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■目指せ!お掃除の達人■

壬生ナギサ
【1069】【護堂・霜月】【真言宗僧侶】
【データ修復中】
目指せ!お掃除の達人
「掃除の基本は上から下。まずは、埃を落とす事」
あやかし荘管理人室で恵美は背筋を正し、座していた。
「そして基本は毎日する事」
ふむふむ、ときっちり姿勢を正し頷く零の正面に恵美も正座し続ける。
「汚れに気がついた時にこまめに掃除をする事が、綺麗に保つコツなんです」
人差し指をピっと立て神妙に言う恵美に、零の隣で同じく正座していたシュライン・エマと御堂霜月は頷く。
だが、巫聖羅はコタツテーブルに頬杖を付き、湯飲み片手に言う。
「そんな事よりさぁ、やっぱ何か高等テクニックがあるんでしょ?!だって、あんっなに汚かった興信所を綺麗にした零ちゃんが弟子入りするくらいなんだもん」
「高等……テクニック、ですか?」
きょとんと訊き返す恵美に聖羅は上半身をテーブルの上に乗り出し捲くし立てる。
「そうよ!掃除機掛けも拭き掃除もはたきの一つ取っても素人さんとは違うはず!!」
「はぁ…別に、普通ですけど?」
「ほんとぉ?」
訝しげに恵美を見る聖羅にシュラインが苦笑しながら顎に指を当てる。
「掃除機掛けの高等テクニックってあるのかしら?あまり、聞かないわね」
「うッ…それも、そうね」
シュラインの指摘に少し決まり悪気に口を尖らせた聖羅の横で、柚葉がゆらゆらと体育座りで身体を前後に揺らしながら退屈そうに言う。
「ね〜まだお掃除しないの?」
「そうね。じゃあ、後は実践で」
恵美の言葉に霜月は頷き、立ち上がり着物の袖を捲り上げた。
「では、私も寺仕込みの雑巾がけのコツをお教えしましょうか」
にこりと笑った霜月とさっそくエプロンを身に付けた恵美に零は頭を下げた。
「お願いします」
「よ〜っし!あたしも負けられないわね。いっちょ、やりますか♪」
同じく立ち上がった聖羅。
シュラインも立ちながら、零の肩に手を置いて言った。
「役に立つ方法が聞けるといいわね。頑張りましょ」
「はい」
「おっそうじ〜♪おっそうじ〜♪」
「…………いよいよ、アレを使う時が来たのぢゃ」
……お掃除教室の始まりである。

「こんな感じですか?」
タッタッタっと小気味の良いリズムで廊下の雑巾がけを進めた零は、霜月を振り返った。
「そうです。足全体を動かし床を蹴るように前に…この時、上半身はなるべく一直線になるようにした方が良いですね」
霜月の言葉に素直に頷く零は、再び雑巾に手を置き床を進み始めた。
「ていっ!!」
ダダダダー!っと、足音も高く猛ダッシュで聖羅は玄関先から零のいるところまで雑巾を押し進むと、息も弾んだまま零に言う。
「はぁはぁ……どう?!零ちゃん。あたしの勇姿は!?」
「え…あ、えっと……早いんですね、雑巾掛け」
「でしょ〜♪任せてよ!雑巾掛けなんて、私にかかればチョチョイのチョイよ」
嬉しそうに胸を張って言う聖羅の隣をひとつの小さなつむじ風が通り過ぎる。
「おっそうじ♪おそうじ〜♪」
響く足音は軽やかな太鼓の音色のように、颯爽と雑巾掛けをする柚葉の姿に霜月は感嘆の声を上げた。
「ほぉ……なんと!柚葉殿の型は素晴らしい。どこにも無駄が無く、自然だ。うむぅ…私もまだまだだな」
「すごいです。柚葉さん」
「え?えへへへ」
霜月と零にそう言われ、訳が分からずも嬉しそうに笑う柚葉。
そんな様子に、聖羅はぶぅと頬を膨らませた。

一方、恵美とシュラインはあやかし荘で掃除が必要な場所を見て回っていた。
「えっと…全室の扉と壁。それから、共同のトイレと流し場」
あやかし荘には各部屋にトイレとバスが完備されてはいるが、他に共同のトイレと色の禿げ掛けたタイルの敷き詰められた細長い流し場があった。
「随分と鏡も曇っちゃってるわね」
流し場に備え付けられた三個の化粧鏡を覗きながら言ったシュラインの言葉に、恵美は軽く溜息をついた。
「そうなんです。何度も磨くんですけど、すぐに曇っちゃうんですよね」
なんでかしら?と首を傾げる恵美。
それは、きっと何か棲み付いているものの仕業じゃないかしら?とシュラインは思うが、今更な事であるし恐がりの恵美を余計に恐がらせる必要もないだろうと、黙っている事にした。
「ココもお掃除っと」
頭の中のお掃除リストに加え、恵美は皆のいる所へ歩き出した。
シュラインもその後に続きながら恵美に尋ねた。
「恵美さん。掃除には道具は何を使うの?」
「トイレは便器ブラシと雑巾。流しもブラシと雑巾とそれから重曹ですね」
「重曹?」
掃除では聞きなれない名前にシュラインは首を傾げた。
「重曹ってお料理に使う、アレ?」
「そうです。汚れ落としにいいんですよ。それに重曹は匂い取りにもなるし、重曹をかけてその後にお酢をかけるとヌルヌルを溶かしてくれるんですよ」
「それは良い事聞いたわ」
感心するシュラインに恵美はちょっと照れながら、おばあちゃんの受け売りですけど、と付け加えた。
「あ、因幡さんにエマさん」
戻って来た二人の姿を見つけ、零は雑巾を洗っていた手を休めた。
「廊下の雑巾掛け、終わりました」
「うわぁ、綺麗になってる。ありがとう!お疲れ様です」
にこにこと皆にお礼を言った恵美は、今し方自分がやって来た先を示し言った。
「じゃ、次はトイレと流し場をしましょ。流し場の鏡なんか磨きがいがあるわよ〜」
「よっし!今度こそ、見ててね。零ちゃん!」
気合充分、立ち上がった聖羅に、だが待ったがかかる。
「ふっふっふ……いよいよ、出番が来たようぢゃな」
「誰?!何奴!」
身構え、周りを探り姿の見えない声の主にそう言った聖羅に声は続ける。
「ふっふっふ……この時を待っておったのぢゃ。その目でとくと見よ!!」
バンっと管理人室の扉が開け放たれ、そこには嬉璃が自分の体と同じくらいの機械を抱え立っていた。
クリーム色のボディに細長いノズルがついた機械に取り付けたストラップを肩から掛けた嬉璃がとてとてと歩く姿に聖羅は噴出した。
「ぷっ……何ソレ〜?どっちが歩いてるのかわかんないし。おっかしー」
笑う聖羅にむっとした嬉璃はノズルを彼女に向け、スイッチを押した。
「五月蝿いのぢゃ!」
ノズルの先から出てきたのは高圧の蒸気。
それを至近距離で足に当てられた聖羅は飛び上がった。
「あちちっ!!ちょっと、何するのよ!?」
「ふん」
非難の言葉も鼻先で一蹴した嬉璃に霜月は興味深げに機械を見ながら尋ねた。
「嬉璃殿。その道具は一体何でしょうか?」
「これか?これは今、茶の間の奥様方に人気のすちーむくりーなーぢゃ!」
「一体、いつの間に買ったの?お金は?!どうしたの?」
嬉璃がそんな物を持っているとは知らなかった恵美は驚いて嬉璃に問い詰めた。
だが、当の座敷わらしはあっさりと言う。
「ちょうど三下がいたから払わせたのぢゃ」
「まぁ!」
泣く泣く配達人にお金を支払う三下の姿が用意に想像出来、シュライン、霜月、聖羅は心の中で同情する。
が、そんな事は日常的に行われている事で、嬉璃は気にも止めず、ずり落ちかけのストラップを肩に掛け直すとにんまりと笑った。
「そんな事はどうでもいいのぢゃ。恵美よ!今の時代は科学の時代ぢゃ」
そう言って、またトテトテとバランスを取りながら歩き出した嬉璃。
「科学って……座敷わらしが何言ってんだか」
ぼそりと言った聖羅だが、前を歩く座敷わらしはぴたりと止まり、ノズル片手に振り返った。
「何か言ったか?」
「い〜え〜。なーんにも」
慌てて肩を竦めて見せる聖羅に嬉璃は鼻を鳴らし、また歩きはじめる。
「スチームクリーナーねぇ……良くTVショッピングで見るけど、実際に見るのは初めてだわ。嬉璃ちゃんのものを見て便利だったら私達も買いましょうか?」
零にそう問いかけ、シュラインは一人で歩いているように見える機械を指差した。
「そうですね。あれで煙草のヤニとか落ちると良いんですけど」
「私は初めて見るのですが、一体どういうものなのですか?」
零とシュラインに問い掛けた霜月だが、前を歩いていた嬉璃が振り返って言う。
「それは己の目で見るのぢゃ!さぁ、ここにありますのは曇った鏡」
ひょいっと流し台によじ登り、化粧鏡を指差す。
「曇ってますねぇ。ここまで来ると元に戻すのは一苦労!」
まるでTVショッピングさながら。
伊達に毎日毎日、似たような商品が出てくるものを見ている訳じゃない。
嬉璃はチャッとノズルを構えた。
「しかーし!このスチームクリーナーがあれば心配無用ぢゃ!こうやって高圧高温の蒸気を当てて……あとはさっと拭くだけ!」
爪先立ちで背伸びしながら雑巾で鏡の蒸気を拭き取る嬉璃。
鏡は成る程、曇りは半減し元のような輝きが出てきていた。
「ほぉ…それは素晴らしい物ですな」
十世紀近く生きて、今までにお目にかかることの無かった掃除法に感心している霜月だが、嬉璃はどうも気に入らなかったらしく、不満顔でスチームクリーナーをほおり出した。
「どうしたの?」
「…つまらん。てれびとは違うのぢゃ」
「どう言う事?」
首を傾げる恵美にシュラインが苦笑する。
「嬉璃ちゃん。テレビでは一拭きで綺麗になるように細工がしてあるのよ。でも、ホラこれだって充分に使えるじゃない」
テレビの宣伝の通りに全てが一拭きでピカピカになるものと思っていた嬉璃は、曇りの残った結果にすっかりやる気を無くしたようだった。
「やれやれ……つまらん事をしたのぢゃ。てれびでも見るかの」
「だったら柚葉がやる♪」
嬉璃は管理人室へ戻ろうと流し場を飛び降り、代わりに柚葉がクリーナーを取った。

そんな嬉璃を霜月が止める。
「まだ掃除は終わってませんよ、嬉璃殿」
「やりたい者だけでやるといいのぢゃ」
意に介さず歩き続ける嬉璃の足に一本の細い鋼糸が巻きつき、嬉璃は派手に転んだ。
「何をするのぢゃ!」
怒る嬉璃の側へすすっと近寄り霜月は正座すると、自分の前の床を示した。
「嬉璃殿。此処に座って話をお聞きなさい。そもそも大掃除とは一年の穢れを落とし来年の幸運を呼ぶ為のもの…」
「それがどうかしたのか?」
「あなたはこのあやかし荘で恵美殿の世話になっておいでだ。この一年の恵美殿に対する感謝の気持ちを込めて、掃除をするべきではないですか?」
「愚問ぢゃな。長年あやかし荘を護って来たのはわしなのぢゃから、世話になっとるのは恵美の方ぢゃ。」
ふふん、とどうだと言わんばかりに横目で霜月を見る嬉璃だが冷静に霜月は切り返す。
「ならば、住人の幸福・健康を考えるのはその長である嬉璃殿の務め。貴殿が率先して大掃除をすべきです」
「うっ……え〜い!煩い奴ぢゃ!!わしはてれびを見るのぢゃ!」
「いいえ。掃除が先です!」

「うわぁ…嬉璃が言い負かされてるよ。こんな事もあるのねぇ」
離れた場所で霜月有利の押し問答を眺めていた聖羅は、慌てた声で自分の名前を呼ばれ振り向いた。
と、映ったのは視界は白く、もわっと暖かい水蒸気が当たる。
「うわっ?!」
「ちょ…柚葉ちゃん?!あぶないわよって……わわっ!」
「きゃははは〜。おっもしろーい♪」
噴出される白い蒸気が面白いらしい柚葉は、ノズルをあっち向けこっち向け。
時にはぐるりと大きく円を描いたりと、振り回して遊んでいる。
「柚葉ちゃん、それは掃除の道具だから人に向けちゃダメなのよ」
「なんで?」
と、ノズルを持ったまま身体の向きを変え、シュラインに問い返す柚葉。
「きゃ!」
「大丈夫ですか?!エマさん」
蒸気がシュラインの身体を掠めたものの、柚葉とは距離もある為、かかったものは暖かい水蒸気で大した事はなかった。
「えぇ、大丈夫よ。零ちゃん」
心配そうに見上げる零に優しく笑んだシュラインは柚葉を睨みつけた。
「火傷をすると危ないの。さっ、こっちに渡しなさい」
いつもと違うシュラインに、今まで尻尾を振っていた柚葉はシュンと項垂れた。
そんな柚葉にそっとシュラインは近づき、ポンと小さく反応した柚葉の頭に手を置くと言った。
「さっ、また掃除をしましょう。柚葉ちゃんはソレでお手伝い、お願いね」
スチームクリーナーを指差したシュラインを困惑したように柚葉は見上げる。
「えっ?これ使っていいの??」
「いいわよ。だけど、今度は振り回しちゃダメよ。いい?」
「うん!」
にこにこと満面の笑顔で頷く柚葉。
「では、掃除を再開致しましょうか」
と、言った霜月の横にはぶつぶつとなにやら恨み言を呟いている嬉璃が立っていた。
霜月の手に握られた鋼糸の先はしっかりと嬉璃の足に絡まったまま。
「よ〜っし!じゃあチャッチャと終わらせましょ!!」
両手をポンっと胸のところで合わせ、皆の顔を見渡し言った恵美に続き、
「あっ!お掃除が終わったら、みんなでケーキ食べに行こうネ♪」
と言った聖羅に、皆笑顔で頷いたのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26歳/翻訳家&幽霊作家
                    +時々草間興信所でバイト】
【1087/巫聖羅(カンナギセイラ)/女/17歳/高校生兼『反魂屋(死人使い)』】
【1069/護堂霜月(ゴドウソウゲツ)/男/999歳/真言宗僧侶】


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■         ライター通信          ■
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あやかし荘第一弾。
零ちゃんの『目指せ!お掃除の達人』は如何でしたでしょうか?
聖羅様と霜月様は初のご参加、有難う御座います。
シュライン様はもう毎度のご参加と言って差し支えないのではないでしょうか?
またまたのご参加有難う御座います。

今回のお話は同一となっております。
一人一人の個性、持ち味が出せるように心がけてみましたが……
如何でしたでしょうか?
お三人様のプレイングや設定から想像した私のイメージと
皆様のイメージとはきっと違うと思います。
是非、感想など頂けると幸いです。

では、へたれなライターですが
今年もどうぞよろしくお願い致します。