■嵐の前に■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 緋翊
オープニング
 ―――北の地、北海道は未だ動乱の最中にあった。

 日本国と名乗る彼の国を攻略せんと、パトモス軍が侵攻を開始したのはもう大分前のことだ。
……それからかなりの時が経過し、現状、両軍は互いに疲弊の色が見え隠れするようになりつつあった。
 両者の意地を賭けた全力の攻防は、まさに一進一退。
 いっそこのまま永遠に戦争が続くに思われた―――ある日のこと。


 日本国北海道所属一等陸尉、蕗・隼人は上官に呼び出された。
「蕗・隼人一等陸尉、参りました」
「ああ」
 敬語を使いつつ、指定された部屋の中に入ると―――そこには、先客が一人。
 自分よりも、大分年を重ねた軍人が、通信用の大型ディスプレイに写っていた。
 否。彼は歳だけでなく、様々な経験も積んでいるのであろう……前髪の隙間から覗くその眼光は、並の人間なら一瞬で萎縮してしまうだろう輝きを宿していた。
(……相変わらず、元気そうなことだ)
 そう、隼人は彼を知っていた。
 いや――日本国北海道の軍人なら誰でも知っているに違いない。
「先日の防衛戦は見事だった。よく敵の猛攻に耐え切ったな、蕗」
「いえ……『聖凱』の力と、部下の奮戦があってこそです」
「良い謙遜だ。まぁ……座れ」
「はっ」

 目の前の画面に写る彼の名は―――日本国北海道陸将、井上・怜。
 日本国北海道の軍、その中でも最高クラスの権力を有する者の一人である。

「私の任務は……この基地の防衛、ですか」
「そういうことだ」
 雑談もそこそこに、怜は隼人に本題を切り出してきた。
「確かにここには――まだ、アレが残されていますね」
「そう。その通りだ、蕗。そして……敵も、その情報を掴んでいる」
 無難な隼人の返答に、怜が大きく頷く。
 そう。この基地には、現在―――「特別なモノ」が置いてあるのだ。
「耳の早いことだ。あと一日でも遅ければ、安全圏内へ運べたものを」
「……この基地に到達するまでには、かなりの兵を蹴散らさねばなりませんが?」
「阿呆の振りをするなよ蕗。もう理解しているのだろう……その、かなりの兵数とやらにも物怖じせずに、パトモスが攻めて来ていて……その内のいくらかは、この基地に到達してしまうことを」
「……」
 す、と怜の目が細まった。
「ま……地の利はこちらにあったからな。上手く戦ったこちらに比べると、現時点でも敵の失った兵数の方がずっと多い。そうまでして“アレ”を破壊したいのだろうが――それも無理なきことか。パトモスは、『聖凱』の怖さを知っている」
「……はい」
「既に“完成品”は俺の手元に届いた。近い内に、俺自らが出撃することになるかも知れん……だがまぁ、試作品でも餌としての効能は十分だったらしいな。蕗、仕上げは任せたぞ?」
「ええ」
「惜しむらくは、その基地に試作品を使いこなせるだけの強者が居ないことか……お前は魔皇だしな。相棒のタリエシンなら、或いは使いこなせたか?」
「……失礼します」
「ああ」

 会話を終えて、彼は廊下に出た。

「……ったく、井上さんも面倒な任務を押し付けやがるなぁ」
 そして、がしがしと頭を掻く。
 彼が任された戦場は、一見して自軍が有利に思えるが――しかし今回は、敵の数と気概が尋常ではない。この基地にあるモノの情報を知って、死に物狂いなのだろう。
「ま、適当に頑張るか。いざとなったら撤退すれば良い……」
 嘆息しながら、彼は部下に指示を出すために歩き始める。
 ……まだ喧騒は聞こえない。だがじきに、この基地も戦火に巻き込まれるはずだ。
(消耗した敵軍を此処で叩け、か……“アレ”を移動させる時間も、無い)
 頭が痛い問題だ。
 自分も一流の魔皇だという自負はあるが、果たしてどうなることか。

 ―――しかし。

「しかし、陸将自らが打って出る、か……ククク。さて、これはいよいよ、この戦争も膠着状態が終わり始めてやがるなぁ。これであの人が討たれたら……タリエシンの野朗も捕虜になっちまったし、俺もどうなることやら」
 そう。
 本当に、この戦争はどうなるのだろう。
「……まぁ、俺は軍人としての責務を果たすだけだ。その先にあるのが何であれ……ちったぁマトモな未来が訪れて欲しいよなぁ? タリエシン……」
 そんな風に―――彼、蕗・隼人は静かに親友の名前を呼んで。
 廊下の奥へ、消えた。



 皆様、こんにちは。サーチャーのリクロームです。
 この度は北海道侵攻作戦の一環として、魔皇の皆様にも協力が求められています。
 今回の作戦目的は、いつもよりも内地に侵入して―――ある基地に置かれている、ある機体を破壊か奪取することです。未だ試作品であり、未完成のようですが、見過ごすわけにはいきません。


 絶対に、何としても破壊、或いは奪取しなければならないでしょう。


 目標は――ヴァーチャー級にも匹敵する力を持つとされている、強化ネフィリムです……!



シナリオ傾向 シリアス、戦闘系、北海道作戦系
参加PC ヴァレス・デュノフガリオ
瀬戸口・春香
永刻・廻徒
天剣・神紅鵺
真田・浩之
佐嶋・真樹
嵐の前に




1/


 ……その日。
 北海道の地には、凄まじい戦闘音が響き渡っていた。


「隊長、敵の基地を捕捉しました!」
「…仕掛けるぞ。全員、手筈通りに動け」
 この戦場まで辿り着いた三十数機のゼカリア・殲機混成軍。
 主な指揮を執る瀬戸口・春香は、部下の機体の報告に頷いて言葉を発し、
「自分たちよりも小勢の敵にのみ攻撃を仕掛けることが原則だ…行け!」
「「了解!」」
 彼の指揮で、北海道軍の基地に、一斉に攻撃が開始された。
「くっ、パトモスの狗が…」
 一方の北海道軍も、憎々しげに殲機の小隊が、先鋒を迎え撃つ。
(…調子に乗るな!)
 目前に見えているパトモスの集団は、こちらよりも少ない。
 ならば一気に排除してしまえ、と敵指揮官が嘲笑したところで――
「よし、突撃、」
「――突出しすぎだ、馬鹿が」

 春香に、嘲笑を返された。

「ゼカリア小隊。正面に来た馬鹿共を、横から殴ってやれ」
「「了解!」」
 彼は即座に戦場へ素早く視線を走らせ、告げる。
「第六小隊、突撃!」
「なっ…」
「遅い」
 馬鹿正直に近接戦闘を仕掛けてきた敵。
 そこに――側面から、ゼカリア小隊の射撃が突き刺さる!
「う、うわあああ!?」
「…殲滅を終えたら、殲機隊は前進を再開だ」
 瞬く間に敵の一隊を全滅させた春香は、けれど冷めた目で再び戦場を見る。
 ――敵は、決して弱くない。


「守りが薄いのは、西側か…一気に攻め込むぞ。僚機は遅れずについて来い」
「「分かりました!」」
 一方、後方に潜んで指揮を執る春香と対照的に最前線を行くのは佐嶋・真樹の機体。空戦能力を強化した暁だ。
「さて――たかだかヴァーチャー級。そんなに切迫した事態ではあるまい…恐らくは…」
 小隊を率いて敵地へ向かう彼女が思うのは、パトモスの意図だ。
 そう。ヴァーチャー級機体の確認のみであれば、大事ではない。つまりパトモスの意図は――流出したミチザネ機関技術の把握か、抹消?
 もしくは――
「超兵器志向など、単なる敗戦の末期症状だと思っていたが…」
 呟いて、彼女は目を細めた。
 …もしかしたら、事態は殊の外、肥大化しているのかもしれない。

 そして――

 既に長時間続いていた死闘は、ついにこの基地で最高潮を迎える。




2/

「落ち着け! 慌てた奴からやられてくぞ…!」
 一方、北海道側の指揮官、蕗・隼人は浮き足立つ味方を叱咤しつつ、剣を振るっていた。
 同数程度の激突だが――今までの戦の通り、敵軍に切り札がある可能性は否定できなかった。それも、数枚という破格で!
(さて、俺がどれだけ抑えきれるか…)
 思考しつつ、単機で向かう隼人。
 徐々に包囲されつつあったそこに――

「さて、“鉄砲”のお披露目だ…!」

 遥か上空から、援護の銃声。
 瞬く間に敵機体が一機、鉄塊に変貌した。
 ――天剣・神紅鵺の攻撃だ。
「誰だ…?」
「私は “星の異端者”天剣・神紅鵺だ。義によって助勢する」
 天剣の言葉に、隼人が目を細める。
「何故だい?」
「絶勝を望む翼への義理立て、とでも言っておこうか…今更だがね」
 絶勝を望む翼――
 日本国に加勢している組織名を出され、ぴくりと彼が動く。
 加えて、隼人は彼を見たことがある…。
「…と言っても口だけでは信用できないだろうし行動で示そう。そちらの指示に従う」
「…モノ好きだねぇ。では、南のBブロックを護ってくれ。お宝がある。それから…」
 ぼそ、と呟く言葉。
 それに天剣が思わず吐息を漏らした。
「貴様もモノ好きだな。そんなことを言っていいのか?」
「俺がそちらの防衛に出たら、この基地は瓦解する。どの道奪われる可能性が高い――それに、裏切ったらお前を滅ぼすだけだ。なぁ?」
「…ハ。好ましい答えだ。了解した」
 答えて、通信が途絶える。
 構いはすまい。どうせこのままでは奪われる代物だ…そして。
「まったく…少しは楽をさせてくれ!」

 彼は既に、自分が『引き受けなければならない』相手を見つけていた。




3/


「さて、大分混乱してきたか…」
 その頃、彼、永刻・廻徒は敵の数を着実に減らしていた。
「く、敵か!?」
「見て分からないか?」
 突如として戦場に現れ高速で移動する彼の機体に、漸く敵が銃を向ける。
 だが、
「…狙いは私ではない!?」
「遅い。指揮官との一騎打ちのみが戦だとしたら、平和だろうな」
「くっ!?」
 その挙動は、速い。
 極端な前傾姿勢のまま、彼は敵小隊指揮官の前で急カーブ。そのまま横に飛び、目前に居た一般機とすれ違いざまにサムライブレードで一撃する。
 ぐらりとするそれに続けて蹴りを入れ、止めと成した。
「貴様ぁ!」
「…やれやれ」
 そして――

「今回も随分と厭らしいな。えぇ、自称・一般人?」
「ふむ。今回は早かったな?」

 敵指揮官の背後から襲ってきた隼人の一撃を、回避した。
「ふ、蕗一尉…」
「退け。ここは俺が食い止める」
 彼は廻徒と向き合い、告げた。
 しかし――目に留めているのは、彼の機体だけではない。
「…嬉しいねぇ。俺はどうやら、好かれてるらしい」
「捕捉した…油断するなよ、浩之」
「ああ…分かってる」


 乱戦下にある戦場を…「それ」は、悠然と歩いて来た。

 ――真田・浩之。そして、逢魔イルイ。

 彼等の駆る殲機である。
(…)
 その二機を見て、内心で隼人は舌打ちしていた。
 自分以外の者では――目の前の二機を止められまい。
「…へ」
 自分は、独りだ。
 肩を並べて戦った親友も――既に、敗れた。
「さぁ…行っくぜぇぇ!」

 故に、彼は叫びながら突撃した。
 目の前の敵を倒すため。或いは、己が討たれる為に。



4/

 単機で一般機を圧倒する死神――

 そんな役割を演じていた廻徒は隼人の相手に周り、戦況は再び通常戦闘にを移行した――ように、見えた。
 だが、それは儚い幻想である。
「うーん、中々に順調かねぇ♪」

 ――ヴァレス・デュノフガリオ。

 廻徒と入れ替わるように一般機を圧倒し始めたのは、彼だった。

「に、二時方向から敵多数…です」
「了解!」
 逢魔シーナの言葉に彼は頷き、加速する。
 真フレキシブルスラスターで接近し、勢いのまま――手にした真デュアルブレードで敵を穿つ!
「あ…奥に戦車が、」
「任せろっ!」
 そして、左からこちらを狙っていた戦車へ高速で隣接。
「う、うわ!?」
「ほい、一丁上がり♪」
 一気に、砲身をへし折った。
 そこで――更に、シーナの警句が響く。
「すぐ近くで、激しい戦闘です…!」
「ん…あれは?」

 捉えたのは――二機の殲機の激突だった。

「各機は状況を掴み損ねるな! 連携して事に当たれ…!」
「揺らがない、か。悪くない統率者だ」
 パトモスに与する真樹と、北海道に与する天剣の戦闘である。
 ふむ、とヴァレスはそれを見て――

「いよぅ、天剣か?」
「…ヴァレスか。奇遇だな」
 なんと天剣に、気軽に語りかけた。
 実は――両者は知己の仲なのである。
「なぁ、手伝ってくれね?今度メシ奢るから♪」
「…いや。今回はこちらに与する、と決めたのでな」
「あ、やっぱし?」
 互いが、戦場に居るとは思えぬほど気楽な口調で話す。
 無論、それだけの力量を二人は持っていたのだが――。

「それじゃ、俺も好きに動くぜ?」
「…この機体、仲間か!?」
 そこで、この場の両者は決別した。
 ヴァレスは、高速で真ファナティックピアスによる一撃離脱を行う天剣と、それを追撃する真樹の戦闘――並の技量の者なら、目で追うのが精一杯だ――に、苦も無く参戦する!
「落ちろ!」
「…止めさせてもらうぜ?」
 瞠目すべき動体視力で敵の攻撃を回避する真樹と、ヴァレス。
「…はは。これぞ戦の華、というやつか」
 その二機を見て口の端を歪めつつ、天剣も、止まらない――。



5/

 さて、三者による激戦が始まったその頃。

「はあぁぁぁ!」
「…!」
 隼人と廻徒、浩之の戦いも佳境に入っていた。
「頑張るじゃねぇか!」
「我が流派は万能を謳う。そう簡単に止められるとは思わん事だ」
 不規則に動き、けれど確実にこちらを攻撃してくる廻徒に隼人は叫ぶ。
 無論、確実に隼人は敵の損傷を増やしていたが――逆説的に、圧倒的なスペックを持った機体で、まだ彼を討てないのだ。
「毎度違う戦法を用意するのは面倒なんでな。ここらで終わりにさせて貰うぞ、白いの」
「やってみろ!」
 冷静に呟く廻徒は、紡いだ台詞の通りに諦めていない。
 魔獣殻レゾニレンヘルツの力を借りつつ、敵へ攻撃を繰り返し――
「…おおっ!」
「ち!」
 そこに、浩之の攻撃が落ちてくる。
「…酩酊の幻を追い続ける政府や軍隊が、弱者を守れるわけがない」
 彼が紡ぐのは、独白とも知れぬ言葉だ。
「兵器の維持は設備も人員も要る。北海道が聖凱を生産、維持するのは不可能だ」
「…そうかもなぁ!」
 二対一の戦闘。
 けれど完全な連携が見られない隙を突き、隼人は剣を振るう!
 ――浩之と廻徒の機体が、吹き飛んだ。


 …浩之のその言葉は。
 以前捕虜となった兵、タリエシンに向けたものでもあった。

「…俺と一緒に来い。お前の声で、説得で、救える命がある!」

 自分が雪花の魔皇であったことを告白した時、タリエシンは目を開いた。
 彼は、敵の将兵だ。
 その言葉に、即座に頷くことは無かったが――
『しかし、同時に貴様の道を否定もすまい…』
 そう、言った。
『真田・浩之。或いは同胞よ。平和の為、己の道を正しいと信じるなら…その道を往け』



「…泣けるねぇ!だが俺も!それでも、護りたいもの、退けねぇ一線がある!」
「…」
 だが、隼人はある意味、何処までも軍人だった。
 それに、更に言葉を紡ごうとして――
「やめだ、やめ。互いに修羅の黄金…言葉じゃ…届かねぇ!」
 そんなことを、言った。
「常々、馬鹿だとは思っているが、ここまで馬鹿だとは…だが、嫌いではない」
 逢魔のイルイも、呆れながら、何処か嬉しそうに肯定する。

「ハ…格好良いねぇ!」
 それを――隼人は受諾する。
 かくして、魔獣王の眼で戦闘力を増加させた浩之機との、壮絶な戦闘が始まった。

 そして――
 一瞬の間隙を突き、真燕貫閃の一撃が。浩之の一撃が、来る。

 悲鳴を上げる装甲も。
 砕け逝く魔皇殻にも構わず、ただ、一撃を願い。


「魔皇の力は想いが決める!想いの差が、力の差!…俺の想いは負けねぇ――ッ!」
「…おお!」


 抗する隼人の一撃は、これも真燕貫閃。
 二機が高速で激突し――崩れて。



「は…そうかい」
 全力を使い果たして、崩れ落ちる浩之の機体。

「言わせて貰うぜ、自称・一般人よ…テメェも、この馬鹿な兄ちゃんと同じくらいに、格好良い」
「それはどうも。嬉しいよ」
 その背後から、同じく疲弊している隼人の機体へ――廻徒が、飛んだ。
「…燕貫閃」
「!」
 狙い済ましたその一撃が、浩之との激突で疲労していた『聖凱』を引き剥がし。
 更に一撃して、ついに隼人の機体を討ち果たす…!
 
「…くそ。どうだ、テメェも熱血系で売り出したら?」
「遠慮する。俺の性には合わないよ、それは」
 それでも冷静な彼の一言に、隼人は苦笑する。

「…お前の負けだ」
「…ああ。俺の、負けだ」

 何処か清々しそうに。
 廻徒と浩之に、彼は敗北を認めた。


6/

『全軍、降伏する…俺の処遇は好きなように。ただ、部下には寛大な処置を望む――』
「これは…降伏?あの機体、負けたのか?」
 隼人の降伏宣言を聞いた時、天剣は未だ戦闘を続けていた。
 無論、機体の損傷は拡大している。ヴァレスと真樹、一級の敵を相手にこの損傷で済んだのは彼の操縦センスの高さを示していたが――劣勢だ。
(退き際か)
 彼は小さく頷き、即座に上空――戦闘行為を度外視した、超高度にまで飛んだ。
 逃走である。
「…どうする?」
「…我等の第一義は、奴ではないからな」
 短く問うヴァレスに、真樹は小さく答える。
 そう。自分たちの目的は、目前の格納庫。その奥のモノだ。



「…へぇ、これが噂の。強そうだな♪」
 格納庫に立っていたのは、一体のネフィリムだった。
 通常のものより追加された装甲や武装。
 目の前にあるソレは、確かに通常機体と一線を画している。
「これが…」
 真樹が、一目でその性能を見抜く。
 確かにこれは――驚異的な性能だろう。
 そして、素体は通常のネフィリムのようだが――もしも素体が、より優れていたら…?
「…」
「…考えてること、分かるぜ。確かに大変だよなぁ」
 真樹の思考をトレースして、ヴァレス。
 と、そこに――
「…その機体から離れろ!」
 敵機が現れた。
 先ほどの降伏宣言をさえ無視して、こちらの妨害か。
「…どうする?」
「決まっている」
 瞬間、真樹とヴァレスの機体が消えた。
「え?」

 否。
 速すぎて、見えなかった。
「遅いな」
「…悪いが、これで終わりだぜ?」
 真樹の真音速剣が敵を切り刻み。
 その直後に、ヴァレスの一閃が四肢を切断する…。


 ここに――任務は完了した。



「隊長、敵が退きません!」
「…」
 そして、最後まで戦っていたのは春香である。
(…敵も一枚岩では無かったか)
 おそらく、隼人の敗北に対する『保険』だろう。
 本気でこの劣勢を覆せると思っているのなら舐められたものだ。春香は苦笑した。
「…観客のまま終わりたかったのだがな。全騎、バスターライフルとマルチプルミサイルの一斉射、後に後退。疲弊したお前らでは勝てん…逃げる時間位なら稼いでやる」
「しかし、」
「行け」
 嘆息しつつ、彼は冷たく言い放ち部下を後退させる。
 …そして。



「…う、うわあ!?」
 一方、追撃の為に敵が進んでいると――
 ひゅん、と何か糸のようなものが閃いた。
(攻撃?)
 既に劣勢を自覚している敵は、神経を尖らせる。
 次いで、
「て、敵…」
「う、撃て!」

 発砲したが――何故か。
 部下の報告で一斉射撃した敵は、「自分たちの同胞だった」。
「あ、」
「!?」
 また、ひゅん、という音に、部下の吐息。
 そして、直後にこちらに飛んできたのは――また、味方だ。
「…お、落ち着け!」
 指揮官が慌てて叫ぶが、ひゅん、という音と、部下の通信途絶は終わらない。

 終わらない。

 そして、いつしか自分だけになった。
「あ…」
「…迂闊だな。終わりだ」

 聞こえたのは、ひゅん、という音だけ。

 けれど最後のその機体もまた、何も理解できずに死んでいった。



「…終わったか」
 辺りが静まると、春香は仕掛けである断罪の糸――この糸で敵を手繰り寄せ、破壊して敵に投擲。相手が混乱している内に、再び破壊する行動を成した――を回収しながら呟いた。
 見れば、基地では騒ぎが終わりつつある。
(だが――これで終わりではないのだろうな)
 そう思い、彼は目を細めた。





「ちっ…やれやれ、こりゃ殆ど最後の手段かね?」
 一方。
 既に「お宝の、送っていなかった余剰データ」を回収していた天剣は、嘆息しつつ飛んでいた。これを…奥地まで届けねば。
(これと…既に送られているデータ。それで、戦場がどれだけ沸くのかねぇ?)



 ――もう終末は、近いのかもしれない。

 そんなことを、考えながら…。