■聖夜の誓い■
商品名 アクスディアEX・デビルズネットワーク クリエーター名 はる
オープニング
「う〜さむさむ……」
 外は木枯らしが吹きぬけ、今年一番の冷え込みを見せていた。
 つけっぱなしのテレビはクリスマスににぎわう町並みの様子を映し出している。
「クリスマスねぇ」
 一人身の親父としては、とんと縁のない話であった。
「ちょっと、透。テーブルの上片付けてよ!」
 料理が置けないでしょ。
 コタツにもぐりこんでいた魔皇をセイレーンの少年が容赦なく踏みつける。
「お?随分と豪勢だな」
 足蹴にされながらも当の主はのそのそと、コタツから這い出して静流の手の中の料理に目を細めた。
「だって今日はクリスマスイブだからね」
 といって、魔に属する者に神の子の聖誕祭など関係ない話なのだが………
 何かに理由をかこつけて騒ぎたくなるのは、魔皇も人間も関係ない。
「そうか……クリスマスか……」
「うちのサンタは何にもくれないの?」
「あん?俺にそんな余裕あると思うか?」
「聞くんじゃなかった……」
 神保家の財布を預かる主夫は、家の実情を嫌になるほど知っていた。

 特別な夜の特別な時間は……直ぐ其処までせまっている、今日という日を貴方は誰と何処で過ごしますか……?
シナリオ傾向 ほのぼの、まったり、クリスマスデートシナリオ
参加PC 筧・次郎
美森・あやか
草壁・当麻
礼野・明日夢
聖夜の誓い
●鳩のドッキドキクリスマス
「クリスマスにお仕事が無いのは、何年振りでしょうかね〜♪ 」
 筧・次郎(w3a379)はイルミネーションに彩られた街並みを見渡した。
 そわそわとして何かを期待するような浮ついた空気は何時になっても変わることはない。
 久々に街歩きも悪くは無い。そう思い立ち、町に繰り出したものの己の逢魔はといえば……
「……ああ、また……」
 負けた。鳩(w3a379)にしては珍しく普段は能面のように無表情な顔に、少しだけ悔しげな表情が覗いている。
 街を歩くつもりが、半ば鳩にひきづられるように二人は駅前のゲームセンターをおとづれていた。
「それにしても……いやなレプリカントに育ちましたな……」
 ゲームに興じる逢魔を見やって、次郎が溜息を付く。店内はゲームセンター特有のけたたましい音と、ムッとするような熱気に包まれていた。
 一見すると、飾っておきたくなるような美少女の育った鳩は、次郎の視線の先でスクロールする矢印にあわせてステップを踏んでいる。
「前のめりになる筐体が、UFOキャッチャーとかならまだ可愛げもあるんですが……ガンシューじゃあねえ…ところで何時までやるつもりですかパティ?」
 次郎がチラリと見やる傍らにある、人気のキャラクターグッツが山と盛られたUFOキャッチャーならまだしも……鳩が熱中しているものは所謂ゲーマーと呼ばれるお兄様方御用達の物が大半であった。
 街歩きだといっていたのにに何時間いるつもりか、鳩の手の中のカップには多量のメダルが抱えられている。
「……後もう少しで…あと少しで……ジャックポットに入るんです…」
 保護者同伴。お小遣いも貰ったので……と、鳩は彼女に珍しく真剣にゲームに熱中する。余ったメダルは預けることも出来るのだが、鳩にはそのことは念頭からない様子。
「ところでそのゲームはオンラインですか?勝つまでやるつもりなんですか?何ですかそのノート。勝敗表?分析ですか?僕のしらないところでお前何やってるんですか」
 筐体から離れた鳩がすかさず取り出した愛用の手帳を横から覗きこむと、何時の間にやら、ゲーム別に○や×といったものから詳しい戦略分析が緻密に書き込まれている。
「……いまのゲームは、自分の戦歴を残すことができるのです……」
 手帳のポケットからゲーム専用の、己の名前が刻まれた磁気カードを取り出して鳩が解説する。
 何時の間にやら主の知らないところで、逢魔は確実に成長(?)の兆しをみせていた。
「…くぅ……主!!軍資金を!」
 どうやら、予め与えていた小遣いが尽きたらしい。
「はあ……何だか仕事より疲れますな……」
 駄目なレプリカントになりましたな、帰ったら鍛え直しだ……
 次郎の心中をしってか知らずか、鳩は主人からもぎ取った軍資金という名の数枚の札を両替機に投入するのであった。

 二人が店内を後にしたのはそれから小一時間がたった頃。
 街中は既に閑散として、人通りは少ない。
 鳩はふと明るいショーウインドーの店の前で足を止めた。
「どうしました、パティ?」
「……いえ……何も……」
 少しだけ、物欲しげな眼差しに次郎は苦笑した。
「あ〜どうせですから……人間の真似をして、ケーキでも買ってみます?」
 といっても、今の時間に残っているかどうかは知りませんけど。
 ちょっとした気まぐれ。魔に属するものが、神の聖誕祭を祝うというのもまた一興。
 少しだけ皮肉げに口元をゆがめ、次郎は鳩を伴い閉店間際の製菓店に足を踏み入れた。

●恋人達のくりすます……?
(イヤーッホォォォ!当麻様とデェト、デェト、デート♪)
 何時になく逢魔スズ(w3a379)の心は有頂天にあった。
 愛しい相手と過ごす二人だけの時間。それは何よりも変えがたいもの。
 ハイテンションの彼女が何時まで猫を被っていられるか……それは、神のみぞしることであった。
「勘違いするなよ…少し前の依頼で金が入ったから、財布を軽くするために散財するだけなんだからな……」
「それでも良いんですよ、当麻様と出掛ける事に意味があるんですから」
「……」
 そんなもんなのであろうか?キッパリと言い切るスズの言葉に草壁・当麻(w3a379)は軽く首を傾げた。
 それでもスズが喜んでくれればそれに越したことはない……
 二人が訪れたのはやはりクリスマスのイルミネーションが鮮やかな駅前の街並み。
 やはりクリスマスということもあってか、男女の二人連れの姿が目立つ。
「僕も、そのうちの一体に入るんだろうか……」
 基本的に外の世界についてよく分からない当麻はスズの案内するままに歩みを進める。
「当麻様見て下さいまし、大きなツリー……」
 駅と地下街の境目の小さな空間に、天井に届かんばかりの白いクリスマスツリーが拵えてあった。
「綺麗ですわね」
「……そうだな」
「あ、あっちに可愛らしい小物のお店がありますわ!」
 目に付いた店全てに入らん勢いで、スズがそのコートの裾を引く。
「って痛いよスズ、本当に引っ張るなって。コートが破れる」
 そんな他愛もないやり取りも、心地よい二人だけの時間。

「やっぱり……ケーキは必要なのか……?」
 確かにクリスマスにはそれを食べるのが一般的だろう……
 ここのケーキは有名なんですよ!とスズお墨付きのケーキやに案内されて当麻は少し場違いかな?と甘い匂いに満ちた店内を見渡した。
「ええ、良いですよね?大きいの購入しても!」
 スズはガラスケースの中のいろいろなデコレーションケーキに目を輝かせる。
「大きいのでも何でも買え、どうせ安売りしてるから…でも、僕はオレンジケーキしか認めないからな」
 以外にも柑橘系が好きらしい。自分からは誰にもいえない、当麻の一面を垣間見てスズは微笑んだ。
「でしたら、これなんかいいんじゃありませんか?」
 スズはレモンの利いたレアチーズケーキの上にスライスしたオレンジと、たっぷりのオレンジピールが散らされ、グレープフルーツが飾られたデコレーションケーキを指差した。

 ケーキを買って二人だけのささやかなクリスマスパーティー。
 小さなアパートでの二人だけの時間は何よりも変えがたいものであった。
 そして、スズが眠りに付いたあと……スズの部屋を訪れた当麻はその枕元に小さなビロードに包まれリボンのかけられたジュエリーケースを彼女が起きないようにそっと置いた。
「……他意はないからな…」
 誰が聞いてるわけでもないのに言い訳の様に当麻は暗闇の中で呟いた。

●穏やかな時間
 ルチル範囲から抜けた所にある魔属専用病院に近い住宅内。
「料理もケーキも間に合ったわね。ありがとう」
 テーブルにはこんがりと狐色の鳥の丸焼きを初め、手作りの苺たっぷりのケーキがならぶ。
「どういたしまして」
 手伝いにきてくれていた少女が美森・あやか(w3b899)と同じようにエプロンを外しながらにっこりと微笑んだ。
 何時もと同じ食卓も可憐なキッチンブーケが飾られ、何時もと違う特別な食卓に変えていた。
「かーたまー〜、ねーね〜、かざりつけでけたの〜」
 エリことあやかの養女の緑(w3k944)が台所に駆け込んでくる。
「まぁまぁ、二人だけでできたの?」
 すごいわね。きてみてと二人の女性の手をひいてエリは居間に飾られたクリスマスツリーを見せる。
 小さいけれど、子供達にとってみれば十分大きい。
 その天辺の金色の星は、エリよりもほんの少しだけ大きい礼野・明日夢(w3k944)の頭一つ分上にある。
 様々なオーナメントとライトに飾られた、ツリーがクリスマスムードを一層かきたてる。
「これでいいでしょうか?」
「えぇ、とっても綺麗よ。二人ともすごいわね」
 子供達の頭を優しくなでるあやかはもう立派に母親の顔だ。
「じゃあこっちでご飯を食べましょうか」
「おとうしゃまとパパはぁ?」
 舌足らずな声でエリがあすかを見上げる。
「今日も仕事で遅くなるって言っていたわよ」
「ちちうえとははうえはまだもどられないのですか?」
 明日夢も少し寂しげに見えた。
「そうね…翡翠の依頼はもう終わったと思うけど、その後寄る所があるからって言っていたし……」
 今日はちょっと無理かも知れないわね。
 ディナーを囲むのは本来住んでいる人数の半分だけど……それでも、パーティーを思う存分に楽しませてあげたかった。
「さ、ご飯が冷めないうちに食べましょう」
 態と楽しげな声で、あやかは子供達を促した。
 今日あった事や、明日からの事……沢山のことを語らう晩餐。たとえ、本来の住人の全てがそろっていなくても楽しいことには変わりない。
 ちょっとだけ何時もと違う、ご馳走を前に子供達は目を見張る。
「わ〜おいししょー」
「きょうのごはんはすごいです」
「ふふふ、さご飯にしましょ」
 子供達の反応に満足そうに、あやかが微笑む。
 ケーキに蝋燭を灯して、グラスを傾けあう。子供達はもちろん、アルコール抜きのシャンメリー。
 味も語らいの時も満足のいくものであった。

 片付けが終わって、幼子2人を風呂に入れて寝かしつけて……
「…お帰りなさい、乱夜」
 あやかの逢魔であり夫が帰ってきたのはそれから随分たってからのことだった。
「あぁ…ただ今」
「はい、さむかったでしょ?」
 マグカップに入れた暖かいコーヒーを差し出す。
「サンキュ」
 夫婦というようりも恋人どおしといった様子の二人だけの甘い時間。
「もっと一緒にいたいんだけどな……」
 子供達も一つ屋根の下にいることだし……この後に甘い時間を期待するのは夢のまた夢か……顎に暖かい湯気をあて、乱夜(w3b899)が少しぼやく。
「ふふふ……でも、こうしている時間も素敵よね」
「そうだな……そういえば、明日、静流のところ行くんだって?」
「ええ、後バイト先にも。智ちゃんの実家からお餅や正月用品送られてきたけど、思ったよりも多かったからおすそ分けに」
 他愛のないやりとり、二人でいる時間が何よりも耐え難く心地よかった。

「めりーくりすます、アシュ。ねー、何かあるよ?」
 先におきだした、エリが枕元にあるリボンのかかった包みを見つけて傍で眠る魔皇をゆする。部屋の中はまだ寒い。
「う〜ん……眠いよエリぃ……」
「いいからおきておきて」
 明日夢の枕元には薄く平べったい包み。エリの物は小さな小さな箱のようなもの。
「なんだろうねこれ?」
 二人の子供達は首を傾げる。
 開けてみるとエリの物は鮮やかなイラストが描かれた一冊の絵本。明日夢のは小さな箱に収めされた基本的な機械用の工具セット。
「お、2人共サンタからプレゼント届いたんだな」
 丁度帰宅した明日夢の父がドアから顔を覗かせる。
「…さんたってなぁに?」
「…おやおや。じゃあそのご本読んでもらいなさいな」
 優しげな面立ちの明日夢の母が、無邪気なエリの問いかけに微笑んだ。

「今は昔の話。セント・ニコラスと言われているキリスト教の司祭様は、困っている人や貧しい人を助ける、心優しい聖人だったんだ……ある夜、娘たちを売なければならないほど貧しい家族のもとに、その家の煙突から金貨を投げ入れてた。その金貨は偶然にもベッドの脇にかけられた靴下の中に入り娘たちを救ったんだ……」
 エリの養父である乱夜が娘のエリを膝に乗せ、絵本を読み聞かせる。その脇で明日夢は母の時計を早速手に入れた工具セットで分解・修理を試みていた。
「一年間よい子にしていた子供達に、サンタはプレゼントをこっそりおいていくんだよ」
「エリとアシュもいい子にしていたから、さんたさんがプレゼントをくれたんだね」
「そうだな」
 よい子にしていればきっと来年も、二人の枕元にこっそりとプレゼントがとどけられることであろう。

 暖かな家族の穏やかな時間はゆっくりと過ぎていくのだった。




 A Merry Christmas and A Happy New Year.




【 Fin 】