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■実録!三下さんの華麗なる受難■

皆瀬七々海
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
【データ修復中】
実録!三下さんの華麗なる受難

「うぎゃああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッ!!」
 少年の絶鳴が鍾乳洞中に響き渡る。
 鋭い叫声は空間を切り裂き、己が耳も破壊せんとする勢いで鳴り響いた。
「嫌だ嫌だ、い・や・だ。嫌だぁーーー!!」
 ふるふると頭を振り、後ずさる。背後の壁に張り付いた形になっても、逃げ場の無いことに少年は気が付かなかった。
 何時の間にか瞳の端に溜まった涙がポロリと落ちる。
「さぁ、少年。僕の元へおいで」
 闇の中でそれはいった。
「・・・い、い・・・」
 歯根が合わず、ガチガチと音を立てた。喉は締め上げられたように言葉を失っている。
「怯えた君も素敵だよ。お兄さんたちと遊ぼう・・・・・・勇太クン♪」
 手が伸び、勇太と呼ばれた少年の腕を掴むと、有無を言わせぬ強さで引っ張った。
「そ、そっちの世界は嫌だぁぁッ!!」
 少年の訴えは無視される。
 こんな依頼なんか受けるんじゃ無かったと後悔したがもう遅い。覆水は盆に帰らず、落ちて溶けたアイスは元には戻らないし、喰えない。
 全てが遅かった。
 薄れ逝く意識の中、忌まわしき事件の発端を勇太は思い出していた。


●住めば地獄の一丁目・ここはその名も「あやかし荘」

「ここら辺りだったはずなんだけどな・・・」
 長めになった前髪を掻き揚げながら、俺は呟いた。
 短く刈った髪は散髪する頃合いらしく、髪を触ってしまうクセがついた。そろそろ床屋かなぁと考えながら、俺はもう一つ路地を曲がる。
 もうすぐ『あやかし荘』のはずだケド・・・ホント、ここってわかりづらいなぁ。

 俺、工藤・勇太。
 親元から離れ、一人、下宿しながら都内の高校に通っている、17歳だ。
 何故、一人暮らしをしているのかといえば先天的に持っている超常的な能力のせいで、異端に対する周囲の感情は冷たかったからだ。・・・っていうとドラマチックでカッコイイかもしれないなぁ〜。
本当のことを言えば、結構、お気楽なもんで、一人で暮らすのってのは利点が多い。
 夜更かし自由の上、遅刻も休みも好きなだけ出来る。後は兎に角、俺の超能力に過敏になってる親からのストレスが無くていいというとこかな?
 なぁ〜んて云うと暗い奴とか言われそうで嫌なんだけど、きっと俺の立場に立ったら誰もそんなことはいえないだろうと思うよ、マジで。
 何より好意と好奇がない交ぜになった子供同士の関係ほど厄介なのは無くってさ。それらの感情はある日呆気なく排他的な行動へと変わるワケで・・・・・・。
―― あー・・・暗くなってきた。よーっし、リフレッシュ!
 まあそんな経緯から自分の超能力についてはちょっとした秘密にしてる。出会って数ヶ月の親友(十年来の・・・って感じがする奴なんだ!)の菊地澄臣にも打ち明けてない。
 バイトが出来る高校進学を目前にした時、俺の取った行動は早かった。 子供時代にテレビ出演で稼いだ貯金でアパートを借り、生活費の一部と小遣いはバイトで稼ぐことにすれば、決して無茶なことじゃなかった。一人暮らしをする決心を親に伝え、「いい」も「駄目だ」も言われる前に実行に移した。
 一番悩んだことは永久的な経済力の持続についてだった。生活を切り詰めなければあっと云う間に貯金は消えちまう。
 悩んだあげく、心配した母さんからの提案で生活費と学費だけは貰う事にした。
 やっぱり、時間給のバイトだけじゃ安定性はあっても収入が限られるもんな。 超能力の他に特別な技術も無い俺は、仕方なく自分の能力で最大限に活躍できる方法を選ぶしかなかった。
 バイトの内容は『不可思議な事件の解明』、もしくはそれに順ずる結果と調査終了後に提出するレポート等の作成。
 つまりオカルト探偵(モドキ)ってやつ?
 カッコ良いバイトというよりは、意外に面倒臭いんだ・・・これが。
 学校のレポート提出にさえ四苦八苦する挙句、評価はCマイナスの上、現国の成績も無残な有様の俺にとって、調査書の存在は苦痛以外に何ものでも無い!
 オマケに調査書を書く度、超能力からは逃れられないことを俺は痛感しちまう。そんな自分に毎度毎度苛立った。

 正月が明け、冬将軍の侵攻も本格的になってきたせいか、厚めのウールの黒いコートが手放せない。
「うぅ・・・寒ぃ〜(泣)」
 羽織ったコートの襟を寄せ、寒さから逃れるように俺は身を竦めた。折角、鮮やかなブルーのセーターにジーンズ姿という一張羅も、これでは人に見せることも出来ない。
 俺は周囲を注意深く見回した。
 依頼の場所は確かここだったはずなんだけど、グルリと張り巡らされた生垣のせいで、それらしき家屋の周囲は窺えなかった。
 目的地が見つからず、俺は肩を竦める。
 リュックの中から封筒を開け、便箋と手書きの地図を取り出す。
 手を止め、俺はそれを見つめた。
「ふっふっふ・・・・・・♪」
  生成り色の紙にピンクのチェック柄の封筒はどこのファンシーショップに売っていそうなありふれたものだ。
 こんな封筒で郵送してくるとしたら女の子しかいないだろう。
 実際、差出人は【あやかし荘管理人 因幡 恵美(いなば めぐみ)】と書いてある。
 実りは多いが苦労も並々ならぬ依頼をこなすなら、ちょっとぐらい条件の良い所に行きたいと思うのも人情だった。
―― 相手も高校生らしいってゆーワケで、ウキウキしているんじゃないぞ。丁寧な筆跡と巧みな文面に好感を持ったこそだ!  
 ・・・と自分自身に言ってみる。
 興味が無いと云ったら、それは嘘だ。
「あの・・・・・・」
「ふっふっふ・・・」
「・・・・・・あのぉ〜」
「ふ・・・?」
 ぽんぽんと肩を叩かれ、俺は振り返った。
 そこには女の子が立っていた。俺の身上を窺うような、怪訝そうな顔で見つめている。
―― み、見られた!!
 俺はいきなり現実に引き戻され、自分の口元に手を当てた。
 指先にはニヤケ笑いをしたまま硬直している頬の筋肉の緊張が感じられた。慌ててみても、もう遅い。
 ヤニ下がった顔は、中々、元には戻らなかった。
「どなた様でしょう?」
 怯えすら感じているような表情は強張ったままだ。
「あ・・・こ、ここはあやかし荘じゃ・・・」
「はい・・・そうですけど・・・」
「あの・・・俺、工藤勇太っていいます・・・依頼の・・・」
「え?・・・もしかして、お手伝いに来てくれた人?」
 さっきの顔と打って変わって、明るい笑顔になる。
 笑う彼女は眩しいぐらいに可愛い。 
 オレンジ色の布に茶色の肉球の絵がプリントされたエプロンを着けた姿からすると、ここに住んでいるのかもしれない。
「私、因幡 恵美・・・よろしくね♪」
 そう云うと彼女は手を出して、俺に握手を求めてきた。
「あっ・・・ど〜も」
 勿論、俺はしっかりと握手をした。
―― 役得役得vv
 彼女は「こっちへどうぞ」と云うと、生垣を刳り貫いたような入り口の中へ入ってゆく。
 俺はその後ろをくっついて行った。
「ん?」
 さっきまで、こんな入り口は見当たらなかったはずだぞ。
「変だなあ・・・・・・」
 俺は合点がいかず、入り口を通る途中で立ち止まった。
 もしかして、ここは異空間に繋がっているなんてことは・・・・・・無いわけでもないかぁ。
 不思議に思った俺はホンのちょっと確認したかったんで、ひょいと見比べた。
 門とも云えないような入り口のこちらと向こうでは、明らかに何かが違った。う〜ん・・・それは何が根拠だ?といわれると困る。
 だけど、違うということだけは理解できた。
 何でかって?こちら側からでは、生垣が異様に長いんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
 あやかし荘側から見ると一辺が200メートル以上ありそうだった。首だけ傾け、反対側を見る。
「・・・・・・・・・・・・」
 では、もう一度。
「・・・・・・うむ〜・・・」
 やれやれダヨ・・・と、俺は心の中で呟いた。
 半ば諦め気味に外を覗くと、生垣は20メートルあるか無いかで・・・・・・
「はぁ〜〜〜・・・」
 マリアナ海溝よりも深い俺の溜息に気がついたのか、因幡恵美ちゃんはニッコリと笑った。
「気がつきました?」
「え・・・あ、あの・・・・・・」
「大丈夫よ。最初はみんなびっくりするの・・・あやかし荘って、何部屋あって、どんな人がいて、何人住んでるのか管理人の私にも分からなくって困るのよ〜・・・」
 ここは「はぁ・・・」と云うしかないだろうなぁ・・・なんて思ってるあたり、俺って救いようが無い。
 日本語についてのキャパシティー皆無。俺の頭はショート寸前だった。
 『どんな人』が『何人』住んでるのかも、『何部屋』あるのか分からない?それって、大事な管理人の仕事なんじゃないだろうか。
 クラクラきてる頭をフル回転して言葉を捜している俺に、恵美ちゃんは玄関先で立ち止まって言った。
「そうそう・・・あのね・・・中に入ったら、ビックリすることが起きるかもしれないから、気をしっかり持っていてね」
 云うやいなや、玄関のドアを開けた。
「一体、な・・・」
 言いかけた俺の耳にそれが飛び込んできた。
「ぃぃいいや〜〜あああああああああ・・・・・・・・・・・・」
 男のソレと分かる、処女(おとめ)のような悲鳴に、俺の胃の中身は上へ下へと行ったり来たりした。
「うぉえっぷ・・・・・・吐きそう・・・・・・」
 気色悪さに閉口した俺はしゃがみ込み、競り上がる強烈な吐き気を必死で堪える。
 我慢して俺は顔を上げた。
 玄関から数メートル先にある扉の前で、スーツを着た男がけたたましい悲鳴を上げながら扉の向こうへと消える。
 おや?と思うと同時に、男の姿が扉の前に現れる。
 そして、また悲鳴。
「ぃぃいいや〜〜あああああああああ・・・・・・・・・・・・」
「な、何だぁ!?」
「あれね、消えてしまう前の三下さんの残留思念なんですって。当時の三下さんの強い恐怖がトイレの前にこびり付いちゃったらしいの・・・・・・この残留思念って、すっごく気まぐれで困っちゃうのよ。始まったら何回もリフレインするし。昨日なんか、夜中の三時半に現れたのよ・・・・・・」
 ふうっと恵美ちゃんは小さな溜息を吐いた。
―― そ・・・そりゃ、困るわな・・・・・・(汗)
「で、誰も三下のおっさんを探しには行かなかったのか?」
「うーん・・・みんな大丈夫だって言って、ちっとも動いてくれないし。嬉璃(きり)は何か知ってそうなんだけど・・・・・・」
「嬉璃?」
「それはワシじゃ」
「おう〜わッ!!」
 振り返ると、そこには着物を着た幼稚園児位の女の子がいた。
 造りは可愛いほうなのに、何だか可愛げがなさそうな感じがする。
 ててっとこちらへ歩いてきた。
「・・・・・・・お?」
 ふいに俺の鼻に水っぽい香りを嗅いだ。
「何じゃ?」
 怪訝そうな目で俺をねめつける・・・可愛くねぇガキンチョだなぁ。
「何か花の香りがするような・・・・・・」
「・・・・・・」
 眉根を寄せて嬉璃と呼ばれた子供は溜息を吐いた。
「ここはな・・・今はトイレだが、昔は『薔薇の間』という部屋だったのじゃ」
「薔薇の間ぁ〜??」
「そうじゃ・・・・・・奴等はまだ根に持っているのかのぉ」
 それって、住んでた奴が居たってこと?背後関係はわから無いケド、何か怪しい感じ。
 俺はゾッとするような感覚が背中を駆けて行くのをぐっと堪えた。
「思うに、薔薇の間にいた連中の仕業ではないかの・・・・・・」
「そこまでわかってるンなら、早く行ってやりゃいいじゃんか!」
「決まっておろう・・・ワシが行かないのはな」
 そう言ってニヤニヤ笑いを浮かべる。
「行きたくないからじゃ!」
 嬉璃は俺をいきなりどついた。
「うわッ!!」
 よろめいた俺は開いているトイレの扉に手をついたが、身体を支えきれなくてトイレの中に転がり込んだ。
「お?・・・おわっ、お・お・おおッ!!」
 いきなり足元がグラリと揺れ、俺の身体は傾いだ。次秒後には地面が消滅し、虚空に投げ出される。
「頑張ってくるんじゃぞー」
 と、無責任な嬉璃の声。
「ばッ・・・・・・馬鹿言ってンじゃねぇぇぇぇぇ〜〜〜ッ!!」
 叫んでもすでに遅かった。
 落下しながら、あらん限りの言葉で罵倒する俺を、闇が飲み込んだ。

●奇妙な一日の始まりは迷路

「こ、ここは?・・・・・・ッ、痛ぅ!」
 起き上がろうとして上体を起こしかけた俺は、頭痛の酷(ひど)さに頭を抱え、蹲(うずくま)った。
 更に追い討ちをかけるように、大音響が俺の頭部を狙い撃ちする。激しいリズムが身体を打ち、時折、野太い男の声が合いの手が入った。
 辺りを見回すと、蝋燭の灯がほの明るく照らしている。
「どこだ?ここ・・・・・・」
「ぼ・く・ら・のッ!『薔薇の間』へよぉ〜こそッvv」
「何!」
 振り返った俺が見たものは・・・・・・トイレの前で消えた奴。三下のおっさんだった。
 だた、違ったのは、首から下がプロテクターみたいにめっちゃ発達した筋肉に覆われてるマッチョマンだったってことだ。
 盛り上がった筋肉をより美しく見せたいんだか何なのか、奇妙なポーズを決め、顔には気色悪いほどのポジティブスマイルを浮かべている。
「ぼくらぁ?」
「そうだよ、少年」
 云うやいなや、ボンゴのリズムは次第にお馴染みの曲に変わった。
 続いて、『うふっふ〜〜〜vv』という野太い漢たちのコーラスがはじまる。何処からとも無く三下マッチョは現れ、増殖し、鍾乳洞中に溢れ返った。
 彼等が歌うそれは、井上陽水の『夢の中へ』サイケデリック・マンボバージョンだ。
 それぞれが深紅の薔薇を手にし、しきりに『うふっふ〜〜〜vv』と歌い上げる。熱き漢の肉体と薔薇と歌の織り成す悪夢としか言いようが無い。
「ぐげぇ!!・・・し、死ぬぅ・・・・・・」
 俺は嘔吐感に見舞われ、うめいてこの異状な光景に目を背けた。
 ・・・と、その方向におかしな物を見た。
「何で檻?」
「助けてー!」
 檻の中に誰かが囚われていた。
「さ、三下のおっさん!」
「わァん!恐いよー・・・恐いよーっ!」
 二十歳をとうに過ぎた男が、年甲斐も無く泣きじゃくっている。泣きはらした目は赤く、瞼は腫れていた。鼻水を滝のように垂らして、「出してくれ!」と喚いている。
「恐いよー、こんなの嫌いだよ〜〜〜ッ」
『んん??・・・そんなこと言う三下(キミ)には・・・・・・』
 そう云うとマッチョ三下はビシィッとフロントバイセップスポージングを決める。
『ヘッドロック♪』
 檻番の【三下マッチョその一】はそのまま両腕を華麗な仕草で上げ、降ろすと同時に優し〜く強ぉーくヘッドロックをかました。
「くーさーいぃ〜〜〜〜!」
『はははッ♪』
 キュッと締め上げる力にも愛おしさがこもっているのが、マッチョ三下の表情からもわかる。
 咽返るような薔薇の芳香と、つんと鼻を衝く汗の匂いが堪らなく酷(むご)い。
『うふっふ〜〜〜vv』
「あわわっ・・・・・」
『うふっふ〜〜〜vv』
「かっ、怪電波系??」
『うふっふ〜〜〜vv怪電波、うふっふ〜〜〜vv』
――も・・・もしかして、電波って言葉が気に入ったのかァ?
「やばい・・・ヤバ過ぎる・・・・・・」
『さあ、君も仲間になろうねぇ♪』
 そういうとマッチョ三下は俺に薔薇を差し出す。
「ゲゲッ!!」
 無意識に異常事態から逃れようと、俺の超能力は放出を始めた。
「嫌だ嫌だ、い・や・だ。嫌だぁーーー!!」
 ふるふると頭を振り、俺は後ずさった。何時の間にか瞳の端に涙が溜まり、ポロリと落ちる。
「さぁ、少年。僕の元へおいで」
 闇の中で三下マッチョはいった。
「・・・い、い・・・」
 歯根が合わず、ガチガチと音を立てた。喉は締め上げられたように言葉を失っている。
「怯えた君も素敵だよ。お兄さんたちと遊ぼう・・・・・・勇太クン♪」
 手が伸び、俺の腕を掴むと、有無を言わせぬ強さで引っ張った。
「そ、そっちの世界は嫌だぁぁッ!!」
『ここでは仲間外れはタブーなのさ♪』
「げろヤバ!!」
 暴走寸前の精神の波を感じた。
 セーブしようとすればするほど歯止めが効かない。
「仕方ない・・・念動力で!・・・・・・ん??」
 念動力で弾き飛ばそうとしたが、何故か超能力は発動しない。
「な・・・何で・・・くそ、もう一度!」
『無駄無駄無駄ァ』
「わあ!」
 一気に視界がホワイトアウトする。それはテレパシー系の能力が発動する予兆だ。
「違ぁ〜う!そっちじゃなーいッ!!」
 コントロール不能になっていた精神波は念動力ではなく、最悪なことに普段はあまり使わない『精神共鳴』(サイコ・レゾナンス)を始めてしまった。
『うふっふ〜〜〜vv電波電波♪」
「あわっ、うわわ・・・・・・」
『うふっふ〜〜〜vv電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪うふっふ〜〜〜vv電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪電波電波♪
「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」
『電波電波♪電波電波♪』
「ひえぇ・・・・・」
 三下マッチョの逝ってる思考が、俺の脳裏を駆け巡る。
『あと、もうちょっとvv』
「・・・ヒ、ヒャハ・・・ヒャッハァ♪」
「あぁッ!お願い、あぼ〜んしないでぇ・・・僕を助けてくれない気ですかァ(泣)」
 三下が更にわめいた。
―― 三下のおっさん・・・俺だって大変なんだよぉ・・・
「だ・・・だって・・・イヒ・・・俺だって精一杯・・・・・・ヒャハ・・・」
―― 嗚呼、誰か俺を助けて。神様・・・この際、文句は言わないから。
「しっかりしてくださいよぅ!」
「もう・・・だめ・・・・・」
「そんなァ・・・・・・」
 俺は意識を手放した。
 これから先のことは覚えていたくない。きっと恐いことだらけに違いないからだ。
 さようなら、俺の世界よ・・・
 俺は静かに目を閉じた。

●受難の申し子
「・・・・・・ねぇ、勇太。・・・勇太ってばァ!」
「うにゃぁ??」
「にゃぁ・・・じゃないよぅ・・・もう。やっと取れたお休みなのにィ!」
 目の前で美少女が口を尖らせて不服を申し立てる。
「あ・・・れ?」
 俺は辺りを見渡した。
 どうやらここは遊園地らしく、行き交う人のざわめきに、俺の意識は覚醒し始めた。
「えっと・・・」
「ボケちゃ嫌だよ〜。今日は一日ずっと遊ぶ約束でしょ・・・寝ちゃダメ」
「あ・・・悪りィ」
 えーっと、同じ依頼で仲良くなった如神(ルーシェン)と親友の菊池・澄臣(きよみ)の三人でディズニ―ランドに来てたんだっけ。
「居眠りしちゃうんだもん、勇太」
「ゴメン・・・」
「おーい!」
「ん?」
 ふいに呼ばれて俺は振り返った。
「起きたか、寝ぼすけ勇太。こんな可愛いお嬢ちゃんを隠しとった上に、放っぽっとくなんて、えげつないでぇ〜」
 両手に三人分のアイスクリームを持って、こっちに歩いて来るのは澄臣だった。
「お待たせ、お嬢ちゃん♪」
「お嬢ちゃんじゃないよぅ、如神だよー」
「ホンマ、可愛いなぁ・・・」
「ありがと♪澄臣も良い人だよねvv」
「そうかぁvv」
「おーおー・・・鼻の下伸ばしやがって」
「ほっとけ」
 そう云うと澄臣は如神にアイスクリームを渡した。
 俺もアイスクリームを受け取ろうと手を伸ばす
「サンキュー・・・」
 ふいに澄臣は手を引っ込めた。
「お前にはやらん」
「何でぇ!」
「彼女も俺も放って居眠りこいてる奴にゃぁ〜、食べ物の有り難味はわかるまい」
「わかる。わかるからそれをよこせ、溶ける!」
「だ・か・ら、何でも有り難〜く喰える、俺が喰ったるわ」
「よ〜こ〜せぇ〜!」
「嫌やぁ〜♪」
 そんな俺たちのやり取りを、ケラケラと転げまわって如神が笑う。
 その反応に気を良くした澄臣はもっとふざけ回った。
 俺は途中で疲れ果て、如神のほうはというと、笑い過ぎたせいか肩で荒い息をしていた。
 へとへとになるまで遊びまくり、閉館の十時五分前になると、俺たちはホテルの方へと移動を始めた。

「ねえ、勇太・・・」
「あぁ?」
「疲れてるの?」
「何で?」
「だって・・・さっき居眠りしてた時、うんうん唸ってたよ・・・」
「えぇ!!本当か」
―― うーわ、俺って何かヤバイ状態?
「うん。何か嫌な夢でも見たの?」
 心配そうに如神が覗き込んだ。
「えっと・・・」
 ありゃ?そういや、何か見たような見ないような・・・う〜〜〜ん、分からん。嫌な仕事を引き受ける夢だったような気もするが。
「見た気がするんだけど・・・忘れちまったなぁ」
「ふ〜〜ん・・・明後日、お仕事だったよね?」
 こちらを窺うように如神が見る。
 どうやら休めと言いたいらしい。
―― 愛い奴だなぁ♪
「大丈夫だろ、きっと危険なところじゃないさ。・・・アパートだし」
「う〜ん・・・何て云うアパートなの?」
「確か『あやかし荘』って・・・・・・」
 ふと、ボンゴのリズムが脳裏に閃き、俺は身震いした。
「どうしたの?」
「い・・・や・・・な、何でも無い・・・」
―― き、急に吐き気がぁ・・・
「無理しないでね」
「う・・・ん、わかった」
―― やっぱり、明後日、キャンセルしようっかな(汗)
 そう心に硬く誓うと、嫌なことは、ずぇ〜〜〜〜〜んぶ!忘れることにした。

 一方、こちらのほうはというと・・・

「うわ〜ん!誰か助けてぇ!」
 三下は今日も泣いていた。
「折角、助けに来てくれたと思ってたのに。勇太クン、時間の狭間に逃げないで下さいよぉ〜〜〜ぅ(泣)」
 精神崩壊から逃れる為、緊急処置として時空の彼方へと逃避行した勇太に置いてきぼりを食らった三下は、地面に突っ伏して嘆いていた。

 時同じくして、あやかし荘のほうでは・・・

「勇太クン、堪えられなかったみたいね・・・」
 管理人・因幡恵美は深い溜息を吐いた。
 誰も行きたがらない上に、行った人間が皆、壊れて返ってくるか、逃げてしまう。これでは何時まで経っても三下は助けられない。
「もっと早く彼等の正体を云って欲しかったわ、嬉璃ちゃん」
「いったところで如何にもならなかったはずじゃ。彼奴等相手に一人では太刀打ちできんじゃろ。前の管理人が異空間なぞに押し込めたからいけないのじゃ。恨まれても文句は言えんのう・・・しかも、元・『薔薇の間』の住人共は究極の嫌がらせを考案するのが趣味じゃからの・・・」
 嬉璃はボリボリと煎餅を齧りながら、目はお昼のワイドショーを見ている。
「まぁ、その悪癖が祟って閉じ込められたんじゃし」
「はぁ・・・でも完全な方法じゃないみたいよ。こっちに出てきちゃったらどうしよう。しかも、無限増殖の無形生物ってトコが困りものなのよね。次の人を呼んでも収拾がつかなさそうだわ」
「見捨てちゃえば?」
 屈託無く笑って答えたのは、狐耳の柚葉。
「ダメよ!」
「犠牲者は少ないほうがいいって・・・」
「そう云う問題じゃ・・・」
 恵美はがっくりと肩を落とした。
「涙なーど見せない、強気な貴女を〜♪」
 たおやかな手を胸に当て、黒髪の美少女が歌い始める。
「ほら歌姫も、『元気をだして』って云ってるよvv」
 はしばみ色の尾を振って、柚葉が笑う。
 ちょっと選曲が違うんじゃないかしら?と恵美は思ったが、あえて言わなかった。気持は素直に受け取り、新たな犠牲者・・・もとい、救出者を探すべく立ち上がる。
 また一つ溜息を吐いて、恵美は受話器を取った。
 混迷する三下とあやかし荘の明日はいったいどこにあるのだろうか・・・

 END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1122  / 工藤・勇太 /  男 / 17 / 超能力高校生

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■         ライター通信          ■
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 毎度毎度、長いお話をお読み戴き、誠にお疲れ様でございました。
 あけましておめでとうございます!朧月幻尉です。
 早いもので【熱血超能力少年、勇太クン・シリーズ】も三回目になりましたvv <<勝手にシリーズって言うなって・・・(汗)
 本当にありがとうございます。朧月は嬉しいですvv
 なんだか澄臣くんでしゃばってますねぇ・・・しかも、お約束どおりにディズニーランド行ってるし。
 混迷する異次元で歌い踊るマッチョ三下・・・
 澄臣と戦わせてみたいものです・・・ふふふ

 では次回作をお楽しみに♪