■【Creature Tamer】終の機■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 黒風
オープニング
「長い間何の連絡も寄越さないで、やっときたと思ったらこれ?」
 グレゴール、豊島・香織は、テンプルムからつい最近届いた命令書を片手に、不機嫌そうに言い放つ。
「でも、命令ですし、状況が状況の様ですから……」
 仕方ありませんよ、と香織のファンタズマ、シズクがフォローはするものの、香織の機嫌は治りそうにもない。
 その命令書に書かれているのは、帰還命令。テンプルムが攻撃を受け消耗しているから戻ってこいと言う内容であった。
「で、戻るんですか?」
「しょうがないじゃない、戻るわよ。こんな所に居たままマザーが倒されでもしたら命取りになりかねないし」
 シズクの問いに、香織は相変わらず不機嫌そうに答える。とは言え、一度決めたらその後は手際よく帰還の準備を進めていく。
「シズク、アレの準備をお願い。置いていく訳にはいかないしね」
「分かりました」
 香織に言われてシズクが向かった先、地下施設内の隠し扉を通り、さらに奥へと入ったその先には、純白の巨人が佇んでいた……。

「皆様、お久し振りです。豊島・香織に対し殲騎の使用が許可されました」
 ミスリは挨拶もそこそこに作戦の説明へと入る。
 今尚、以前攻撃した施設に居続けているグレゴールの豊島・香織、及びそのファンタズマのシズクに対し殲騎で攻撃を仕掛けて欲しいのだと言う。
「これまでのデータから、確実に仕留める為には殲騎を使用するのも止む無しと判断されたのでしょう。同時に、周囲への被害も黙認するとの通達をいただきました」
 つまりは、殲騎で全力で戦っていいと言う事だ。香織はまだ数体のサーバントを残しているが、殲騎にとっては敵ではないだろう。問題となるのは限られている。
「殲騎を使用する以上、周囲へも被害が出るでしょう。許可こそいただいてはいますが、失敗は許されません」
 必ず撃破してください、と言うとともにミスリは大きく頭を下げ、いつもの言葉で締めくくった。
「よろしくお願いします」
シナリオ傾向 殲騎戦 対ネフィリム=ヴァーチャー・カスタム
参加PC 錦織・長郎
永刻・廻徒
天剣・神紅鵺
魔宗・琢磨
【Creature Tamer】終の機
●破壊と出現
 最後の一匹であったウィングドラゴンが、矢に貫かれ地表へと落ちていく。魔宗・琢磨(w3k610maoh)は、殲騎の魔銃機神トゥールティースが構えていた真怨讐の弓を下ろし、辺りを見回した。
「サーバントはこれで全部か?」
「そうみたいですね」
 琢磨と共に周囲を見回すフェリア(w3k610ouma)にも、サーバントの姿は確認されない。全て排除したと判断し、魔皇達は次の行動に移る。
 まず動いたのは永刻・廻徒(w3d716maoh)が駆るラインクラフト。長柄の大斧を振るい、敵施設の真上となる地点を幾度となく叩き潰していく。
「生身に殲騎を当てるとは、まるで大天使だ。遣り甲斐がありそうじゃないか」
「強敵は見飽きたと言っていた割に、楽しそうね?」
 早く出て来いとばかりに破壊行為を行う廻徒に、久遠(w3d716ouma)が声をかける。廻徒は久遠にまあな、と返しつつ、再度、大斧、真アナイアレイターを叩きつけた。
 他の魔皇達も、廻徒に続き施設の破壊に移っている。「フューラー=ロキ」なる偽名を使い参加している天剣・神紅鵺(w3d788maoh)が駆るフィンスタニストリューグビルトは手に持つ槍、真ファナティックピアスを投げつけた。投げられた槍は無数に分裂し、地面に無数の穴を残す。
 トゥールティースも真ワイズマンクロックで次々に破壊していき、錦織・長郎(w3a288maoh)駆るヨルムンガルドも真クロムブレイドを振るう。
「さて、彼女との付き合いはこれまでとしようかね、くっくっくっ……」
 長郎の言葉と共に振り下ろされるクロムブレイド。その刃が幾度か叩きつけられた時、限界を迎えた地面が崩れ、施設内部へと落ちていく。
 後は香織らが出てくるのを待つばかりとなった魔皇達だが、その直後、崩れた地面が爆ぜ、白い巨体が空へと舞い上がる。巨大なブースターとも言える物を背中に搭載したそれは、豊島・香織らが乗るネフィリム=ヴァーチャー・カスタム。
「あれは……。やれやれ……大ボスのネフィリム=ヴァーチャー・カスタム相手ですか。これぞ究極の貧乏籤ですね」
 即座に相手の機体を見抜いた幾行(w3a288ouma)が、溜息を吐くようにこぼす。
 ヴァーチャーは土を振り払うと、多数の殲騎へと向き直り、武器を構えた。
「まさか殲騎で仕掛けてくるとはね。やってくれるじゃない」
 香織の少々苛ついた声が、魔皇達の元へと届く。それと同時に、魔皇達もまた体制を整える。
「帰還命令が出てるんだけど……逃げたって言われるのは気に食わないから、徹底的にやってあげるわ!」
 香織のその言葉と共に、戦いの幕が開く。

●純白の巨兵
 始まった瞬間に、全ての機体が動いた。トゥースティールが超幻魔影で霧の空間を作り出し、そこへラインクラフトとヨルムンガルドが切り込んでいく。
「そうそう止められるとは思わない事、ね!」
 後少しでラインクラフトとヨルムンガルドが霧の中に入ろうかと言う所で、ヴァーチャーが霧を抜け出し、姿を現した。そして、すぐさま反転、武器の少ないラインクラフトを狙って鞭を振るう。
「流石にやるじゃないか」
 飛来した鞭をアナイアレイターで弾き、廻徒は再びヴァーチャーへと向き直る。
「さて、派手に行こうか。永劫に停まらぬ独楽の如き者、その真髄を此処に魅せよう」
 ラインクラフトは、魔獣殻の翼をはためかせヴァーチャーへと突き進む。
 また、ヨルムンガルドもその手の二刀の刃に超両断剣の力を込め、ヴァーチャーへと切り込んでいった。
「悪いが、一気にやらせてもらうよ」
 一気に接敵し、刃を振るうヨルムンガルド。更には、トゥースティールの矢とラインクラフトの超獣刃斬のエネルギー波が放たれ、三つの攻撃がヴァーチャーを襲う。
「その程度じゃ、私は捉えられないわよ」
 しかし、ヴァーチャーはブーストによる急加速で全ての攻撃をかわす。その加速により、すぐ目の前にいた長朗らには捉え続ける事が出来ない。その直後、鞭がヨルムンガルドを捉え、騎体が大きく揺れる。眩いばかりの輝きを放つ鞭は、轟閃神輝掌で絶大な破壊力を持っていた。
「そう簡単に当たりもしませんか……」
 幾行が吹雪の空間を作り出すが、ヴァーチャーは祈神皇名でその効果を帳消しとする。ヨルムンガルドが体勢を立て直す間にも、ラインクラフトやトゥースティールは攻撃を続けるが、ある攻撃は避けられ、ある攻撃は弾かれ有功打は与えられない。
 しかしそれでも、魔皇達は諦める訳にはいかない。
「細かい事は全部、私に任せて……やるのです、マスター!」
「ああ、頼むぞ!」
 フェリアのバックアップを受け、琢磨は超狙撃弾を撃ち放つ。紫色の魔弾はヴァーチャーを追尾し、確かに捉えるが、冠頭衝により防がれてしまう。
 幾度となく無効化される魔皇達の攻撃。しかしそれでも、いつかは通じると信じ、またヴァーチャーに攻撃の機会を与えない為に、三騎は攻撃を続ける。
 それらを余裕を持ったままいなしていく香織であったが、ある違和感に気付き、顔をしかめた。最初の時より、殲騎が減っている気がする、と。
「最初、殲騎は四騎いた筈。でも、今いるのは三騎。じゃあ、後一騎は……」

●二度目の奇襲
 最後の一騎、神紅鵺のフィンスタニストリューグビルトは戦場の遥か上空にいた。上空からヴァーチャーを狙い撃とうと言うのだ。
 フィンスタニストリューグビルトはガトリング砲のアヴェンジャー改と狙撃砲の玖参式百足砲改を構え、狙いをつける。距離があるので玖参式百足砲改は効果を見込みにくいであろうが、アヴェンジャー改ならばそれほど問題はない。
「化物を無礼るなよ、天使」
 遥か上空から、破壊の雨が降り注がれた。

 振るわれた鞭がラインクラフトの装甲を掠め、削り取られた部分が落下していく。ヴァーチャーは三騎からの攻撃をしのぐばかりか、徐々に反撃の回数を増やしてきていた。
「このままでは、ジリ貧になるのは目に見えていますね……」
 幾行が、呆れた様に呟く。精霊の誘いにて場を整えたりもしているのだが、先程展開された聖光翼閃陣の結界が、足枷となっている。結果、三騎がかりであるにもかかわらず、未だトゥースティールの超狙撃弾以外は一発足りともヴァーチャーに命中していない。更に、超狙撃弾も退魔聖空壁に阻まれダメージとはならなかった。
 そんな絶対的に優位な状況ではあるが、姿が見えぬ殲騎が気になる。香織がそう思っていたその瞬間、ガトリング砲の弾丸が広い範囲へと降り注ぐ。真っ先に状況に気付いたのは、シズク。
「香織様、上です!」
「あんな所に……つくづく、やってくれるわね!」
 魔皇殻によるものではない攻撃に対して、SFは意味を持たなかった。フィンスタニストリューグビルトの放った弾による損傷は軽微であったが、上に気を取られた香織達に、一瞬ではあるものの隙を作り出す。
「来たか。隙ありだ」
 廻徒はわざとバランスを崩す事で致命傷を回避していたが、逆に自分の体勢を整えるのも難しかったので攻撃の機会を上手く掴めないでいた。だが、上に気を取られた今ならば。ラインクラフトの体勢を一瞬で整え、大斧を振りかぶる。
 そして、ヨルムンガルドやトゥースティールもこの機を逃すまいと、各々の魔皇殻を構え、全力の一撃を叩き込むべく狙いをつける。
「他の殲騎も準備が出来たようです。今ですね」
「今ね。仕掛けて」
「やるのです!」
 各々の逢魔から出される、一斉攻撃の合図。それを聞き、魔皇達は一気に勝負に出る。
「さあ、そろそろこちらの反撃とさせてもらうよ」
「その一瞬が命取りだ」
「この瞬間、絶対に逃さない!」
 ヨルムンガルドの銀の刃が纏う炎が退魔聖空壁を打ち消した直後、ラインクラフトからエネルギー波が放たれ、トゥースティールからは紫の魔弾が撃ち出された。
「しまっ……」
 香織は気付くのが一瞬遅れ、回避や防御が間に合わない。三つの攻撃がヴァーチャーへと叩き込まれ、機体を激しく揺さぶった。ヴァーチャーの装甲には大きな傷が付き、エネルギー波が直撃した左腕が斬り飛ばされている。
 だが、香織はすぐさま機体を立て直し、魔皇達に追撃の機会を与えない。接近しようとしていた長郎と廻徒はたたらを踏む事となったが、香織もまた体勢を立て直すのに必死であり、すぐに二騎へ反撃するのは難しかった。
「前に調べた時より随分と強くなってるじゃない……。どうやら、甘く見てたみたいね」
 フィンスタニストリューグビルトの銃弾が未だ降り注ぐ中、ヴァーチャーは自らの敵である殲騎を眺め……そして、一転、攻撃へと転じた。

●天使の墜ちる刻
 香織が狙ったのは、琢磨のトゥースティール。これまで遠距離攻撃のみを行っていたので標的とされたようだ。攻撃を受けてなお通常の殲騎を遥かに上回る機動力を持つ機体は、ヨルムンガルドとラインクラフトを引き離し、トゥースティールへと迫る。琢磨は接近を防ぐべく矢を放つが、聖抗剛障壁に阻まれ一瞬の内に接近を許してしまう。
 有効射程に入ると、香織は即座に鞭を振るう。琢磨は避けられないと判断、真カッターシールドを掲げた。
 直後、騎体を激震が襲った。
「ぐうっ!」
「あ、危なかったのです!」
 騎体の損傷は防ぐ事が出来たが、真カッターシールドは一撃で破壊され、盾としての機能を失う。それを見た香織は、今度こそはとばかりに再び鞭を振るった。
「それじゃもう防げないわねぇ。落ちなさい」
「そうはいくか! 俺みたいな新参が、勝てるなんて思っちゃいない。だがな!ただ戦闘力を測るという目的で、まったく関係の無い人を襲う、お前の存在を!見逃す訳にはいかない!」
「この状況で!」
 何を、と香織が言いかけた時、トゥースティールの拳から一発の魔弾が放たれる。それは、超撃破弾。自爆覚悟で放った一撃は香織の虚を突き、引き起こされた爆発によりヴァーチャーもトゥースティールも吹き飛んだ。
 そして、吹き飛ばされた香織が体勢を整え直そうとしたその直後、ヴァーチャーに黒い光が絡みつく。遥か上空から神紅鵺が放った超蛇縛呪だ。
「これ以上何かされても困るのでな。出来るだけ邪魔させて貰おう」
 縛れ、魔の瞳よとの声と共に放った光がヴァーチャーを絡めとったのを確認し、神紅鵺はフィンスタニストリューグビルトを急降下させ始めた。

 ヴァーチャーを追っていた二騎は、拘束されたと見るや否や迅速に仕掛ける。廻徒の大斧が機体にめり込み、装甲には大きく穴が開く。
「いただくよ」
 そして、ヨルムンガルドがヴァーチャーへと手を掲げると、ヴァーチャーから光の渦が放たれ、ヨルムンガルドの手へと吸い込まれていき、ヨルムンガルドの損傷が修復されていく。
「調子に乗るんじゃ、ないわよ!」
 更なる追撃を仕掛けたい魔皇達だったが、それを許すほど香織は甘くはない。既に満身創痍と言うべき状態であるにもかかわらず、超蛇縛呪の拘束を無理矢理に振り払い、自由を取り戻す。そして、ヴァーチャーは一度魔皇達と少々距離を取ると、身構える様に動きを止めた。
 閃光烈破弾。
 一撃で戦線を壊滅させ得るそのSFの可能性が浮かんだ瞬間、琢磨らが動いた。
「フェリア!」
「……一発逆転か、それとも一発退場か……マスターに命預けたのです! 刻の結界、発動!」
 トゥースティールが、刻の結界の性質を利用し、一瞬のうちにヴァーチャーとの距離を詰める。それはまさに、本人達以外からは瞬間移動したように見えたであろう。
「な……」
 トゥースティールの予想外の動きに、香織は対処が僅かに遅れた。その僅かな遅れが、琢磨の攻撃が先に発動する差となる。
「俺の師匠譲りの技でな……これで……終りやがれぇ!」
 トゥースティールから撃ち放たれるは、超十二方閃。十二本の光線がヴァーチャーの装甲を舐め、溶かしていく。
「その存在も魂魄も魔力も、喰らい尽くす……!」
 そして、次にヴァーチャーへと到達したのは、神紅鵺。先の長郎と同じく、超魂吸邪がヴァーチャーの力を奪い取る。更に、長郎も再びの超魂吸邪。二発の超魂吸邪が、ヴァーチャーに残された力の大半を奪い取った。
 魔皇達は、これで最後だとばかりに、止めを刺す為に動く。それに対処すべく兆常予見撃を発動させようとした香織であったが……発動、しない。
「そんな……まだ残っている筈だったのに!?」
 超魂吸邪による魔力奪取。それが、このタイミングで決定的な流れを生む要因となった。
「諦めろ、もう試合終了だ。いずれ人も神も魔も全て地獄に送ってやる……だから先に逝って待っていろ」
「今度こそ、終わりだぁ!」
 フィンスタニストリューグビルトの玖参式百足砲改の砲弾とトゥースティールの超狙撃弾がヴァーチャーへと吸い込まれ、爆ぜさせる。
 次に決めるは、ラインクラフト。推進器で大幅に加速させた大斧を、振り下ろす。
「水火神流は万能を謳う。強いだけの相手に勝てぬようでは務まらんよ」
「圧倒的な戦力差を覆す程度、もう慣れたわ」
 久遠が放った闇の風がヴァーチャーへと絡みつく。ヴァーチャーはこの状態でラインクラフトの攻撃を防ぐ手段を持たず、機体が大きく叩き潰された。
 そして、最後にヨルムンガルド。炎を纏う銀の刃を、一気に突き入れる。
「これにて君の役目は終わりだ。戻って作戦の失敗を叱責されるを見られないのは残念であるがね」
「これで最後です」
 長郎と幾行の言葉と共に突き立てられた銀の刃は、違う事なくヴァーチャーのコックピットを貫く。力を失ったヴァーチャーは、銀の刃が引き抜かれると、重力に従い森の中へと墜ちていった。

●終焉
「終わったな……」
「大変だったのです」
 琢磨とフェリアが一息をついた。撃破を確認したら他の皆は早々に撤収してしまった為、今この場に残っているのは彼らだけである。トゥースティールもかなりの損傷だが、ただ飛ぶだけならば問題はなさそうだ。
「さて……それじゃ、俺達も帰るか」
「はいなのです」
 少しの休憩の後、トゥースティールもその場を飛び去る。後に残るは、力を失い、もう二度と動く事はないであろうヴァーチャーのみであった……。