■遙かなる想いを《第6話》■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 本田光一
オープニング
●今までのあらすじ
 屋島城跡地に開かれた古の隠れ家への回廊。
 その地に潜り、謎の空間を発見した神帝軍は闇の眷属の力を利用することを考えた。
 表だった作戦行動に移らない神帝軍。
 その動向調査に赴いていた魔皇達をグレゴール直属のエキスパート達が回廊へと誘い、魔皇達は見つけてしまった。

 古代の遺産。

 古代の闇の眷属が、己が眷属の為に残したものなのか、回廊の奥には堅牢な扉を持つ空間があった。
 扉に記された文字の謎を解きつつ、扉の奥に進む為の《鍵》を求める魔皇達。
 史跡を炎の中へと落とし、大地をも裂いて神帝軍と魔皇達との戦いは続く。
 3つの《鍵》が現代に蘇り、《第1の鍵》を持つ神帝軍が扉を開いた。
 《第2の鍵》である次元羅針装置の導きで魔皇達は傷付きながらも最奥部に到着し、《第3の鍵》によって古の隠れ家の中に足を踏み入れるのだった。

●神帝軍の攻勢
 香川県下の魔皇達が神帝軍による強制調査によって追いつめられようとしていた。
 日々を平和に営んでいた者達を誘い出す巧妙な作戦が、魔皇達が各個撃破される要因となって徐々に隠れ家に引き返してくる魔皇達の数が増えつつあった。
「伝令! 屋島に向かった者達からの報告です。神帝軍が精鋭を放ち、隠れ家へ向けて進行を開始する可能性は高いものと!」
「‥‥行かないと」
 鼎が席を立つ。その表情は苦い物だ。
「それ程に、今回の探索で発見されたあれは‥‥」
 彼女を押さえようとした魔皇達も、事の重大さにようやく気付かされた。
 神帝軍が攻勢をかけてきたのは魔皇達の動きを封じるためだったのだとしたら‥‥隠れ家に待避したことは、神帝軍にとって願ってもないことだったのだ。
「まだ何もかもが判っていない今、下手に動くのは危険です。ですが‥‥」
 苦渋に満ちた表情で、密の逢魔が続ける。
「神帝軍に押されつつある今、何としても古の隠れ家を守り抜かなければいけません」
 同時に、内部での調査を進めて一刻も早く発見された『船』を運び出してやらなければならない。
 見つかった後も、いっこうにその内部に続く『扉』は発見されておらず、何かの見落としがないのか魔皇達は賢明に記憶を巻き戻してみるのだが、それと言った物を思い出せずに日々が過ぎていたのだ。
「神帝軍が未だにネフィリムを出さないのは気になりますが、それが彼等の余裕なのか、それとも何かを狙っているのかは知れません‥‥裏の裏を読んでみても始まらないこと、今はただ一刻も早く内部の調査を進めなければいけません」
 同時に、神帝軍の侵攻を抑えつつの作業になるという。
 非常に危険な作業でも、今やらなければ次はあり得ないのだ。
 魔皇達はそれぞれの役割を胸に、一路香川へと向かうのだった。

●神帝軍−高松テンプルム内部
「ネフィリムは順調か‥‥」
「まさか、今回の任務でも使われないと‥‥」
 高松テンプルムを指揮するグレゴール・最空の判断力は部下達から絶大の支持を受けている。
「いや。投入の時期であるかどうかではない‥‥例え魔皇が攻めてきても‥‥だ。‥‥何の為にここまでネフィリムが揃うのを待ったと思う?」
 真剣な表情で語る最空は遙かに眼下の高松を見下ろして祈る様に目を瞑る。
「‥‥悪の根は潰さねばならぬ‥‥全てを駆逐するためには、多少の危険は覚悟の上‥‥行くぞ」
 最空の声に従うグレゴール達、その数九名。
 県下で魔皇達を追い込んでいたグレゴール達の中でも一握りの者達が選ばれて一堂に会したのだった。
シナリオ傾向 コミカル?・謎・リンク
参加PC キリア・プレサージ
暁・夜光
彩門・和意
源真・結夏
ジェフト・イルクマー
夜桜・翠漣
御山・詠二
風海・光
木月・たえ
遙かなる想いを《第6話》

●迎え撃つ者達
 香川県で発見された『古の隠れ家』について、密の逢魔や隠れ家の者達に尋ねた魔皇達が得た情報は非常に簡潔な物だった。

『判らない』

『判断材料が少なすぎる』

『無視は出来ない物の筈』

『屋島の側に、竜宮の伝説があるのを知っているか?』

 余計に混乱させられた感もあるのだが、共通していたことは結局自分達で謎を解かなければ先へは進まれないと言うことだった。

 高松テンプルムから神帝軍のグレゴール達が移動を始めたことを察知した魔皇達は、先行していた魔皇との合流を果たすべく、屋島城城塞跡に集結していた。
「先に進め。見つかったら、夜桜に持たせて運ばせる」
 キリア・プレサージ(w3a037)がショルダーキャノンを構えながら彩門・和意(w3b332)達に『古の隠れ家』に続く通路を急がせる。
「勝算は?」
 木月・たえ(w3g648)が黒いライダースーツにフルフェイスの黒いヘルメットを被りながら尋ねるのを、キリアは肩をすくめて見せて応えた。
「正直、抑えきれるとは思わない。奴等は確実に力を付けているし、こちらの様子を窺っているのは間違いないことだ」
 キリアの《逢魔》シェリルが無言で頷くのに、たえも考え込む表情で先に『船』に向かわせたれぅに話したことをもう一度呟いた。
「敵はこちらに船を起動させてから、この船を回収するつもりね。つまり、船で外に出れる確率がある‥‥」
「あの手の抜き加減はそこからか‥‥だが、それを許していたらどうなる? 俺達が《第1の鍵》を奪取して、風海達の調査の時間を稼がない限り‥‥」
 たえに対して、必要以上の言葉を吐かないキリア。経験という物を補って余る思慮深さと行動力を彼女が持っていることは、現場を見つめてきた彼だからこそ判る。そして、突きつめて考える物は同じ‥‥。
「ええ。だから、あちらが折れてくれる部分は、そのまま折れて貰いましょう」
 高い位置で止めていた髪を解き、ヘルメットの中に収めるたえ。

『敵の誘いに乗って《第1の鍵》を奪取する』

 それが、彼女とキリアが相談も無しに導き出した同じ解答だったのだ。

●闇に生きる太古の遺産
 誰が呼ぶでもなく、“船”の収められていた場所は“ドック”と呼ばれる様になっていた。
 “船”の大きさは全長が80m程。
 2つの船を平行に取り付けた形の双胴船に見える。
 それが収められているドックは充分な空間を持っていて、設備を見るとここで“船”の修理なら出来る位に思える。
「昔の船というとノアの箱船を思い出すけど、なんか別の船も想像しちゃったな、水中魔法戦艦リンリンっていう船‥‥」
 冷え冷えとした空間に風海・光(w3g199)の声が響く。
「あ、それ。れぅも知ってます〜」

 ポカンと、小気味良い音がれぅの言葉を遮った。

 巨大な船体を登り、上甲板といえる部分に光、翼、れぅ達は居たのだが、続いて登ってきた源真・結夏(w3c473)に頭をはたかれてレプリカントは涙目の表情を作ってみせる。
「あう〜」
「馬鹿なこと言ってんじゃないの。アニメの船の名前なんか出して‥‥そんな名前出したら、他の人に迷惑だし、版権問題よ?」
 しっかりと、自分も胸の内では呟いていた船名だけに、結夏の言葉は余り説得力がない様に思える。
「ところで、羅針盤とトリガーは反応しないのかな?」
 明後日の方角を見た結夏に、和意に連れられて来た鈴とセラティス、少し遅れて美琴が入ってきた。
「成る程、これが伺った『光』な訳ですね‥‥」
 和意は緊張しているのだが、丁寧な物腰の彼の話し方では余り他者に伝わらない。
 琴平の“人魚のミイラ”から発見された“次元羅針盤”と、根香寺で発見された牛鬼の角が変じた“トリガー”は確かに明滅を繰り返していた。
「和意様‥‥」
「ん、やってくれる?」
 鈴が祖霊に“船”の入口を訪ねようとして集中する。
 2つの《鍵》が明滅する中で意識を集中する鈴を囲む様に集った魔皇3名と逢魔6名。
 甲板に集まった闇の眷属7人の前で鈴が力を使った時‥‥。

 ―――大地が揺れた。

●ほのかな輝きを目指して
 出鼻にグレゴールを一体、重傷にしたカウンターアタックチームは籠城戦を呈した闘いの中であの“輝き”を再び目にした。
「此処から先は進んでいただく訳には参りません。深遠なる教えを忘れ、偽りの神に従うような貴方方には、この奥に進む資格など、ありはしないのですから」
 魅闇のもたらした情報を元に、今後を考えて防衛作戦に参加した暁・夜光(w3a516)が唸った瞬間、それを無視する様に‥‥。
「仏罰ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームゥ!」
 狭い通路に響き渡る大音声。
 たえが放ったベビーパウダー缶装着のワイズマンクロックが作った煙幕を切り裂く様に、SFの閃光が走る。
「そこか!」
 夜光が発光した場所をクロムライフルで正確に射抜く。
 だが、次の瞬間に魔皇達の足元を床に限りなく近い位置で数本の閃光が貫いた。
「チィッ!」
 キリアが上げた舌打ちに、ディフレクトウォールが攻撃を霧散して消えたのが重なる。
「どう見る?」
「水平射撃で足元に3名、あのクレリックが中央――」
 キリアもシェードを持ち上げながら頷く。似た様な感触があった。煙幕を相手も逆手に取っている。
「しかし、そろそろ俺達に渡してくれる頃合いかな‥‥」
 ショルダーキャノンを構え、狙撃弾と凍浸弾を叩き込むキリアと夜光。
「‥‥」
 無言で晴れつつある煙幕の中にたえ、御山・詠二(w3f796)が走り込み、二人の後ろでジェフト・イルクマー(w3c686)が間合いを計る。
「一人か‥‥それも今は怪しい‥‥」
「卒塔婆ソォゥッド!」
 切り込んでいったたえがフェイクでヘルメットを投げつけた所に、閃光の白刃が斬りつけられる。
「生臭坊主が!」
 真カッターシールドを装備した詠二の斬激が白い霞と共に闇を引き裂いて行く。
「ソニック!」
 意識の集中と共に叫ばれた気合いが刃に宿り、風を、音を越えた斬激が振るわれた後に空気が引き裂かれた様に絶叫を生む。
「浅いか!?」
 風鳴りの音で威力は確かめられても、刃から伝わったのは敵を仕留め損なった鈍い感触。敵グレゴールも“盾”を展開していたのだと、理屈よりも直感で判断して身を翻すと、今まで詠二の頭があった所を閃光が走る。
「‥‥互角?」
 薄明かりの中でたえが見極めた敵の技量は、詠二にやや不利ながらも互角に思えた。
 だが、聖鍵戦士である以上、格闘、攻撃能力だけが相手の技量ではない。
 その証拠に、彼等グレゴールの誰もファンタズマを連れていないのだ。加えて、今は人数に優る彼等だが、実際に戦闘に参加している人数は五分。
「行きます!」
 夜光が飛び出すのにあわせて、キリアが再び狙撃弾を放つ。
 響く音が耳の横を通過したのを合図に、前線に居た魔皇達は一斉に身を伏せる。
「fire!」
 防御は全て思考の端に追いやって、通路の一直線を貫けとばかりにキリアが撃ち尽くす。
「そこっ!」
 ディフレクトウォールを展開したまま突進した夜光が邪魔になる聖鍵戦士をそのまま壁に叩き付け、ショットオブイリミネートで狙いを付ける暇もなく撃ち続ける詠二の二人の間から夜桜・翠漣(w3c720)とたえがワンドの衝撃を打ち込んだ。
「そこっ!」
 充分な強度が《鍵》には在るはずだと、弾き飛ばしたグレゴールが動き出す前に踏み抜こうと踏み込んだ翠漣と、鍵を奪おうと手を伸ばしたたえの腹部に鈍痛が走る。
「墓石ッ‥‥」
 異常な気の高まりに、腹部に激突した棒状の先を握るグレゴールの表情が彼女達の視界に飛び込んだ。
「クゥラーーーーーーーーーーッシュ!」
 刃の横で叩き付けられただけの二人をグレゴール最空は軽々と振り抜いて壁面に叩き付けた。
 その刹那の表情は、憤怒の表情とも哀れみとも取れるグレゴールが見せる感情としては非常に珍しい物だった。
「ッツ‥‥‥」
 翠漣が辛うじて受け身を取り、意識を失うまでには至らなかったが、たえは鍵を護ることを一瞬考えた為に対応が遅れ、魔の存在で在る壁面に高等部を激しく叩き付けられてしまう。
「しまった!」
 たえの手からこぼれ落ちた《第1の鍵》が、堅い音を立てて床に転がった所に、後方にいたジェフトが走り、グレゴールを床に倒した夜光が駆け戻って《鍵》とたえを掴んで走る。
「オオオオォォォッ!」
 走る仲間に当たらぬ様に、迫る敵を貫けと細心の注意と魂の咆吼を載せてキリアが放つショルダーキャノンが聖鍵戦士を撃ち倒し、敵から流れる弾が“盾”が消えた瞬間のキリアの肉も弾き飛ばす。
「キリア!」
「クッ‥‥退けっ!」
 キリアを庇って前に立とうとしたシェリルを腕で払い、まだ迫る敵に向けて構えを解かないキリアの左右に詠二、ジェフトが盾になって他の者の先行を急がせる。
 疲弊したまま、翠漣はコアヴィークルを召喚して闇の中へとその身を躍らせた。

●遺産、目覚める
 大地が揺れたと感じたのは、魔皇達の間違いだったのか、船は何事もなかったかの様に明滅する輝きを放つ2つの《鍵》を背に乗せて沈黙を守っていた。
「2つの《鍵》がキーだった? それじゃ、もう一つの鍵が在れば‥‥」
 結夏は壁に残されていた文を解読していた御国に視線を向けるが、彼もまだ重要な部分は読み解かれていないと慎重に答えを返した。
「やれるだけ、やってみますか‥‥《動け》」
「和意様‥‥」
 情けない表情になる鈴だが、和意はいっこうに気にしない。
「宅配便で〜す、ハンコお願いしま〜す‥‥何でもやってみないとね‥‥僕達には試すだけの時間が限られているんだから」
 鈴に向けて笑った和意の笑顔は本物だ。
 周囲がどのように言おうとも、今ここで試さずにはいられない。
 何がきっかけになるか判らないなら、どんな事でも試さなければという彼の誠心誠意の仕事ぶりは鈴だけでなく、結夏達にも伝わってくる。
「‥‥よし」
 真剣な和意の表情に、結夏も腕まくりで船体に手を当てる。
「こらー! あたしたちは魔の末裔なのよ! 力を借りに来たのっ!」
 紋章を発動させ、更には魔皇殻を使ってみせる和意と結夏。
「僕も‥‥」
 リュックを背にしたまま、光も手探りを始める。翼がそんな魔皇達を気遣って、周囲の警戒の為に目を走らせた時、光が小さな叫び声を上げた。
「結夏姉!」
 駆け寄った光の前で、結夏の手首から滴った血が船体に紅い雫となって落ちる。
「結夏姉‥‥」
 結夏の怪我を手当てして、光はいたたまれないといった表情で彼女の手を離した。
「何があってもがんばろうね、ボク‥‥」
 飲み込んだ言葉の続きを、光が出す前に轟音が響いた。
「到着!」
 狭い通路を高速で走る物体が生み出した破裂音。
 翠漣がコアヴィークルでドックに飛び込み、そのまま船体を駆け上ってきたのだ。

『超長時間睡眠待機解除‥‥』
「御国?」
 冷たい声で御国が呟いた。
 彼の肩に手を掛けて結夏が揺さぶっても、フェアリーテイルは何も返さない。
 次の瞬間、翠漣が手にしていた《第1の鍵》の輝きが浮き上がって双胴船を繋ぐ中央甲板の中にとけ込む様にして消えた。
「あ‥‥」
 足元の船から、静かに、しかし徐々に高鳴る息吹を感じる。
『起きたよ〜』
 れぅが目の焦点を定めぬまま歩き出す。
「ちょっと、これはどうなって‥‥鈴?」
「翼ちゃん‥‥」
 和意、光も異常な現状に絶句する。
 美琴、セラティスも同じようにトランス状態に陥っている様子だった。
『‥‥』
 無言で腕を伸ばしたセラティスの白い指先が指し示す場所に結夏と和意が歩み寄ると、ただの甲板の継ぎ目だと思っていた部位が跳ね上がり、扉が開かれた。
「中に、入れっていうの?」
 紋章が輝いたのを、魔皇達はその目で認め合った。
「あれ〜でっぱってますね」
 れぅが素っ頓狂な声を上げた。
 その瞳には、いつもの彼女らしい輝きが戻っていることを確かめた光は、知らぬ間に心配で二の腕を掴んでいた翼がはにかんでいるのに気が付いて慌てて手を外した。
「鈴?」
「どうしました、和意様?」
 彼女を見る和意の視線に気が付いて、御国を見上げる結夏。
「御国、何があったの?」
「何が? ‥‥その質問の意味が分からないのだが?」
 御国から帰った言葉は、結夏と和意の目で交わされた会話の意味に寸分と違わなかったのだった。

●最空の企み
「部隊を引かせるぞ、目的は達した」
 激しい魔皇の反撃で、数名が予定されていたダメージを越えて被弾していた。
「申し訳ありません、甘く見すぎていました」
 頭を垂れるグレゴールの言葉を頷いて聞いて、最空は法衣を纏って居住まいを正す。
「今回のことは私の予見不足もある。敵は確実に成長の兆しを見せた。次回以降、サーバントの許可は私からの代行行為として自由に認める」
 厳しく律してきた制限を解くと言うことは、敵を認めたに他ならない。
「ファンタズマの同行を求める者が在れば、許可を出す。より一層の精進を期待する!」
 高松テンプルムの総力を持って敵を屠る。
 その宣言を出す前兆が最空の瞳に輝いていた。

【第六話・完】