■あやかし荘奇譚 あやかし荘のクリスマス■
滝照直樹 |
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【0506】【奉丈・遮那】【占い師】 |
「たしか、『くりすます』というものがあるときいたのぢゃが？」
管理室でコタツでせんべいを食べている嬉璃が、因幡恵美に訊く。
「そうよ？どうしたの？」
「ＴＶでみて思いついたのぢゃが。ぱぁーっとくりすますぱーてぃーと言うものをやってみたいものぢゃ」
「楽しそう」
実のところ、恵美はあやかし荘の管理人になってからクリスマスパーティはしていないのだ。
「じゃ、パーティの準備しなくちゃね」
と、てきぱき動く恵美であった。
いつも、「さんした」よばわりされている三下忠雄は、クリスマスパーティの道具や料理買い出しに恵美の手伝いをする。
前々から彼は因幡恵美に好意を寄せている。しかし、いつも空回り。
他愛のない会話であやかし荘まで帰る２人。
しかし、彼はいつもより強い志しを秘めていた。
（クリスマスの夜に…管理人さんに告白するんだ！）
しかし、どうやって良いものかわからない三下。
そう言うことでこっそり誰かにする事を決めたのだった。
ライターより
あやかし荘でのクリスマスを堪能して下さい。
また、三下君の恋路をサポートか邪魔して構いません。
※前回のオープニングをかなり修正しました。
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あやかし荘のクリスマス
１．準備に大忙し
クリスマスの準備にあやかし荘は大にぎわいだった。歌姫は『ジングルベル』を歌い続けている。
住人たち全員そろって、飾り付けに大忙しだ。
一方、因幡と三下は食品街にクリスマス用の食材を買い、三下は荷物持ちとして手伝っている。また、三下の提案で友人知人を呼ぶことにしたのだ。
「友達を誘うのは、もう少し後にして、買い物を終わらせてからが良いわね」
「そ…そうですね〜」
因幡は買い物リストを見ながら色々考えている。三下は荷物ですでに足下がおぼつかなかった。すでに両手に食材の入った袋５個は持っており、その両手で、ケーキや鶏一羽入った箱が４つもあるのだ。微妙なバランスを保ちながら前方確認は至難の業だった。
「このままじゃおもたくて落としそうだ…」
三下は汗をかきながら思った。
奉丈遮那は因幡から電話を受けて、先にあやかし荘に向かい、１階にある食堂に飾り付けをしていた。玄関先で嬉璃と、綾が何かもめているそうだ二人とも特徴のある口調だからすぐにわかる。
「どうしたのですか？」
「ああ聞いてえな、嬉璃がしめ縄を飾ろうとするんや。それは正月の飾りやで」
「何を言うのぢゃ！向こうではどうか知らぬが、ココは日本！祝い事にはしめ縄に決まっておる！」
「嬉璃さん、クリスマスを知りたいのでしょ？だから、それに習わないといけないです。クリスマスでは柊の葉を集めて輪にした物に、ベルとリボンを付けるのですよ。柊の葉は西洋で魔よけにも使われるのですよ。祝っているときに悪霊・悪魔がこないように。」
遮那は、嬉璃の前にかがみちょうど目線をあわせるように言った。
「うむむ…。そうなのか。でもベルの代わりにミカンだけでもつけさせてくれ」
彼の優しい説得にさすがの嬉璃も納得したようだが、どうもしめ縄に未練があるらしい。
「代わりというより、一緒につけると奇麗かもしれません」
彼はそう代案を出した。嬉璃は子供のような笑みを浮かべ早速庭に生えている柊から葉をとって作業に取りかかる。
「慣れてきたやん、あんた。説得なんて出来ないとか前に言うてたやん」
綾が感心する
「あの人が、長く生きているからですよ…まだまだです」
屋内では、歌姫が『きよしこのよる』を歌っていた。
しばらくして、玄関から因幡の声が聞こえた。三下や他の声も聞こえて談笑しているようだ。
自分もかけつて話に混じりたかったが、飾り付け作業を優先した。
しばらくしてから、落ち着いた感じのかわいい女子中学生がパタパタとやってきて、テーブルにかわいいクリスマスツリーのミニチュアをそれぞれおいていった。あとから楽しそうに柚葉がスキップして手伝っている。この中学生に見覚えがあった気もするが、あまり覚えていない。
気になった奉丈は、手を休めて彼女に近づいた
「メリークリスマス。あやかし荘クリスマスで一緒になる奉丈遮那です。よろしく」
「はい、森里しのぶといいます」
とぺこりとお辞儀した。かなり礼儀正しい。
「いきなりでごめんだけど、先ほど玄関で恵美さんの声がしたのだけどどこに…？」
「えっと…あの…」
彼女にとって、彼は初対面の人なのかしのぶはおどおどしていた（それか他の理由があるのかしれない）
「恵美は厨房ですっごくおいしい料理を作るんだって！」
と変わって柚葉が大げさに答えた。
「鉢巻きに五寸釘さして…」
「それは丑の刻参りですよ」
「へっ？とにかく、張り切ってるよ」
「もうすぐしたら、ココの飾り付けも終わるし、手伝おうかな」
「料理上手なんだ？」
「ええ、柚葉さん。母と交代で夕食作ってます。前にタイカレーを作って母を驚かせました。辛いですけど、美味しいですよ」
「わータイカレーってどんなの？」
「ココナッツミルクにふんだんに唐辛子をいれたものでほのかにその唐辛子色のスープになっているんです」
「へぇ今度作って！」
「ええ、喜んで」
奉丈はほほえんで答えた。
「…ごめんなさい！ちょっとお話しするのは苦手だったりするので」
彼が柚葉との会話に割り込むように、しのぶがあやまった。
「大丈夫、気にしてないから、でも勇気出して人とお話しするのは大事だから…。その勇気を忘れずに」
「はい、ありがとうございます。さっき柚葉ちゃんが言ったように、厨房で料理してますので、手伝いに来てください。お願いします」
「ありがとう。いくよ森里さん」
お互い、和やかな笑顔で答え自分の持ち場にもどった。
「あらら〜仲がいいこと〜」
柚葉のからかいには気にしなかった。しのぶは自分に何となく似ているなと直感したのだ。お互い、
コンプレックスを克服しようとする勇気を求めている。それに共感したといえるだろう。
飾り付けが終わって、料理の手伝いに向かおうとするときに
「まってよ！まってよ。僕は戦いたくないんだよぅ〜。」
とだらしない男の叫び声が聞こえたのでその先に向かった。
三下が、銀髪の美少年に引きずられていく様を目の当たりにした。
「何してるのです？」
「ああ、君は奉丈君！助けて！」
三下は何とか水野の腕をはずし、奉丈の後ろに隠れた。見るからに情けない。
「また何か〈本業〉ですか？忙しいですね三下さん」
「誤解だぁ！」
「だって、凄腕の化け物（フリークス）退治の水野君が居るのですから」
と彼は、水野に三下を指しだした。
「おおわかるね☆奉丈さん♪」
「噂はかねがね聞いてます、水野君以前お会いしたことあるかもしれませんがうろ覚えだったりするので。これを機に交流できると嬉しいですね」
「そだね♪三下さんは僕の好敵手だからね☆今から男を上げに行く準備するんだ♪」
水野がわくわく話す。
「そうですか！それはおもしろいですね。」
この二人には何か心通じる〈利害関係〉が一致したらしい。三下がそれを気づくことはないが…。
「じゃぁがんばってくださいね、三下さん僕は因幡さんの手伝いに行きますから〜。夕食までにはもどってきてくださ〜い」
「ええ、そんなぁ〜！たすけてぇ〜」
三下の悲鳴は冬の晴れた空にむなしく響いた。
奉丈は因幡のいる厨房に向かった
因幡が森里しのぶと狭い厨房を駆け回っている。
「こんにちは〜恵美さん」
「あ、奉丈君！」
奉丈の挨拶に素早く反応した因幡、
「沢山料理作らないと行けないから、手伝ってくれます？」
「ハイ喜んで。何をすればいいですか？」
「今、スープ作ってるの。肉料理全般を作ってほしいです」
「分かりました」
奉丈はまず牛肉を冷蔵庫から取り出し、ローストビーフの準備に取りかかった。その間に時間の間を利用して、チキンの丸焼きも作る。丸焼きはじっくり焼くのでパーティ開始には温かい状態で出るだろう。
しばらくしてから、あやかし荘の料理好き有志が応援に駆けつけた。
「管理人さんと先に料理している方達は、休憩してください。私たちが後はやりますので」
「あ、すみませ〜ん」
因幡は微笑みながら答えた。エプロンをはずし、厨房を出る。
「お肉料理はパーティ開始に温かくできるように作っていますので、火加減よろしくお願いします」
と、奉丈も因幡の後をついて行くように立ち去った。森里しのぶもお辞儀をして厨房を後にした。
玄関をでて行く因幡、今まで屈み込む姿勢での調理だったので、背筋を伸ばしている。
気がつけば、日が沈む頃だ。夕日の光が眩しい。
「ん〜きもちいい」
彼女は白い息を吐いた。
「お疲れさまです」
奉丈は因幡の横に並び、言った。
「助かりました。ありがとう」
ほほえむ因幡の顔を見て、奉丈は赤面した。幸い夕日のまぶしさから表情を読まれることはなかった。
２．楽しい食事
因幡と料理得意の有志が作ったクリスマス料理は見事なものであった。
ローストビーフとチキンの丸焼き、健康を考えた、スティックサラダ。コンソメスープに、ハニートースト。和食好きのためにおにぎりやおみそ汁もある（歌姫や嬉璃用とも言える）。
アルコール類は、ジャンパンの他に、カクテル用としてジン、ウォッカなどを取り寄せていた。当然未成年用にロングドリンクもたくさん準備している。ほとんどは綾のセレクトであり、一級品だ。
三下は意外であるが、カクテルを作るのが得意なのだ。しかし趣味のレベル故、高レベルのカクテルは作れないので、簡単な物である（といっても難しい物が多い）道具も実は彼の私物である。あやかし荘では人気がある故休憩する間もない。
「度胸があれば、バーでに勤めることができるのに」
「顔と性格がこれじゃぁね」
「もう、違いますって。夢は立派なジャーナリストになることなんですから。これは趣味です。で、何にします？」
あやかし荘の住人や関係人たちが、和気藹々と談笑しているのであった。
柚葉は手品で皆を驚かせ、歌姫はリクエストに応じ歌う。嬉璃は家族連れできた子供と昔の遊びに興じている。メンコなんて久方ぶりでは無かろうか？
因幡は同級生と談笑している。
「何とかしてチャンス…」
遮那はすんなりと、因幡と同級生のグループに混じっていた。
ぱっと見では、彼の容姿が少女っぽい。グループに居ても違和感がないのだ。
それに、占い師と分かれば占い好きの女子は興味津々であるし、そうでなくてもかわいさでメロメロだろう。
遠くで三下がこちらを見ていることに気がついているが今は忙しい。
「そろそろ彼氏とかほしいなぁ」
「告白はまだなの？」
他愛のない女子高生の会話を聞いている遮那だった。
「今日は特別に無料で恋占いをしますよ」
「え〜うれしい！」
しばらく占いをして、極力当たり障り無く皆の占い結果を告げた。相手の感情は多岐多様で、グループで談笑したり落胆してひとりになったりする者もいた。
その場には、因幡と遮那しか居なくなった。
「ふ〜いつももこう満員だったらいいのになぁ」
と彼はひとりごちた。
「一休みした方が良いですよ」
因幡が、微炭酸飲料を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
飲み物を受け取って、一口飲んだ。のどに心地よい刺激が流れてくる。
そして
「恵美さん、いきなりですが…クリスマスプレゼントです。受け取ってください」
彼は、鞄の中から大事そうに、サンタクロースの絵が描かれた包み紙にかわいいリボンを結んだプレゼント包みを取り出した。
「ありがとう、中あけても良いかな？」
「どうぞ」
彼女は丁寧にリボンをはずし、包みからプレゼントを取り出した。
「まぁかわいい、ありがとう遮那君」
全体が赤く、手の甲に白いポンポンがついているかわいくて暖かそうな手袋だった。遮那の因幡のとても嬉しがっている姿を見て、自分も嬉しかった。
「恵美さん、今までクリスマスどうしてました？」
と、間おいて彼女に尋ねた。
「いつもは友人達と外食でしたね。たまに綾さんの別荘でのパーティに行きましたけど…肩身が狭くて」
と、綾の苦笑していた。
他の思い出話など、二人で盛り上がった。（三下は気が気でならない状態になる）
「今後予定とかは？」
「え〜っと、今のところはないです」
彼はその言葉を聞いてから、一息つき…
「恵美さん、お正月ですけど… 初詣、一緒に行きませんか？」
「え？」
彼の顔は少し朱に染まっている。
因幡は少し考え…
「一緒に行きましょう♪」
「ありがとうございます！」
遮那は、心の中でガッツポーズを決めた。
「では、恵美さんの来年の運勢を見ますね」
「はい、お願いします」
奉丈は、精神集中し邪念を消した。ここまでの課程は先ほどの占いでも同じようだが、先ほどとは全く異なる。出た真実をすべて話すという事だ。いつも一言多い故、トラブルが絶えないのだ。因幡の同級生に当たり障りのないことを言ったのは、この場の雰囲気を台無しにしたくないだけだった。
大アルカナのみのタロットデックをシャッフルし、２つに分ける。そして因幡にどちらを選択するか尋ねる。
全般運に適したホロスコープタロットを行った。１２星座の時期を元に簡単な全般運が読みとれるものだ。インスピレーションを最大に引き出し、出たタロットの絵から読みとれる情報を照らし合わせる。
「あやかし荘に新しい人が来ますね…。その人に関わるトラブルが、あやかし荘で大きな影響が起こるかもしれません」
「あら、新しい人が〜」
感心する因幡。しかし奉丈遮那の占い結果は続く。
「また、あやかし荘のトラブルに常に身を置くことになるでしょう…。正直…ここにいると本当に落ち着くことはできないですよ…。恵美さんが望んでこのあやかし荘にいるのは知っていますが…」
タロットを奇麗にまとめながら、
「やはり、恵美さんはここにいない事が…」
彼の最後の言葉は恵美の指で遮られた。
「貴方が私の身を心配してくれるのは嬉しいです。でも私はあやかし荘が大好きなんです。どんな事でも乗り越えますから大丈夫ですよ。でも、本当にありがとう」
彼女は優しく答えた。
因幡の占いに一息してあたりを見渡すと、遮那は彼が一仕事終えたことに気がついて、
「とりあえず三下さん、どうぞ〜今年もいろいろあったみたいですけど、良い運勢が出るといいですね」
と、無理矢理引っ張ってきた。
「あ〜占いなんていいよぉ〜」
「そういわずに〜」
と、奉丈は三下を椅子に座らせた。
「何々？」
水野としのぶが興味津々に近づいてくる。
「あ、水野君としのぶちゃん。いまね奉丈君に三下君の今後の運勢を見てもらってるの」
「へぇ〜♪」
「僕の未来はいつも真っ暗だよう〜見る必要もないよ〜」
三下は抵抗するが、すでに綾と嬉璃に押さえ込まれて身動きができない。
奉丈はにこやかにタロットのデックをシャッフルし
「念がそうしてるのです。マイナス思考は楽しいことでもつまらないことにしてしまいますよ。もっと強く意志を持たなきゃ」
奉丈は彼に諭した。
「こんなぺんぺん草、強い意志があろうと、なんもかわりゃせん」
「でも、生命力だけはあるやん。どっちかというと悪運が強いんちゃうか？」
「外野は黙ってみててください」
「愛嬌ないのう」
嬉璃と綾はふてくされながらも、占い見学をじっと見つめていた。
（ここは彼の占いを静かに見た方が良いね）
水野は思った。
彼のタロット捌きは芸術だった。さすがの水野も惹かれるものがあった。
「三下さんの運命は、いつも苦難の道に立たされています。それは永遠に…」
「うわ〜〜〜〜〜〜ん。何か希望とか幸せはないの？」
「見え隠れしますけど、自分で求めない方が良いと出ています。気づかぬうちに幸せという物は来ます。あなたの場合求めるものではないようです」
「いつも墓穴掘って生きているのぢゃな」
『♪Hey you〜世の中すりこぎだよ』
「金運については大丈夫でしょう」
「はっはは、わかってるやん♪あたしがついてるさかい金にはこまらへんで〜」
「お金より幸せがほしい〜」
「やはり修羅道を極めようとする、僕のライバル♪さすが三下さんだ☆」
「ううぅ〜水野君〜僕はね〜戦いなんか…」
彼が必死の抗議をするのだが、水野はすっかり占い談義で忘れていたことがある。
「あ、そだ」
「？」
「すみませんが、僕と三下さんと因幡さんの３人きりにしてくれますか？」
「？？なにかおもろいことでもするんか？」
「真実を知りたい方は、この地図をたよりに来てください」
その地図は、あやかし荘に数多ある、開かずの間を指していた。
「これって？」
「では先を急いでますので〜」
「ちょっと水野君！」
三下と因幡の声が重なり合う。
水野は三下と因幡の手を掴み、有無を言わさず彼らを連れて行った。
「気になる…」
「またとんでもないことを…」
心配するしのぶと奉丈は彼らの後をついて行った。
柚葉が綾の背中から地図をのぞき込み、
「いつものことだし、もう少し後が良いかも？」
「そやな〜」
「まぁ、いつものことぢゃ。宴はまだ始まったばかりぢゃしの」
嬉璃は湯飲み茶碗で世界最高アルコール濃度（９６％）のウォッカ〈スピリタス〉を飲んだ。
３．愛を喰らうもの
あやかし荘には開かずの間がいくらでもある。ある空間学者がこういった。
「あやかし荘自体が、異世界につながる門でもあり、現世や未来もしくは過去につながる道でもある。人の心に影響し、それに反映された世界でもありえる。精神世界の境界線だ」と。
７不思議にあげられないし、他の雑誌でも怪奇スポットとしても大きく取り上げられないのは、そうなのかもしれない。もっとも有力なのは情報操作であろうが。
「何をしでかすのだろう？」
奉丈は不安でならなかった。
奉丈としのぶが水野を追いついたとき、得体の知れない物を見た。開かずの間は木造なのに石造のアーチと石の門で、すでに門は開けられており、その先に石造りの下り階段が闇に通じていた。
「さて、多少の人数増えちゃったけど。いいかな？審判として認可しようっと♪」
頭をぽりぽりかきながら水野は言った。
「何をする気なのかな？水野君」
「それはこの中に入ってからで♪」
水野は階段の壁に掛けられたたいまつをとり、道案内を始める
しばらく地下捜索のような道をたどり、光が見えてきた。
「さて三下さんはこれを」
水野は三下に長くて白い袋を手渡した。
「森里さんと奉丈さんは因幡さんのところについてあげてください♪あ、そうだ、その奥に武器庫があるから好きな物をとってきてくださいね♪僕と三下さんは反対方向から行きますから〜☆」
「武器庫！？」
水野以外驚きの叫びをあげた。
「いったい何を？」
その質問に答えることなく水野は先に行ってしまった。
「だいたい検討ついたわ…水野君…」
同級生は偏頭痛に悩むように頭を抱えた。
「なるようになるから彼の言うとおりにしましょう」
武器庫の中には様々な武器や鎧時代問わずしての隣接戦武器が並んでいた（白兵戦とは現代では銃器での射撃になる）。グラディウス、バックラーというローマの剣闘士が好んで使ったとされる武器や、騎士の基本装備であるランスとロングソード、プレートメイルもそろっていた。
因幡はその中から、刀を見つけ出し、剣道着を身につけた。現代人では武者鎧を身につけるほど体力はない。しかし、冑だけは臭いがきつく、あきらめた。
「皆さんも何か起こるか分からないから、武装しておいた方が良いわ」
「そうします」
奉丈は、レザーチュニックに棍棒、しのぶはレザーチュニックとバックラーをもって、光の先に向かっていった。
三下と因幡が迎えたのは、とどろくような歓声だった。どうもローマのコロシアムにたたされている気分である。
中には「殺せ！」「肉を裂け！」と暴力的発言が飛ぶ。
近くにＶＩＰ席に嬉璃達がいた。かなり高い観客席があり、ローマのそれより大きな物ではないかと予想はつく。
二人は、この状況で何も言えなくなった。
意気揚々と、レフリー服の姿で現れた水野がマイクを持ってコロシアム中央にたった。
「れでぃーすあんどじぇんとろめ〜ん。地下１千万の地下格闘ファンの皆様、クリスマス特別デスマッチを行います！」
彼の発言でさらに歓声が上がる。
「青コーナー、あやかし荘の管理人、因幡恵美っ〜!!」
「赤コーナー、修羅道を生きる我がライバル、三下忠雄っ〜!!」
「だから違うって！」
怒濤の歓声があがったが、彼が手を挙げると静まった。
「三下さんは因幡さんに愛の告白すなわち告白〜勇気を持って、修羅道を目指すため、因幡さんと果たし合いを行うのです。この神聖なる戦いは黙して観戦してください！」
「え？三下さん？あなたは…」
赤面する因幡だが状況が状況だけあまり困惑はなかった。
「あ、その、え〜とこれには深いわけが！」
「…相談相手間違えたみたいね…ここは決闘場…私も…あなたの気持ちを刀に込めて応えてあげる！」
因幡はもうこれはどうでも良い何とかなるというあきらめ口調だった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜誤解だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
殺るか殺れるかの世界に入った以上、言い訳は通じない。
「レディッーーーーーー、ファイ！」
水野の合図で銅鑼が鳴る。その瞬間に、因幡は正眼の構えに入ってにじり寄る。三下は布にくるまった剣を出すことなくそのままで構えた、布がじゃまで重い…。
下段に刀を構え、間合いを分からなくした瞬間。
「どうして抜かないの？」
と、三下の隙を見て間合いを詰めて因幡が訊いた。
「い…因幡さん！」
切り上げ一閃、三下はかろうじてこれをかわしたが、刃を返し２撃目が来る。三下はそれを剣で受け止めた。
衝撃で三下は転倒する。剣をくるめた布が切り裂かれ、魔剣の姿があらわになる。
“解放せよ”
三下に謎の声が聞こえた。
そのままとどめを刺す勢いで、因幡が詰め寄る。
（なるようになれ！）
彼は距離を置くため地面に転がり続け、剣の封を剥がした。
赤黒い鞘は燃え尽き、刃は魅了するほどの銀色のきらめきを放つ。沢山の血を吸ったとは思えないほどの見事な両刃の剣だ。今まで重くたかった魔剣が今や自分の体と一体化したように不自然なく構えることができる。
「やった♪」
水野は喜び小声で言った。しかし、後ろから何かで殴られる。
「うぐぅ」
ぱたりと倒れた後ろには棍棒を持って息の荒いしのぶと、それをとられ呆然としている奉丈がいた。
（女の子は…つよいなぁ）
そんなことはお構いなく、二人の戦いは続いた。魔剣を構えた三下は歴代の使い手の剣術を身につけたような身のこなしで、因幡の太刀筋を見切っていた。
「僕はあなたと戦いたくない！」
「でもこういう状況だと、観客から殺されるわよ！戦って！」
「しかしこの魔剣は、本当にあなたを一刀のもと殺す危険な物なんです！」
「なぜ？その確証は？」
「あなたにそれを向けたくなぁいんです〜！」
因幡が突きを入れるところを、三下は無意識に剣で受け流し、そのまま胴着もろとも彼女を切り裂いた。
因幡の胸から血しぶきがでる。そして倒れ込んだ。
三下は…
「うああああああああ」
狂気に犯され始め叫んだ。
「ああ！因幡さんが」
奉丈が、因幡が三下に斬られるところを目撃し、そのまま駆け寄った。
原因がどうでアレ、奉丈は好きな人の危険を作り出した目前の男が許せなかった。
因幡の持っていた刀を構え、
「三下さん…僕の占いが当たってしまった…それは僕の責任でもある…でもあなたを許さない！」
彼は狂気に叫んでいる男に向かっていった。
”私は血を求める…“
奉丈は防戦一辺倒だった。後ろには血の海に沈む因幡がいる。三下…いやすでに魔剣の物となった化け物は容赦なく剣を振るう。死角に入り込んでの攻撃をかわすのにやっとである。どんどん体力が消耗していく中、「因幡への想い」で魔剣の攻撃を防いでいた。また、四肢を斬られていくことでさらなる疲労と戦意を消失させる。
「ここまでか…」
と膝をついた。
魔剣が上段からの一撃を見舞う瞬間…
水野のナイフが三下の左手に突き刺さった。剣を止め、投げた人間を睨んだ。水野が立っている。
後ろから嬉璃達がが彼と倒れている因幡をゆっくり運んでいった。
なにか、彼と三下がしゃべっている事迄覚えているが、控え室まで戻った後気を失った。
精神世界〜境界線〜数ある占い道具と、映し出される真実〜自分の能力〜。夢の中なのか？
〜しのぶさんがこういったかな？「もう魔剣に操られている」って…「三下さんじゃない」って…。〜
（たすけて〜）
気の弱い声が占い師の耳に届いた。
「ここは？」
よくみると、様々な画面がＳＦ映画によく出る空間モニタにようにダイジェストに映し出されている奇妙な空間だった。過去の事件や、自分が体験したことのない誰かの行動が…。
「夢の中か？」
あやかし荘のこの空間では何が起こっても不思議ではない。様子を見ると、画面が消えたり、お互いが重なり合って整頓されるか、さらにおかしな展開になっている。
（たすけて〜）
また、気の弱い声が奉丈を呼ぶかのように聞こえる。
「その声は三下さん？」
方向という物はない。位置も時間もない。精神世界とはそういったものだ。自分で想像し創り出さなければならない。
いつも人の夢に入る能力を持っている彼にとっては造作もないことだった。
三下らしき声までの道を作り上げ先を進んだ。
たどり着いたの先に見たものとは…装飾品につける時に見かける宝石だった。大きさが人ひとりすっぽりと入る事を除けば…。
姿形からすれば…あの「剣」のものだった因幡を斬った剣…。
宝石の中に、三下が閉じこめられていて必死に助けを呼んでいる。
「奉丈君！」
「み…三下さん？」
「ここから出して！おねがいだぁ」
「貴方は何か忘れていませんか？」
「状況は分かってるよ〜…だから今、皆を助けるためには何をすれば…いきさつを話すから手伝って〜」
三下は、遮那にすべてのことを話した。自分が持っているものは魔剣「ラヴ・スレイヤー」で、魔物などを退治出来る代わり愛する人の血を吸うと言われるという呪われた物だと。
「…確かに私の占いが当たってしまった…。でも貴方が…」
行き場のない怒りを三下にぶつけようとするが、
「気の弱いのは分かってる…。だからみんなに迷惑かけてる…でも…僕も…強くなりたい」
彼の意外な一言で彼に対する怒りは薄れてきた。今は怒りをぶつけるときではない…。冷静にならなければ…。
「ここは、貴方の精神世界…夢の世界でもあります。自分が強いという意志の力を持てば、この空間を、そして今の状況を止められるかと思います」
「意志の力…」
「三下さんの信念を僕が増幅し、剣の意志力を超えることができれば、大丈夫です。一緒に皆を救いましょう！」
彼の所為ではない。彼は純真すぎるからだ。この純真さが彼の強さなのかもしれない…。
すでに、奉丈は彼に対する怒りはなかった。
今、剣は三下の体を使って水野と戦っている。急がないと、危ない。
三下は、色々な意志を奉丈に送り込み、奉丈は増幅していった。最初は弱く、そして徐々に強くなっていく。
二人は今、目の前で傷だらけの水野を見下ろしていた。精神と魔剣から見える視界が「接続」されたのだ。
「なんてことに！ぼくがっ…！」
三下は悲しく叫んだ。
「強い心をもって！」
「僕は誰も傷つけたくない！」
瞬間！
三下をとらえていた宝石は砕けた、「接続」が切れるとき、見覚えのあるナイフによって宝石が砕かれ、剣全体が崩れ去り…「あちら」と「こちら」の世界に魔力の波が流れ込んだ。
（……また暴走したようだ我は）
なにか聞こえる。目が見えない。いや、全くの闇だ。
（精神干渉出来る人間が居て我も助かった）
「貴方は何者です？」
（先ほどの魔剣だ）
「!?」
（訳があって、呪われてしまってな…）
「…」
空間と空間の干渉…、精神と精神の干渉…。奉丈は彼の悲しいつらい剣の生き方を瞬時に体験した。
遮那の頬に涙でぬれた。
（安心してくれ…魔力の暴走といっても、純粋な魔力だけだ。あやかし荘自体に悪い影響は出ない。この力を利用すれば時間と空間がある地点までさかのぼる。おまえが望むようにこの時空を支配すれば、あの女性の傷もなく全く別の出来事になる…）
「本当ですか？」
（ああ、おまえの能力を使えば…な。もちろん一部の人間の記憶もなくせる…何せここは我が作った…）
そのまま剣の声は消えていった。
「丸く収まる方法…」
彼はクリスマスパーティであることを思い出した。
何となく、頭の中に数多の酒瓶が目に浮かんだ。
「あまり、使いたくないけど…使うしかないですね…」
奉丈は自分の能力で「剣」の精神世界に干渉していく。時間さかのぼらせ、出来事を再構築するのだ。
全ての作業が、終わった後…疲れ果てて闇の中に落ちていった。
４．死闘の後
「ねぇねぇ起きてよ」
水野と奉丈はしのぶの声に起きた、気がつけばクリスマスパーティ会場だった。窓から差し込む日の光がまぶしい。
「あれ？決着？？」
「僕は何をしていたのだろう？」
「水野君、また三下さんと戦っている夢を見ていたね」
「え？え？」
「僕としたことが、君と三下さんと一緒に張り合って飲み合いっこしたとは…」
（これで良いか…）
水野はまだ状況をつかめていないようだ。まさか自分がここまで時間をさかのぼらせて全く違う出来事にしてしまったなんて思いもよらなかったが。
「アレ…コロシアム？」
「全くまだ寝ぼけておる、未成年が朝帰りだと親に怒られるだろうに」
嬉璃がミカンを食べながらやってきた。
「一応連絡は取っておるから小言だけですむぢゃろう」
「すみません。羽目を外してしまったようで」
「なにかまわんいつものことぢゃ、けけけ」
奉丈の謝罪に、酔い覚ましの薬と水を差し出す事で嬉璃は応えた。
「ありがとうございます」
奉丈はクリスマスパーティ中、スピリタス一気のみ大会が開催させ、三下、水野、奉丈の果てしなき戦いになったように出来事をすり替えた。優勝者は意外にも三下にしたのだ（※よい子はまねしないように。すごく危険です）。
「ところで、因幡さんと三下さんは？」
水野は訊いた。
「今は二人きりにしておいてやるんぢゃ。あのぺんぺん草にもクリスマスプレゼントぐらいあげないとな。」
「？？？」
二人とも二日酔いの頭痛で深読みする事はできなかった。これも自分で「作り上げた出来事」だ。
「ふ……」
「ははは♪」
「かっかっか」
管理人室には達筆な字で〈面会謝絶〉と書かれた張り紙がかかれており、中で三下は、因幡の膝枕の元でけなげな寝息を立てていた。因幡も、壁にもたれて静かな寝息を立てていた。
奉丈はこれに関しては、あまり干渉していないので知る術はない。単に「三下さんには気づかない幸せを」とあやふやにしていたのだ。
奉丈は立ち上がり、窓から見える銀世界を見て…
「雪が降っていたんだ」
と、不思議な安堵感を覚えた。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【0424 ／ 水野・想司 ／ 男 ／ １４ ／ 吸血鬼ハンター】
【0506 ／ 奉丈・遮那 ／ 男 ／ １７ ／ 占い師】
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■ ライター通信 ■
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初めまして滝照です、初仕事である私のシナリオに参加して頂きありがとうございます。
最初に参加された水野さんのあと、現実時間のクリスマス目前に奉丈さんが参加なされたことで、初仕事を終えることができました。
課程において、キャラの性格ではどう行動するだろうとか、どうつなげていくかをどうするかで悩みましたが、最終的にはギャグではなくシリアスになった感じで申し訳ないです。
これからも、おつきあいくだされば幸いにと存じます。
奉丈さんへ：特殊能力をかなり変わった形で使わせて頂きました。いかがだったでしょうか？
滝照直樹拝
20030110
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