■真千虎麻妃忍法帳■
商品名 流伝の泉・ショートシナリオEX クリエーター名 マレーア
オープニング
●謎のくノ一ニンジャ
 くノ一ニンジャが町を歩いていた。
「寒い‥‥心が寒い‥‥」
 ひっきりなしに漏れるつぶやき。ぽかぽか陽気まっただ中の大通りで、くの一ニンジャの半径1mの空間だけが、空気の色が違って見える。
 まるで時代劇から抜け出してきたような‥‥いや、まるでRPGの世界から抜け出してきたようなニンジャコスチューム、背中には2本のニンジャ・ソード。なぜか顔を隠す覆面は真知子巻き。その姿を見て、道行く人がササッと避けていく。
 ふと、くノ一の歩みが止まる。
「後をつけられている。‥‥追っ手か!?」
 振り向くと、そこには好奇心で目を輝かせた小学生の集団がいた。
「わ〜、すげえ格好!」
「お姉さん、それって何のコスプレなの〜?」
 くノ一の手が背中のニンジャ・ソードにさっと伸びる。
「寄らば、斬る!」
 すると、電柱の上から様子を見守っていたらしいファンタズマが、白い羽を広げてさっと舞い降りてきた。
「ボクたち、あまりそばに寄っちゃだめよ。このお姉さんは抜け忍で、追っ手から逃げているの。近づきすぎると追っ手と間違われて、バッサリ斬られちゃうわよ」

 くノ一ニンジャがファミレスに入る。
「いらっしゃいませ‥‥。あの、ご注文は‥‥」
 ウェイトレスが引きつった営業スマイルを浮かべながらメニューを差し出したが、くの一ニンジャはそれに目を通しもせずオーダーした。
「暖かい甘酒、それに汁粉を一杯」
「あ、あの‥‥すみません。当店のメニューにはないのですが‥‥」
 くノ一の手が背中のニンジャ・ソードにさっと伸びる。
「出さねば、斬る!」
 すると横からファンタズマが割って入った。
「言うとおりにしないと、本当に斬られちゃうわよ。とりあえず安物でも賞味期限切れでもいいからコンビニとかディスカウントストアとか探して買ってきてちょーだい。で、ツケは山口テンプルムに請求してね」
 言って、ファンタズマはくノ一の真向かいの席に座った。
「すまぬな、シロ。あたしの心を分かってくれるのは、おまえだけだ」
 シロと呼ばれたファンタズマは、お寒そうなくノ一とは対照的にぽかぽかと暖かそうな笑顔をふりまいている。
「ねえ、せっかく山口まで戻ってきたんだし、ついでに山口テンプルムにも顔出さない? クロイゼル様も心配していると思うんだけどな〜」
「それはまだ早い。あたしの悲願、魔皇千人斬りがまだ成就していないのだからな。魔皇千人斬りを志し、抜け忍となりて流浪の旅に出て、斬った魔皇が九百九十七人。残りあと三人だ」
「そうか、残り三人なんだ。これまで色んな場所でいろんな魔皇に会って、魔皇のいろんなところを斬ってきたよね。あ〜んなところを斬っちゃったり、こ〜んなところを斬っちゃったり‥‥」
「あと三人、あと三人の魔皇を斬らば、魔皇千人斬りが成就する。さすればあたしは山口テンプルムに参じ、首領クロイゼルに果たし合いを挑もう。破れて死するはあたしかそれともあの男か。いずれにせよ、それで現世でのあたしの旅は終わる。‥‥くくくくく」

 場面は変わって、ここは山口テンプルム。
「何!? あの真千虎麻妃が山口に戻ってきただと!?」
「はい。その姿を目撃した者がいます。‥‥ところでクロイゼル様、真千虎麻妃とは何者なのです?」
 報告しに来た新参グレゴールに訊ねられ、クロイゼルは苦虫かみ潰したような顔で答えた。
「山口テンプルムの指揮から勝手に飛び出した、はぐれグレゴールだ。無論ちゃっかりとエネルギーは受け取っているがな」
「なぜ、勝手に飛び出すような真似を?」
「ヤツは自分だけの世界にのめり込みすぎた。そして自分の周りの世界が見えなくなった。ただ、それだけのことだ。ある意味典型的なコスプレグレゴールだ」
「‥‥で、処置はいかがいたしましょう」
「放っておけ! 我々に害をなさぬ限りはな!」
 クロイゼルは言い捨てた。
シナリオ傾向 スチャラカ、シリアス、出たとこ勝負
参加PC 竜堂・夢幻
月代・千沙夜
ツルギノ・ユウト
白神・朔耶
真田・浩之
クリス・ディータ
栄神・春日
天草・渉
霧隠・孤影
天野・レイ
真千虎麻妃忍法帳
真千虎麻妃忍法帳

●忍びとは何する者ぞ?
 ここは歴史の街・山口県山口市。そしてここは町中のファミレス。中では忍者装束の若者がパフェにかじりついている。
「美味しいです〜ジャンボパフェ〜♪」
 さすがは歴史の街、山口。‥‥違〜う! これは山口県の由緒正しい歴史とは無関係なのだ。‥‥多分。
 若者の名は霧隠・孤影(w3i395)。自分を忍者だと勘違いしてる電波系高校生にして、人間以上の能力を備えた魔皇である。
 ふと離れた席に目をやった孤影は、自分と同じく忍者装束をまとった女が座っているのに気づいた。同じファミレスに忍者装束が二人も! さすがは歴史の街、山口。‥‥いや違う! これは単なる偶然の一致だ。きっとそうだ。
 話を戻そう。その女は魔皇の宿敵・グレゴールの気配を放ち、しかもその真向かいの席でニコニコ笑っているのはファンタズマではないか。こいつは敵だ! 孤影は悟った。
「忍者!! 追っ手なのです!」
 サムライブレードの柄に手をやり、立ち上がって叫ぶ霧隠。‥‥でも、とっても萌え声だ。客の視線が一斉に集中するが、相手の女忍者は微塵だに動かない。困った顔でウェイトレスのお姉さんが注意する。
「キミ、大声出したりして。他のお客様に迷惑がかかるでしよう?」
 ガッシャァァァーン!!
 ファミレスの窓ガラスをぶち破って現れたのは、どっかで見たようなコスチュームを羽織った男の子の魔皇、天草・渉(w3h296)。
「お待たせしました! うずまきナル‥‥ガハ!」
 後をついてきたネズミさんコスチュームの逢魔パッチー(w3h296)が、ファミレスの椅子でどついて突っ込み入れる。
「それは違うだッちゅ!」
 天草すぐに立ち上がり、真千虎麻妃を指さして叫ぶ。
「そこのコスプレ忍者! 今から、見せてやるぞ! オイラの自慢の忍ポ‥‥げばぁ!」
「そもそも、やろうとしてる事が間違ってるだっちゅ〜!」
 またもパッチーに突っ込まれ、床に突っ伏す天草。それでも再び立ち上がり、テーブルの上に仁王立ちして言い放つ。
「さあ! 死にたくないヤツはここを去れ! ‥‥はぁ?」
 真千虎麻妃、そそくさと立ち上がり、ファミレスから外に出ていく。
「ガキの相手など‥‥くだらぬ」
「待てぇ! 逃げる気かぁ!?」
 後を追おうとした天草の前に、渋い顔したファミレスの店長が立っていた。
「キミい〜。破った窓ガラスはきちんと弁償してもらうからねぇ〜!」

●イッツ・ブシドー
 ここは山口市内、湯田温泉。白狐にまつわる温泉伝説にあやかり、温泉のイメージ・キャラクターの白狐、『ゆう太』くんのマークや石像があちこちにちらほら。そんな温泉街を妙齢の女性を付き従えた少女が歩いている。白神・朔耶(w3e749)と逢魔・鵺(w3e749)だ。
「‥‥なぁ‥‥最近、わしなんでこんな格好ばかりしておるんじゃろうなぁ? ‥‥って、鵺! 写真を撮るな!」
 カシャ、カシャ、カシャ。鳴り響くシャッターの音。
「ん〜? まぁまぁいいじゃない、似合ってるんだから〜。それに〜これ見たら晶が喜ぶわよ〜♪」
 朔耶と鵺、なぜか二人ともお色気ムンムンな超ミニのくの一姿。さすがは歴史の街、山口‥‥違う!
 と、その目の前を真千虎麻妃が風のように走っていく。
「待つのです!」
「待つのだぁ〜!」
「待つだっちゅ〜!」
 その後を追いかける三人は、霧隠に天草にパッチー。
 鵺がつぶやいた。
「あれは、魔皇千人斬りとかで世を騒がすグレゴール、真千虎麻妃!」
「大体あんなコスプレグレがおるのがいかんのじゃ!」
 成り行きに巻き込まれるままに、朔耶と鵺も後を追う。

「しつこいガキどもめ‥‥!」
 真千虎麻妃が立ち止まって振り向く。
「コスプレ忍者め! もう逃がさないぞ!」
 叫ぶ天草。温泉街でいきなり始まった騒ぎに、一体何ごとかと通行人が色めき立つ。そこへ駆けつけたのが逢魔・零(w3a527)と鵺。
「これからドラマの撮影ありますので一般の方はテープの外側にお下がりください!」
「はいはいそれじゃいまから撮影だからね〜! 一般人は入っちゃ駄目よ〜!」
 現場に黄色いテープを張り巡らして一般人を遠ざける。人々の驚きの目が好奇心のそれに代わり、黄色いテープの外側に人だかりができ始める。
 天草、自分の手を噛みきって、血に濡れた手であれこれと印を結ぶ。
「忍法! 口寄せの術!!」
 一声叫んで地面に手をつける。‥‥‥何も起こらない。
「あれ? 茶蔵が足りない?」
「茶苦羅とかそーいう問題じゃないだっちゅ!」
 どげし! パッチー、今度はかかと落としでツッコミ。
「だはぁ!」
 突き飛ばされて地面に突っ込んだ天草、顔面土だらけになって立ち上がる。
「もうやめだ! 何が忍者だ!」
 人々の見守る前で真雷獣のタテガミを召喚して装備。
「北に南に東西! 金髪童子の天才冒険家! 泣く子も黙る色男! 天草渉とはオイラの事だ!」
 タテガミ付けた首を思いっきり回す。ぶるん、ぶるん、ぶるん。
「オーッ! イッツ、カブキアクション!」
 見守る観衆の中から歓声が飛ぶ。真千虎麻妃の目が細まった。
「魔皇殻を召喚するとは。さては貴様、魔皇だな! ならば容赦はせん!」
 疾風のごとく疾走する真千虎。天草とすれ違いざま、忍者刀を振りかぶる。その刃と真雷獣のタテガミがぶつかり合った刹那、目もくらむばかりにスパークが輝いた。ザンッ!
「なにっ!?」
 天草が後ろを振り向くと、切り取ったばかりのタテガミをこれ見よがしに手にぶら下げた真千虎が立っていた。
「これで九百九十八人目。このタテガミはもらっていくぞ」
 そのまま背を向け、立ち去ろうとする真千虎。
「まだだ、まだオイラは倒れないぞ! 切り裂け!真!シュリケンブゥゥメラァァン!」
 天草、真シュリケンブーメランを投げつける。
「ええい! くどいぞ!」
 真千虎がサッと振り向き、忍者刀で手裏剣を跳ね返と、そのままスタスタと歩き去る。
「負けた‥‥。今までの浮気のせいで天が我を見放したか。かくなる上は切腹だ!」
 天草、羽織ったコスチュームをサッと脱ぐと、下に着込んだ白無垢の着物が露わになった。
「介錯するだっちゅ〜」
 街の店先で売っていた健康孫の手構えて後ろに立つパッチー。
「ディスイズ、ブシドー!」
 天草、召喚した真グレートザンバーで腹かっさばく。腹の皮一枚、つーっと切れた。
「痛い! ‥‥やっぱり止めだ」
 周囲からパチパチと拍手喝采の音。
「オーッ! ワンダフルサムライショー!」
「ニホンノシンピデェース!」
 さすがは歴史の町、山口‥‥だから違うって!

●温泉街でコスグレ見物(をい)
 湯田温泉の町中をさも物珍しそうに歩く女と、その腕に抱かれて歩く娘が一人。
「ここが‥‥噂の山口か‥‥」
「山口‥‥仙台に次ぐワンダーランドというのは本当なのでしょうか?」
 女の装いはロングのチャイナドレス。黒地に蒼で蝶の刺繍があでやかだ。対する娘のほうは、チャイナタイプの膝丈のゴスロリドレス。こちらにもやはり、黒地に赤で蝶の刺繍が入っている。この二人は栄神・春日(w3g978)と逢魔・ルシファー(w3g978)。2人がここにやってきたのは、何かと噂の山口の実態をその目で確かめるためである。
「マスター、あれを‥‥」
 道端に東屋がある。床にはお湯が張られ、5、6人が座れるほどの腰掛けが備えられている。『足湯』という立て札が立てられたその場所は、温泉街のあちこちに設けられている休息所の一つだ。そこには先客がいた。観光客風の女性二人。月代・千沙夜(w3a548)と逢魔・シンクレア(w3a548)だ。
 ルシファーが女性二人に声をかける。
「あの、もしや‥‥あなた様方は月代様とシンクレア様ではありませんか?」
「そうですが‥‥」
「ああ、やっぱり! 私、ナイトノワールのルシファーと申します。こちらは私のマスター、栄神春日様ですの」
 シンクレアが顔を輝かせる。
「ああ、春日様とルシファー様だったのね。あなた達のことも密から聞いてるわ」
 そしてシンクレアは自分のマスターに春日とルシファーを紹介する。
「わたし達と同じように、山口名物コスプレグレゴールを見物に来た方々よ。今夜は同じホテルに泊まることになってるの」
「あら、そうだったの。よろしくお願いしますわね」
 軽くお辞儀する千沙夜。春日が訊ねる。
「ところで噂のコスグレだが、どこに行けばお目にかかれるのだろうな?」
「気長に待っていれば、そのうち向こうからやってくるでしょう? ‥‥ほら、やってきた」
 向こうから真千虎麻妃が、ファンタズマのシロを肩に乗っけてぶつぶつ呟きながら歩いてきた。
「寒い‥‥寒い‥‥心が寒い‥‥」
「コスグレさ〜ん、ここ、暖かいですよ」
 シンクレアが呼び止めると、真千虎は無言でシンクレアの横に座った。
「お団子と柏餅と甘酒、それにほんのり甘めの冷やし抹茶もありますよ」
 お菓子の包みを紐解くシンクレア。それをじっと見つめる真千虎。
「お団子‥‥柏餅‥‥甘酒‥‥」
 物欲しそうな呟きが唇から漏れる。が、真千虎はプイと顔を背けた。
「毒入りやも知れぬのに、そんな菓子が食えるか! 忍びは食わねど高楊枝‥‥」
「そんな無理しなくてもいーのよ。あたしがちゃーんと毒消ししてあげる☆」
 出されたお菓子にシロがピュアリファイのシャイニングフォースをかける。
「いつもすまぬな、シロ」
 真千虎は黙々と柏餅を食べ始めた。
「訊いてもいいかしら?」
 訊ねたのは千沙夜。
「魔皇千人斬りを目指しているそうね。今までどんな魔皇のどんなところを斬ってきたの?」
 柏餅を口に運ぶ真千虎の手がぴたりと止まる。
「あれは‥‥桜餅のおいしい時分であった」
 真千虎は呻くように語り始める。
「あの時‥‥私は食うや食わずで北海道の山中を彷徨っていた‥‥。ふと足下を見ると、コンビニの買い物袋が落ちていた。中にはパックに入った桜餅‥‥ああ、あの桜餅の姿が今でも目に浮かぶ」
「なんで、そんな所に桜餅が?」
 訊ねる千沙夜にシロが答える。
「冬山キャンプに来てた誰かが捨ててったのよ。賞味期限切れてたから」
「私は感激のあまり涙を流し、桜餅にかぶりつこうとした。その時‥‥あの魔皇が襲ってきたのだ!」
 真千虎の目が怒りに燃える。
「そして不覚にも、私は魔皇との戦いの最中に、その桜餅を谷川に落としてしまったのだ。魔皇め! よくも、よくも私の大切な桜餅を! 私は怒りに我を忘れて魔皇に斬りつけた。魔皇は泣いて許しを乞うたが私は許さなかった。泣きわめく魔皇の腹をかっさばくと、そのハラワタをズルズルと引きずり出して、盲腸をバッサリ! ‥‥それが1から数えて58人目の魔皇であった。あの桜餅‥‥あの桜餅のことさえなければ、ヤツも地獄を見ずに済んだものを‥‥フフフフフ! ハハハハハ!」
 仲間と顔を見合わせ、つぶやくシンクレア。
「‥‥食べ物の怨みって、恐ろしいわね」
 と、真千虎が急に立ち上がる。
「む? 追っ手の気配だ」
 見ると、忍び装束の3人がこちらに走ってくる。そのうち2人は超ミニなくノ一コスチューム。春日がつぶやいた。
「さすがは山口、歴史の町だけのことはある」
 違うって! やって来たのは電波系高校生の霧隠、それに朔耶と鵺の二人連れ。さらにその後から逢魔・零が立入禁止の黄色テープを両手いっぱいに抱えて走ってくる。
「ほんっとに世話がやけるわね! は〜い、これからドラマの撮影で〜す! 一般の方はテープの外側にお下がりください!」
 テープを張り巡らして一般人を立ち退かせる。そのテープの内側で孤影が叫ぶ。
「見つけましたよ! もう逃がしません! 忍者なら忍者らしく戦うです! そもそもこんな昼間からそんな格好してる忍者なんていないです!!」
「自分のことを差し置いて、んなことぬかすなぁ〜!!」
 孤影にツッコミ入れて蹴り飛ばし、くノ一コスプレの朔耶が真千虎の目の前に躍り出て叫んだ。
「というわけで勝負じゃこのコスプレ馬鹿が!」
「人のことが言えるのかしら? あの格好で」
 甘酒飲みながらつぶやく千沙夜。
「まあまあ、ここは山口なんだから。はい、甘酒お代わりどうぞ」
 シンクレアが湯飲み茶碗に甘酒を注いで差し出す。
「うぉおらぁぁぁーっ!!」
 朔耶が真ロケットガントレッドをぶっ放した。と、真千虎の忍者刀が閃き、猛スピードで迫ってきたロケットガントレッドを空中で弾き飛ばす。
「小娘! 貴様の正体は魔皇か! ならば容赦はせぬ!」
 真千虎、忍者刀を水平に構えて朔耶に突進。
「なら、これはどうじゃ!」
 朔耶、今度は真シューティングクローを放つ。
「しまった!」
 クローのワイヤーが体に食い込み、あせる真千虎。朔耶、ワイヤーを引き戻して体の自由を奪われた真千虎を引き寄せ、真グレートザンバーの峰打ちくらわせて生け捕りにしようとした。だが──。
「ふふ。‥‥かかったな!」
 真千虎、その手に隠し持っていたクナイで肉を裂いて外し、大きく飛び上がって朔耶の後方に着地。その一瞬の間に、真千虎の忍者刀の切っ先が、朔耶の忍者装束の上をサーッと撫でる。
 はらり‥‥。
「‥‥え?」
 見事に切断された忍者装束が布きれと化して、朔耶の体の上をずり落ちてゆく。それをサッと伸びた真千虎の手がつかみ、奪い取る。
「フフフフフ。これで九百九十九人目。この布きれはもらっていくぞ」
 そのまま走り去って姿を消す真千虎。その姿を目で追いながらつぶやく零。
「あ〜、行ってしまった‥‥。マスターは何をぐずぐずしているんでしょう?」
 続いて朔耶の悲鳴。
「うっきゃ〜〜〜〜!? 写真を撮るなぁ!」
「はい、もう1枚、もう1枚、もう1枚、顔のアップでもう1枚、胸のアップでもう1枚、ローアングルでもう1枚」
 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ‥‥。お構いなしにカメラのレンズを向けてシャッターを切る鵺。そこへようやく駆けつけてきたのが少年魔皇の天草とパッチーの2人連れ。
「どこだ!? どこだ!? コスプレ忍者はどこだ!?」
 ふとその目が、写真撮影中の朔耶と鵺に止まる。
「え? え? ‥‥これってもしかして、子供にはまだ早すぎる大人の世界?」
 交互に二人を見比べる渉の背後からパッチーが急接近。
「何を見ているんだっちゅ!」
 どげし! パッチーのジャンプキックのツッコミが、渉のドタマにキマった。

●歴史の町で大乱闘
 で、ここはいかにも歴史の町・山口にふさわしい、日本式の古風な温泉ホテル。
「密のツテで選んでもらった由緒あるホテルですの。このホテルの温泉は江戸時代に湯治場として開業し、明治維新の時には名のある志士たちがこの宿で談判したそうですのよ」
「なるほど。さすがは山口、歴史の町だけのことはある」
 趣のある日本庭園を臨む泊まり部屋、傍らにルシファーを侍らせてその言葉に耳を傾ける栄神。その杯に香り豊かな地酒を注ぐルシファー。
「山口県の名酒、獺祭ですの。原料米に山田錦を使った純米大吟醸ですのよ」
 一口飲むと、口の中にふくよかな香りが広がる。
「うまい」
 春日、一言おいて一気に酒を飲み干す。
「密も本当に気がきくわね。こんなに立派な泊まり場所を手配して、仲間との宴会まで手配してくれるなんて」
 そう言いながら目の前に並ぶフグ料理を堪能する千沙夜も、さも感服といった風情。
 襖がサッと開いて、鵺が姿を現す。
「さあお待ちかね。お披露目の用意が出来たわよ」
 そう言って、鵺は襖の向こう側に手を差し伸べる。白神が姿を現した。新しい超ミニくノ一装束をまとっている。
「代わりの衣装を用意しておいて、本当に良かったわ」
「しかしわし、いつまでこんな格好せにゃならんのんじゃろうなぁ?」
「いいじゃないの、ここは歴史の町なんだし。それじゃさっそく、みんなと一緒に記念写真ねっ」
「だから写真を撮るなっつーの!」
 そんなお姉様に囲まれて、天草はただもうのぼせ上がっている。
「ああ、綺麗な年上のお姉様がいっぱい! もうメロメロっす!!」
「パッチ−だって年上のお姉さんだっちゅ!」
 ぼん! 座布団でひっぱたいてツッコミ入れるパッチー。
「では宴会部長、天草渉、ツッコミ芸をやりま〜す! 今夜は萌え萌えだ〜!」
「調子にのるなだっちゅ!」
 そんなこんなで盛り上がりながら時は過ぎてゆく。
「さて、一風呂浴びてくるか」
「マスター、私もご一緒に」
 春日とルシファー、宴会の席を離れて大浴場へ。脱衣場の入口をくぐった時、春日が何やら異様な気配に気づき、ルシファーを制した。
「待て。そこでじっとしていろ」
 春日、大浴場の引き戸をサッと開けて天井を見上げる。そこに真千虎麻妃が張り付いていた。
「殺気をそのように無駄に放っていては、まだまだ功夫がたらんな」
「‥‥‥‥‥黙れ」
 ざばあっ! お湯の中から忍者装束の霧隠が飛び出した。
「とうとう見つけましたよ! さあ勝負です!」
 一瞬、唖然とする春日。
「そんな所に隠れていたとはな」
「忍法・水遁の術です!」
 大浴場から廊下へ飛び出す真千虎、全身ずぶ濡れでそれを追いかける孤影。これぞ、お湯もしたたる美少年! ‥‥違うって。
 と、真千虎の足が、はたりと止まる。廊下のど真ん中に浪人が立ちはだかっていた。蒼い着物に袴に草履、腰には刀、紫色の陣羽織、髪も浪人風に後ろにたばねた見事な完全和風浪人スタイルだ。
「貴様! 何者だ!?」
「この身は無名の剣士、ただネタに走ろうと無駄なことを繰り返した、一人の魔皇に過ぎない」
 浪人に扮した竜堂・夢幻(w3a527)が言い放つや、真千虎が忍者刀を引き抜いた。
「魔皇か‥‥。ならば、斬る!」
 刀の切っ先を竜堂に向け、突進する真千虎。間合いがあっという間に詰まる。
「秘剣・燕返し!」
 竜堂、いきおい抜刀。全身のばねと真音速剣を併用しての連続居合斬り。その瞬間、真千虎が大きく飛び跳ね、竜堂の視界から消えた。

「何だか廊下が騒がしいわね」
 鵺がそう言ってフグ刺しに箸を伸ばした時、部屋と廊下を仕切る壁にサッと縦横斜めに筋が入り、その壁を蹴破って真千虎麻妃が部屋に飛び込んできた。崩れた壁の向こう側では納刀した竜堂が唇を噛みしめる。
「む! 斬りそこねたか!」
 壁の穴を飛び越えて霧隠が現れた、思いっきり萌え声で叫ぶ。
「いざ尋常に勝負です!」
 さらに日本庭園のほうからも駆けつけてくる人影。天野・レイ(w3j268)16歳だ。
「にゃははは、こんどはあたしが相手だ!!」
 その姿を見て竜堂がすっ飛んでいく。
「姫様ぁぁぁ! 殿中でござる、殿中でござるぞぉぉぉ!」
「ええい鬱陶しい!」
 死なない程度に真音速剣くらわせて夢幻を吹っ飛ばすレイ。あおりをくらって鍋や皿が舞い、食卓がひっくり返る。そんな中で栄神は杯の酒を悠然と飲み干すと、化粧ポーチをルシファーに手渡した。
「これを持って安全なところへ」
「分かりました、マスター」
 化粧ポーチを携え、ルシファーは黒き翼を広げて空へ舞い上がる。
 一方、月代は携帯電話で密かに山口テンプルムを呼び出し中。
「多勢に無勢で勝負が決まるのは面白くないし、みんなには悪いけど見物人でいたいから戦闘は混乱を極めて派手に演出されたほうが楽しいの‥‥御免ね」
「はい、こちら山口テンプルム」
「あの、湯田温泉のホテルに宿泊中の善良なる市民ですが、イロモノ魔皇とコスプレグレゴールが暴れて困っていますの。何とかしてくださいませんこと?」
 その傍で乱闘は続いている。
「忍法! 霧隠れの術!」
 萌え声の叫びと共に、ファントムハイドの白い霧が霧隠と真千虎麻妃を包み込む。だが真千虎は孤影をぶちのめし、霧の中から飛び出した。
「そんな術、効かぬわ!」
「森羅万象!!」
 両手の魔剣クルセイドと真クロムブレイド・グランドヘルを振りかぶり、天野がハウリングスラッシュを放つ。真千虎、くるりと一回転して衝撃波をやり過ごす。
「魔皇め! これでもくらえ!」
 はずみで倒れた庭の石灯籠を投げつける真千虎。その時、上空からヘリのローター音が接近。空を見上げると鍵十字のマークを付けた軍用ヘリがホバリングし、降下用のロープが垂れ下がる。そのロープを伝って、全身アニメチックにカラフルな鎧に身を包んだグレゴールの一団が次々と降りてきた。
「我々はサムライ突撃隊だ! 善良なる市民生活を脅かす魔皇どもめ! 無駄な抵抗をやめておとなしく投降せよ!」
 拡声器で警告するや、突撃隊は刀を抜いて雄叫びあげて突っ込んできた。
「うおおおおおーっ!」
「ちょっと相手が違うわよ! ‥‥って、仕方ないわ。飛んでくる火の粉は降りかかるより前に打ち落とさなきゃね」
 月代、真パルスマシンガンを召喚すると情け容赦なくトリガーを引き、あたり構わず銃乱射。
 ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!
「うぎゃ!」
「うぎゃ!」
「うぎゃ!」
「うぎゃ!」
「うぎゃ!」
「うぎゃ!」
「これはまずい! 総員退却だ!」
 突撃隊、慌ててホテルの外へ退却しようとしたが、その逃げ道が逢魔・零の黄色いテープで塞がれていた。
「はいそっち側でやってくださいねー! 一般人への被害は最小限にー!」
 零、問答無用の限界突破で、コスプレグレゴール達を魔弾の雨の中へゲシゲシと蹴り戻す。
「「「うぎゃーっ!!」」」
 気がつけば突撃隊は全員が虫の息。
「お、おのれぇ! 魔皇め!」
 そのうち一人が気力を振り絞って千沙夜に斬りつける。千沙夜、とっさに避けるが、着ていた服がバッサリ。
「私の服が‥‥あ! 私の下着まで!」
 お返しとばかり、真音速剣で斬り返す千沙夜。
「ぎゃあああーっ!!」
 千沙夜、倒れたグレゴールに問いつめる。
「私のサイズのは特注しないと洒落たのが無いから、一枚辺りの値段が高いの。その辺を解っての所業なのかしら?」
「すみません‥‥不幸な事故です‥‥」
「だあっ!」
 千沙夜、峰打ちをぶち込む。グレゴール、悶絶。
 一方、霧隠は逃げる真千虎を追っていたが、その姿を見失い、足を止める。
「なんか‥‥胸がドキドキするです‥‥。これって‥‥恋です‥‥はぅ‥‥」
 戦う姿を見るうちに愛が芽生えたか?

●瑠璃光寺の決戦
「‥‥山口市内のホテルで乱闘事件を引き起こした魔皇の一団は神帝軍の包囲網を突破、グレゴール・真千虎麻妃の後を追う形で現在、瑠璃光寺方面へ逃走中の模様です」
 ラジオのニュースを聞きながら、クリス・ディータ(w3g844)は瑠璃光寺に向けて車を走らせていた。
「一般市民の皆様に迷惑を掛けている忍び気取りが居るようですね‥‥正義の派手忍者としてはこのまま見過ごす訳には参りません!」
 と、車の前を真千虎麻妃がサッと過ぎる。その姿に唖然とするクリス。
「あれが噂のコスプレグレゴール‥‥」
 助手席から逢魔・ヘリオドール(w3g844)が声をかけた。
「クリス様も自分でコスプレ忍者って言ってたような気が‥‥」
「何か言いましたかぁ?!」
「な、なんでもないです!!(滝汗)」

 奈良の法隆寺・京都の醍醐寺と並び、日本3名塔の五重塔で名を知られる山口瑠璃光寺。その境内に足を踏み入れた真千虎麻妃の前に、真パルスマシンガンを構えた男が立っていた。男の名はツルギノ・ユウト(w3b519)。
「俺は魔皇斬りとやらの頭数になるつもりは毛頭ない、貴様を貫くだけだ!」
 気がつけば真千虎の背後上空にも、真フリーズスピアを構えた逢魔・フィアナ(w3b519)の姿が。
「魔皇斬り、黙って見逃すわけにはいけません!」
 と、四方八方から近づいてくる大勢の足音が。サムライ突撃隊だ。
「魔皇め! 無駄な抵抗はやめろ!」
「邪魔が入ったか」
 パルスマシンガンの弾幕を張るユウト。またも魔弾をくらい、悶絶して倒れる突撃隊。と、ユウトは背後に気配を感じた。いつの間にか真千虎が背後に回り、忍者刀を構えている。
「貴様でついに千人目。その首を刎ねるのが先か」
「動けば、スピアが貴様を貫くぞ」
 その時、五重塔の上から真シュリケンブーメランが投げつけられた。
「何ヤツだ!?」
 忍者刀でブーメランを跳ね返した真千虎が五重塔を見上げると、そこに忍者装束のクリスが立っていた。
「HAHAHA! 民の危機とあらば、それを阻止するのが我ら影! 私の名はクリス!クリス・ディータ! 豪華絢爛にして、一般市民を守る最後の砦! 派手忍者!」
 そしてもう一人。赤いマフラーで顔を隠し、全身黒ずくめという姿で登場は真田・浩之(w3f359)。
「真紅のマフラー愛を込め!! 咲かせてみせよう恋の華!! 修羅の戦士ダナッサー、ご期待通りに只今参上ッ!!」
 スバビシッッ!! っとポーズを決める。
「魔皇め! 千人目はどちらだ!」
 五重塔を駆け上がり、真千虎は二人の前に躍り出た。
「フッ‥‥貴様が魔皇千人斬らば、俺は聖鍵戦士千人のハートを射止めてみせる!!」
 真グレートザンバーを振りかぶる真田。
「真千虎麻妃ッ!! 貴様の心を‥‥俺の愛で煮沸消毒してくれる!!」
 2本の刀のつばぜり合い。強烈な力で忍者刀がグレートザンバーを押し返す。
「水遁!氷霊縛符の術!」
 クリス、真凍浸弾を撃ち込み、さらに2丁のブーメランを投げつけた。
「斎賀流忍術・第三の巻き其の二十四段! 双風・大車輪!! 喰らいなさい!ダァァブル!! 真! シュリケンブゥゥゥメランッ!!」
 ガシッ! ガシッ!
 ところがクリスのブーメランは、身を挺して飛び出した真田のザンバーに弾き返されていた。
「なぜだ!? なぜ私をかばう!?」
「なぜなら俺の勝利条件は君を倒すことではなく、君のハートを射止めることだからさ。真千虎麻妃‥‥好きだ!!」
「うっ‥‥!」
 その一言で、真千虎の動きがはたと止まる。
「君には斬れない。‥‥君と俺を繋ぐ赤い糸だけは‥‥」
「‥‥隙あり!!」
 ザンッ! 真千虎の忍者刀が真田の胴を横薙ぎに斬った。寸での所で刃をザンバーで防いだが、打撃をまともに喰らう。
「うっ‥‥!」
 呻いて倒れる真田。
「貴様でついに千人目だ。フフフフフ! ハハハハハ!」
 高笑いする真千虎の隣にファンタズマが現れ、耳元で囁いた。
「これで魔皇千人斬り達成だね。おめでと〜☆ さ〜、帰ろうよ?」
「いや待て。こんなふざけた奴、この場でトドメをさしてくれる!」
 真千虎が忍者刀を振りかぶったその時、飛んできた真フリーズスピアがファンタズマを貫いた。
「あ〜〜〜〜〜!」
 落下するファンタズマ。
「しまった! シロ!」
 後を追い、真千虎も五重塔から飛び降りる。

「命中、だな」
 スピアを投げつけたツルギノは、しっかりとその結果を見届けた。
「終わったのですね」
 フィアナが体を寄り添わせてつぶやく。
「ああ。急所は外しておいたがな」

「シロ! 死ぬなーっ!」
 傷ついたファンタズマを抱いて、お休み所に身を隠す真千虎。しかし、そこには串団子をぱくつく先客がいた。
「き、貴様‥‥」
「風流を解せぬ者に、和の心など笑止‥‥竜堂夢幻、参上」
 左眼の単眼鏡を外しつつ名乗ると、夢幻は手に持つ団子の串をクナイのように投げつけた。串が真千虎の覆面の結び目を切り裂き、覆面がはらりと落ちる。
「顔を‥‥見られた!」
 覆面の下から現れたその素顔は少女のように初々しい。
 背後から投げつけられたスパイダーズウェーブと七耀の縛鎖が真千虎麻妃を絡め取る。
「な、なにをする!?」
「くの一を弄る悪代官のようにねっちりと徹底的に弄んであ・げ・る☆」
 真千虎の忍者装束を脱がしにかかるシンクレア。
「や、やめろぉ!」
 叫ぶ真千虎の耳元で栄神がささやく。
「女性が顔を隠すのは犯罪だぞ、コスプレをするのならば己を生かせる様なものを選ぶべきだとは思わんか?」
 気がつけば、真千虎は春日とシンクレアの手で無理矢理着替えさせられ、顔に化粧を施されていた。
「花を咲かせないでいるのは罪だからな」
「さ、鏡をどうぞ」
 鏡に写るその姿は、まるで大正ロマンの世界から抜け出してきたような、あでやかな羽織袴姿の和服美人。
「これが‥‥私‥‥?」
「ふぅん。このコスプレもすごく似合うじゃない?」
 息を吹き返したファンタズマのシロが、真千虎の耳元でささやく。
「刀に死ぬのではなく――恋に生きよ。麗しき忍の君」
 ロマンチックに口ずさみながら、モーニングでビシッと決めた真田が現れ、真千虎の肩を抱き、さりげなくキスを‥‥。
「どさくさに紛れて変なことすなーっ!!」
 天野が後ろからドロップキック喰らわせて浩之をどつき倒す。実は、このおかげで真千虎のSF『死の接吻』を免れ命を拾うことになる。しかし、この事実は永久に知られる事は無いだろう。
 と、ときめきモードで顔を赤らめた霧隠が現れ、真千虎に告白。
「僕は貴方を失いたくない‥‥貴方が好きです! 僕と一緒に逃げましょう! 誰もいないところで‥‥2人で一緒に生きていきましょう! 愛してます! どんな敵からだって僕が守り通します! 駆け落ちしましょう!」
 真千虎、孤影の顔をじっと見つめる。
「わらわは、美形が好きじゃ」
 言って、今度はぶっ倒れた浩之を抱き起こし、その顔を見つめて言う。
「されど、こちらもなかなかにいい男じゃ。さすが、伝説の『恋の』魔皇じゃのう」
 真千虎麻妃、右の手に霧隠を、左の手に真田に抱え、高笑いしながら歩き始めた。
「わっはっはっは! 両手に花とはまさにこのこと! 抜け忍・真千虎麻妃はたった今より恋する乙女・真千虎麻妃に生まれ変わったのじゃ! さあ、いざゆかん。恋のパラダイス仙台へ!」
「ちょっと〜、そっちへ歩いて行ったら福岡だよ〜!」
 後を追いかけてゆくファンタズマ。去ってゆくその姿を見て白神がつぶやく。
「これで本当に良かったのじゃろうか?」
 串団子を口に頬張りながら、鵺が返事した。
「ま、これでいいんじゃないの?」
「あれが、あやつの最後の恋人とは限らない‥‥ったく、『死の瞳』事件で見直した私が馬鹿だった」
 いつの間に現れたか、真田の逢魔がぼそりと呟いた。