■《The Attack like Thunder》WALKING ON THE MOON■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 高石英務
オープニング
 人々が避難したことにより静寂に包まれた福井県福井市。
 先日暴れた巨竜、ティアマットによる破壊の爪痕は大きく、破壊された建物や抉られたアスファルト、そして相当な広さの、雷撃により焦げた地形。それらは戦いの厳しさを物語っていた。
 だがその戦いでの魔皇たちの決死の活躍により、福井の街から人々は避難することができ、無人と化した街は、今天空に浮かぶ福井テンプルムにはなんの影響を及ぼすことはない。
「あなたに、このテンプルムは任せておきますよ」
「珍しい言い方ですね」
 テンプルムの上に上がり、窓から外を眺めながら、ハスターは同席したランドルフ・カーターに声をかけると、男は意外そうな表情で静かにつぶやいた。
「私にも目的はありますが、それはあくまで、テンプルムが無事であってこそ。バックボーンを失うよりは、守った方が得です。それに」
「それに」
 自嘲して笑うハスターの顔を見て、カーターはいぶかしみながら尋ね返せば、ハスターはちらりと女が去った通路を見た。
「女性の‥‥まあ、真にそうではありませんが、その頼み、聞かなければ男ではありませんよ」
「なるほど」
 カーターはハスターの言葉に軽くうなずくと、やや考え、その右手を差しだした。
「‥‥これは?」
「思えば、ハワード様に従い、様々に動き、そして忙しすぎました。グレゴールとなってからは‥‥願わくば、あなたとハワード様が帰還したあと、酒でもいかがかと」
 ハスターはにこやかに微笑むカーターに肩をすくめると、乾いた苦笑の顔そのままにその手を握りかえした。
「男の手を握るのは、私の趣味ではないのですがね‥‥」

「間もなく、夜が来る。俺たちに味方する、紫の夜だ」
 無人となった福井の街、その一画にあるビルの中、集まった魔皇たちに向けて神宮慶四郎(じんぐう・けいしろう)は告げた。
「前回の紫の夜で福井テンプルムの戦力は半減した。そしてティアマットを用いた暴虐な策にも関わらず、あんたらのおかげで福井テンプルムは予定以上の回復はできていない。まさに好機だ‥‥まあ、いくらかイレギュラーというものは存在するがな」
 そして男は煙草をふかしながら、ピンぼけた写真を一枚、指で弾く。
「ハワードはついにあのネフィリムを出撃させた。それ以外にもアークエンジェルのハイドラや、いまだ倒されていないグレゴールたち、そしてテンプルムのマザー‥‥多くの敵が残っている。だが、今このときが福井テンプルムを陥落させる時。神帝軍をここで牽制できなかったら、俺たちはずるずると負けに向かって転がっていくだろう、な‥‥まさに、正念場だ」
 つぶやき、慶四郎は短くなった煙草を床に落とすと、そのまま説明を始めた。

「エイムズ」
「ハー!」
「ジャック」
「アイサー!」
 メインシャフトへの通路を歩く途中、カーターは後ろに従う二人の巨漢グレゴールを呼んだ。
 二人は律儀に自らの鍛え上げられた肉体を、褌を揺らしながら引き絞り、そして答えを返す。
「先の戦い、テンプルムの最終防衛線、よくぞつとめてくれた」
「何の!」
 ジャックはその赤毛を揺らすと、上腕を固めて高く掲げて、一声、嬉しそうに叫んだ。
「我らが熱き褌魂、その発露を与えてくれた偉大なる神帝閣下! その恩に報いるためならば!」
「おおジャックよ、その通り!」
 言葉を受けてエイムズは柔らかな髪と髭を軽く揺らし、白い褌をたなびかせ言葉を受け取る。
「恩に報いるためならば、この身など惜しくはなし! 褌締めて油断せず、魔皇どもを葬り去りましょうぞ!」
「期待している」
 カーターは二人の意気込みに微笑むと、そのまま前方を睨み、通路を歩き続けた。
 妖しき心と言われようが、それがグレゴールに必要であるならば、カーターは差別しない。
 それが、グレゴールがある種の狂気に満ちていることが人々のためであるならば。
 自分も、銃があるこの世界で鎧と剣と盾、旧態然とした騎士の姿にこだわっているではないか?

『命や意志を平然と踏みにじれるよーなヤツらを、俺は絶対許さねぇっ!』
『何が犠牲だ、何が生け贄だ‥‥都合のいい解釈をしているだけじゃねえか!』

「魔皇が我々のような信念を‥‥まさか、な」
「どうなされました」
「何でもない」
 ふと一人ごちた男に後ろの巨漢が尋ねると、カーターは頭を横に振り、そして扉を開けた。
「ここが正念場‥‥一命賭しても、マザーと、メインシャフトは守り抜く‥‥」
 広々とした空間の中央には、床から盛り上がって生えるぶよぶよとした固まりと、その上で優しく歌を口ずさむ女性の体が微笑んでいた。

「あんたらには、他の魔皇さんたちが外部の部隊を相手している間にテンプルムを襲ってもらう」
 くるりと振り返った慶四郎は、顔色一つ変えずに大きなことを告げて資料を差しだした。
「外へ展開している部隊を差し引けば、テンプルムの防衛数は20機以下。この間の紫の夜に比べれば実に半分以下の数だ。その上でテンプルムに残っている強力なグレゴールは、護衛長といわれるランドルフ・カーターと『魅惑のコンビネーション』エイムズとジャックの3人のみ。あとは一般のグレゴール、ネフィリムだけだ。
 敵はこの数の振りを鑑みてか、北の格納庫意外にバリケードを作成して封鎖し、戦力を北に集中させているらしい。そこを突破して向かった先、メインシャフトのどこかにマザールームがあるはずだが‥‥それは現地で調べてくれ。
 他にも物理的にテンプルムを破壊することができれば落とすのは楽だろうが、まず無理だろう。100m級のインファントテンプルムでさえ、落とすのには10機程度の殲騎が、一度に攻撃しなければならないと思われるからな。
 ランドルフの装備は盾二枚を用いた防御態勢と、剣と盾を利用する戦闘態勢の2パターンがある。どちらが来るかは、その時によるだろう。
 エイムズとジャックの機体は格闘戦を得意としていて、またその体にホルンのようなものを巻き付けている。これは戦いの角笛のように衝撃波で攻撃する兵器らしい、というのが、前回遭遇した面々からの情報だ」
 一気にまくしたてたあと、そして慶四郎は窓をのぞいて、怪しくなりつつある天気を確認する。
「ともかく、ここが正念場だ。マザーと敵ネフィリムをぜひ倒してきて欲しいものだぜ」
シナリオ傾向 殲騎戦、読参シナリオ、テンプルム戦 グレゴール(ランドルフ、エイムズ、ジャック)
参加PC 雷駆・クレメンツ
八神・猛
鷹見・仁
葵・純
結城・こずえ
文月・寅
朝倉・秀治
イヴ・ペンタグラム
神薙威・志信
風間・夏樹
《The Attack like Thunder》WALKING ON THE MOON
「遅いっ」
「すまなかった」
 降る雪の中、現れた神宮慶四郎(w3z042)に逢魔・ミユ(w3a943)は口を尖らせると、男は謝り、通信機ともう一つ何かを取り出した。
「と、マザーに向かう奴で、一番強いのは?」
「多分、俺だ」
 確認、鷹見・仁(w3c165)は告げると、密は逢魔・咲耶(w3c165)も呼び、それを渡す。
「これは?」
「魔凱(アクス)だ」
 手の中の対なる指輪に魔皇が尋ねれば、慶四郎は静かに答える。
「アークエンジェル班からの頼みでな。無理言って借りてきた。返せよ」
「すげー。これで勝ったも同然?」
「油断はすんじゃねえぜ」
 驚く文月・寅(w3g616)を雷駆・クレメンツ(w3a676)はたしなめると、一同は殲騎を喚び、そして南北の戦火を目端に、テンプルムへと向かう。

 テンプルム北部の通路の壁、そこから聞こえる音が大きくなると、壁を破壊してレッドホットエンプレスがネフィリムを叩きつける。
「さよならっ!」
 続けてコクピットを貫くと、光弾を受けながらも風間・夏樹(w3h672)は殲騎を後退。現れた紅眼の獣皇と神を斬殺するもの、二機の殲騎が八神・猛(w3a943)と朝倉・秀治(w3h058)の意志を受け、バスターライフルを撃てば、光に敵は陣形を崩した。
「魔皇めっ」
「城攻めだ、雑魚に構うな」
 敵機の前、イヴ・ペンタグラム(w3h472)のバルベリトが入ると、鎖で敵を絡め取り、近寄るサーバントともども衝雷撃で焼き焦がす。
「この先に大きな通路があります」
「そこに引きつけよう‥‥援護を」
「わかったよ!」
 祖霊に導かれる薙姫の後ろ、結城・こずえ(w3g414)は月白に命じ、フォビドゥンガンナーで神帝の瞳を撃ち落とした。
「ひるむなっ!」
「させないんだからぁっ」
 脇から現れ抜刀するネフィリムとクロス、赤き女帝のドリルが刃と火花を散らした。グレゴールは離れながら光弾を撃ち、後続の二機と三位一体で斬りかかる。
「そこまでにしとけよ!」
 ディフレクトウォールで反らすと、文月の阿修羅が名のごとく、無数の刃を打ち込んだ。
「ち。後退しつつ戦力を集中‥‥メインシャフト前でケリをつける」
「了解!」

 ハリセンで打ち抜かれ衝撃に揺らいだ神機巨兵の横を抜け、シャフトへの扉へ雷駆は駆けた。
「ハー!」
「フーン!」
 直前、楽の音が響き、殲騎の足元を衝撃波がえぐる。
「ここから先は通さんぞ、魔皇たち!」
「お前たちはここで、露と消えるのさ!」
「世迷い言を!」
 現れた福井の褌ブラザーズ、エイムズとジャックを見て、葵・純(w3e098)はクラスティアカノンにバスターライフルを構えさせる。
「褌漢とスク水は相容れぬ運命‥‥消えてもらおう!」
 続いて放たれた光条を、二人は神褌力で弾き、せせら笑った。
「シャイニングフォース?」
「スク水魂とやらは、その程度か?」
 疑念の隙、間合いを詰めて二人は、巨兵の拳に光宿して殴りかかる。
「人格破綻者どもが」
 イヴは霧を喚び、敵の瞳に雄叫び上げる、真なる男の幻影を漂わせた。
 それに気合いで耐える漢二人をディノハウンドが鎌で一閃、避けた空間に走り殲騎は奥を目指す。
「ここは私たちが‥‥皆様、生きて会いましょう!」
「おう!」
 鎌先で揺れるヤギを見て逢魔・セリス(w3e098)が叫べば、雷駆が魔力込めた斧で扉を叩き割る。
「行かせるか」
「させない、です」
 振り返った二機の正面、シャフトの逆側から突進する殲騎が一体。神来と神機巨兵が四つに組み合えば、神薙威・志信(w3h475)は声を上げる。
「ぼ、僕ごときが分不相応、ですけど‥‥褌は、し、真なる漢のみが着用を許される‥‥いわば聖衣、です。それなのに!」
 組んで正面、志信はどもり、神来は唸る。
「あなた達は、この福井の惨状を見て、何とも思わない‥‥のですか?」
「褌の心は私にはわからんが‥‥神の使徒たる君たちは何も感じないのか」
 続けて逢魔・忍(w3h475)も言葉を重ねるが、だがネフィリムの力は衰えない。
「我らは褌の素晴らしさで世の惑いを滅するため!」
「そのためにここにいる!」
「バカ野郎! それが、褌魂かよ」
 ジャックの断言とともにネフィリムが楽器を構えると、衝撃波をくぐり抜け、猛は紅き獣皇に爪を振るわせた。
「ぼ、僕はまだブリーフも、相応しくないけど‥‥これ、が正しい事じゃないとは、わかります‥‥気づいてください、エムさん、エスさん!」
『違うわぁっ!』
 志信の間違いに青筋、エイムズが殲騎を投げ飛ばすと、ジャックは狙って光弾。
 神来が壁にぶつかるその間に夏樹は近づき、ジャックのネフィリムにドリルを叩きつける。
「もう、何とかしてよこの人たちぃ」
「どうした小娘っ」
 泣き顔の夏樹の前、聖言が漏れると、ネフィリムの腰に巻かれた布が殲騎を拘束しようと蠢く。
「させるものか」
 後方、スラスターライフルで敵を牽制しつつ純は不退転を叫ぶ。
「紺の水着の膨らみと、濡れた太ももに萌えずに何に萌える! 我こそはスク水大帝葵純! 今こそ正念場、かかってこい!」
「また、変態さんが増えたですぅ‥‥」

 扉の向こうは、直径100mはある巨大な筒だった。内壁には螺旋階段が張りつき、上方には橋で支えられているのか、宙に浮く部屋が見える。
「マザーはあそこだよ」
「おっし、行くぜ!」
 逢魔・ティレイノア(w3a676)の祖霊の言葉に、殲騎たちは塔を疾く駆けた。
 その眼前、一機の、二枚の盾を構えたネフィリムが現れる。
「ここから先は通さん」
「ランドルフ!」
 ネフィリムは重力に任せて落ち、ディノハウンドを盾で押すと、そのままシャイニングショット、抜けた神を斬殺するものを撃った。
「先に行って!」
「さっさと済ませてくるさ」
 同じく盾二枚を構えて文月が割り込めば、秀治は返答、イヴとともに上昇した。
「また会ったな。俺は激情の紅、雷駆クレメンツ! またの名は秘密結社グランドクロスの煎餅怪人、ガチガッチー!」
 詰め所のテントで間に合わせたマントを翻し、魔皇は名乗りを上げる。
「‥‥魔皇は、子供の集まりか?」
「言うなよ」
 ランドルフの嘲笑に顔を赤らめると、男は言葉を新たにする。
「だがそんなことより、俺もおめえもただの戦士。違いは理想や信念よりも、目の前の」
 告げ、逡巡すると、雷駆はティレイノアの手をそっと握る。
「愛しいものが大事かってトコだけだぜ」
「ほう。魔皇にも、戦士はいたか‥‥」
「ああ、お互い譲れねぇモンのために、命を張ってみようじゃねぇか。勝負だコラぁ!」
「よかろう。私はランドルフ・カーター。福井テンプルムが護を任されし者! 黄衣の王が剣なら、我は銀の鍵なる盾! その名にかけ、秩序を破壊せし侵入者を排除する」
 男の名乗りに緊張が形となり、冷たき宣言とともにネフィリムが飛べば、ディノハウンドは真っ向から受け止め、月白と阿修羅は散開する。

 イヴが扉を破壊すると、部屋では光る壁に囲まれた巨大な女が鎮座していた。
「あれがマザーか」
 秀治のつぶやきとともに目に入るのは、壁から下がる無数の嚢と、中央の醜き肉の固まり、そしてその上で笑みを浮かべる天使の姿。
「メガフレアケージ」
 マザーは歌うように神輝力を告げて空間を変質させると、力は魔皇を捉え、動きを鈍らせる。
「やるじゃねえかよ!」
 秀治は殲騎を走らせ二丁拳銃を連打した。が、吸い込まれた弾丸はその巨体には大きなものとはならない。
「なかなか、タフなようだな」
「銃身が焼きつくまで、撃ち続けてやるさ!」
 静かな決意の魔皇たちに、マザーは閃光弾を撃ちつけた。

「大丈夫ですか?」
 引きつけた敵から時空飛翔で逃亡、コアヴィークルで駆ける鷹見は、咲耶の問いにつと、黙る。
「‥‥正直、どんな姿をしてても、女と戦うのは好きじゃないな」
 キャノンで敵を吹き飛ばし、ヴィークルは弾着煙を越えて角を曲がった。
「でも、気兼ねがあって勝てる相手じゃないし、それに、これが託されたしな」
 そうして、魔皇と逢魔はともに魔凱を握る。
 戦いの残り火と広き通路が見えると、前方、ネフィリムが倒れこんだ。
 そこで急停止しヴィークルから降りると、鷹見は戦場と扉の奥のメインシャフトを見る。
「見えるか‥‥行くぜ!」
「はい」
 咲耶が応じ時空を飛べば、シャフトの宙に現れた二人は自由落下。
「来い、薙姫‥‥」
『魔凱殲騎(アクスディア)となりて!』
 空中、二人の声にあわせて薬指にはめた指輪が光を放つ。
 殲騎は組み上がって二人を包み込むと、巨大なモノをその手に取った。

「はい、集中!」
「わかってらぁ」
 ティレイノアの声に雷駆は斧を振り下ろすと、続けて剣風。ランドルフは舌打ち、サークルスプラッシュで弾き返す。
「今です、こずえちゃん」
「見えてますよーだ!」
 逢魔・麗菜(w3g414)の声、後方に回りこずえは斬撃、同時に浮遊砲台から魔光を撃ち込んだ。
「こしゃくな」
 カーターは即座に月白を盾で押さえ、壁へ加速すると、文月は上方から飛び込み燃える刃で体勢を崩させる。
「おっと‥‥大丈夫?」
「ええ、今ぐらいじゃ問題なし」
 返答の光弾を浮盾で弾いたあと逢魔・葉月(w3g616)に状態を尋ねると、答えに寅は速度を上げた。
「そろそろか?」
 相手の傷に雷駆は逡巡、博打。阿修羅と計って殲騎を飛ばす。
 雄叫び上げて近づくそれらにカーターは、返す一点を見極めようと防備を固めた。
「くらえっ」
 寅の凍浸弾に盾を凍らされながらも、ランドルフは燃える大斧を受け止めた。斬撃は盾を、肩の装甲と氷ともども砕くが、そのまま柄を掴み固定すると、神機巨兵はもう片方の盾に予見撃を加えて打ち据える。
「くらいなさぁいっ!」
 首をもがれた殲騎の中、ティレイノアが撃った霊の矢が肩が破壊すると、盾が一枚、シャフトを落ちていった。
「‥‥まさか?」
 損害にあわぬ相手の笑みにグレゴールが視線を巡らせると、接近するはディアブロ。
「いっけぇっ!」
「‥‥間に合わん!」
 二人が時空飛翔で飛んだ瞬間、月白の燃えるクロムブレイドに魔力が加わり、殲騎とともにネフィリムを斬り裂いた。
 装甲を砕かれ体を折り、浮遊する力も失った神機巨兵は、そのまま重力に引かれて落ちていく。
「まだだ、まだ‥‥!」
 その時。
 下方から壁と神機巨兵を切り裂いて。
 マザールームに40mの鎌が突き刺さった。

「化け物めが」
 マザーはイヴの雷を光の壁で弾くと、後方、秀治の機体を光弾で貫いた。
 長き戦い。だが、マザーは癒しの力を駆使し、ほぼ無傷のまま。
「真蛇縛呪も効かぬ‥‥魔力が、桁違いだ」
「そんなことより、なにか手はないのかよ!」
「‥‥時間稼ぎ」
「くっそぉっ!」
 秀治が大声を上げるなか、新たな光弾がバルベリトの頭を破裂させると、神を斬殺するものはデヴァステイターの連射能力を全開にして銃弾の雨を降らせた。
「俺は生きる! 生きて、綾香と添い遂げるんだ!」
 その決意はしかし、体を覆う神輝力の粘りに絡め取られて鈍り、光弾にいいように弄ばれる。
 その時、異音とともに床を割って、巨大な鎌がマザーに突き刺さった。
「なんだ?」
「すまん!」
 二人の後ろから現れた薙姫は、悲鳴を上げるマザーからそれを引き抜くと、骨に死霊をまとわりつかせた大鎌は、天井をあっさりと砕いてそびえ立つ。
「それが‥‥魔凱殲騎の力?」
「ああ」
 魔皇の諾の声とともに、魔炎剣が鎌を彩り、赤々と燃え上がらせる。
「やっと来たか‥‥行くぞ」
「OK!」
 バルベリトが走り、後ろから秀治は凍浸弾を撃った。氷の弾丸を霧散させたすぐあとイヴは電撃を放ち、天使の肉を焼き焦がす。その間に隙を見て、鷹見は息を整える。
「いくぜ、魔皇剣奥義、轟火剣乱!」
 見えた隙に、音速の刃となった死神の鎌がマザーを振り払った。
 一撃目を頭冠の光で防いだそれは、返す刃に胸から下をえぐられ、さらに返った三撃目は、背中を焼き払って、数撃でマザーの体を両断した。

「もーどーにかしてよ!」
「見たか、神褌力!」
 浮かぶ腰布に一撃を止められ、夏樹は涙声。同時に吐血しつつ志信は、神来に双刀を振るわせ牙をむかせて跳躍させる。だが受けたジャックは殲騎を壁に叩きつけ、光る拳で殴り飛ばした。
「もう‥‥させないよっ」
 楽器を構えるエイムズに闇蜘糸、夏樹は距離を詰めた。グレゴールは標的を変えて赤き女帝を吹き飛ばし、続けて蹴りつける。
「純!」
「抑えました‥‥我が萌え力の勝利です!」
「ならば‥‥」
 撃破弾に最後のネフィリムが後退したのを確認すると、猛は振り返り、ハッチを開けた。
「エイムズ、ジャック!」
 男は服を脱ぐと、赤褌を翻して仁王立ち。
「貴様等がいくら褌を愛していようが、俺のように命は賭けられまいっ!」
「ばかげた」「ことをっ!」
 同時の光弾二発が吸い込まれ、勢いで殲騎は吹き飛んだ。
「我らが褌締めるのは、自らの戒めのため!」
「自らを隠すことなく生き様を見せるため!」
『愛は、ああ世界への愛は、ただその身で語るもの!』
「‥‥いーかげんに」
 夏樹はめり込んだ壁から立ち上がり、ネフィリムの足をつかむと、振り回して神来を抑えるネフィリムに叩きつけた。
「消えろ変態っ!」
 切れた瞳で少女が叫び、ドラゴンヘッドスマッシャーが唸る。
「真正面からとは無謀だな」
「そうでも、ない、です!」
 立ち、待ち構える二機の横から志信は飛びかかると、首に牙を突き立て、同時に魂吸邪、生気を吸い取った。
「まだやられちゃ、いねえぜ!」
 ドリルがネフィリムの羽根をえぐり、腕を引きちぎる横、紅眼の獣皇と雄叫び上げて、煙と血に覆われた八神はバーニングクローを叩きつけた。
 その勢い、3機の殲騎と2機の神機巨兵は、メインシャフトへと放り出され、落ちていく。
「くそ、飛べんだと!?」
「エイムズー!」
 損傷し、絡まった二機はそのまま、メインシャフトを墜落していった。
「終わった、みたいだね」
「です、ね‥‥は、早く、逃げ道をっぷふぅ」
 上方からの爆音を聞きつつ爽やかに夏樹は告げると、志信は慌てて吐血した。

「まったく、バカだにゃ」
 シャフト前に集まり、撤退の準備が進む中、黒焦げの猛をジト目、ミユは溜め息一つ。
「あんなことして‥‥ミイラ取りがミイラになるって、知ってるかにゃ?」
「? なんだそれ」
「‥‥もういい」
「申し訳ありません‥‥主しか治療できませんです」
「にゃにゃ、このバカにはいい薬」
 麗奈の言葉にミユはうなずくと、黒焦げ魔皇に改めて息をついた。
「あれが魔凱の力か‥‥すげえもんだな」
「ああ。マザーが、ただの二撃とは‥‥」
 雷駆ととも仁は、手にある小さな指輪を見つめ、握って力の感触を確かめる。
「ど、どうやら、この下は、別の格納庫み、たいです‥‥」
「よっし、じゃあさっさと逃げた方がいいね」
 戻ってきた志信に夏樹は同意すると、見つめる少年の瞳に疑念一つ。
「あ、あの、その‥‥」
「? どしたの?」
 顔を真っ赤に志信は少女を見つめ、一言、思い切って告げた。
「ふ、褌は‥‥変態の証‥‥じゃないですよ?」
「はいはい」
 肩を落とした少女に一同は笑い、そしてテンプルムから脱出した。