■戦いの記憶■
凪蒼真 |
【1074】【霧原・鏡二】【エンジニア】 |
【データ修復中】
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戦いの記憶
夕暮れが空を染め始めた中、8人の人影がとある建物を前に佇む。各々緊張の面持ちで
見詰めるその建物の名前は、『あやかし荘』。何時に無くどんよりとした雰囲気に、恵美は
ゴクリと息を呑む。言葉や態度には出さない物の、嬉璃も綾も歌姫も何処か神妙な顔付き
で何時も居る筈の建物を見詰めていた。
そんな四人の直ぐ後ろには、霧原鏡二・護堂霜月・黒梨蛍・シュライン・エマが同じ様
に、その圧迫感にも似た雰囲気を感じ見詰めている。普段と変わりないと言えばそうなの
だが、何か沈黙を余儀なくさせる様な雰囲気の為、誰一人口を開く者は居なかった。
時は1時間程前に遡る。あやかし荘を逃げ出した4人は、何とかしよう!そう言う結論
に至った。だが、何とかしようにも自分達では手に負えるものではない。そこで、嬉璃が
力ある者を探し出し連れて来た形になった。鏡二・シュライン・蛍の3人は、快く(蛍に
至っては嬉々として)引き受けてくれたのだが、霜月だけは『ぼくのぐらふてぃー』の『に
ゅーあるばむ』を聞いて居る最中だとか言い、文句を言って居たのを無理やり連れて来た
形だった。何はともあれこうして戻って来たのがつい先刻、そして現在に至るのである。
「確認して良いかしら?嬉璃ちゃん?」
重苦しい沈黙を破ったのは、シュラインだった。
「なんぢゃ?」
「その鎧が動いたのは、あやかし荘に置いたから動き出した、そうよね?」
「うむ、そうぢゃ。」
「それで、その鎧の由来は知っている、そうよね?」
「いや、知らん。」
嬉璃はにべも無くそう答える。
「ちょっと待てよ。じゃあ、何であんたは動くのが分ったんだ?」
鏡二が続いて疑問を投げかける。
「鎧自体には何も無いんぢゃ。問題は、ある物にある。」
「ある物?それはどんな物なのです?」
嬉璃の言葉に蛍は目を輝かせ聞く。
「掛け軸ぢゃ。あやかし荘の屋根裏にある掛け軸……名も無き掛け軸ぢゃが、曰く付きで
な……」
「ほう?どんな曰くが?」
霜月が視線を嬉璃に移し問う。
「掛け軸の中には、戦いに餓えたとある武者の魂が封じられておると言う事ぢゃ。兎に角、
戦いが好きでな……戦に関連のある物の気配を察すると直ぐ乗り移りよる……そして、戦
うべき相手を探して彷徨うのぢゃ。」
静まり返り、嬉璃を見詰める一同の視線は冷たい。当然だが、そんな話をいきなり信じ
ろと言う方が無理なのだ。その視線に気が付いたか、嬉璃は跳ねながら抗議する。
「何ぢゃその目は!信じておらんな!誠の事を言うたのに信じぬとは何事ぢゃ!」
「そら、信じろ言う方が無理やと思うで〜嬉璃はん。」
綾の言葉に憤る嬉璃を見ながら、シュラインは溜息交じりに嬉璃に問い掛ける。
「まあ良いわ。所で、こんな事は過去にも有ったの?」
「うむ、一度だけな。その時も難儀した物ぢゃ。」
「その時は、どうやって収めたの?」
「それはな……」
皆を集めてひそひそと話す嬉璃。寄り集まった8人の姿を周りの住人は訝しげな視線で
見詰めるのだった。
綾・恵美を残し、残りの6人はあやかし荘の扉を開け中に入った。静まり返った建物の
何処かから、振り子時計の規則正しい振り子の音が嫌に響いている。そして、シュライン
の特別とも言うべき耳には、その音もはっきり聞こえて居た。
「どうやら、気付いたみたいね……」
シュラインの言葉が終わったと同時に、ガシャガシャと鎧が揺れる音が響き、そして右
手のドアに何やら一閃が走りドアが音を立てて崩れる。崩れたドアの向こうには、双眸に
赤い光を宿した緑色の鎧が刀をぶら下げ立って居た。
「おおー!凄い!本当に動いてますよ!」
考古学を専行する蛍にとってこんな歴史的瞬間は無いのだろう、嬉々として写真を撮っ
ているが、他の者にとってこの状況はかなり嬉しくない。
「タタカイ……タタカイジャ……ウヌラ!ワレトタタカエ!!!!!」
吼えた鎧は、刀を振り上げ襲い掛かって来る!霜月と鏡二は他の者の前に立ち、戦闘に
備え構えを取った。
「鏡二殿、行くぞ!」
「ああ!風の精霊ウェルザよ!我が意に従え!」
力在る言葉と同時に、鏡二の周囲から風が吹き始め鎧目掛けて吹き付ける!その風に、
霜月は鋼糸を乗せる!風に流れた鋼糸は、意思を持つ風の力により鎧の動きを封じて行
く!数瞬後には、鋼糸によって雁字搦めとなった鎧の姿!霜月と鏡二の見事な合体技であ
る。
「今の内に早く行って下され!」
「分ったわ!霜月さん、霧原さん、黒梨さん此処はお願いね!」
シュラインは嬉璃と歌姫を連れて階段を駆け上がって行った。その間も、絡んだ鋼糸を
外そうともがき続ける鎧だがそう簡単には外れる筈も無くただガシャガシャやっている。
「意外にあっけなく終わったな。まあ、動きが取れないんじゃ何も出来ないだろう。」
鎧に近付き、鏡二がその手に持った刀を取ろうとしたその時!不意に刀が鏡二に切り付
けた!何とかかわした鏡二だが、胸元にうっすらと切り傷が残り血が滲んでいる。
「気をつけて下さい!刀にだけ憑依してるみたいです!」
蛍の言葉通り、鎧の方は力なく頭を垂れているが刀は浮き上がり、鎧を絡めている鋼糸
を断ち始めていた。
「そうはさせん!」
霜月が走り、九節鎗を用いて刀を叩き落とす!が、刀は返し刀で霜月を切り付ける!そ
の斬撃をかわし、再び叩き落そうとしたが刀は何なくかわし柄での打突を霜月に浴びせ
た!一瞬動きの止まる霜月!その瞬間を狙い、刀は鋼糸を断ち切ろうとする!
「させるかよ!ウェルザよ!纏わり付け!」
鏡二の力在る言葉に、再び風が動いたかと思うと凄まじい勢いで刀に風が収束して行
く!だが、多少動きは鈍った物の鋭利な日本刀には然程の効果が無く鋼糸は断ち切られ
る!ガシャリと膝を着いた鎧の手に刀が戻ると、再び双眸に赤い光を宿し鎧は立ち上が
る!
「面白い、斯様な敵は関が原以来だ。ならば、本気で行かせて貰おう!」
嬉々として九節鎗を構える霜月!その瞬間、刃先に焔が迸る!
「グガァァァァァァ!!!!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
吼えながら交錯する鎧と霜月!火花を散らし交わる武器と武器!実力は拮抗して居るの
が傍目でも分った。だが、若干霜月の方が上手か、鎧は一瞬バランスを崩す!
「今だ!ウェルザ!俺に力を!」
攻防を見守り続けていた鏡二が動く!鎧がよろめいたその一瞬の隙を突いて、鏡二は速
度を加速させ懐に潜り込むと刀の柄を思い切り蹴飛ばす!不意な攻撃に、対処仕切れず鎧
の手から刀が零れる!
「霜月さん!今だ!」
「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
鏡二が飛び退くと同時の霜月の連突!胴を、額を、腕を、足を突きが確実に捕らえ、鎧
を吹き飛ばす!後に残ったのは、些か荒い息の霜月!鎧は倒れたまま動かない。
「倒したんですか?じゃあ、ちょっとやりたい事があるのです。」
今まで戦闘の邪魔にならない様に後ろに居た蛍が、倒れた鎧に近付き何やらやっている。
鎧の上に手をかざし、目を閉じて何かを読み取ろうとして居るようだ。だが、不意に肩を
引っ張られその行為は中断させられた。突然の事に目を見開いた蛍の目の前には、胸元か
ら血を噴出し崩れ行く霜月が映る!そして、鎧の手には血塗られた脇差が握られていた!
慌てて駆け寄る鏡二!崩れた霜月の体を受け止め蛍の絶叫が木霊する!
「霜月さ――――――――――――ん!!!!!!」
鎧は再び立ち上がった……
階段を駆け上がり、屋根裏の階段を引っ張り出すのももどかしく、シュラインは力任せ
に紐を引く。勢い良く降りて来た屋根裏への階段が廊下に激しくぶつかり、けたたましい
音を立てた。
「馬鹿者!もっと大事に扱わんか!」
「時間が無いの!早く!」
嬉璃の文句を一蹴すると、シュラインは先行して階段を駆け上る。埃っぽい室内は殆ど
沈みかけた日の為か、薄暗くその不気味さを増して居る様に感じた。そんな静けさの中に、
ほんの少しだけ奇妙な音を感じシュラインはその方に駆けた。乱雑に詰まれた荷物に足を
多少取られながらも辿り着いた場所……窓に近い柱の一つにそれは確かに掛けられて居た。
「有った……これがその掛け軸……」
呟くシュラインの目の前にある掛け軸には、鎧を纏い手には刀と首を持った男の絵が描
かれていた。そして、その掛け軸からは先程の音と淡い燐光が発せられていた。
「歌姫さん、準備は良い?」
歌姫は静かに頷くとすっと息を吸い込み歌い始める。
「眠れ〜猛々しい想いよ〜この一時だけは〜安らか成りや〜♪」
静かに朗々と歌う歌姫。歌い切ると、再び同じ歌を歌う。そして、シュラインも……
「眠れ〜猛々しい想いよ〜この一時だけは〜安らか成りや〜♪」
歌姫とまるで同じ声。シュラインが得意とするボイスコントロールだ。嬉璃も、歌って
いる歌姫でさえも驚きを隠せない。だが、その声に歌姫は微笑むと目を閉じて歌う。シュ
ラインもまた、目を閉じて歌う。二つの声が静かな屋根裏に木霊する。掛け軸を止める唯
一の方法は、呪歌による魂鎮め……そして、呪歌を歌えるのは歌姫のみだった。だが、シ
ュラインのボイスコントロールによりその効果は二倍となる。衰えて行く掛け軸からの音
と光に、下の鎧の動きが鈍り始める。
「なんだ?動きがおかしくなって来たぞ?」
風で動きを封じていた鏡二がその様子に気付く。霜月を引き摺り移動して居た蛍も、そ
の言葉に鎧を見ると、確かに動きが緩慢になって来ている。
「歌姫さんの歌が効いて居るんです!もう少しです!」
脇差を取り落とし、頭を抱える鎧。その音と光を殆ど無くした掛け軸を嬉璃は手早く巻
くと傍に在った箱の中に仕舞い込んだ。同時に力を失くした鎧がその場に崩れ落ちる音が、
屋根裏にまで響いた。
急ぎ駆け戻ったシュライン達が見たのは、血を流して倒れた霜月の姿。蛍に抱えられ目
を閉じる霜月にシュラインは駆け寄る。
「霜月さん!?まさか……そんな……」
うなだれる一同……とその時、ガバッと霜月が起き上がる。
「あ〜死ぬかと思った。」
驚愕する一同を尻目に霜月はきょとんとした顔で、皆を見詰める。静けさの戻ったあや
かし荘は、何時もの様に夜を迎えるのだった。
了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1074 / 霧原 鏡二 / 男 / 25 / エンジニア
1069 / 護堂 霜月 / 男 / 999 / 真言宗僧侶
0086 / シュライン エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信
所でバイト
1193 / 黒梨 蛍 / 女 / 21 / 大学生兼古美術商
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■ ライター通信 ■
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どうも、凪 蒼真です!
霧原さん・護堂さん・黒梨さん、初めまして!
シュラインさんお久し振りです♪
今回のお話如何だったでしょうか?
戦闘が主軸の話しなので、割とテンポ良く読めるかと思うのですが……
調査に関しては、皆さん正解でしたね(笑)まあ、嬉璃に聞くのが一番手っ取り早いです
からね(笑)
今回は、掛け軸でしたが次回はどんな曰くの物が出るのか……それはまだ決めていません
が、今後どんどん出していくつもりです。
もしお気に召しましたら、今後とも宜しくお願い致します♪
それでは、今回は本当に有難う御座いました♪
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