■遙かなる想いを《第5話》■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 本田光一
オープニング
●今までのあらすじ
 屋島城跡地に開かれた古の隠れ家への回廊。
 その地に潜り、謎の空間を発見した神帝軍は闇の眷属の力を利用することを考えた。
 表だった作戦行動に移らない神帝軍。
 その動向調査に赴いていた魔皇達をグレゴール直属のエキスパート達が回廊へと誘い、魔皇達は見つけてしまった。

 古代の遺産。

 古代の闇の眷属が、己が眷属の為に残したものなのか、回廊の奥には堅牢な扉を持つ空間があった。
 扉に記された文字の謎を解きつつ、扉の奥に進む為の<鍵>を求める魔皇達。
 史跡を炎の中へと落とし、大地をも裂いて神帝軍と魔皇達との戦いは続く。
 3つの<鍵>が現代に蘇り、<第1の鍵>を持つ神帝軍が扉を開いた。
 <第2の鍵>である次元羅針装置の示す先は、遙かに遠い先。

●古の隠れ家・その先に‥‥
「急げ! 一刻を争うぞ!」
 先行した者達の情報では、隠れ家の中だと思われる空間では殲騎も使用可能の筈だが、小回りの効かない巨体は目的地へと続く神殿内部の様な空間では召喚しても使えそうにない。
 無理に召喚すれば建造物を破壊してしまいそうで、何が起こるか判らない空間での暴走行為は厳しく禁じられていた。
「魔皇様、扉を開いた神帝軍が先行しているのは間違いありませんが、道先案内を持つ皆様の方に分があります」
 密の逢魔達からの熱い視線。
 彼女達、彼等の思いは魔皇達もよく分かっていた。
「神帝軍を排除して、先に進むこと‥‥何よりも、過去から託された『モノ』を手に入れることだけを考えて下さい」
 無理をして敵を倒す必要はない。
 一度に出来ることは限られているのだからと、逢魔達は飛び出してゆく魔皇達を見送りながら叫んでいた。

●神帝軍・遺跡探索部隊
 神帝軍は<第1の鍵>を魔皇達との戦いで得ていた。
 鍵の調査の課程で、鍵そのものは現代社会に別の物体として残されていること、それを元の<鍵>と出来るのは闇の眷属だけだと言うことが判っていた。
 <第1の鍵>は魔皇達が活性化させた物を手に入れたことで神帝軍でも運用が可能だが、残る2つが魔皇達の手によって活性化され、元の姿をとらなければ意味がない。
 そこで、魔皇達に鍵を発動させて、彼等の行動を漏らさず監視すると言う策が取られることとなっていた。
 隙を見せれば、勿論抹殺するという二重の意味の作戦だったのだが‥‥。
 この為にわざと警戒を薄めて侵入させた魔皇が、確かに内部の情報を持って逃げ出したという報告を受けたグレゴールは、直ちに部隊の展開を命じたのだった。

●扉の奥に待つモノ
 屋島城城塞跡の奥にある謎の空間。
 そこを<鍵>を用いて開いた神帝軍。
 屋島城城塞跡の警戒に付いていた彼等の姿が消えていた。
 既に奥に進んだのだと結論付け、慎重に内部に侵入した魔皇達は、先の任務で発見した謎の空間に通路が開かれていることを発見した。
 そこから細く続くトンネル状の通路に神帝軍らしき影を発見した魔皇達は、急ぎその知らせを翡翠に飛ばした。
 任務に当たる魔皇達に、密の逢魔は十分に注意するようにと呼びかける。
 次元羅針盤も先に進むようにと指示しているのだが、殲騎も呼び出せない狭い空間の中で、魔皇達は神帝軍をかわして先を急がなければいけない。
 最奥部には、彼等の祖先の残した『モノ』が待っているのだから‥‥。
シナリオ傾向 シリアス・コミカル・謎・探索
参加PC キリア・プレサージ
暁・夜光
須藤・明良
源真・結夏
ジェフト・イルクマー
夜桜・翠漣
御山・詠二
風海・光
木月・たえ
遙かなる想いを《第5話》

●あらすじ
 香川県高松市屋島。
 源氏、平家の古戦場としても知られる一角に、古の隠れ家に続く通路が神帝軍の聖鍵戦士によって発見されていた。
 密の逢魔によって依頼を受けた魔皇達が向かった先で、神帝軍の罠が蠢いていた。
 彼等は、古の隠れ家に関連する情報収集や、難航する調査について魔に属する者さえも使うという、今までの神帝軍にない動きを見せた。
 だが、その事は魔皇達は看破出来ぬままに、隠れ家の奥に続く扉を開く鍵は神帝軍の手に落ちた。
 続く第2、第3の鍵は魔皇達の協力で何とか翡翠にもたらされたのだが、それらが何の目的の為に施された鍵なのかという一番肝心な内容については解明されないまま、第1の鍵は香川県を統括する聖鍵戦士によって使用されてしまう。
 屋島城塞跡地の奥に、神帝軍はグレゴールによる部隊を送り込み、後に続くだろう魔皇達から第2、第3の鍵を奪うべく虎視眈々として通路を進んでいた。
「禍々しさを感じるの‥‥魔の眷属がこの地を頼りにするのも頷ける‥‥」
 剃髪の壮年、香川県下を収める任にある存在でありながら、自らこの地に赴いたのには訳があった。
「人に化けると、よく古来より物の怪の類について言われる所であるが‥‥まこと、この地は死の国にして忌み地、黄泉津比良坂を越えた場所にして‥‥魔の眷属が住まう場所に相応しき場所‥‥」
 古代の日本史より紐解くに連れて、彼はこの地の持つ歴史と、魔皇との関係について独自の観点から一つの結論を見いだしていた。
「この地こそが、きゃつらの母なる大地の一つ‥‥聖も邪も、全ては母なる、父なる存在に帰結する‥‥」
 準備を進める部下達に視線を投げかけながら、更に奥へと続く通路を真白き衣を纏ったグレゴールは歩き始めるのだった。

●暗く、細き道を
 コアヴィークルを召喚した魔皇達は、屋島城城塞跡地での戦闘を終えて謎の空間に続く通路へと突進した。
 先行する神帝軍のメンバーに追いつき、追い抜いた上で目的地に向かわなければならない。
 いやが上にも彼等の注意力は前方に集中し、《次元羅針盤》だろうと言われる《第2の鍵》を持つ逢魔・美琴の示す先を、暁・夜光(w3a516)の駆るコアヴィークルが目指す。
「妨害はありませんね‥‥信じられない位に、こうも易々と‥‥」
 思い出して、夜光は操縦桿を握り締める。
 入り口での壮絶な戦いで須藤・明良(w3b343)と共に防衛戦を張っていたキリア・プレサージ(w3a037)と彼の逢魔・シェリルが戦線を事実上離脱しており、先を急ぎつつもコアヴィークル達の中央付近で巡航速度を守るだけで手一杯の様子だった。
「御山さんでなくて申し訳ありませんが‥‥少し我慢して下さいね?」
「いえ‥‥」
 気を紛らわせようとした軽い会話のハズだったが、美琴には通じなかった様子だ。
「‥‥結構、ショックかも‥‥」
 くどく気はなかったのだが、予想と反した美琴の表情に夜光の表情が固まった。
「直進です‥‥3キロ位ですわ」
「3っ?! ‥‥彼らはそう先には進んでいない筈、一気に突破しましょう!」
「うーん。まぁ念のために‥‥」
 《ディフレクトウォール》を展開して、夜光に続く源真・結夏(w3c473)に続く形で風海・光(w3g199)が何時になく真面目な表情でコアヴィークルを駆っている。
「まぁ、やることやってから行きましょか‥‥」
「たえさん?」
「‥‥」
 ぎゅーっと、木月・たえ(w3g648)の腰に回していた腕を強く締めても、抱きつかれているたえは逢魔・れぅの事に気付かない。
「たーえーさーんー?」
 むにゅーっと、お腹のお肉を引っ張った。
「痛いっ!? 何するのよ!」
 痛みに顔をしかめて、安全第一なヘルメットを被っていたたえがコアヴィークルの速度を落とした。
「どうしたの?」
 異変を察して結夏も速度を落とした。
「? シェリル、止まるぞ」
 明良にも速度を落とす様に伝えて、キリアがコアヴィークルを止めた。
「あ?」
 疲れの為か、コアヴィークルの安定を欠いた明良が壁に倒れる様になったが、何とか脚で踏みとどまった。
「って‥‥マジか? おっさん!」
 コアヴィークルが壁と接触した場所を見て、魔皇達が眉をひそめた。
「‥‥‥光! 奴らを止めろ! もしも待ち伏せがあったら!」
「え? は、はい!」
 キリアが小柄な光に指示を出して先行させる。
「御国、今のところ大丈夫?」
「ああ。彼女の《忍び寄る闇》のお陰でもあるが‥‥」
 自分達が倒してきたのか、それとも仲間達が誘い出してくれているのか‥‥御国は結夏の問いかけには詳しく答えようとしなかった。
「急がないと‥‥こんな初歩的なこと忘れてるなんて‥‥」
 たえもカンテラの明かりさえ遅く感じる速度でコアヴィークルを走らせる。
 後は己の五感と《ニードルアンテナ》による感覚だけが頼りだった。
 前者は兎も角、後者は先行した3人には無い。
「もしも、神帝軍が‥‥」
 高速で走れば制動にかかる距離や動きも大きな物になる。もしも壁面に接触すれば‥‥魔的な存在である壁はコアヴィークルが破壊されるのに充分な衝撃を与えるだろう。
 同時に、それに乗っている者達の命を脅かすに充分な破壊も‥‥。
「くそっ! 美琴‥‥」
 殿を勤めていた御山・詠二(w3f796)が風を切る様にコアヴィークルを闇の中に疾走させた。

●待ち伏せ
 高速で移動するコアヴィークルが『それ』に正面からぶつからなかったのは不幸中の幸いだった。
 辛うじてかわして、それでも激しい衝突で破損したコアヴィークル。
 付着した物体を見れば、グレゴールがトラップに用いた物が自然と知れた。
「墨を塗ったサーバントを吊しておくか‥‥卑怯な‥‥」
 ジェフト・イルクマー(w3c686)は激突だけは免れたのだが、夜光が体勢を崩した時に夜桜・翠漣(w3c720)だけが辛うじて闇の中で対応でき、壁面にコアヴィークルを接触させた程度で済んだのだ。
 だが、ジェフトは衝撃が未だに臓腑を掴んだまま揺さぶっている様な感覚に襲われていた。
 彼等の立てた激しい音が、神帝軍の者達に聞こえなかったはずがない。
 体勢を立て直す暇もなく、距離を置いての攻撃が彼等に浴びせられる。
「一本道の筈だ‥‥こちらが身を隠せないのは、それは‥‥」
 ショットオブイリミネートで迎撃するジェフトだが、相手が見えないのでは効果的な攻撃になっているとは考えられない。
「先手を打たれましたか‥‥美琴さん?」
「大丈夫です‥‥羅針盤は壊れていません」
 己の身より、託された《次元羅針盤》を気遣う美琴に敵のSFに曝されているにもかかわらず夜光は苦笑した。
「そうですね‥‥」
 ふと、ここに突入する前に魅闇にからかわれたのを思い出す。


「夜光様‥‥信じていますわ」
「ドコを見て、言っています?」
「夜光様‥‥」

 斜め下を見られていた。
 思い出すだけで少し恥ずかしいのだが、あれも彼女のなりに(?)気を遣ったのかも知れない。
「‥‥ま、主人公がピンチの時には騎兵隊がやってくると‥‥」
 言って、細い光が到達しようとしているのを見て夜光は立ち上がった。
「まだ早いですわ」
 ランスシューターを放つ翠漣から諭されるのだが、夜光と共にジェフトもDFを活性化させる。
 その頭上を、たえ達のコアヴィークルが疾走して、グレゴール達のSFの隙をついて突入してゆく。
「最空様!」
 光の盾を構えたグレゴール達が展開するのを掻き分ける様に立つ指揮官らしきグレゴール。
 その両手には光が集結し、SFの輝きが目映いばかりに闇を引き裂いた。
「魔皇退散! 御仏クラーーーーーーーーーーーーーーーーッシュ!!」
 法衣が弾け飛ぶ様な気合いがグレゴールから迸り、戦闘を回避しつつ飛行していたたえのヴィークルの底部分を剔る様に擦れ違う。
「やだやだやだーーー! 撲殺和尚だよぉ〜!」
 激しく揺れるシートの上で、れぅがたえの服を握り締める。
「手応え在り‥‥」
 再び法衣の下に身を隠して、頭上を飛び抜けて行く魔皇達の攻撃を六名からなる《光の盾》で遮断して神帝軍のグレゴール達は時を待った。
「結夏姉さん、大丈夫?」
「‥‥まね。でも、それはねぇ‥‥」
 神帝軍の壁を突破したコアヴィークル上で光の心配そうな表情に苦笑するしかない結夏。
「せめて、ウォール使えなければ他の方法考えようよ。ね?」
「あ‥‥」
 真っ赤になる光を見て、結夏だけでなく詠二の背で堅く口元を結んでいた美琴も身体から力を抜いたのが詠二には判った。
「それにしても‥‥これで二度目‥‥何故、奴等は反撃しないんだ‥‥」
 心の隅で疑惑の波紋が広がって行く詠二。
 だが、ささやかなその波が現実として押し寄せるのはまだ先だった。

「まだ遊ばれていることに気が付かないのだろうな‥‥釈迦如来の掌の上で遊ぶ者達よ‥‥」
 不憫と一言呟いた最空は法衣を翻して魔皇達とは逆の道――もと来た道を選ぶ。
「鍵も無く、この先をなんとするか‥‥楽しませて貰うぞ‥‥自ら選ぶ道が困難であることを知っているだろうに‥‥嘗められたものだ‥‥」
 屋島城城塞跡にまで戻った時に、配下のグレゴールが持っていた《第1の鍵》が怪しい輝きを放った。
「‥‥何か、起こったと見える‥‥」
 傷一つ無く、完全に任務を遂行した部下達を見て次の命を下す最空。
「県下に散り、他の魔皇共の動きを押さえよ! ここに奴等を集めてはならん!」
 そして、矢継ぎ早に新たな指示を与えると最空は屋島寺を詣でるために遍路道を歩き始めるのだった。
「色即是空‥‥空即是色‥‥」

●闇の奥で
 コアヴィークルを使用不可能にされたたえとれぅが分乗して、魔皇達は神帝軍の部隊が先に進まれぬ様にワイズマンクロックと忍び寄る闇で何とか対応すると先を急ぐことにした。
 何時までも続くかと思われた通路にも最終地点が訪れ、始めに発見された謎の空間からは想像できない行き詰まった場所に扉の様なそれはあった。
「ジェフトさん、大丈夫ですか?」
「‥‥ああ」
「嘘は下手ですね」
 後方を睨みながらランスシューターを構える翠漣に言われて、ジェフトはセラティスの濡れた灰色の瞳に注意される様に項垂れた。
「で、本題はこの奥って言う訳ね?」
「はい。そうみたいです‥‥」
 美琴の持つ《第2の鍵》を覗き込む様に続ける結夏。
「それじゃ‥‥鍵を使うので、みんな下がって‥‥」
「はいはいっと」
 万が一に備えて《ディフレクトウォール》を展開した結夏と共に光が《第3の鍵》を壁面にある窪みに押しつける。
 初めからそこにあったのが当然である様に、《鍵》が壁に張り付く様になると、壁面が左右に分かれて更に奥に続く通路が現れた。
「これは?」
 美琴の手の中と、光の手の中で《第2》と《第3》の鍵が明滅を始めた。
 暫く何かが起こるのか判らずにその場に立ちつくす様にしていた魔皇達だが、何事も変化のないことを確認して先に進み始める。
 人が3人並べば狭く感じる通路を抜けて、奥に進んだ魔皇達は急に空間が広がった場所に到着した。
「広い‥‥隠れ家の奥地に向かっていたのでは‥‥」
 奥へ、奥へと進む内に、何かの建築物の最奥部に導かれていたつもりだった。
 薄い明かりが何処までも届かないでいるような広がりを感じ、結夏と翠漣が《フェイントリィライト》を放った。
「‥‥たえさん、たえさん‥‥!」
「判ってるわよ‥‥」
 喉を鳴らす様にして、たえも《フェイントリィライト》で二人に倣って巨大な空間の中にある『それ』を照らし出そうとした。
「‥‥Aegis?」
 キリアの呟きが広い空間に広がって消えて行く。
 彼女は、その巨体を闇の中にただ静かに横たえているだけだった。
 殲騎の十数倍にもなるだろう巨大な船‥‥。
 古の隠れ家にて、魔皇達は古代の闇の眷属が彼等に託した物と出会おうとしているのだろうか?

【第五話・完】