■【翡翠・紫の夜】九州解放 ‐防人の大地‐■
商品名 流伝の泉・キャンペーンシナリオ クリエーター名 小沢田コミアキ
オープニング
 セフィロト事件以降、九州での神魔の情勢は一変した。ペトロ亡き後、彼の跡を継いだ大天使ラジエルが主戦派を纏めていたがそれも過激派魔皇のテロで暗殺される。以後、神帝軍支配に徐々に世論の逆風が起ころうとしている中、福岡の久留米テンプルムにゲブラーら主戦派の残党が終結し、各テンプルム連携での徹底抗戦を呼びかけた。だが主戦派最後の指導者を失ってた今の九州では各地のテンプルムの反応は冷ややかだった。
 その中で最も早く動きを見せたのが長崎の勢力だ。主戦論を唱えていた大天使ザドキエルをセフィロトで失った結果、テンプルム内の穏健派が実権を握り、長崎・ハウステンボス両テンプルムは久留米中心の神帝軍勢力から離反した。
「これは、極めて微妙な関係なのです」
 天神の密の長・黒木は語る。セフィロト以後、盲目的な神帝軍支持は影を潜めた。感情収集の事実も徐々に明るみになって来ている。その中で、長崎はこれまで慈善事業から感情収集を推し進め比較的支持を得ていたことと、隣県佐賀が中立地帯であるという地の利、それを背景に停戦と共存を申し出てきたのだ。
 停戦はまだ翡翠として合意した訳ではない。連絡を受けた密が鼎へこれから進言する所だと言う。どうなるかはまだはっきりと言えないが、確実なのは一つ。今がまさに最終決戦を控えた紫の夜前夜であり、停戦の意志に関わらず九州の各テンプルムを守る絶対不可侵領域は掻き消えるということだ。だが紫の夜は間違いなく断行される。決戦後も大きな戦力を持ち続ける鹿児島の神帝軍を討つ計画が既に持ち上がっているからだ。その点を巡っても色々と問題があるようだ。
「停戦工作は既に始まっています。現在はその条件を巡り、双方がどれだけ歩み寄れるかという段階、その最大の争点は感情収集についてでしょう」
 黒木は簡単にそれまでの経緯を説明した。発端となったのは、主戦派に身をおきながら極秘裏に離反したあるグレゴールからの情報だった。身の安全と引き換えに彼女が差し出した幾つかの機密情報の中には、感情収集システムについての情報もあったのだ。
 神帝軍との和平における最大の問題はこの感情収拾にある。これは多くの魔の者が受け入れぬ事実でもある。ましてや、人間からすれば彼らの家畜になることなぞ望もう筈もない。かといってこれを止めた場合は、マザーやエンジェルはエネルギー供給を絶たれて死滅する。当然、テンプルムにそのような機能もない。双方の生命の保証を前提にする以上、ここは彼らにとって譲れぬ条件となるのだ。
「そのグレゴールのもたらした情報は、彼ら神帝軍勢力へのエネルギー供給を保ちつつ感情収集機能を停止させる技術の確立、その可能性を示唆するものでした」
 神帝軍内部で行われていた軍事的な研究の一つがこの技術に転用できるのではないか、そうそのグレゴールは語ったという。現状では理論構成が進みつつある段階で技術的なアプローチには至っていないが、時間と研究者、そして研究に必要なデータとさえあれば近い将来にそれが確立する見通しは立っているらしい。
「こちらはその情報を元に数名の魔皇様が動いており、現在は調査結果を待っている段階です。この技術における最大の問題点は、感情エネルギーに拠らぬ代価の神輝力供給源の確保が必要という点ですが、そちらも別に魔皇様の協力者を募り調査を進める方針です」
 情勢が一変した今、神魔がこれ以上争うことのメリットなど双方ともにない。和平への道を選ぶのであれば徹底抗戦の構えを取る久留米の残存勢力を排除せねばならない。三月決戦以後長崎テンプルムに逃げ延びていたRGの残党の大半は、長崎勢力の離反を受けて久留米テンプルムに合流した。それに同調するグレゴールも徐々に福岡に集まりつつある。小倉テンプルムも既にこの流れに同調しており、放って置けばいずれ大きな勢力となり再び九州全土を戦火が覆うことにも成りかねない。そうなっては民間への被害も止められず、もはや和平の道は閉ざされるだろう。今が、神魔そして人の三者が最低限の納得を出来る形で和平協定を結べる最後のチャンスなのだ。
「ひとまず、15日の久留米テンプルムへの攻撃は間違いなく行います。その上で、停戦についての工作はそれをも交渉のカードに使い推し進めましょう。決戦まで間がないですが、ここが踏ん張り所ですよ」
 具体的な条件などは、それに適した魔皇達から広く意見を集めるのが一番だろう。これまで翡翠を支えて来た魔皇達の意見を元にしながら工作は進められることと決定している。決戦前夜、翡翠を巡る神魔の戦いはいよいよ収束に向かって動き出す。
シナリオ傾向 久留米テンプルム攻略、和平合意
参加PC 葛葉・刹那
來島・真崎
御影・涼
ゼスター・ヴァルログ
ヴァレス・デュノフガリオ
御神・咲夜
土守・潤信
神無月・玲香
御剣・彼方
榊原・信也
【翡翠・紫の夜】九州解放 ‐防人の大地‐
 九州の命運を賭けた決戦が始まった。
「野村、ツダ、みんな‥‥見て居てくれ。辛く悲しい戦はもうすぐ終わる、いや終わらせてみせる!」
 土守・潤信(w3f459)のライリューオが狙うは、ゲブラーの残党サブナック。
「キャナルでの因縁ここでケリ着けようぜ!」
 戦端が開かれるや否や來島・真崎(w3a420)の長距離射撃を露払いに、並み居る敵機をすり抜け潤信が敵陣深く一直線にサブナックへ迫る。
『キャナルでの‥‥あの時の魔皇か。いいだろう、ここで引導を渡してやる』
 サブナック機が拳を握り迎え撃つ。二機の拳が交錯した。押し勝ったのはサブナック、得意のゲブラー戦術がなくともその聖鍵戦士としての能力は本物だ。だがその裏をかいて挟み込む様に背後から金色の剣光が駆けた。御影・涼(w3a983)の三山正神だ。太刀は狙い済まして敵機の膝を掠めた。装甲が欠け、更にタイミングをずらして黒い機体が軌道を交差させすれ違い様の斬撃で打ち砕く。NN型の魔凱殲騎・土蜘蛛の特性である高機動性を活かし來島は撹乱の攻撃から間髪入れず離脱する。
「涼、周り中敵だらけだ! サブナックから離れるなよ! 狙い撃ちにされるからな!」
 逢魔・伊珪(w3a983)が警告し、涼がサブナックの退路を絶つ様に潤信と挟み込み連撃を浴びせる。同時に潤信も狼風旋で立ち回り的を定めさせない。
『ちょこまかと!』
 それを薙ぎ倒す様にサブナックが得意の廻し蹴りを放つ。ライリューオが直撃を受ける。だが。
「ご自慢の蹴りも足場がないと威力半減って所だな」
「真崎、飛ぶわよ」
 敵機へミサイルを放ち、それを追って逢魔・霧雨(w3a420)の力を借り來島が斧を振り被って音速で飛ぶ。それを囮に弾幕へ紛れて潤信がクローの突きを繰り出した。
『舐めるな、沈め!』
 そこを強烈なカウンターが襲う。今度こそ潤信の機体が傾いだ。だが既に死角には涼が回り込んでいる。サブナックへ向け、音速の剣撃。死闘が幕を開けた。

「‥‥ここが九州の剣が峰ってところか‥最終戦、気張るとするか!」
 榊原・信也(w3h956)はRGの隊長機を相手取っていた。初手の一斉射撃と仲間の援護で隊長・サンの乗るヴァーチャーを引き離し、凶骨型魔凱を駆る葛葉・刹那(w3a213)の奇襲から戦端を開く。
「でたらめな強さですね。まともな手段では敵いませんか」
 上方からの大鎌の奇襲を敵機はSFで打ち消し、ヴァレス・デュノフガリオ(w3c784)のブラッディネストの追撃を機体性能に任せて御し切ると猛烈な反撃に出た。サンに向けて飛び込み様に鎌を振るったヴァレスがカウンターを食らい敵に捕まる。
『その程度の殲騎で敵うと思ってか!』
 ヴァレスを捉え、サンが剣を振るう。
「正面から当たるな! 捉まったら勝ち目はないぞ!」
 下方からミサイルを撃ち込み信也のホワイトフレアが援護し、辛うじてヴァレスが脱出する。
「畜生!」
 ヴァレスが振り向き様に構えた機銃で弾幕を張った。それを目眩ましに真撃破弾の追い撃ち。サンが爆炎に包まれる。
「そして、退路に機雷だ! 吹き飛びやがれ!」
 敵後方に向けて止めのワイズマンクロック。それでケリがついてもおかしくない攻勢だ。それだけにヴァレスは相手取っていたヴァーチャー級ネフィリムの恐ろしさを思い知ることとなる。
「‥‥ヴァレス‥危ない‥‥」
 逢魔・シーナ(w3c784)の警告で一瞬早くヴァレスは真幻魔影を展開していた。攻勢を意にも介さず向かって来たサンを横に並ぶ3機のブラッディネストが待ち受ける。
(「来いよ‥‥返り討ちにしてやるぜ‥‥!」)
 息を潜めヴァレスが反撃の機を窺う。幻影に惑わされた隙を突いて真六方閃で足を止め、鎌で仕留める。彼の誤算は幻魔影が少しも通用しなかったことだ。
『まずは一騎! 機体に慣れるには実戦が一番か』
 剣に宿した強い光でヴァレスを貫き、そのまま抉り取る様に殲騎をバラす。殲騎が大破し早々にヴァレスが沈んだ。サンは味方の薄い所へ飛ぶ。その針路を断つように信也が前を横切りながら斬撃を見舞った。
 太刀の薙ぎ払いと同時に放たれたのは六方閃。魔弾が敵機の足を止め、瞬発力を活かして信也は逸早く離脱する。遅れて追おうとするサンを葛葉の鎌が牽制した。
「流石はヴァーチャー。それもRGの隊長が乗ってるだけのことはあるな」
 残党とはいえ、久留米に集まったのは激戦を戦い抜いた手練揃い。魔皇達は苦戦を強いられる。
「さぁ‥‥恐怖の最終章の始まりだ‥‥」
 神無月・玲香(w3f486)にとってRGは因縁の相手。今日こそは決着をつける時だ。
「すまんな。今回はお前に色々と迷惑を掛ける」
 NN型魔凱に乗るのはゼスター・ヴァルログ(w3c305)と逢魔・ソフィア(w3c305)。
「有り難うございます。‥‥ですが私は大丈夫です。‥‥さぁ、これが最後です、征きましょう!」
「ああ、これで九州の戦いも最後だ。征くぞ!」
 二人にとってもRGは宿敵だ。ステルスの炙り出しは初手の衝雷撃が有効、何度も対策を講じた彼らに戦術面での死角はない。だが連携の不手際で魔皇達はそのタイミングを巧く合わせられずにいた。
「来るわよ、気をつけて‥‥」
 逢魔・神無(w3f486)の警告に皆が身を固くする。RG最大の脅威はステルスアサシン。
「畜生、やられた!」
 玲香の前衛を務めていた御剣・彼方(w3f759)の焔龍が攻撃を受ける。現れた敵機へすかさず御神・咲夜(w3e857)の月読がミサイルの弾幕を浴びせ、狼風旋の加速をテラーウィングに乗せて御剣が素早く距離を取る。
「ええい、やはりステルスは鬱陶しい」
 玲香が鎌を持ち上げ敵機を薙ぐが切っ先は装甲を薄く切り裂いただけだ。この程度の綻びでは空中戦での視認は難しい。
「今度はあっちからよ。一体何体居るのやら‥‥」
 その機体を囮にしてもう一体が御神の背に回り込んでいた。振り向き様に御神が蛇縛呪を放つ。
「効いた!?」
 敵機は魔力に身動きを奪われ墜落した。だがその後ろから用心深くもう一体が忍び寄っている。
「気をつけろ! 重なっての連携攻撃は奴等の常套手段だ!」
 御剣が砲撃を加え、その隙に御神がウィングで急旋回する。再び消えた敵機へ御神はミサイルの弾幕を向ける。この至近からなら射線に敵の姿を浮かび上がる。そうして予測した位置へ即座に弓を射る。
 ゼスターの魔凱が太刀を手に飛び込んだ。更に御剣も挟撃の構えを見せる。斬撃が重なり、敵機の装甲へ大きな切れ目が入った。ゼスターのインフィニティフィアーが離脱し、入れ替わりに玲香がそこへ散弾銃を構えて突進する。
「無敵の装甲も裂け目が入ったらどうなるかは知っているか?」
 体ごとぶつかるように密着し、裂け目に銃口を当てて引き金を引く。零距離射撃は内部から敵機をズタズタにした。だが振りほどこうとした敵機の動きで銃口がそれ、装甲表面からの跳弾が玲香を襲う。そこへ残りのRG機が玲香に襲い掛かる。寸での所で逢魔・カレン(w3f759)とソフィアの忍び寄る闇が僅かながらも視界を遮断し、援護に入った御剣に玲香が背中を預ける。
「まずいな」
 ゼスターが忌々しげに漏らす。苦肉の策として狼風旋で瞬発力と魔凱の急制動を繰り返して対策を打つが疲労が溜まることを考えると長くは持つまい。
「これ以上は待てない、頼む!」
 御剣が悲痛な叫びを上げる。この中で衝雷撃を撃てるのは御神だけ。覚悟を決めて月読が飛び出した。
(「一度っきりの離れ業よ」)
 仲間を離れミサイルで道をこじ開ける。そして、広範を覆う衝雷撃が放たれる。タイミングを合わせ御神のカバーできない所へ玲香と御剣がそれぞれ撃破弾とショルダーキャノンの砲撃を加える。雷撃は玲香達味方をも巻き込み、RGのステルスをこじ開けた。
「見えたぞ。これで戦える!」
 御剣が燕貫閃で一点に集約させた突きを手近なRGに向けた。ステルス相手には無謀な突きも、姿を現した相手なら遠慮せずに放てる。更に勢いに乗せて玲香が猛追し、頭部を目掛けて火力を叩き込む。
「だが、さすがRG! 固い!」
 しかし敵機はまだ倒れない。再びRGの反撃が始まる。
「咲ネエ! 来るよ!!」
 孤立した御神を敵機が取り囲んだ。こうなっては逢魔・北斗(w3e857)の時空飛翔で逃げることは出来ない。それ救ったのはゼスターだ。月読を狙うRGの背後から強烈な突きで串刺しにし、そのまままだ生きている機体を盾代わりにして残りを相手取る。その隙に御神が離脱する。
『魔凱か、鬱陶しい物を!』
 立ち塞がるRGを串刺しにした敵機ごとゼスターが両断した。
「これならば貴様らの装甲でも防げまい!終わりだ!!」


 戦いに先駆け、翡翠と長崎の神帝軍勢力との間で結ばれた停戦協定。魔皇側の提示した条件は4つ。
 まず感情搾取の事実・詳細を、神帝軍側から公式に人間側へ公開する事。その上で人間側からの代表者を交え、三者による和平会談を行う。更に感情収拾を停止する技術の早期確立の為の合同機関・ミチザネ機関、並びに当面の九州の治安を守る和平維持機構の発足。大宰府に眠る菅原公に因んだミチザネ機関は、翡翠の森で見つかった新たなエネルギーの解明にも当たり、和平維持機構は神魔人の交渉の場を定期的に用意する。
 長崎神帝軍はそれと引き換えに他の穏健派へ働き掛け停戦の枠組みを提供する。ここに和平への道が開き始める。
「この状況を作り出す為に多くの仲間を失いつつも神帝軍の主戦派と戦い抜いてきました」
 その障害たるヴァーチャーを前にし、葛葉のファイヤクレストが魔凱の鎌を振り被った。
『魔凱を残したといえ僅か2騎でこの私を倒せるなどと思い上がりも甚だしいぞ!』
 葛葉がそれを振り下ろすより早くサンが急加速でファイヤクレストに迫る。
「信也様、ここが堪え所よ!」
「お、おう‥‥分かってるさ!」
 逢魔・サヤカ(w3h956)の力を借り、ホワイトフレアがサンの前に単身立ちはだかる。
『邪魔立てするなら消えてもらうまで!』
 一際眩い光が剣に宿り、それが信也を襲う。殲騎の装甲が砕け、鎧が悲鳴を上げる。
「見てろよ、やり遂げて見せるさ」
 だが信也は譲らない。彼の手から朧明蛍が飛び出し、更にサンの眼前を塞ぐ様にミサイルが爆発した。その僅かな隙さえあれば葛葉には十分だった。
「九州における神魔の争いに終止符を打つ。これが九州奪還のための最後の一撃です!」
 テンプルムすら引き裂く魔凱の大鎌、それがサンへ向けて放たれた。

 サブナックとの戦いも決着を迎えている。執拗な連携の末、遂にライリューオの角が敵機を捉えた。この戦いで男が初めて見せた決定的な隙。
(「ここが勝機! 全身全霊を懸けて、今こそ勝負に――!」)
 潤信が最大噴射で機体を急上昇させる。
「伊珪! ちょっと無理するが応えてくれよ!」
 伊珪が涼の呼び掛けにいつものような笑みを返す。
「だって俺がいねーと、涼、駄目だもんな! あんなヤツ、俺達皆でブッちぎろーぜ!」
「私の負担なら気にするだけ無駄よ?真崎。‥だから、全力で、ね」
 霧の言葉に來島も無言で頷く。呼吸を一つに合わせ、三機が同時に動く。
『くそ! 腕がイカレたか!? だが構わん、来るなら来いよ、魔皇! 血の海に沈めてやるよ!』
 そこへ來島の機体が高速接近する。やや大振りになりながらの斧の横薙ぎ。
『馬鹿が。もう一度思い知らせてやる。貴様らはカモだ、俺達ゲブラーのなァ!』
 來島の一撃は確かに敵機を捉えた。だがカウンターの蹴りが彼を待ち受けている。土蜘蛛の機体をサブナックの脚が貫き、來島はNN最大の武器である機動性を封じられた。
「だがこれでいい。絡め取ること、それが蜘蛛の役目だ」
 既に下方には涼が回り込んでいた。十分に力を溜め加速と遠心力を乗せた太刀、それが敵機を真下から狙っている。土蜘蛛が邪魔で逃げられずサブナックは咄嗟に両手で防御を試みる。その彼の機体を影が覆った。
(「俺も、潤信も真崎さんも、皆の息を完全一致して間髪入れない連携攻撃。だけど、この3人なら可能」)
 最後の戦闘、この瞬間の為に仲間達は戦って来た。『C』を追って来た意地とこれまで築いて来た未来への為、負けられない。
(「共に戦ってきた仲間とならどんな困難にも打ち勝てる。そうだろ、涼、真崎?」)
 上空に飛んだライリューオが真上からサブナックを狙っている。重力+噴射加速+殲騎質量+螺旋回転+獣牙突――! 一点に集約されたそれはネフィリムをも粉砕する。技の名はS・S・C(スパイラル・ソウル・クラッシャー)。
『馬鹿な、この俺が‥‥!』
 それが男の最期となった。涼の斬撃と潤信のS・S・Cとが機体を引き裂き、サブナック機は四散した。

『血迷ったか。この程度の目眩ましでこの私を止めれるなどと思うなよ!』
 信也の技ではヴァーチャーを止めることは出来ない。袈裟懸けの重い剣が信也を切り裂く。だがそれを囮にして葛葉の放った鎌がサンを襲う。
『斯様な児戯がこの私に通用すると思ったか。愚かな』
 サンは見切っていた。信也の機体を蹴って飛ぶと、サンは魔凱の鎌をかわす。
『相棒も、最大の武器も失った! 次に失うのはその魔凱だ!』
 葛葉に向き直ったサンが再び剣を構える。だが。
(「ヴァーチャーの防御をこじ開けました。大鎌は、囮。最大の脅威を防ぎきったという油断、隙を誘います」)
 投擲と同時に葛葉は翼を翻し大鎌の後を追う様に突入していた。その手が虚空から剣を掴む。
(「この一刹那の勝機に賭けます。そして。生きて還りますよ。ミラーシュと温泉に行く約束もしましたからね」)
 信也もまた、機体に激しい損傷を追いながらも葛葉への道を空けて上へ飛ぶ。その太刀に魔の力が宿る。全身全霊を込めた突き、二人の魔皇の渾身の一撃がサンを襲う。
 そして。
『‥‥こ、この私がよもや‥』
 その攻撃は敵機を捉えた。そして何よりも驚くべきは、それでいて尚、重度の破損を負いながらも持ち堪えたヴァーチャーの性能。
『これ以上は無理か。覚えておけ、魔皇よ』
 機体を翻し、サンが飛ぶ。
『この機体での経験が浅い故に今回はやられたが、いずれ性能を存分に引き出して見せる。次はないと思え!』
 もはや二人にそれを追う力は残されていない。サンはテンプルムへ向け撤退した。

「お前の命‥‥使わせてもらうぞ」
 RGの残党を相手に苦戦していた玲香は機体の損傷も激しい。手近な敵機から強引に生命力を奪いひとまずの回復を図る。
「ゼスター、魔力が底をつきかけています。DFは温存して下さい」
「その必要はなさそうだな」
 抗戦派の要を失い敵陣営は撤退を始めた。だが既にテンプルムは緩やかに高度を下げ、墜落を始めている。勝敗を決定的にしたのは長崎の穏健派による停戦・降伏勧告であった。
『これ以上の戦いは無用。即刻戦闘を停止せよ』
 長崎から駆けつけたヴァーチャーが全軍に降伏を促す。
『既に、熊本・大分・宮崎三県の勢力は我らに恭順の姿勢を示している。繰り返す、これ以上の‥‥』
「ねぇ玲香。これで九州は解放されたかな? 少なくとも表面上は‥‥」
 浮き足立った敵軍の大部分は長崎に下った。だがサンを核にした一団は小倉テンプルムへと逃げ延びた。
「さあな。だが少なくとも私達の戦いと散っていった仲間達は無駄ではなかった。そう、思う」
 神無の問いへ答える玲香の表情は固い。
「この技、これっきりにしてよね〜」
 S・S・Cを決めた後、逢魔・火狩(w3f459)は倒れこむ様に潤信の背に身を投げ出した。目を回している火狩に釣られて潤信も二人で苦笑する。
 九州に残る抗戦派は大きく勢力を削がれた。ゲブラーの魔皇狩り、Cを巡る戦い、そしてあの翡翠決戦。幾度となく襲う絶望的な状況を前にしても彼らは戦い続けた。
「さぁ、帰ろうぜ! オレ達の故郷に」
 この一年を戦い抜いた九州の防人達、その果てに見たのは、長く苦しい戦いの続いていたここ九州、その解放の時だった。