの向こうにある影に、【神父】は深々と頭を垂れる。
音も無くドアノブを回して出て行った社員を見送る事もせず、【社長】は未使用の葉巻を切った。
「………運命。運命か。それは道化の慣用句だ。【神父】………」
その声には、微かに悔恨の色が含まれていた。