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■雨…■

滝照直樹
【1305】【白里・焔寿】【神聖都学園生徒/天翼の神子】
〈あやかし荘〉管理人・因幡恵美は、鼻歌交じりで庭の掃除に外に出た。天気予報では午後から大振りになるという。
「今のうちに掃除した方が良いわね」
 ごく普通の平凡とした日常。
 しかし、天気予報はあくまで予報であり、確実ではない。天気は気まぐれだった。
 まだ、時間的に余裕があるのにもかかわらず。雨が降り出したようだ。
「あらら……降ってきたわ……。ひどくなる前に引き上げなきゃ」
 因幡は中に入ろうとするときに、気になる物を門の前で発見した。段ボールの箱である。
「あれ?今までなかったのに?」
 段ボールといえば捨て猫か捨て犬、もしくは危険物と相場が決まっている。中で何かうごめいている事から前者だろうか。
 恐る恐る箱に近づき、中を確認し安堵とともに困り果てた顔をして箱を持って帰っていった。
雨…

◆箱の中身って何?
管理人室では恵美と嬉璃、綾が思いっきり悩んでいた。
段ボールの中に8匹の猫が居るのだ。その中にもう2歳になりそうなブルーリボンを付けたアメリカンショートヘヤーが仔猫たちを母親のようにかわいがっている。仔猫はそれぞれ色が違う単色で、一列に並べれば虹に見えるだろう。
茶にちかい橙色を除けば不可思議な色合いの猫だ。すでに、目も開いておりちょこちょこと箱の中でじゃれ合っている様はかわいい。
「突然変異といってもなぁ。アメリカンショートヘヤーから虹色仔猫が産まれるというのはおかしいで」
「でも、この仔猫とは関係なさそうよ」
「ん〜、人なつっこさがあるのう。普通なら怯えるはずぢゃ」
「それより…、この猫たちどうしましょう」
「〈あやかし荘〉の規約にはペット飼育禁止ではないぞ」
「でも、住んでいる方に動物で苦情がくれば…」
「しばらく此処で預かり、里親を募集すればいいやん。簡単なことや」
「そう…ですね」
「深く考えなくてもはじまらぬ。でもこの南蛮猫(アメリカンショートヘヤーの事らしい)は見るからに…」
「でしょうね。こんな毛並みの良い…」
下でベルが鳴った。
「お客さんかしら?」
恵美はお気に入りのスリッパを履き、パタパタと下に降りていった。

◆あこがれの〈あやかし荘〉
白里焔寿はチャームを抱いてと洋菓子屋からの帰り道だった。チャームはかわいいアメリカンショートヘヤーでありブルーのリボンがついている、両親が亡くなったことでショックを受けたが、心開ける唯一の【友達】だ。
「にゃ?」
「あ、雨だわ…」
確か午後から雨…でも予報は外れてしまったようだ。もう本降りに近い。急いで帰るところだったのだが…。
「雨宿りしないと…あっ」
チャームは彼女の腕から離れ、先日この猫が迷い込んだ〈あやかし荘〉の方に向かっている。
「待ってチャーム」
彼女はいつもの服装…グレイのツインピース、ブーツで雨の中を追いかけた。
「あ、ここは…」
〈あやかし荘〉の門を見るや、かつての居心地の良さを思い出した。前にチャームが上がり込んだ〈あやかし荘〉…。
「チャーム!チャーム!」
彼女は【友達】を呼び続けるのだが近くにいる気配はない。
「ど…どうしよう…」
不安そうにあたりを見渡す。足下に前に何かあった跡がある。箱のような物だろう。
「もしや…」
彼女は〈あやかし荘〉の玄関先まで恐る恐る進む。
チャームはどこに行ったのだろう…。
勇気を出して玄関のインターホンを鳴らす。
1分もしないうちに、パタパタと走ってくる音を聞いた。ドアがすっと開く。
「どちら様でしょう?」
きれいな女性が学生服にエプロン姿でかわいい猫のスリッパで現れた。
「あ…あの…」
「?」
焔寿は、ここしばらく人と対話したことがないのでどう答えたらいいかわからない。しかし、勇気を出して
「あの…その…え〜っと、此処に私の友達が迷い込んだみたいなんですけど…」
「え?」
「あの…猫です…アメリカンショートヘヤーの」
「じゃあの箱は貴女が?」
女の人は少し驚いた様子で答えた。
「一寸困ってる事があるの…」
「どう言うことですか?」
更に困惑する焔寿。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
二人の会話をどこから聞いていたのだろうか?
10〜15歳程度のかわいい女の子がずぶぬれの制服で割り込んできた。ずぶ濡れの割にはしごく楽しそうだ。
「えっと〜。貴女は?」
「あたし?鈴代 ゆゆです!前から此処を見つけたとき気に入ってたの♪」
明るさいっぱいのゆゆという来客が来て恵美も困惑する。
「雨で、ビショビショでしょ?二人とも中に入って」
彼女は、二人とも風邪を引かないようにすることが優先であると思った。

中にはいると、玄関先で焔寿の【友達】が一匹の猫をくわえて待っていた。紫猫である。
「チャーム!」
「え?このアメリカンショートヘヤーは貴女の猫?」
「はい」
「かわいい♪」
ゆゆがチャームが仔猫を加えている様をみて言った。
焔寿はチャームを抱き寄せて恵美の問いに答えた。
「いきなり此処に迷い込んでしまったようなので…」
「段ボール箱の中に入っていたわよ、その子。てっきり親猫と間違えかけましたけどね」
「チャーム…だめじゃない…済みません」
謝る焔寿だが、ゆゆが割り込み
「何か遊びたかったの??うんうん…」
ゆゆは、チャームと紫猫に話しかけていた。
「言葉わかるの?」
「ううん、わかんない♪」
焔寿は膝を後ろから押されたかの様に体勢を崩す。こけるまでは至らなかったが。
「木々の気持ちはわかるのだけど猫は無理みたい。」
不安そうな焔寿に対して、ゆゆは無邪気な笑みで返した。
「たしか、この子はたまに隠れんぼしたくなるから…あ!」
何か忘れていた様に言葉を詰まらせた。
「私は白里焔寿です。初めまして」
すっかり、自己紹介を忘れていたのだ。
「うん宜しく。」
几帳面なヒトだなと思いながら、挨拶するゆゆ。
恵美は会話のやりとりで、状況がつかめたようだ。
段ボールの七匹仔猫は正真正銘の捨て猫であり、チャームという猫は焔寿という少女の【友達】だと。
猫というのは狭いところか暗いところが好みである。紙袋や家屋の奥の中に入って出てこなくなる事など有名な習性だ。
「ほかにも6匹猫がいるのよ、色違いの。見てみる?」
恵美は二人の少女に優しく微笑みかけた。
「はい」
「いくいく〜♪」
二人は喜び恵美について行った。

◆虹色の猫たち
「やはり並べると綺麗なもんぢゃのう」
「虹やなぁ」
嬉璃と綾は、ぬれた仔猫を布で綺麗に拭いてあげてから仔猫を虹が描く色の順で並べた。はっきり色別れしているに見えたが、並べると不思議な事に猫と猫の境目がグラデーションになり綺麗に一筋の虹を作った。
「お〜」
その場にいた皆は見事な猫の一列に感嘆する。
しかし、そろって七匹とも鳴いている。
「腹でも空いておるのかの?」
「ちょうどホットミルクが出来たからあげますか」
お鍋で作ったホットミルクを持ってくる恵美。
「あ、私がやります」
焔寿は猫を何年も飼っている。チャームを仔猫の時から…。手慣れたものだった。
うまいこと熱いミルクをさまして、せがむ仔猫たちをたしなめる姿は母親のようだった。
生後数日も経っていない仔猫なので、母親から離れて離れになりかわいそうだ。だが、母親もかわいそうだ。母猫は今どうしているのだろう…。
「もしお母さんもお父さんもいなかったら…私と同じだね…」
彼女は悲しそうな顔をしながら、必死に飲んでいる仔猫に向かって呟いた。
元気よくミルクを飲む仔猫たち。癒される気持ちになる。

満腹になって満足げの仔猫たちは遊び始めた。着替えを借りたゆゆは一匹の赤い猫と延々おしゃべりしている。再度会話挑戦といったところか。
チャームは先ほどくわえていた紫猫が気に入ったらしく、一緒に遊んであげている。いや遊ばれているのが正しい。
一方、恵美達は仔猫のいたずらを防ぐため狭い部屋中を走り回っている。
一時間もすれば、恵美達はへとへとになっていた。猫たちは遊び疲れて、部屋の隅の方でチャームの体を枕にして寝ている。
「これはまさしく戦場ぢゃ」
嬉璃が疲れ果てた声が沈黙を破る。
「お疲れのようでしたら、クッキーいかがですか?」
焔寿が先ほど買ってきた洋菓子屋のクッキーを丁寧にコタツに置いた。
「おお、ありがたいことぢゃ」
「紅茶でも沸かしましょう」
「あたしもてつだう〜」
このまま茶会に直行すると、もう女の子同士お話タイムに明け暮れるのであった。

◆喋った!?
「あらもうこんな時間」
恵美は壁掛け時計の時刻をみて驚いた。夕方になっていた。
「すみません長居してしまって」
「いやいや、かまわんよ」
嬉璃が遠慮はいらないと珍しく優しい笑みを浮かべる。
「でも、本題わすれているし…」
「あ、そうやった」
恵美が気づいた。あのそろうと並べると虹色になる猫達をどうするかだ。綾もすっかり忘れていた。
「引き取り手を募集しようと思って」
「今日中とは行かないからのう」
「そうなんだ〜。でもあたしの家では無理だなぁ」
かなり困った顔をしていたのだが、ポンと手をたたいた。
「友達に頼んで、「サトオヤ」を捜す手伝いするよ。たぶん猫好きのヒトいっぱい知るから♪」
と明るく答えた。
「私は、引き取っても大丈夫です。友達が増えるのは良いことと思っています。チャームがお気に入りの紫猫を…」
そのときである。
紫猫がちょこちょことやってきて、辿々しいが、
「あ・り・が・と・う」
と答えた。
「え、ええ!?」
その場にいた皆は(ゆゆは除く)驚きを隠せなかった。
「なぜ猫が喋ってるんや?」
「猫又ならもう少し年相応の姿をしてると思うのぢゃが…」
「お化けは…ちょっと」
「でも、ゆゆも喋るから猫が喋ってもおかしくないよ」
「ゆゆちゃんが喋っても問題はないんですけど…」
恵美達はコタツを囲んでコソコソとはなす。
また猫が喋り出した。今度は流暢に…
「助けてくれてありがとう」
「あの…ほかの猫たちは?」
「いや、ボクだけ喋ることが出来るの。たぶん猫の神様がボクに力をくれたと思う」
「そ、そうなんですか」
恵美達はこの奇妙体験を興味深く話を聞いた。
なんでも、自分の両親を飼っていた人間が自分たちを生んだ親が死んだこと、急な引っ越しで新住居ではペットが飼えないことで、里親を捜すことも出来ないため〈あやかし荘〉に置いていったらしい。無責任な飼い主に恵美達は怒りを感じるが今となっては遅い。それに、紫猫とその兄弟は飼い主だった人間を責めるつもりはないらしい。
しかし、すんなりと事情がわかったところで、今の問題が解決したわけではない。
後ろでチャームが紫猫を口にくわえた。
「チャーム?この子と友達になりたいの?」
焔寿が【友達】に訊いた。チャームはこくりと頷く。
「私がこの子を引き取ります」
焔寿が皆に伝えた。
「皆は、バラバラになることを恐れているかな?」
「それはないよ。皆で話し合ったから。悲しくなったら空を見ればいいと伝えているから」
紫猫はチャームにくわえられながら、焔寿のことを気遣って話した。
「じゃ決まり!あたしは今から「サトオヤ」捜すね」
といって、ゆゆは〈あやかし荘〉を飛び出していった。
外はすでに晴れて、季節はずれの虹が出ていた。

◆エンディング
数日のうちに仔猫はそれぞれ里親が見つかりバラバラになっていったが、彼らは優しく、常に仔猫の成長連絡が入りお互いに寂しい思いはしなくて良かった。時間さえ合えば『虹の猫の会』のような集まりが〈あやかし荘〉で行われている。

紫猫とチャームとすごく仲良くやっている姿をみている焔寿は少しヤキモチを妬く。
でも、後悔はしていない。むしろ嬉しい。
もう一人ではないし、何より〈あやかし荘〉の人々と【友達】になれたのだから。
一つ残念なことに、紫猫はヒトの言葉を喋らなくなった。
「そうよね…どうしてほしいという思いが、天に届いたんだね」
紫猫を抱きかかえ訊いてみる
「にゃお〜ん」
と愛らしく紫猫は鳴いた。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1305/白里・焔寿/女/17/天翼の神子
0428/鈴代・ゆゆ/女/10〜15/学生
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■         ライター通信          ■
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どうも参加ありがとうございます。
箱の中身を何にしようかと色々考えましたが、素直に(猫派なので)猫にしました。
不思議な事件と言うより、本当に里親探しになりましたのは嬉しいです。不思議なのは虹猫たちですが(ぇ
白里・焔寿さんへ:紫猫についてはご自由に名前を付けて下さい。