■殲騎船レギオン−神魔飛翔−■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオ クリエーター名 本田光一
オープニング
 幾星霜の時の流れを越えて、現代に蘇った殲騎船レギオン。
 神帝軍の拠点殲滅の命を受け、飛び立つレギオンにも弱点はある。
 レギオンが格納されていたのは四国香川県の屋島から続く古の隠れ家の一角だ。
 この拠点となる隠れ家に帰還する際に、テンプルムの絶対不可侵領域の近傍を通過しなくてはならず、未だに沈黙を守る『高松テンプルム』ではグレゴール最空の指揮の下にレギオン打倒の策を練られているという噂がある。
「テンプルムから出入りするネフィリムの状況を鑑みて、数週間後にはレギオン攻略の部隊が整う可能性があります」
 密の逢魔からの連絡だった。
 先の古の隠れ家へ続く屋島城塞跡の攻防戦の際、テンプルムの動向を探っていた魔皇達によって高松に布陣した神帝軍の部隊編成から進軍についての情報が有る程度把握されていた。
 その情報から、今現在展開している部隊の動き等を見ると一月の猶予は無いと判断が下ったのだ。
「ですが、今のままでは受け身である事に変わりはありません。敵テンプルムに打撃を与えると同時に、今後の運営を容易にする為にも、今高松テンプルムは落とす必要があります」
 紫の夜を待たずに攻撃を行う事の出来る単艦であるレギオン以外に、その重責を果たす事は出来ないという判断だった。
 今後の全ての神帝軍との闘いにも関わる作戦に、魔皇達は今までとは違った趣で参加の旨を告げるのだった。
シナリオ傾向 テンプルム攻略・殲騎戦闘
参加PC あいだ・黒緒
高原・純也
ツルギノ・ユウト
天継・琳音
鬼哭院・怪呑
ウォルター・ジークフリード
ヴァレス・デュノフガリオ
黒江・開裡
夜・黒妖
ティクラス・ウィンディ
ダレン・ジスハート
功刀・湊
真田・浩之
弥生月・龍河
クレヴァス・メイヤ
刀根・要
グレイ・キール
津和吹・拓斗
加藤・琴
斬煌・昴
殲騎船レギオン−神魔飛翔−
「やっと、確認できたよう」
 逢魔・芽瑠萌(w3a918)は集まった者たちに告げると、殲騎船の意識から引き出した事柄を逢魔・羽生(w3g295)と一緒に説明した。
「レギオンの操縦者が魔皇殻やDFを使用しても、船に何の影響も与えぬ。そして、殲騎を召喚できるのは甲板まで。離れてはできぬ、ということよ」
「これでは、全員相手にするのは無理ですね‥‥だったら、こういうのはどうでしょう」
 と、津和吹・拓斗(w3h462)は一つの作戦を提案した。テンプルムに襲撃をかけ、敵が展開する前にネフィリムの発射口を潰す事である。
「確かに、戦力差を補うなら奇襲しかないかもしれない」
「無理もやむなし、という事ですか‥‥」
 あいだ・黒緒(w3a918)のうなずきに刀根・要(w3g295)は同意すると、一同は忙しく動き出した。
 襲撃時刻まで、後わずか。

 夜明け前、奇襲をかけるべく、殲騎船レギオンは低く、海上を飛んでいた。
 その横腹、殲騎の格納庫で風を受け、真田・浩之(w3f359)に加藤・琴(w3h831)はもたれかかる。
「お前は、俺の背中を見ていればいい。今は無理をするときじゃない」
 何も言わずにもたれる少女の頭を撫でて、浩之はつぶやくと、琴はしっかとジャケットを握った。そのまま見返す男に向けて体を伸ばすと、そっと、唇を頬まで届かせる。
「‥‥幸運の、おまじない、なの」
 頬を朱に染めて紡ぎ出した言葉に、浩之は微笑んで少女を抱き寄せると、開いた格納庫から遠くに見えたのは、紺と水色の真中にある染みのような、高松テンプルムだった。
 二人はその様子に立ち、それぞれの目的を果たすべく歩み出す。

「なぜ、気がつかなかった」
 最空は部下に向けて叱責すると、冷静に、その男は返答する。
「件の船はどうやら、海中を通ってきたようで」
「それほどとは‥‥さすが、古代の遺物というところよ」
 報告に口端を歪めると、最空は自らのネフィリムに搭乗しつつ、大音声を上げる。
「悪鬼羅刹が侵攻を、ここで止めねば誰が止める! 数は減れども我らが精進、闇の眷属には恐れぬこと、見せてやれい!」
 それに一斉、声を合わせて応じたならば、数機のネフィリムは、近づく殲騎船に向けて飛び立った。

「来たようだね」
 格納庫よりイキシアをのぞかせて、天継・琳音(w3b537)は仲間のダミーを見せる真幻魔影を漂わせた。そのまま進行方向、船内に召喚された殲騎たちは真狙撃弾を放ち、ネフィリムを攻撃していく。
「墜ちろっ!」
 敵中に最空のネフィリムが見えたと思った瞬間、夜・黒妖(w3d427)は魔力弾を放ち、周囲のネフィリムを薙ぎ払った。だがそれだけではまだネフィリムは落ちず、レギオンと間合いを詰めようとする。
「どうですか」
「あれ以上のネフィリムは出撃してはおらぬようだ‥‥今だな」
 羽生の言葉に要は、殲騎と同じよう、操縦室のコアヴィークルを動かすと、80mはある巨大な船体が音もなく軽やかに反転した。そして最大船速、最空の部隊とすれ違いながら、レギオンはテンプルムを目指す。
「最空様!」
「死中に活を求めるか‥‥骨がある者がおるようだな!」
 最空は顔をしかめ、すぐさま追撃を命じるものの、だがレギオンはその速さを全て解放し、みるみるうちに高松テンプルムへと迫った。
 近づき、前方の主砲ブロックを解放すると、そこに固定されたダレン・ジスハート(w3e306)のカオスハートが灰色の機体を歪ませる。
「一体たりとも出られない様に粉々にしてあげますよ‥‥」
 その嫌らしい笑いに続いて、殲騎たちが魔皇殻を解放すると、発射口に整列していたネフィリムは破壊され、あるいは横倒しになっていく。
「そろそろ、動け」
「わかりました」
 羽生の忠告、要も追いつきつつある最空を確認すると、急上昇、ぐるとテンプルムを回って逆方へと飛んだ。続いて急制動をかけてレギオンをテンプルムに相対させると、前方、壁へ向けて全速で突入する。
 衝撃に負けた壁を全て瓦礫と化し、穴を開けてテンプルムに乗り込んだレギオンはその腹を開くと、中にある8体の殲騎が、魔皇殻を構えて狙いをつける。
「くらいな」
 高原・純也(w3b443)が一言つぶやいた瞬間、光と爆発が渦を巻いて、廊下を吹き飛ばしていった。

 爆風にまぎれるように魔皇たちは飛び出すと、コアヴィークルにまたがりテンプルムを駆ける。
「邪魔を‥‥するなぁぁ!」
 グレイ・キール(w3h080)が叫んで真グレートザンバーを振り払えば、立ちはだかった奉仕種族が両断され、床に崩れ落ちた。
 彼らのはるか後方では、突撃したレギオンの殲騎が放つ砲火の音が響き、体を芯から揺らしていく。
「俺たちは、こちらに行く!」
「がんばってね!」
 先ほどの部屋で見つけたテンプルムの概略図を頼りに、浩之と琳音は、ウォルター・ジークフリード(w3c509)とともに操縦室のある方へと道を折れると、残った一行はそのまま直進し、幾度か道を曲がってマザールームを目指す。
「周りに敵は見当たりません! いってください!」
「わかった! 捕まってろ!」
 後ろからの逢魔・シーナ(w3c784)の声にヴァレス・デュノフガリオ(w3c784)はうなずくと、目の前に現れた巨大な扉に向けて、真ワイズマンクロックを召喚し、投げつけた。
 爆発、もうもうとあがる煙。
「邪魔邪魔邪魔ぁっ!」
 続けて黒妖が闇影圧を放てば、砕けかけた扉はひしゃげ、大きな音を立てて崩れ去った。
 その向こうに立ちはだかるマザーは、突然の訪問者に背中の翼をゆっくりと広げ、にらみつける。

「悪・即・斬!」
 迫るネフィリムに琴は叫ぶと、ベールマーティーに真クロムブレイドを振るわせた。続けてクレヴァス・メイヤ(w3f815)がソウルレイザーに真デヴァステイターを構えさせると、追い打ちと数発、叩きつける。
「クソ、まだ出てきやがる!」
 構えなおし、男は毒づいて、甲板からサーバントを打ち抜いた。
「このまま出られれば、ケリもつくっていうのに」
「焦るなよ」
 ツルギノ・ユウト(w3b519)が笑ってニルヴァーナの左腕を伸ばすと、パルスマシンガンが火を噴き、幾体もの命を奪っていく。
「意志が集まれば強固な力になる‥‥あいつらに賭けてみろよ」
「レギオンとして‥‥こちらの方が少なくとも、蹂躙して見せましょう!」
 拓斗は迫り来る敵に微笑むと、逢魔・クリスタ(w3h462)の忍び寄る闇に動きを止めた相手に向けて、静かに真撃破弾を放った。
「さて、あいつらはどうなることやら」
「年下を信じるのは年上の役目だ」
 鬼哭院・怪呑(w3b643)が不動一徹を駆り、甲板に上がってつぶやくと、クスリと黒緒は、固定されたワイズガンの中で微笑んだ。
「ま、信じるしかないか」
「そういうこと」
「ほら、話もいいが、来たぞ」
 無遠慮に逢魔・風文(w3b643)は会話に割り込み、前を指さすと、そこに見えるのは先ほどまで相対していた、最空とその配下のネフィリム。
「さあ、闇の眷属よ‥‥年貢の納め時よ!」
「子供の顔を見ずに逝きたくはねえだろ」
「当たり前だ!」
「来るぞ!」
 ワイズガンからの砲火を最空はくぐり抜けると、破戒僧と破壊僧、二人の僧は叫びを上げる。
「仏罰ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!」
「いつまでもてめぇらの好きにさせてるほど、俺たちはヒマじゃないんだよ!」
 続いて光と矢が交錯すると、テンプルム外壁で戦火が上がりはじめる。
「クハハハ、やはり戦場は良い‥‥! 実に『混沌』に満ちている‥‥!」
「少しは、落ち着きなさい」
 逢魔・ヨグルフォス(w3e306)の笑いが響く中、しかしダレンもその笑みを抑えられなかった。放った真深遠の魔鏡の光がサーバントを蒸発させると、二人の哄笑は一気に高くなる。
 弥生月・龍河(w3f688)はレギオンに固定されながらも、Xクライマーにスタンドショットカッターを握らせると、回しながら宣言する。
「モノアイ怪人ドクガンリューこと弥生月龍河、ここに参上。俺がこの旗を立てた時から」
 そして龍河はいつの間にか甲板に立てた旗を指さした。
「ここは結社の領土になった。よって、これを破壊するものは例え神が許そうともこの俺が許さない。それでもこいつを破壊したいなら、かかってこい。但し」
 魔皇はにやりと笑ってカッターを飛ばすと、迫るネフィリムの腕に一閃、傷が走る。
「俺はザコとは違うのだよ、ザコとは」
「‥‥さて、がんばってね」
 逢魔・ルミナス(w3f688)は笑い出す魔皇たちにあきれ顔で、しかし周囲の警戒は怠らなかった。

「今です!」
 逢魔・クリストファ(w3i628)は斬煌・昴(w3i628)に呼びかけると、男はマザーへ走り、功刀・湊(w3e420)とともに獣牙突をその身にかける。
「我が拳にかけて‥‥貴様を倒す」
「いっけぇっ!」
 決意とともにロケットガントレッドと真シューティングクローが撃ち出されると、高速で迫った二つの拳はマザーの体を打ち抜いた。
 その後方、逢魔・レルム(w3e066)の清水の恵みがティクラス・ウィンディ(w3e066)を包むと、体をおおっていた傷は消え、魔皇は再び立ち上がる。
「うみゅ、これで大丈夫‥‥もう少しだよ」
「ああ‥‥くらえ!」
 立ち上がりざま放った真六方閃に、魔力のつきかけたマザーは防御SFが間に合わず、全てを受けて悲鳴を上げた。
「来ました!」
「了解」
 逢魔・クレイメーア(w3c896)の忍び寄る闇の影響化、動きを鈍らせたサーバントに、逢魔の合図ともに真ワイズマンクロックが爆発。その爆風の向こうで突入のタイミングを計るグレゴールたちに、黒江・開裡(w3c896)は舌打ちする。
「そろそろ、抑えきれない‥‥さっさと決めろ!」
「こっちだ、来い!」
 ティクラスがマザーを挑発してその気を向けさせれば、天使から光破弾が撃たれた。それを抵抗して無効化すると、逆襲するように昴は闇蜘糸をかけて動きを絡め取り、魔皇たちはその間にマザーを取り囲む。
「落ちろよっ!」
「えーいっ!」
 真両斬剣を付加したヴァレスの一撃がマザーの腕を切り落とし、燕貫閃をかけた湊のヘルタースケイルがその胸を切り裂くと、息も絶え絶えなマザーに向けて、グレイは速度を上げる。
「今此処に、貴様に終わりをくれてやる!」
 真音速剣の力を得て放たれた無数の刃は、ついにマザーの体を微塵に断ち切った。

「くそっ」
 ウォルターは舌打ちしつつ、バスターライフルを放った。だが迫るアークエンジェルはあっさりと、その攻撃をSFで無効化する。
「こんなところで、アークエンジェルに会うとはな」
「もう少しだっていうのに!」
 逢魔・ロキ(w3b537)に地図を確認させながら琳音が大声を上げると、逆側からの銃弾が壁に跳ねた。迫るグレゴールたちに挟撃され、魔皇たちは仕方なく後退を開始する。
「危ないっ」
 浩之に撃たれた一発の銃弾に、気づいたイルイは魔皇を突き飛ばすと、逢魔は血を流して倒れ込む。
「大丈夫かよ!」
 駆け寄ってきたグレゴールを真クロムブレイドで切り倒して、逢魔を背中に抱き上げれば、逢魔・イルイ(w3f359)は皮肉げに笑う。
「命に別状はない‥‥しかし、この先‥‥」
 振り返ればアークエンジェルは、10はくだらないグレゴールを従え、追ってきていた。
『マザーは撃破したですよ‥‥逃げるです!』
「‥‥しょうがない」
 耳に届いた伝達の歌声に浩之は歯がみすると、コアヴィークルを走らせられる通路を探した。

「‥‥拙僧も精進が足りぬ、か」
 耳にふと聞こえた伝達の歌声の内容、抜けていく力、そして押される部下たちに、最空は敗北の事実を悟り、表情も変えずにつぶやいた。
「されど、今一度! 私に力を」
 回頭して横を見せ、火力を集中させはじめたレギオンにまた一人、ネフィリムが落とされたのを見ると、最空はかつてのように、般若心経を口にする。SFの祝福により研ぎ澄まされた感覚に任せ、目をかっと見開くと、グレゴールは経文を響かせて殲騎船に突進を開始した。
「来ます! 迎撃を!」
「間に合うか!」
 津和吹の悲鳴に怪呑は甲板の隅に立つと、サムライブレードを構えてネフィリムと相対する。
「往生、楽土!」
 振り下ろされた最空の一撃を盾で受け止め、怪呑はサムライブレードを振り払った。胸の装甲を砕いたその一撃は、しかし最空今生最期の一撃に力を与える。
「因果応報‥‥ブレィドっ!」
 強力な反撃は不動一徹を切り裂き、その下、レギオンの甲板をもひしゃげさせる。
 次の瞬間。
「‥‥心残りは、人間界の衆生のことよ‥‥」
 レギオンに固定された殲騎、格納庫より身を乗り出した殲騎からの一斉射撃が最空のネフィリムを包むと、次第に小さくなっていく般若心経とともに、最空は地上へと落ちていった。

 マザーを失ったといえど、それはグレゴールのエネルギー供給源を断っただけで、テンプルムの運用には何の支障もなかった。
 だが周囲に巨大なテンプルムの少ないこの辺りでは、その体制の立て直しにも時間がかかる。その事実に、レギオンに戻った一同には安堵を覚えていた。
「これで、レギオン単体でもテンプルムが落とせる事が証明できましたね‥‥」
「その運用には、まだ研究が必要でしょうが。わからない事は、まだ残っている」
 ダレンの薄笑いに要はまじめに応じると、そこから見える破壊された甲板を見下ろした。最空の最期の一撃によるその傷は大きく、修復にはいくらか時間がかかると思われた。
「まあ、私たちは勝ったんです。これからの事はともかく、今は」
 そうして津和吹はデジタルカメラを取り出すと、一同に一つ、ウインクして見せた。

(代筆:高石英務)