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■THE RPG 地下5F■

龍牙 凌
【1207】【淡兎・エディヒソイ】【高校生】
【データ修復中】
THE RPG 地下5F


「へーここがあの有名なあやかし荘ですか。」
「そうぢゃ。なかなかよい場所であろう。」
「そうですねえ。こんなところにあるなんて思いもしませんでしたよ。」
 三下忠雄が「あやかし荘」へと帰ってきたとき、なにやらほのぼのとしたお茶の間の風景が広がっていた。しかし、こたつでお茶を啜っているのは学ランの上から何故か白衣を羽織った中学生くらいの少年と着物を着た子供である。着物を着た子供はあやかし荘に君臨する座敷わらしの嬉璃で、その場にいることに何のおかしさも感じない。
 そうであっても、三下は問わずにはいられなかった。何せ、2人が寛いでいるところは紛れもなく自分の部屋、『ペンペン草の間』であるからだ。
「えーと、どちらさまですか?」
「お帰りなさい。この人が嬉璃の言っていた人?」
「そうぢゃ。まさしくこの男ぢゃぞ。」
「何の話をしてるんですかー?」
 三下は嫌な予感がして仕方がない。
「今日はお客さんも一緒に来てるんですが……。」
 三下はちらりと背後を振り返った。銀髪に眼鏡をかけた背の高い少年が立っている。
「おおきに。うち、淡兎・エディヒソイ言うねん。エディーでええわ。よろしゅう。」
 エディヒソイがのんきに手を挙げた。
「わーい、お客さん〜?」
 狐の尻尾を持った一見少年のような柚葉がエディヒソイの腰に抱きついてきた。
 少年がそれを見てにっこりと微笑んだ。
「そりゃちょうどよかった! 実験体がたくさんあるのはいいことだよ。」
「えっ?! 実験体??」
 ぎょっと三下の身体が強張る。じゃれている2人は事の重大さに気付いていないようだった。
「そういうことだからいってらっしゃーい!」
「生きて帰ってくるのぢゃぞ。」
 爽やかに2人に手を振られた。えっと思う間もなく、三下たちの足元の床が抜ける。身体が重力に従って落ちていく。浮遊感のもたらす気持ち悪さに、三下はあっさりと意識を手放した。



 三下とその連れが一緒に姿を消すと、嬉璃と少年は何事もなかったかのように再びお茶を飲みだす。
「それで、アキラは一体何を作ったんぢゃ?」
 嬉璃は少年をわくわくしたように見つめた。
「実践RPGみたいなもんかな。自分の研究室の地下を改造してただけんだけどね。いつの間にか広がってたみたい。実際にどれくらいの大きさなのか、僕にも分からないや。」
「危ない奴ぢゃのう。」
「でも遊んでくれる人がいないとせっかく作ったのに意味ないからね。嬉璃がいい人を紹介してくれてよかったよ。どれくらいで出てくるかな〜。楽しみだな〜。」
 アキラの手にはタイマーウォッチが握られている。そしてディスプレイを取り出す。画面の上には地下5Fと書いてあり、非常に入り組んだ地図の中央に赤い光が点っていた。
「これが三下さんのマークね。発信器をつけてるなんて粋な計らいだよ、嬉璃。」
「あやつはこうでもしておかぬと、すぐに迷子になるのぢゃ。」
「そんなすごい人がいるんだねえ。どんな動きをするのか楽しみだ。」
 アキラはディスプレイについていたマイクを取り上げた。
「じゃあ、地下5Fからスタートだから。最下層は簡単にしてあるから。鍵を探してドアを開けるだけ。頑張ってね〜。」



「三下さん大丈夫か?」
 エディヒソイに声をかけられ揺さぶられて、三下はようやく目を覚ました。
「おはようございます。なんか変な夢を見てたみたいで……。」
「夢ってこれのこと? めっちゃ現実やで。」
 エディヒソイに言われて周囲を見回し、三下は再び意識を吹き飛ばしそうになった。
 壁や天井、床は全て冷たい石を敷き詰められており、地下らしい陰湿な雰囲気を醸し出している。壁のところどころについている灯りだけが唯一の光源だった。
「ちょお、堪忍な。俺の方が巻き込まれてんねんで。」
「うぅ……すみません。柚葉ちゃんはどこへ行ったんですか?」
「面白い〜ちゅうてその辺走り回ってるけど。」
「あー三下さん起きた?」
 噂をすれば影とばかりに柚葉が壁の向こうから顔を出して駆け寄ってくる。なぜかそのまま鳩尾を蹴られた。
「うぐっ。」
「柚葉、また寝かしたらあかんで。」
「ごめーん。」
 全然すまなそうに見ない。
「……えーと、ここはどういう状態なんですかぁ?」
「んー。見てみたけど、ほんま小さな部屋やで。東西南北に十字路があるだけや。探してみたけど隠し扉なんかなさそうやったで。鍵らしいもんも見つからんかったし。」
 三下が暢気に眠っている間にエディヒソイと柚葉はすでに攻略に取りかかっていたらしい。三下はのろのろと起きあがり、エディヒソイの後をついていった。
 確かに、十字に廊下が伸びているだけの場所だった。
「エディ〜。俺、変なもの見つけたよ?」
「なんや、柚葉?」
 柚葉が差し出したものはただの紙切れだった。裏に大きく4と書いてある。裏返してみると、そこには『こよにし』と書かれていた。
「……もしかして、これが鍵になってるんちゃう? 他にもないか探してみようや。4ってことは少なくとも3枚はあるはずやで。柚葉、これどこで見つけたん?」
「壁に貼ってあった〜。」
「よっしゃ。三下さんも探して。」
 薄暗い廊下の壁に張り付くように紙が貼ってないかを探す。三下は自分がやっていることに情けなくなりながら、必死に目を凝らしていた。
「エディ〜あったよ! 5番! 『はのたき』だって。」
 柚葉が再び紙を見つけてぴょんぴょん飛び跳ねている。
「うちも見っけたわ。2番『としくか』。」
 エディヒソイもひらひらと紙を揺らした。
 三下だけがまだ何も見つけていない。ちょっと涙目になりながら、ふと床を見ると何かを踏んづけている。
「何ですかね、これは。」
 拾い上げてみると3と書いてある紙だった。裏には『のきらび』と書いてある。
「ありましたぁ!」
 喜び勇んでエディヒソイの元へ駆け寄り、紙を渡した。
「あ、まだ一枚足らへん。」
「え?!」
「2、3、4、5まで集まってんねん。あと1番があらへん。」
「まだ探すのね〜。」
 言いながら、柚葉は首を傾げた。
「でもね、エディー。この十字路のそれぞれから紙が見つかったんだよ? どこかに2枚とか隠れてるの変じゃない?」
「うーん、それもそうやなあ。」
 宙を見据えてエディヒソイが唸る。ふと何か気付いたように、十字路の中央へと足を進めた。
「やっぱりそうや。見てみ。天井に紙が貼ってあるわ。」
「本当だ〜! エディー偉い!」
 柚葉がきゅっとエディヒソイに抱きつく。
「でもうちでもさすがに手が届かへんわ。柚葉、肩車したるから、取ってくれへんか?」
「はーい!」
 エディヒソイの肩に乗り、柚葉が最後の一枚を手に入れた。
「1番は『りあらび』ですか。一体なんでしょうねえ、これは。」
「並べて読んでみたらどうや?」
「えーと、『りあらび』、『としくか』、『のきらび』、『こよにし』、『はのたき』?」
「りあらびとしくかのきらびこよにしはのたき?」
 エディヒソイが繰り返した時、ゴゴゴと嫌な音と地響きが鳴った。
「出口か!」
 ぱっと顔を輝かせた一同は、一瞬後真っ青になった。音がした方から大きな丸い岩がこちらへと転がってくる。
「ぎゃー!!」
 反対に逃げようとした瞬間、足下から全長30センチほどの針が飛び出してきて、三下はもう少しで突き刺さるところだった。その針が三下たちの周囲を囲むように飛び出している。飛び越えようにも2重、3重に張り巡らされているという巧妙さだ。
「逃げれないよ〜!」
 柚葉がエディヒソイの肩にしがみついて半泣きになっている。三下はすでに泣いていた。
「殺す気ですかー!!」
 丸い岩はすぐ後ろまで迫っている。
「ちょい待ち、これってもしかして逆から読むんちゃうか?」
「えええっ!! 今さらそんなのどうでもいいですよー!!」
「きたのはしによこびらきのかくしとびらあり? ……北の端に横開きの隠し扉あり!」
 エディヒソイがポンと手を叩き、叫んだ。
「柚葉、北ってどっちや?」
「分かんないよ〜。」
「アホ。上に書いてあるやろ。」
「え? あ、本当だ〜。」
 柚葉が伸び上がって天井に書いてある方位図を見つめる。
「あっち!」
 それは岩が転がってくるのと正反対の方向だった。
「三下さん、走りや!」
「無理ですよぉー。こんなの飛び越えられません!」
「うちが道を開いたるさかい。」
 エディヒソイがさっと手を振り下ろした。地面がめり込むほどの衝撃が来る。エディヒソイの特殊能力、重力を操る力が発動し、針を全て凹ましてしまったのだ。ちょっとやりすぎて、地面まで抉れてしまっている。
「早く!」
 三下がのろのろしているので、エディヒソイがその腕を掴んで走り出す。
「でも、エディー、隠し扉なんてなかったよ〜?」
「ちゃんと読んだやろ? 押したり引いたりしても見つからんはずや。横開きやねん。日本の心やね。」
「そっか〜。」
「あまり関心するところじゃないと思いますけどぉぉー。」
 すぐ後ろには岩。目の前は壁。
 3人は必死に壁に飛びつくと、いろいろな場所で横に引っ張ってみた。右開きなのか左開きなのかが分からないのが、時間のない身にとっては深刻な問題だった。
 そうこうしているうちに、岩が押しつぶそうと迫っている。
「開いた!」
 エディヒソイの声と共に、3人はその中に転がり込んでいた。ガタンという音がしてその空間がゆっくりと上に昇っていく。
『地下5F攻略おめでとー! 攻略時間は2時間13分46秒。なかなかいいスピードだね!』
 アキラののほほんとした声が聞こえてきた。
「よかったぁー。助かりましたぁ。」
「でも、まだ地下4Fやけどね。」
「ひぃぃぃ〜。」
 エディヒソイの冷静な一言に、三下はがっくりと肩を落とした。
『三下、情けない姿を晒すんぢゃないぞ。しっかりせいよ!』
 嬉璃の有り難い言葉がとどめだった。


 Continued...?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1207 / 淡兎・エディヒソイ / 男 / 17歳 / 高校生】


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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとうございます、初めまして龍牙 凌です。
ご参加くださってどうもありがとうございます。
罠が発動しつつ、しっかりと地下5Fが攻略できました。
ご満足頂けたでしょうか?
続けて地下4Fもプレイングしていただけたら幸いです。