■【ケイオス】深海の光■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 みそか
オープニング
<某所・とある二人の会話>
「‥‥何をしにここに来た?」
「おぃおぃ、久しぶりに友人に会っておいてそれはないだろ。かつての旧友のピンチに、わざわざ危険を冒してまで助けに来てやったんだ」
 数年前、最期に会った時と比べようもないほど鋭くなった‥‥感情に歪みのない眼光を受けてたじろぐ男。あの事件で命を拾って以来、まさかこういう形でかつての少年と会うことになろうとは思ってもみなかった。
「今さらお前に助けられたくはない。お前と組んだ時点で、僕達は大切なものを失ってしまう」
「そんな理屈で人は生きられたらどれほど幸せだろうな。お前の考えは崇高かもしれないが、世の中はそんなに甘くはない。ここで生き残らなければ‥‥何も残りはしない」
 ゴクリと唾を飲む声が聞こえる。かつての少年ではない。その背後で虚勢を張る‥‥しかし隠れるように座っていた者たちのものだ。
「お前たちもおかしいとは思わないか? 穏健派であったはずなのに、パトモスはテロリストと名前をつけてかくも簡単にお前たちを滅しようとする。‥‥さあ洋平、皆よ! 選ぶんだ。ここでこのシヴァの助力を仰いで窮地を脱するか、それともこのまま逃げ回る生活がお好みか?」

<???>
「混沌となる種が目覚めようとしています。全てを覆い尽くそうとする力と、それをさらに押し流そうとする力‥‥‥‥魔皇さま、どうか志ある魔皇さまを救い出し、平和を‥‥混沌の種を摘み取ってください」

 ‥‥耳に届いたかつての、心に響くような声。
 密からの伝令か、それともこの声は―――――あるいは‥‥‥‥

 魔皇達は殲騎を召還すると、混沌の種を摘み取るべく、声の指示に従って集合地点へと急ぐのであった。

<集合地点>
「ガレルだ。お前たちを呼んだのは俺の知人になる。面食らっている奴も多いと思うが、今回の作戦を説明する」
 ガレルと名乗った少年は、わけもわからず集まった魔皇達へぶっきらぼうに一礼すると、作戦を説明する。既に廃村を包囲しているパトモス軍から脱出しようとしている者を守り、その場から脱出する。シンプルだが難易度の高い作戦に‥‥そして味方と戦わなければならない作戦に、魔皇達は皆一様に眉をしかめる。
「並びに、今回‥‥パトモスではない、第三者の部隊が出現する可能性がある。その場合は‥‥‥‥パトモスよりも、そちらの攻撃を防ぐよう努力してくれ。お前達は各自連携して動いてくれ。俺はすまないが個別に動かせてもらう」
 言葉を切ると、魔皇達に背を向ける少年。その指には‥‥指輪が鈍く輝いていた。
シナリオ傾向 殲騎戦、撤退戦、乱戦
参加PC 筧・次郎
九条・縁
クロウス・バスティーユ
御堂・陣
ハガネ・ソウリュウ
瑠離家・一歩
小沢・澄子
風祭・烈
青柳・竜也
【ケイオス】深海の光
●一幕
 今回の戦いがどういうものなのかということは戦場に着く前から分かっていた。それに気付かないほど彼らはこの数年間、ぬくぬくと生活してきたわけではない。
 神か魔かという二極的な争いは(少なくとも新東京においては)終焉を告げたものの、彼らは皆人間にはない絶大な力を持っていた。‥‥そして力を持っている者が行き着く先は、歴史を秘めた箱を開くまでもなく、決まりきっているのだ。
「そうです、こういう戦いを私は求めていたんですよ。血沸き、肉踊るような‥‥そんな戦いをね」
 だからきょうも筧・次郎は殲騎に乗って戦場へと赴く。彼が生きる世界は、生きたいと考えている世界は、断じて皆が調和と平和の中に住まう世界などではない。彼にとっては混沌としているからこそ、この世界は生きる意味というものを与えてくれるのだ。
「‥‥‥‥」
 根本は変わっていない世界、変わっていない主。逢魔・鳩は筧の声を耳に意図はわからないが小さく息を吐く。根本は同じ。確かにそうだ。今も自分は主の傍にいるし、争いも決して自分たちの傍から離れようとはしない。
 だが、どういうことなのだろう。自分が‥‥いや、きっと誰もが感じているであろうこの違和感は。言葉にできない、することができないような小さなしこりは。
「前方に複数の敵影を確認。先頭は‥‥殲騎どす!!」
『グレゴールのテロ活動を手助けするとは酔狂な魔皇もいたものですね。誰であろうと敵は敵、きっちり倒して差し上げましょう』
 逢魔・彩の悲壮にも聞こえる叫び声と重なるように、無線機を通して聞こえてくる『魔皇』の声。あらかじめこちらの到来をある程度予見していた敵方は、分隊の一方を差し向けてきたのだ。
「そう厳しい事を言うなよ君。こちらにはこちらの都合というものがある。その目的のためなら『多少の』犠牲は避けられないのさ。‥‥ねぇ、アリッサ?」
「‥‥‥‥はい。マスター」
 唇をぺろりと舐め、同胞の登場に微笑むクロウス・バスティーユ。逢魔・アリッサは恐怖から‥‥『人間』が当然持っているであろう感情から一番遠いところにある主人からの問い掛けに、唾を飲み込み、一呼吸置いてから呟くように答える。
「警告します。僕達はこれから島へと直進します。あなた達が道を譲らない場合‥‥」
『中途半端だねぇ瑠璃家‥‥だったっけか? こっちはパトモス軍様なんだ。テロリスト相手に道を譲ることなんてできるはずがねーだろうに』
 嘲笑と共にかき消される瑠璃家・一歩の警告。それはやる前から本人にとっても結果など分かりきっている類のものであったが、彼は歯を噛み締めざるをえない。どうして、なんで正しいと思っていることのために戦っているはずなのに、魔皇同士で、人間どうしでまた殺し合わなければならない!?
「そりゃーそうだろうな。そっちが道を譲るわけがねぇ。なら言い方を変えよう‥‥わかんねーんなら、ぶっ叩いて道をあけてやる!」
『‥‥気合だけで戦力差がカバーできたら苦労しないっての!!』
 そしてもう一つ分かりきっていたこと――議論は激突と同時に終わりを告げるという事実が訪れ、御堂・陣が駆る殲騎は数機の機体を巻き込みながら雲を割く! 装甲越しに聞こえる轟音の中、風祭・烈と青柳・竜也さらには瑠璃家は陣をフォローすべく、それに続いていく。
 残った両陣営の殲騎はといえば、吹雪かとも思える程の横殴りな射撃の中、自分という存在を確認するかのように、思いのたけを無線機へとぶちこんでいく。
「力で何かを変えようというのも結構! だが、それ相応のリスクを知れ! ‥‥覚悟はいいか? 俺はできてる」
『気でも触れたか? どう考えてもこちらの優位は動かない。お前達がどんな能力を持っていたとしても、それは勝利へと結びつきはしない!』
 接近するネフィリムの肩を掠めるようにして、殲騎が放った射撃がハガネ・ソウリュウ操る殲騎の肩に命中する! 衝撃を受けた殲騎は仰向けに倒れこみ‥‥背後につけていた、殲騎の銃口を微笑みながら見た。
「数で戦争が決まるんなら、とっくの昔に私達は神帝軍に滅ぼされていますよ。簡単なことじゃないですか!?」
 ハガネに止めを刺そうと突出したネフィリムに打ち込まれる筧の凍浸弾! 虚を突かれたネフィリムはその場に足止めされ、脆くも隙を晒す。
「出し惜しみなぞしてられん!!」
『今さら歴戦の勇士なんて、目障りなだけなんですよ!』
 体勢を立て直し、ネフィリムのコクピットを打ち抜こうとするハガネとそれを援護する筧に打ち込まれる殲騎からの弾丸の嵐。撃墜と決め込んでいた両機は、思わぬ回避行動をとらざるを得なくなる。
「筧の旦那、ここで引くなんて選択肢はねぇだろ?! 行くぜイーリス、少し揺れるだろうけど、しっかり制御してくれよ!!」
「はい。このまま‥‥突進します」
 巨大な得物が太陽の光を浴びて輝き、銃弾の中を九条・縁の殲騎が突き進む。飛び散った破片が逢魔・イーリスの頬を掠め、鮮血はコクピットの壁をつたいながら床に滑り落ちる。
 木霊すは炸裂音のような耳をつんざく大音響、零距離に詰め寄られたネフィリムは魔皇殻を深々と突き刺され、握っていた武器を地上へと落下させる。
「さあ、これで‥‥!!」
『貴様らのような奴を‥‥テロリストのもとに‥‥たまるかぁ!!』
 武器を引き抜き、ネフィリムを叩き落そうとした縁の視界に映る光。それは神魔大戦の時に幾度となく目の当たりにした敵のSF・『予見撃』!!
 コクピットを狙ったその一撃は縁の殲騎の左側頭部を光の中に消滅させ、尚も次なる一撃を狙い突き出される!
「どっちが‥‥どっちがテロリストだ!? 力にしか頼れない輩が、一体何の正義を語るんだ?!」
『売国奴・非国民は抹殺されなければならない。いつ、いかなる時でも! 我等が愛すべきなのはパトモスただ一つでなければならない。その中にある限り、我らはミチザネのもとに集わなければならないのだ!!』
「俺より頭の悪い奴がいたなんてな。お前達がやろうとしていることは、単なる粛清だろうがよ!! その考え、一切合財炎の中に捨てちまえ!」
 再び輝くネフィリムの掌と、炎に包まれる魔皇殻! パトモス軍から打ち込まれる援護射撃は殲騎の残る頭部を消失させるが、炎は‥‥それ自体が消えることなき彼の強い意志であるかのようにその滾(たぎ)る力を失うことはない!! 炎はネフィリムという一つの有機体を切り裂き、一つの終局を与えた。
『それならお前は‥‥また悪魔になるような‥‥家族を失うような戦争を起こしたいのか!?』
「違う!! だれかを排除するような、『排除しあう』ような世の中は絶対に訪れちゃならない! 悪魔は‥‥誰でもかまわず排除する! いちゃいけねぇ存在なんだ!!」
「九条殿、後退を。そのままでは‥‥っ、援護する!」
 落下するネフィリムがまだ視界から消え去らぬ時に、殲騎に銃口を向ける殲騎!! 小沢・澄子は激昂と共に尚も敵中へ突進しようとする九条を諌めようとするが、早々にそれを諦めるとパトモス軍の『魔皇』へ発砲する。銃弾と魔皇殻とが重なり合う中‥‥二機の殲騎はネフィリムの後を追うようにして大地へと落下していった。
「‥‥やれやれ、こいつはお目当てのヴァーチャーまで辿り着けるか怪しくなってきたねぇ」
 味方の殲騎が落下していく様を視線の端で追いながら、クロウスは二倍にも及ぶパトモス軍を眼前に溜息しかつくことができずにいた。

●二幕
「さあガンガン行こうぜ烈、一歩、竜也! ここは雑魚なんてさっさと蹴散らしてバレバレの仲介者さんの顔を立ててやろうじゃないか!」
「了解です陣さん。リステアさんにも美味しい御土産を買って帰りましょう!」
 殲騎が上昇し得る限界高度付近での戦闘は通常高度でのそれと比べてそれなりの制限を受ける。上方からの攻撃が想定しにくい分、少数派は優位な局面で戦いやすい。
『中途半端も嫌いだが、愚者はもっとどうかと思うねぇ。そっちも殲騎ならこっちも殲騎。この数相手に互角以上に戦えるなんて、妄想の産物以外のものじゃないんだよ!』
『確実に片付けさせてもらうとしよう。こちらの力、存分に味わえ』
 だが、それは劣勢をカバーするものであり、優劣を逆転させるような類のものではない。何ら遮蔽物のないこの『空』という空間で陣達四機とパトモス軍八機が戦えばどういう結果が待っているのか、それを数字の上で考えることは容易い。こちらを殲滅せんと魔皇殻を握る魔皇は配下のネフィリムを展開させて、平面でこちらを囲むような布陣をとる。

「さあ行くぞリアレス。俺も女装だけじゃなくて、シリアスもできるってことを見せてやる」
「自分で言うのはどうかと思うけど‥‥しっかり戦おうね、竜也!」
 弾丸が殲騎の装甲を掠める中、青柳と逢魔・リアレスは互いに視線を合わせて微笑みあう。それは戦況に関してのみ言えば何ら影響を及ぼさないものであったが、彼らにとっては戦いに赴く前の大切な儀式であった。戦いは自分の心を蝕む、恐怖は狂ってしまわない限り絶え間なく押し寄せ、いつか自分たちを変えてしまうかもしれない。
 だが、相手がある限り。自分を信じている相手がいてくれる限り、自分たちは怖いながらも振り向かず、前に進むことができる!!
「さあハルナ、こっちもガンガン行こう! いつものやつを頼む!!」
「はいっ。見せましょう。陣様と私とJブレイカーの底力を! 陣様の力と私の想いが合わされば‥‥Jブレイカーは無敵なんです!」
 逢魔・ハルナの声が空に吸い込まれていく中、Jブレイカーは雲の中に映る敵目掛けて突進していく。距離をとり、全員で固まれば少しは長い間戦線の維持もできるかもしれないが、目的は敵を食い止めることではない。それならば‥‥
『雲の中でも丸見えだ! それが‥‥!?』
 集中砲火を浴びせるパトモス軍の視界から陣の殲騎が消える。それと同時に上空から‥‥鈍い音が轟いた。
「さあ見せてやれ青柳! HEROを足蹴にしたんだ、少しくらいの活躍は頼むぜ!!」
「了解!!」
 無線機に短く返答する竜也。魔獣殻の跳躍力をもって雲上に飛び出した彼は、雲の水滴を纏わせたまま、その武器をネフィリムへと浴びせる!! 突然の登場に対処できなかったネフィリムは攻撃をそのまま受け、後方へと弾き飛ばされる。
『っ、その程度の奇策で勝ったつもりか!? これで‥‥この程度で何が変えられるというのだ!?』
「変えてみせるさ。何も変わっていないというのなら、それを変えていくのが俺達の仕事だ! 俺たちも遅れていられない。行くぞエメラルダ! 信じられると託された理想(ゆめ)のために!」
「はい。それが‥‥私たちのとるべき道ならば!」
 舌打ちを放ちながら銃を構えるネフィリムの視界と言葉を遮る烈操る殲騎! 集中砲火の中で逢魔・エメラルダは殲騎の傷を癒し、構えていた銃口を叩き落す!
『理想と詭弁で世界を変えるつもりかい? あんたらもやってることは結局人殺しだろうがね!?』
「違う! お前達は何もかもをひとくくりにする。心情、立場、国籍、種族! 何もかもを超えられないなら、超えられないなんて決め付けているから、人は無為な戦いに駆り出されるんだ!」
『それなら超えてみるんだな風祭烈!! たった二倍の兵力を越えられずに、奇跡なんて起こせるとは思ってはいまい?』
「もちろんです。僕達はそのためにここに来ました!」
 烈へと向けられた魔皇からの問い掛けに一歩が答える。現実的な劣勢を目の前にして尚も希望を失わないその姿を前にある者は言葉を失い、ある者は嘲笑にも似た溜息を放つ。議論の延長線に争いがあるということは一つの不幸な事実だが、それが事実である以上、平和をもたらすための戦いという矛盾したものに彼らは挑まなければならない。
『こいつぁー滑稽だ。‥‥どうもこっちが悪役臭くてしゃくだが、まあ希望を打ち砕く役どころってのもわるかぁーないねぇ! それが‥‥』
 奇跡を起こそうとする敵の包囲をおどけた調子で完了させようとする魔皇の耳に、予想だにしていなかった情報が伝えられる。正確に言えば予想だにしていなかったのは、その規模であろうか。
『こちら‥‥‥‥が‥‥受けている! ‥‥‥‥数が‥‥‥‥』
 衝撃音が混じりこみ途切れ途切れになる声。だが、事前に知らされていた情報と照らし合わせればどうなったかくらい、攻めているほうも守っているほうも凡その予想はつく。
「‥‥これは‥‥‥‥」
 雲間から覗いた敵の数に言葉を失う彩。そう、大地を黒く染めるその禍々しい巨大な機体の集合体は‥‥‥‥神魔大戦を彼女の脳裏に浮かび上がらせるに十分なものであった。
「さあ、本当の奇跡を見せるときがやってきたみたいだぜ!!」
「行きましょう!!」
 こちらに背を向けて拠点へと向かっていくパトモス軍を視界に、魔皇達は魔皇殻を構えたまま、その後を追いかけていった。

●終幕
「敵影、次々に増加していきます。数が‥‥100‥‥200‥‥多数のサーバント、ネフィリム、殲騎の集合体を確認。ヴァーチャーもいます!」
 地上に近いところではもう少し正確な情報が飛び込んできていた。どこから湧き出してきたかも分からないような軍勢は大地を覆い、増殖を続けている。予想だにしなかった事態に逢魔・透は声を震わせる。
「おちつけ透。声を裏返らせても状況は変わらない。‥‥どうします筧さん? この状況は‥‥‥‥」
「‥‥面白くなってきたじゃないですか。この戦い、この緊張感! これです、こうじゃないとここまで出張ってきた意味がありません!! 行きましょう、イキマショウ! ゴミが転がっているときに清掃するのが掃除屋の仕事ですよ!」
「了解。これより敵陣を突破し、残存機体との協力をはかります」
 主の声に逢魔は小さく頷くと、殲騎とネフィリムを引き連れて、黒い塊へとその進路を向けたのであった。