■精鋭追撃 〜反撃の狼煙〜■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 緋翊
オープニング



「残りは!おい、こっちの残りは何機だ!?」
「全部で………四機か!俺と幹也の機体は損傷が少々目立つ!逃げ切れんぞ―――」
「諦めるな!まだ道はある筈だ……!」


 小雨の降る、やや視界の悪い某日。
 北の地に近い、かつて青森と呼ばれた地の某所を―――駆ける機体があった。

 ……否。
 駆ける、では無く、逃げる、という言い方が適当であるのだろうか?

「畜生、わざと速度を落してやがるのか!?」
「否、そろそろ追い付いてくるぞ……おい隊長、どうする!?」
「ち―――」

 彼等の駆る機体は、殲機ではなく神機傀儡。ゼカリアである。
 ……彼等は身を寄せ合うように、損傷した機体に気を遣いながら逃げ続ける。
 ――――まるで、今すぐにでも自分達が狩られると言わんばかりの動揺と共に。

「……見ろ、街だ!この地方には珍しく、背の高い建物ばかりだぞ?」
「廃棄された街か。どうする?」
「決まっている。各機、あの街へ進路を変更!救援が来るまで持ち堪えろッ!」
「「……応!」」
 叫びばかりが繰り返される会話は、凡そそんな内容のもので。
 絶望的なニュアンスを含んだままに、四機は目の前の街へ逃げ込んで行った―――





「……街へ逃げ込んだか。やはりこのまま狩られる気は無いようだな」
「ああ」
 
 ―――そして、それを遠方から見る「敵」の姿がある。
 それは、一機のネフィリムと、一機の殲機。
 加えて、彼らを守護するように周りを飛ぶ数匹のドラゴンである。

 それだけを見れば、絶望的な戦力差、とまでは言えない様であるのだが………
「まさか逃げおおせる奴等が居るとはな。流石にパトモスも、精鋭を揃えてきたか」
「……そりゃ、あっちも殺す気で戦争してんだ。当然だろ?」
「ああ」
 けれど、呟く二人の男の声。
 ネフィリムと殲機を駆る彼等の声に、苦戦を予想させる気色は皆無だった。
「……ここ数日で、大分敵を殺したよな」
「そうだな」
「嫌になるな」
「そうだな」
 ぽつりと会話する二人の間には、何の感慨も無い。
「本当に……」
「隼人。上層部の決定は覆らない。この展開は、我等が皆予想していたものの筈だ……現場の俺達に出来るのは戦うことであろう。戦争を終わらせる為に。無駄な死人を極力出さない為に」
「……知ってるよ」
「ならば戦うぞ、隼人。我等が授かりし“聖凱”の力が―――戦争の早期終結に繋がると信じて」

 ……だが、あくまでも人の感情を捨てていない者の会話である。

「……そうだな。行こうぜタリエシン。敵を殺す為。戦いを終わらせる為に」
「応」

 ――――そうして、その追撃者たちも街へと進み始めた。




 皆様、こんにちは。サーチャーのリクロームです。
 この度は北海道侵攻作戦の一環として、魔皇の皆様にも協力が求められています。
 ……前回の「イレイザー殲機データの強奪」事件から大きな動きの無かった北の地ですが、最近動きが確認され始めました。
 敵の新戦力と思しき部隊に、パトモス軍が相次いで敗退しているのです。


 これを受けて急遽、殲滅目的ではなく、威力偵察を目的に件の部隊と思しき連中と戦闘を行ったパトモス軍の軍勢が、現在敵に追われています……彼らも精鋭ですが、このままでは全滅するのも時間の問題でしょう。
 至急、救援に向かって下さい。


 敵の数は少ないのですが………どうか、無理はなさらずに。
 ………その、敵は。
 二個中隊規模の軍勢が――――壊滅的打撃を受けた相手、だそうです。



シナリオ傾向 シリアス、戦闘系、北海道作戦系
参加PC ジザ・ヴィリアム
天継・琳音
永刻・廻徒
天剣・神紅鵺
真田・浩之
佐嶋・真樹
精鋭追撃 〜反撃の狼煙〜
精鋭追撃








【1】


 ―――雨が、降っている。



「そろそろだな」
 目的の街へ向かう一団、やや先行する殲機の中で声がした。
 ……真田・浩之の、機体だ。
「お前は神属も魔属も隔たり無く接してきた。『6年前』から、ずっと。ふふ、グレゴールの女に熱を上げた時は困ったものだったが」
「う、うるせぇよ」

 ―――響く声は、澄み切った少女のそれである。

「…さぁ、行くぞ浩之。戦争を終わらせる為に。無駄な死人を『一人も』出さない為に」
「ああ!」
 己の逢魔・イルイの声。
 その想いに励まされ、浩之は飛ぶ。

 …戦闘を、終わらせる。

 ――同時にそれは、街へ向かう全ての者が胸に秘める想いだった。








 そして、数分後。


「タリエシン」
「ああ――」
 最初に到着したのは、魔獣殻と真魔皇殻の力で速度を向上させた浩之の機体だった。
「骨はある、な」
「ゼカリアはやらせん――!」
 通常では考えられない反応でこちらを追う二機に舌打ちしながら、彼は撹乱を続ける。相当に時間を稼げると思ったが……
(尋常ではない…!?)
 見れば、敵の殲機とネフィリムのフォルムは既存のそれより二周りは巨大だ―――その上、異常に速い。
「我等が『聖凱』の試験に相応しい」
「くっ!」
「―――んじゃ、俺はあっちか」
 正直な話、浩之の技量をして一機を押し留めるに精一杯だ。
 こちらをかわすように、白いディアブロがビルの陰、ゼカリアへ迫る!
「ハッハァ!」
「やらせん……!」
 


 だが―――此度の物語、登場人物は一人ではない。

「へぇ…何だよ、活きの良いのが居るじゃ無ェか!?」
「詳細不明の強敵…ある意味いつも通りか。超エースもトンデモ兵器も見慣れたな。こいつは俺が引き受ける」
「了解!」
「では私は…浩之の援護へ向かうか」
 振り下ろされる刃を受け止めるジザに、敵へ向かう真樹と廻徒の機体。
 そして、
「浩ちゃん!」
「ああ!」
 隙に乗じて魔獣殻を送還、新たに叢と魔獣殻合体する浩之をサポートする為に魔力弾の弾幕を張りつつ、ゼカリアを守る琳音の援軍であった。
「君達は…味方か?」
「ええ。前へ出過ぎないように注意してください。貴方達を守ります…!」
 訝し気に訊いてくるゼカリアに、力強く肯定してみせる。





「…遅刻はせずに済んだか」
 ―――また、上空からその様を睥睨する瞳もある。

「では、走狗らしくご主人様の危機を嗅ぎ付け、敵を討つとしよう」


 …かくして、役者は揃った。
 ――小雨の街を舞台とした戦闘が、開始される。





【2】

「おおおおお!」
「――っ」
 街に、ビルを叩き壊す爆音が響き渡る。
「…出鱈目だな」
 苦笑しつつ、隼人の機体と相対する廻徒は呟いた。魔獣殻で多脚型と化した愛機で敵を撹乱するよう動くが、敵はしっかりとこちらに対応している…
「へっ、面白ぇ!本当に試運転としちゃ上等だぜ!」
 ビルを盾に、またはその壁面や残骸を足場に跳ね回る変則的な動きは、並の魔皇なら十秒と追えまい。街の地形を十二分に活用する廻徒に舌を巻きつつ、彼は建築物を破壊していく…
「さて、地味に行こうか。無理なく無駄なく無難に状況を打開しよう」
「謳うなよ。そういう奴が一番怖ぇんだっ!」
 だが、廻徒の真アナイアレイターの一撃も隼人の機体には効果が薄い。敵の牽制に構わず、一気に敵を屠ろうと動く隼人だが――
「右へ!」
「応」
 すんでのところで、ジザの援護射撃が両者を隔てる。その射撃は想像以上の弾速・速射性能だ…確かにこちらの装甲は厚いが、
(まだ未知数の聖凱だ。下手を打てねぇ…!)
「ゼカリア隊はやらせない…目前で無駄死にが出るのは御免だ!」
「…敵ディアブロ、来ます!」
 建造物を盾に――狙いはゼカリアではないのか――こちらに迫る隼人の機体に、逢魔クランスファが警句を発する。そのひたすらに速い動きに、ジザは接近を許してしまう。
「此方も退けないんでなぁ!?」
「くっ!」
 真インスタビリティで一撃を何とか受け、転がるように距離を取るが、敵も動く。回避を続けるこちらへ一歩踏み込んで蹴りが放たれ、ジザの機体が後方へ吹き飛ぶ!
「ち…」
「損傷は…大丈夫、まだ行けます!」
「悪いが、俺は俺の正義の元に戦うぜ。容赦はしねぇ」
 尚もこちらへ追いすがる、隼人の機体。
「――いや、それは少々都合が悪い」
 割って入るのは、真アナイアレイターの推進器による突進を見舞う廻徒だ。生易しくない一撃が、激しく隼人の機体を揺さぶった。
「日本国もパトモスと似たようなモノだろう。声高に正義を謳う輩は大概クソだよ」
「は、違い無ぇ!『正義はむしろ何処にでも在る』――それが問題なんだろうな!」
 振り向く時には、既に消えている廻徒である。追撃を思うも、機体を叩くのはジザの射撃で…彼の機体も、いつの間にか遠ざかっている!
(こいつら、経験値が異常だな。強敵との戦闘に慣れている…?)
 粗野な態度と打って変わって冷静に敵を見定め、隼人は舌打ちする。

「タフな敵だ。北の魔皇の相手をするのも、中々に骨が折れる…!」
「ゼカリア隊は火力の集中を!琳音さん達の方へも注意を怠らず――!」

「…ああ、こいつは愉快だけどよ…」
 地を舐めるような前傾でこちらへ刺突を行い、離脱する際に伸びてくる遠距離からの火線。正直、楽しい。最高の敵だ。だが――彼は目標であるゼカリアと、相棒の機体を見て再度舌打ちした。
「少し残念にも思うな…くそっ、退きやがれ!こっちには時間が無ぇんだよ――!」
 吼えながら、隼人は駆ける。


 ―――既に任務の難易度は、彼の予想以上に上昇していた。





【3】

「…来た!」
 ジザと廻徒が傍らで激戦を繰り広げる中、琳音は「敵」の来訪を察知して短く呟いた。
「ふむ。では、始める頃合か――」
 真魔力弾と深遠の魔境で着実に敵サーバントの数を減らし、余裕も出てくるかに見えた頃…上空から降ってくるのは、そんな楽しげな声。


「征くぞ、体制に迎合するモノ達よ。金色の邪悪が相手になろう」


 真ファナティックピアス、細分化したそれが敵を傷付けるために降り注ぐ。

 銃器・アヴェンジャー改が、効果は薄くともその運動エネルギィで敵の足止めを狙う。

「下がって!」
 それらに抗するのは、まさしく琳音のイキシア。
 ゼカリアと共に物陰へ隠れ、真ガーディエルジャケットと魔獣殻の防御で攻撃を防ぐ。加えて一助となるのは魔の突風、真テラーウイングの妙である……真ヘレティックテンタクルの触手を収束させた突撃も、ギリギリの処で回避。
 少しだけ興の乗った声で、天剣が嗤った。
「ほぅ、小賢しいことに崩れんか。だが――」
「…貴方には、負けないっ!」
 小さく笑い、ゼカリアと琳音の攻撃を前に、触手で牽制しつつ再び天剣は空へと舞い上がる。互いに決定打を受けるわけには行かない――ともすれば必殺に結びつく真闇蜘糸と真蛇縛呪が相互に掠め、目標を捉えない!
「くっ、このままじゃジリ貧だぞ!?」
「遅い。お前達ではこの翼に届かぬよ。届かせるものか」
 存外巧みに、琳音をサポートするように伸びるのはゼカリアから放たれる火線。精鋭というのも伊達ではなく、自分たちより能力のある琳音の存在を認め、離れることは無い。

「が、私も酔狂のみで戦場に身を投じている訳ではないのでな――」

 魔鏡から放たれる光線と複数の火線、それに抗する槍の散弾と触手。ほんの少しずつ、傷が付き始める。けれどそれは今暫く些少の域を出ず、互いの矜持が均衡を崩さない。
「決めさせてもらう」
「いいえ、それは認めない…!」
 真幻魔影でゼカリアの行動を上手く封じつつ、天剣は触手を最大限に生かして一網打尽を図るが―――琳音が瞬間的にフォローへ入る。身を挺した防御とテラーウイングの突風が天剣の思惑を邪魔するが………ついに手負いのゼカリア、その一機を捉えた!
「くっ…脱出する!」
「貴方と云う人は―――!」
 同時に、乗者の脱出を確認しつつ動く琳音。先程から見せる驚異的な状況把握力と思い切りは、その攻撃の瞬間、逆に真六方閃の反撃で答えた。
 ―――光が、遠巻きに隙を窺っていた飛竜と天剣を、穿つ。
「は…ははははは!!良い反応だ。まだ足掻くか…!」
「…皆が戦ってる。浩ちゃんも、他の人達も。私だって、絶対に諦めない…!」
 手傷を負った事実に愉悦を感じるかのように、更に突撃を行う天剣。その様は狂気であり、手負の者を狙う澄み切った悪意である。
(此方の勝ちは、皆を守り切ること……!)
 それに、何処までも冷静に対処して琳音はゼカリアを庇う。大丈夫、自分は――
「…負けない」
 自分は、この敵に対して一歩も退くつもりは無い。ではこの戦場全体は何処へ流れていくのか?

 彼女は見る。白い殲機に対して戦うジザと廻徒を。
 そして。

(間違いばっかりだったけど、遠回りばっかりだったけど…もう大丈夫だよね、浩ちゃん…)

 そして、黒いネフィリムに向かって戦いを挑んでいる、二機の――






【4】

「ふむ…」
(隼人は、存外苦戦しているか。ゼカリアは――)
 戦況を冷静に見回しながら、タリエシンは予想より厳しい現状を自覚していた。
 見れば、隼人は敵に遮られ、ゼカリア掃討に向けたサーバントも同じく――その上、空から乱入した不明機と戦闘をしている。
(敵ではないのか?)
 とりあえず、現状パトモスと戦っているなら構わない、と判断する。こちらにまで反抗してきたら――この機体で、目前の敵ごと一気に切るだけだ。
「私が、動かねばならんか」
 ぽつりと呟いて、彼は再び自分と戦闘を繰り広げる「敵」に意識を集中させる…
「この聖凱の力、試すとしよう」
「…玩具を強請る子供だな。泣いて喚くことでしか、意思を通せない」
 高速度で空を駆け巡るこちらに追随するのは、真樹の機体・暁。魔皇殻と魔獣殻で空戦力を高めた機体が真獣刃斬を飛ばし、真ショルダーキャノンで牽制しつつ距離を詰めてくる――
「私は兵士だ。上の人間が何をしようと、己の出来る範囲で最善を尽くす」
「愚直だな。だが、それは免罪符と同義では無いぞ?」
「は、言うな――」
 腕で攻撃を全て振り払うこちらに臆せず、ふっと沈み込んだように真樹が降下し――瞬間、真グレートザンバーを手に急上昇でこちらに迫る!
「残念だ。その才で、パトモスに与するか」
「黙れ。謳うな雑兵」
 それを真正面から剣で受け止め、弾く。曲りなりにも技術を尽くし、敵のデータを奪ってまでヴァーチャーや魔凱殲騎に少しでも近付こうとした成果だ。問題のある試作型と言えども、性能は屈指。
(だが――)
「背後からの攻撃、任せるぞ」
「おおおおおおおお!!」
 日本国は、少し敵を甘く見ていたのかもしれないとは――思う。考えながら、碧い刀身で突撃してくる背後の機体、浩之のそれを彼は手刀で叩き落す。距離を取るか――否、それは既に何度も繰り返した。
「あちらは才。こちらは…圧倒的な戦闘経験。惜しいな」
「寝言を言うなっ!」
 更に、後退するこちらへ剣撃。それをサポートする真樹に気付き、彼は舌打ちした。

「何の為に戦っているんだ 、お前は!」
「…」
「答えろ。これがお前の望んだ戦いか!!」
 …戦場で、そんなことを敢えて問うその想いは如何程なのだろう。
「このままでは破滅が待っているだけだぞ、国がどうとか、お前達が言っている間に!」
「…耳に響く言葉を並べてくれる!」

 瞬間、攻守が逆転した。

「此度の戦に綺麗な義など無いことは理解している!日本国、パトモス、或いは両陣営の上層部が等しく愚かだ!だが貴様等の侵攻で友が、愛する者が殺される可能性も事実!信頼する上官、慕う部下、その全てを失うことも――私には苦痛だ!」

 苦悩する者の攻撃は重かった。聖凱の脅威を実感する。

「っ…」
「私は政を扱う人間ではない!兵が疑問を抱くことは許されない!ならば、自分が出来る最善を私は尽くす!圧倒的な力を見せつけ、死人を一人でも少なく出来るように尽力する…!」
「…まるで、自分は悪く無いと主張しているかのようだ。しかし、そうだな……ならばこの戦争、貴様らを葬って、それで終わりだ」
「!?」
 並の魔皇なら数秒掛からず命を落す剣撃の嵐を遮るのは、真樹。そちらへ攻撃を割けば、その分動き出すのは――
「…きっと、お前も悩んだんだろうな。だが、それは正しい結果に終わるのか?」
「く、」
「仕方が無いと言って―――壊すのか、自らの手で!お前は!?」

 距離が、離れた。

「自分の生き方すら選べぬ矮小な器に、何を説いても無駄だぞ?」
「…次で決める。行くぞイルイ」
「ああ。全力で行け、浩之…!」

 呟く真樹に小さく頷いて、彼は駆けた。逢魔と共に全力で、刀身の砕ける覚悟で。
「…その力で証明して見せろ。どちらが正しいのかを!」
「―――真燕貫閃!」

 互いの意地と共に、機体が交錯し――浩之の機体に大きな傷が。
 同時にタリエシンの機体も、増加装甲がごっそりと削り取られた。
「「…!」」

 三機が、未だ衰えぬ闘志で再び動き出すが―――



「タリエシン、退くぞ!」
 急速に近付いてきた白のディアブロが、そう言い放った。





【5】

「タリエシン!?馬鹿を言うな、私は決着を、」
「馬鹿、時間切れだ!俺達の聖凱は試作機だぞ!?二個中隊との戦闘を皮切りにどれだけ動いてると思ってんだ!?」
「っ…!」

 珍しく頭に血の上っている相棒を宥める。そう……この街で戦闘を始めてから、徐々に機体性能が落ちている。敵の実力と相俟って、最早優位は失われつつある。

「私は…!」
「…よぉ、相棒を追い詰めたのは手前等だな」
 隼人が、真樹と浩之を睨む。
「次に戦場で会ったら、許さんぜ」
「…ふん。口だけは達者だな」
「何度でも倒すだけだ。お前達は間違っている」

 へ、と息を吐き――次に彼が見るのは、自分を追うジザと廻徒である。

「もっとも、俺が屈辱を覚え、真に次に殺したいのはお前達だが……良いか?次は負けねぇぜ。万全で挑む。そこの二機の乗者、この俺を覚えていろ」
「いやに熱血した奴だな。逃げ口上一つにそこまで言葉を並べるか」
「忘れないさ。お前達が破壊を振りまく限り、俺の敵だ…!」

 笑う、声。


「あっちで頑張った嬢ちゃんにも言っておけ!日本国は――本格的な攻勢を整えつつある、と!」

 逃がさん、と此方に迫る廻徒とジザ、続く浩之と真樹が迫る前に――隼人が剣を全力で叩き付けて煙を起こし、タリエシンが聖光翼陣を形成。敵機は、機体が潰れるのを覚悟で、恥を捨て全速力で戦場から離脱した。





「ふむ、頃合か。一機潰せただけで退くのも口惜しいが…」
「逃げるの!?」
「ああ、既に潮のようだ―――では、また何処かの戦場で」
 嗤って、こちらも存外素直に天剣が退く。
「俺達は…助かったのか…」
 呆然と呟くゼカリア隊を見て、ひとまずは安堵の息を吐いた。

「ええ…とりあえずは。帰還しましょう」


 呟く琳音の前で、雨が止む。




 こうして。
 北の地が動き出す予感を感じながら、魔皇達は帰路に着いたのであった―――