■遙かなる想いを《第7話》■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 本田光一
オープニング
 古の隠れ家に隠されていたのは真魔皇殻だけではなかった。
 巨大な船体の中に導かれた魔皇達は、船が目覚めた時に謎のトランス状態に陥って魔皇達を導いた逢魔から詳しい情報を聞き出そうとしたのだが、逢魔達自身も何が起きていたのかを理解していなかった‥‥。

 同じ頃。
 高松テンプルムにグレゴール達が招集され、ネフィリムの起動が確認されたのだが、それらは高松を離れて西の方角へ消えた。
 この隙に船を起動させなければならないと、密の逢魔達は鼎にも連絡を取り、急ぎ護衛役を兼ねた魔皇達を派遣することが決定された。

「護衛を付けますが、神帝軍の動きが活発化しない場合には隠れていて下さい」
 密の逢魔達は慎重に事を運ぶ様に話した。
 ここで急いて、全てが無に帰すことは避けたいというのだ。
 確かに、船が魔皇達の持つ紋章に反応を示したことが報告されていて、それは彼等にとっての大きな前進に他ならない。

『気を落ち着けて、敵が来るまでは押し倒しても良いわよ』
 鼎らしいといえばそれまでだが、本当に彼女が発したのか判らない激励が逢魔達に密かに伝えられていた。

「‥‥しないで下さいね」

 でもと、加える様に密の逢魔は続ける。
「魔皇様達の心のケアも忘れてはいけませんよ? 警戒は任せて、船の全てを把握することを最優先していただくためにも、頑張って下さいね。船がどのような性能を持ち、どれほどの力を持っているのか‥‥」
 この調査が後の闘いを決するかも知れないと言うのに、リラックスしてゆけという密の逢魔。それは、ほんの僅かな間だけでも、静かに生きて欲しいと願う者のエゴだろうか‥‥。

 そして、激励を受けた者達も困惑していた。
 何を頑張ればよいと言うのだろうか‥‥。
 少し方向性の異なった激励を受けて依頼に出る逢魔達の素直な感想だった。
 そして、魔皇達も攻撃や防御という、今までとは異なった頭を使わざるを得ない依頼に少し気色ばんでいた。
「ほとんど、何も判っていない状況だった筈だ‥‥」
 3つの鍵の内、一つは船内に消えてまだ見つかっていない。
 2つの鍵を預かって、魔皇達は謎の“船”に向かうのだった。
シナリオ傾向 らぶらぶ・読参リンク・調査
参加PC キリア・プレサージ
源真・結夏
ジェフト・イルクマー
長月・明
御山・詠二
風海・光
木月・たえ
片倉・景顕
遙かなる想いを《第7話》

●神帝軍から‥‥
 光の遣いたる聖鍵戦士、グレゴール最空が高松テンプルムに着任して始めての年末を向かえようとしていた。
 巨大なテンプルムが浮かぶ高松市に、臨海公園や市庁舎、県庁舎に囲まれた中央公園のイルミネーションがいやが上にも年の瀬を感じさせる頃‥‥。
「神帝様の元に集う者達よ。今宵より半月程、拙僧は奥の間に入る。後は皆に託すが、かねてより警戒していた屋島城跡での闇の眷属の動きを委細漏らさずに記録しておくように。後の戦、ここが要と思われる!」
 大事な時期に、彼が席を外す理由は語られなかった。
 だが、彼に従うファンタズマの表情は非常に晴れやかな、そして誇らしげな物であったとされている。
 香川県下の神帝軍の動きが、一時的に凍結を見せたのもこの時期だった。
 瀬戸内海にネフィリムが現れて、模擬戦闘と思われる闘いを数週間繰り広げて去ったというのが密に情報としてもたらされているが、詳細は判っていない。
 魔皇達を刺激しないように、それでいて得られた時間を力を蓄える為に用いている、そんな風情であった。

●寄せられる思い
 多くの仲間達に護られながら、屋島城跡に潜った魔皇達は、最近発見されたメガフロートに酷似した船の調査に休む間もなく日々を過ごしていた。
 双胴の船が収められた、ドックと思われる空間を調査していたキリア・プレサージ(w3a037)とシェリルは、一つの仮想に辿り着こうとしていた。
「構造から言って、ここはこの『船』の格納庫ではあっても、造船所という訳では無さそうだな」
「その理由は?」
「余剰空間の無さ、だ。この船を建造するなら、その倍の空間は必要だろう。少なくとも、閉鎖された空間内で製造を行う際には、だがな‥‥」
 シェリルの行う反論に応えて行く事で己の論を確かめる事になる。
「船尾と思われる方向に余裕はなく、進行方向と思われる前に進めば壁に突き当たる。だが、その壁を動かす術を俺達はまだ解明出来ていない‥‥中の連中次第という訳だな」
 肩をすくめてみせるキリアに、シェリルは噂をすればと、船から歩いてくる長月・明(w3c809)とフィアを見て苦笑する。
「ご苦労様です。その後変化は‥‥在る訳無いですよね」
 キリアに確認する明だが、何か変化が在ればそれは彼等にとって最悪の事態になっているはずだと、思い返して自分の言葉に苦笑する。
「ああ、こちらに異常は無い。外の連中が頑張ってくれているようだ。余程、ここの調査が重要視されているんだろうな‥‥」
「『メガフロート』調査の礎として、ですけれどね‥‥僕達の一歩は、また次の一歩と言う訳ですよね‥‥」
 明の表情には、長い思索の果てに疲れ果てた老人の見せる疲れに似たものと、同時に静かな決意を見いだす事が出来る。
「ということは、何か判ったんだな?」
「はい‥‥恐らく、コントロールは殲騎と同じだと思われます」
 覗き込むように尋ねるキリアに、頷いて続ける明。
「フィアも感じていたのですが、木月さんが、れぅさんと一緒に調査をしていて気付いたらしいですよ」
 明の言葉に頷いて、続けるフィア。
「気のせいかもしれませんけど、この船からは殲騎と同じような印象を感じます。でも‥‥、それなら誰が力を供給し、誰がそれを制御する事になるのでしょう?」
 見上げた船体中央、双胴の船を繋ぐ中央部分にあった艦橋らしき場所であったことを、明は話し始めた。

●想い一片(ひとひら)
 船と船を繋ぐ部分。
 中央甲板と呼ばれた位置に出現した入り口を潜って、内部に潜った魔皇達はそれぞれの想いを胸に内部の調査に赴いていた。
「んー御国達に何があったのか、聞いても覚えてないんじゃ仕方ないけど‥‥」
「すまん」
 源真・結夏(w3c473)に言われて、素直に返す御国は自分達に起きた事態をいっこうに覚えていなかったという事実に困惑していた。
 他の逢魔ならいざ知らず、自身がフェリーテイルであるという自負が根底から覆されたような、そんな気分だったのだ。
「船とリンクしていたみたいだよねぇ。それで船が起きたみたいだし、逢魔が原動力?」
「さぁ‥‥」
 壁を叩きながら進む結夏に、曖昧な返事を返していた御国だが、本心は既に決まっていた。
 トランス状態になったと聞いた時から、自身が船に取り込まれる可能性を考慮に入れて、それについての覚悟も既に出来ていたのだ。
 逢魔を介し船を制御する事が可能なのかは判らない。もう一度アクセスが実現可能であればと試してみたものの、依然としてそのような兆候はなく、内部の調査に引き続き移ったというのが実情だった。
「逢魔の力を吸って動く船だとちょっと嫌かもなぁ、動かす為に犠牲にする訳だしさ。もしそうなら、動かす前にきちんと聞くから、嫌なら嫌って言うのよ、御国?」
「ああ。わかってる‥‥」
 自分の魔皇が、そう言うだろうという事を御国は良く理解していた。
 だが、いや、だからこそ彼は自分に課した命題は決して彼女の前で口にしないでおこうと決めていた。

 礎となる事を厭わぬと――――。


「メガフロートか‥‥そっちの調査が終わりそうにないから、こちらを優先しろって言う鼎の言葉も分かるけどな‥‥」
 『船』の双胴を結ぶ部分を中心に調べていた御山・詠二(w3f796)はそれぞれの調査地点で動いている魔皇達を思い出して作業の手を止めた。
「どうしたの、詠二?」
「んー。ちょ、ちょっとな」
 久しぶりに、自分は一人なのだと想った瞬間に、聞き慣れた美琴の声が耳元に響いて詠二は焦った声を上げた。
「どうかしたの?」
 詠二の声の違いに、美琴は心配になって身を寄せた。魔皇となってからの詠二に病気の心配は無いはずなのだが、過去の経験からか手の平を彼の額に当てようとして‥‥
「!?!」
 一瞬で詠二が身体をずらし、美琴の手は空を掴むばかりだった。
「あの‥‥御免なさい‥‥私‥‥」
「いや、違うんだ。ちょっと待ってくれ‥‥」
 俯いて、真っ青になりながら詠二に謝る美琴を見て詠二が焦る。
 まさか、彼女と二人きりという事に気が付いて、美琴から声が掛かった瞬間に彼女の事を考えていた為に焦りと驚きが全身を支配していたという事は、さすがに言えるはずもない。
 互いに見つめ合う形で凍り付き、美琴は何事かを呟くようにして唇を動かすのだが、溜息に似た甘い香りが詠二の頬を撫でるだけで、やがて俯いてしまう。
「‥‥あのな‥‥」
 美琴が俯いたのは、何か言いたい事があってもそれを飲み込んでしまった為だとよく分かった。
 だから‥‥彼女の言葉を塞いだのが自分だからと、詠二から塞いでしまった言葉の代わりに美琴の手を取った。
 すこしだけ、驚いた風に顔を上げた美琴を、そのまま引き寄せるようにしてやった詠二の腕の中に、華奢な美琴の温もりが抱きしめられていた。
「好きだ、美琴‥‥」
 耳朶に触れた空気の揺れる音が、美琴の思考を奪っていた。
 何時も一緒にいたのに‥‥何時も一緒にいたから言えなかった想いの欠片が、堰を切って流れ出した。
 しがみつく様に、抱きしめる美琴の腕の力は温もりを詠二に伝えるだけだが、その弱さが詠二には意外で、同時に愛おしく思えてくる。
「ごめんな‥‥俺、気が利かない性質だから、こんな言い方しかできない。‥‥ただ、俺は‥‥こんな時なのに、お前の事が気になって‥‥その‥‥完璧にお前にいかれちまってるみたいだから、どうしても言いたかった‥‥」
「私も、上手な言い方、できないけど‥‥大好きだよ‥‥詠二‥‥」
 嘘でも良い、嘘であって欲しくないと言う想いが詠二の背に回した美琴の腕の力を増していた。
 どれだけの時間、詠二の、美琴の鼓動の中に埋もれていたのか判らない。
 一瞬のような永遠の時間が流れ、どちらからともなく身を離した二人が仕事に戻ろうと言いあったのだが、調査に戻ろうとした詠二の二の腕を取って少し背伸びした美琴の桜色の唇が、ほのかな温もりを詠二の物に残した。
「いつも詠二から恥ずかしいこと言ってくるから‥‥オ・カ・エ・シ」
 クルリと背を向けた美琴のスカートが花弁のように輪を作る。
 耳まで赤く染めながら、詠二は懸命に作業に戻る為に‥‥調査用に持ってきたシャーペンの芯を三本程ノックの連打で落とすのだった。

●想い−平行線−
「結夏姉、ボクずっと前から好きだったんだ。この戦い絶対無事に勝ち抜くから、ボクとつきあってください!」
「ド突きあうの?」
「‥‥光くん‥‥」
 曲がり角で、衝撃の映像を逢魔・翼は見た。
 例え、相手がかなりボケ倒しているとしても‥‥風海・光(w3g199)の言葉は、翼にとっては衝撃だった。

 ――ついでに、押し倒して
 ――押し倒して
 ――倒して‥‥

 鼎の言葉の、微妙な部分だけが翼の中でリフレインされる。
「押し倒すって‥‥どうするんだろう‥‥」
 結局、結夏からの返答を光が貰える前に、家政婦と化した翼が彼を横っ飛びに浚って、歩き出した時には光はその手に次元羅針盤も、トリガーも持つ事が出来なかった。
「‥‥あの、翼ちゃん‥‥」
 後ろ髪引かれる想いを遙かに見送りながら、手ぶらで歩き始めた光は手には無い『トリガー』が取り付けられるような『部位』を捜しながら歩き始めた。
「船のコントロール装置は艦橋にあると、昔から決まっていると思うから! あのトリガーをガシャンとはめるに違いないよ。リンリンでもそうだったから!」
「‥‥うん」
 前向きに、任務に戻っている光の後を歩きながら、翼は気が晴れないで居た。
「あれは多分、何処かにはめる所があって、それが船の駆動キーになるんじゃないかと思う。で、はめる所はたぶん艦橋! 艦橋は船の高い所にあるものだと思うし、双胴船だったら二つの胴の真ん中にあるのかも?」
「そう‥‥うん、きっとそう‥‥」
 消えそうな言葉を繋いで、ようやく光についてゆく。
 『船』の入り口であった中央甲板から入った場所まで、少し離れた位置にいた二人が歩いて少しかかった。先客に詠二達が居たのだが、何故か光達を見つけて焦っているのに首を傾げながら一緒に捜索を続ける事にした。
「あ‥‥」
「翼ちゃん、指さしちゃ駄目‥‥」
 数少ない成年、木月・たえ(w3g648)が一升瓶片手に散策中。
 瓶の横に見える銘は「美少年」。
 彼女の横をちょろちょろと子犬のように走り回っているれぅの存在も相まって、端から見てみればその様子は非常に危ない物だ。
「どうしました?」
「いや、あの、その‥‥」
 翼を自分の背に回しながら、アルコールの匂いがきついたえから一歩下がる光。
「‥‥臭いますか‥‥」
 すっと、体を起こして酒瓶と光を見比べるたえ。
「消毒には呑む必要があるので『仕方が無く』飲んでるのですよ‥‥‥本当ですよ?」
 素の表情で返すたえ。

 ――嘘だ。(詠二)
 ――嘘ですね。(美琴)
 ――嘘です。(翼)

「そうなんだ!」
 内心で突っ込む者達3名、信じた者が若干1名。
「ええ、仕方が無くデスよ」
 空々しい嘘も、信じる者がいれば非常に美味な物に変わる。
 のんびりと船の捜索をしていたたえだが、れぅが『お世話します』と懸命になっているのはそのままに、慌てて見落とすのも癪に障るし、うっかりミスでこの『船』の存在を台無しにしてしまうのも怖いと、呑んべぇの振りまでしてみたつもりだが‥‥どっこい、魔皇には体調を狂わせるような酔いは来ない。
 『船』が魔皇の為の船なら、魔皇という存在に反応するということだろうと、人化を解いた状態で居る為だが、そこはさすがに抜けていた。

「ところで皆さん‥‥」
 にやりと、エセ呑んべえの笑み。
「は、はい?」
「何だ?」
「とりあえず消えた鍵は起動キーと思いますが、もう一個の鍵‥‥あれは制御キーと思いません? ‥‥そう、正確には制御システムの起動キーって‥‥」
 ふらーりと、上半身が揺れる振りをするのを、れぅだけが真剣に支えようと、光だけが心配そうにハラハラしながら、そして他の3人はどう対処して良いか判らないと言った引きつった表情で見つめていた。
「どうせ、それは鍵を持って歩いてる人が調べるでしょうから‥‥私は起動後の制御システムの捜索をメインにしているのですが‥‥制御系が殲騎に近いシステムと思いません?」
 ぼうっと、艦橋と思われる場所を見渡しながら言うたえに、詠二と琴美、翼が互いに顔を見合って、考えを纏める為に首を傾げていた。
「たえさん、たえさん、一杯考えたらお腹が空くです。はい、バナナはじおうきょうそーにいいんですよ!」
 むきっと、黄色いバナナを剥いてたえに差し出すれぅ。
「ありがと。‥‥‥ふぇもふぇふ、ふぁふぁふぁは、『ひひょうひょうほう』ひひひほひゃふぁひほひょ?(でもれぅ、バナナは、『滋養強壮』に良いのじゃないわよ?)」
「はいです!」
 口を動かしながらのたえに即答するれぅを見て、美琴と翼は微笑み、詠二は溜息、何故か感動してる光と、中央ブロックにある空間はすっかりピクニック日和だ。
「何言ってるか、わからん‥‥」
 頭を抱えたくなる詠二だった。

●胎動−鼓動、高らかに−
 明の話を聞いていたキリア達の元に、片倉・景顕(w3h430)が逢魔のルフィを伴って歩いてきた。
「どうだった?」
「手詰まりだ。手がかりが少ないと、お前達が言っていたのが身に染みる‥‥」
「‥‥」
 景顕の返答は予測の範囲内だった。
 無言で頷き返したキリアだが、景顕が調査していた物への手がかりが無いと知って、若干残念に思った事は間違いなかった。
 景顕が探していたのは、神帝軍の動きを考えた上での対応策だった。
 この『船』が、もしくはこの屋島城跡の奥にある物が稼働すれば神帝軍の者にも扱える可能性があると踏んだからこそ、今まで魔皇達は手加減とも取れる扱いを受けてきたのだと考えたからだ。
 ならば、神帝軍に使えなくさせる方法があれば、それを見つけ出す。
 更に、神帝軍の物を魔に属する自分達が扱えるようになる方法もないものか‥‥。
 その2つの観点で調査を進めてきたのだが、期待した結果は得られなかったのだ。
「ここの中にも、使えそうな物が無いか探してみたんですが‥‥」
「無かったわね。施設にも無かったし、船の中にも‥‥」
 ルフィと見つめ合って、互いに確認しあうシェリルとフィア。
 3人のナイトノワールには、互いにその想いを与える者の違いがあるだけで、何も変わらない一つの真実がある。
「メガフロートについて判っている範囲の情報を聞いても‥‥まだこちらの船の調査の方が進んでいるから期待するというのでは、役にも立たなかったしな‥‥」
 景顕から愚痴も出るというものだ。
 メガフロート調査に向かった者達に、屋島城跡奥での状況は若干の時差をもって逐一もたらされており、こちらの調査結果が全てあちらの機体の調査情報として用いられているというのが現状だ。
 『鍵』の発見という事件さえ除けば、こちらの船の方が発見が速かったのだから、それも仕方がない事ではあるのだが‥‥。
「‥‥何だ?」
 格納庫では全く稼働しないレーザー測定器を入れた箱を横に置いていた明が、癖で眼鏡を押し上げて船を見る。
「シェリル、行くぞ‥‥」
「はい」
 明には判らなかったが、キリア達には二度目の『現象』だった。
 微かな違和感の後で、船体に殲騎の如き‥‥生命の躍動が感じられたのだ。

●復活−眠り、未だ深く−
「殲騎と同じなら〜」
 酔っぱらいの論理を振りかざして、たえがコアヴィークルを召喚する。
「わーい。どらいぶ、どらいぶ〜」
 少し意味が違うのだが、喜んでたえの後ろに座り込むれぅに苦笑するしかない一同。
「何々? 騒がしいわね〜」
「‥‥コアヴィークル?」
 御国を伴って部屋に入ってきた結夏は、楽しげなれぅとコアヴィークルに跨るたえの姿を見てこれは試してなかったわねと御国を見上げた。
「‥‥こうやって見たら‥‥ね、ここの部分とか、殲騎のコックピットのコネクト部分に似てないかな?」
 光が不思議そうに言うのに、一同も広い部屋の中に各所にある窪みを改めて見た。
「どうしたんだ、ここで何が?」
 遅れて走り込んできたジェフト・イルクマー(w3c686)とセラティス達。
 《トリガー》を持っていたジェフトと、《次元羅針盤》を持っていたセラティスが部屋に入った瞬間に、2つの鍵が淡い燐光を放つように光り出した。
「これは?」
 ジェフトが、自分の手の中で徐々に浮かび上がって行く《トリガー》の放つ『気』のような存在に息を呑む。
 まるで、初めて魔皇に覚醒した時のような‥‥懐かしさを伴った『波動』を感じたのだ。
「ジェフトさん、これは私達と同じ闇の眷属の‥‥」
 セラティスが見せた嬉しそうな微笑み。
 それは、大切な人、ジェフトに確かな力となってくれる存在を見いだしたからなのかも知れない。
 彼等の手から浮かんだ2つの《鍵》は、部屋の中央部分にまで移動すると、それぞれが放つ光の中にとけ込むようにその姿を消して、天井部分と床の部位にある装置らしき物に溶け込んでいった。
「‥‥何かが変わるかな‥‥」
 酔いの表情を忘れて、たえが見下ろした先‥‥光が唱えた、殲騎のコックピットのコネクト部に似た窪みにコアヴィークルのフロントノーズを向けると、窪みの中央部からコアヴィークルを導くように光が走り、殲騎に接続する際の変形をフロントノーズが見せた。
「御国!」
「翼ちゃん、行くよ!」
 たえのコアヴィークルが船と一つに繋がった瞬間に、結夏と光もコアヴィークルを召喚していた。
 部屋の中央部、左右、かなりの数がある窪みのそれぞれに、殲騎の召喚合体時に見せる変形と共にコアヴィークル達が接続される。
「ん〜〜。よく寝てたの〜」
「‥‥寝ぼけてる?」
 たえの背で、寝ぼけまなこでいるれぅの表情は殲騎に乗り込んだ時のそれと同じだ。
「‥‥護りたい‥‥護るの‥‥私が魔皇様‥‥光くんを‥‥」
「翼ちゃん?」
 先の《鍵》の発動に似たトランス状態と同じ表情の翼に、光が慌てて振り向いた時、翼が何時に内地からで光に抱きついてきて、押し倒される恰好でコアヴィークルの上に突っ伏してしまった。
「大丈夫なのか、セラティス?」
 試してみましょうと、御国達の様子を窺っていたセラティスに言われて、ジェフトもコアヴィークルを召喚する。
 何かが彼女に起これば、それから護る事が出来るのかという一抹の不安も、一度決心した表情を見せたセラティスには通じないと判っていたからだ。
「これは‥‥」
 部屋に走り込んできた明、景顕達が息を飲む横を、キリアがシェリルを伴って進む。
「いけるな?」
「はい」
 振り向かずに尋ねたキリアに返したシェリルが、コアヴィークルのシートに優雅に飛び乗って、魔皇の背に身を預ける。
「‥‥コントロール復活。《活動停止状態》から《活動休止状態》へ‥‥第一、第二解除‥‥結夏‥‥大丈夫だ‥‥これなら‥‥殲騎と同じだ‥‥」
 御国が表情を緩やかにして微笑んだ。
「‥‥ホントに?」
「‥‥ああ」
 頷いた御国に、結夏は身体を捻るのももどかしくしがみついた。

「殲騎と一緒ですよ〜少し違うのは、お船の中にもれぅみたいな‥‥逢魔みたいな意識がある事かなぁ?」
 逢魔達の話を合わせてゆくと、船そのものの操縦方法は殲騎と変わりないと判る。
 コアヴィークルの召喚と接続によって船の各部位の操縦権が魔皇に渡され、エネルギー、情報の整理伝達の全てを逢魔が担当するという部分は‥‥だが‥‥。
「第三システムはまだ稼働していないですわ。第一、第二のシステムからの情報では、《彼等》とは異なる情報を管理しているシステムで。それが起動しない限りは、船は完全でないと言っています」
 シェリルの言葉に、逢魔達は無言で頷いた。
 三つのシステムがそれぞれの領域を侵すことなく稼働して、第一システムが船の維持、第二システムが航行制御を担当している事が判った。
 始めに覚醒したのが第一システムだけだったので、船の復旧そのものは遅れているらしい。
 航行管理システムの情報では、この船の収められた格納庫のシステムを復旧させなければ発進が叶わず、その為のエネルギーも現状では船が集めたエネルギーで賄わなければいけないそうだ。
 船前方の施設の施錠・開錠も施設の復旧とシステムの復旧が終われば船内でコントロールが可能だが、出口の地図に関しては余りに現代の地図と比較出来ない変化がある為に、憶測の域を出ないと言うのが正確な所だった。
「この地図と重ねて考えると?」
「‥‥距離が曖昧だけれど‥‥海の中じゃないかな? 志度沖?」
 何か、忘れていた話を思い出しかける魔皇達。
「でも、少ししたら、稼働したシステムが余剰分のエネルギーを第三システムと施設の復旧に回してくれますから、およそ一月以内には復旧出来るみたいです」
 ジェフトが言葉に表すことなくセラティスを気遣って支えているのが嬉しい。その気持ちが表情に表れているセラティスの言葉は本当に嬉しそうな物だ。
「第二システムと第一システムの総合情報ですけど‥‥両舷の格納庫で殲騎を召喚してみて下さい‥‥」
「両舷の格納庫?」
 おずおずと伝える翼に首を傾げ、共に移動した格納庫で光と翼が殲騎を召喚する。
「それぞれ、ハンガーがあるのでそこに殲騎を格納出来ます。余り使いたくありませんが、修復も可能です‥‥」
 翼の吐息が耳朶に掛かって、何故かそれを意識してしまう光だった。
 彼の殲騎を見上げていた魔皇と逢魔達の中で、明は誰に言うでもなく格納庫を見渡して呟いた。
「この船の存在もですが、果たしてこの戦いは、何をもって終わるのでしょうかね。神帝の打倒のみなのか、私達の身の安全と神帝軍の支配の解除が出来ればそれでいいのか。それとも、神に属する者全てを滅ぼすまで終わらないのか‥‥」
 フィアに渡した短剣ごと、震える彼女の手を包み込むようにして握り締めてやる。
「せめて、これ以上誰も傷つかなくて済むようになればいいのですけど‥‥」
 明とフィアの言葉に返せる者は、誰も居なかった。
 ただ、静かに唸りをあげる船体の鼓動が、魔皇達を包むばかりだった。

【第七話・完】