■雨…■
滝照直樹 |
【0428】【鈴代・ゆゆ】【鈴蘭の精】 |
〈あやかし荘〉管理人・因幡恵美は、鼻歌交じりで庭の掃除に外に出た。天気予報では午後から大振りになるという。
「今のうちに掃除した方が良いわね」
ごく普通の平凡とした日常。
しかし、天気予報はあくまで予報であり、確実ではない。天気は気まぐれだった。
まだ、時間的に余裕があるのにもかかわらず。雨が降り出したようだ。
「あらら……降ってきたわ……。ひどくなる前に引き上げなきゃ」
因幡は中に入ろうとするときに、気になる物を門の前で発見した。段ボールの箱である。
「あれ?今までなかったのに?」
段ボールといえば捨て猫か捨て犬、もしくは危険物と相場が決まっている。中で何かうごめいている事から前者だろうか。
恐る恐る箱に近づき、中を確認し安堵とともに困り果てた顔をして箱を持って帰っていった。
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雨…
◆箱の中身って何?
管理人室では恵美と嬉璃、綾が思いっきり悩んでいた。
段ボールの中に8匹の猫が居るのだ。その中にもう2歳になりそうなブルーリボンを付けたアメリカンショートヘヤーが仔猫たちを母親のようにかわいがっている。仔猫はそれぞれ色が違う単色で、一列に並べれば虹に見えるだろう。
茶にちかい橙色を除けば不可思議な色合いの猫だ。すでに、目も開いておりちょこちょこと箱の中でじゃれ合っている様はかわいい。
「突然変異といってもなぁ。アメリカンショートヘヤーから虹色仔猫が産まれるというのはおかしいで」
「でも、この仔猫とは関係なさそうよ」
「ん〜、人なつっこさがあるのう。普通なら怯えるはず」
「それより…、この猫たちどうしましょう」
「〈あやかし荘〉の規約にはペット飼育禁止ではないぞ」
「でも、住んでいる方に動物で苦情がくれば…」
「しばらく此処で預かり、里親を募集すればいいやん。簡単なことや」
「ですね」
「深く考えなくてもはじまらぬ。でもこの南蛮猫(アメリカンショートヘヤーの事らしい)は見るからに…」
「でしょうね。こんな毛並みの良い…」
下でベルが鳴った。
「お客さんかしら?」
恵美はお気に入りのスリッパを履き、パタパタと下に降りていった。
◆あこがれの〈あやかし荘〉
雨だ…気持ちが良い。
天気予報の時間より早く降っただけのこと。鈴代ゆゆはこの雨の中、傘を差さずに散歩をしていた。鈴蘭の精である彼女にとって雨とは気持ちよい。
この道を知ったのはつい最近のこと、好奇心から散策すると自分と同じ【気配】のする昔ながらの建物があるではないか。その通りを歩いて帰るか散歩することが日課になった。
色々思いながら、いつものように通り過ぎる。
玄関先で、高校生ぐらいの女の子が二人会話しているのを見る。
ツインピースにブーツの少女はどうして良いのかわからない様子でエプロンをしている女性に話しかけているようだ。
「わ、すごく気になる♪」
ゆゆは〈あやかし荘〉の門をくぐり、
「ねぇねぇ、どうしたの?」
と、割り込んで話に参加した。二人は驚くばかりである。
「えっと〜。貴女は?」
「あたし?鈴代 ゆゆです!前から此処を見つけたとき気に入ってたの♪」
エプロン姿の女性が尋ねると、ゆゆは元気に答えた。
「…雨で、ビショビショでしょ?二人とも中に入って」
彼女は、二人とも風邪を引かないようにすることが優先であると思った。
中にはいると、玄関先で青いリボンを付けた猫が一匹の猫をくわえて待っていた。紫猫である。
「チャーム!」
「え?このアメリカンショートヘヤーは貴女の猫?」
「はい」
「かわいい♪」
ゆゆがチャームが仔猫をくわえている様をみて言った。
チャームという猫を抱き寄せるツインピースの女の子は、恵美の問いに答えた。
「いきなり此処に迷い込んでしまったようなので…」
「段ボール箱の中に入っていたわよ、その子。てっきり親猫と間違えかけましたけどね」
「チャーム…だめじゃない…済みません」
謝る焔寿だが、ゆゆが割り込み
「何か遊びたかったの?…」
ゆゆは、チャームと紫猫に話しかけていた。
チャームはきょとんとした顔をするが、紫猫は興味津々にゆゆを見つめて小声で
(後でお話しするから知らないふりして、鈴蘭の精さん♪)
と言った。
(あら、わかっちゃった?…うん、わかったわ♪)
ゆゆはにっこり微笑む。
「言葉わかるの?」
「ううん、わかんない♪」
焔寿は膝を後ろから押されたかの様に体勢を崩す。こけるまでは至らなかったが。
「木々の気持ちはわかるのだけど猫は無理みたい。」
不安そうな焔寿に対して、ゆゆは無邪気な笑みで返した。
「たしか、この子はたまに隠れんぼしたくなるから…あ!」
何か忘れていた様に言葉を詰まらせた。
「私は白里焔寿です。初めまして」
自己紹介を忘れていたようだ。
「うん、宜しく」
恵美は会話のやりとりで、状況がつかめたようだ。
段ボールの七匹仔猫は正真正銘の捨て猫であり、チャームという猫は焔寿という少女の【友達】だと。
猫というのは狭いところか暗いところが好みである。紙袋や家屋の奥の中に入って出てこなくなる事など有名な習性だ。
「ほかにも6匹猫がいるのよ、色違いの。見てみる?」
恵美は二人の少女に優しく微笑みかけた。
「はい」
「いくいく〜♪」
二人は喜び恵美について行った。
◆虹色の猫たち
「やはり並べると綺麗なもんぢゃのう」
「虹やなぁ」
嬉璃と綾は、ぬれた仔猫を布で綺麗に拭いてあげてから仔猫を虹が描く色の順で並べた。はっきり色別れしているに見えたが、並べると不思議な事に境目がグラデーションになり綺麗に一筋の虹を作った。
「お〜」
その場にいた皆は見事な猫の一列に感嘆する。
しかし、そろって七匹とも鳴いている。
「腹でも空いておるのかの?」
「ちょうどホットミルクが出来たからあげますか」
お鍋で作ったホットミルクを持ってくる恵美。
「あ、私がやります」
焔寿は猫を何年も飼っているからか世話が手慣れたものだった。
仔猫たちにミルクを与える姿は母親のようだった。
ゆゆにはその彼女の姿はいつも独りぼっちという雰囲気がでていて仕方なかった。
でも元気よくミルクを飲む仔猫たち。癒される気持ちになる。
「ゆゆちゃん、そんなに濡れたままだと風邪を引くから、私の服でよければ着替えてね」
恵美が自分の服を持ってきた。しかし彼女の身長ではかなり大きいかもしれない。
「あ、そうだった」
自分の姿を見てもう制服がビショビショだった。【人間】の姿でいる以上、人間のルールに従うことが決まりでもある。おまけに周りが水浸しになるのは家の人に失礼だ。これは幻術を使っても無理である。
「ではお言葉に甘えて、着替えさせていただきます」
丁寧にお辞儀をした。恵美も元気で礼儀正しい子は大好きだ。
満腹になって満足げの仔猫たちは遊び始めた。着替えを借りたゆゆは一匹の赤い猫とおしゃべりを開始する。再度会話挑戦だった。紫猫と遊び…いや、事情を聞きたかったが、チャームという猫が彼を気に入ったらしく、一緒に遊んであげている。いや遊ばれているのが正しい。でもあの猫が喋るならほかの猫も喋るではないだろうかと思って、赤い猫に色々尋ねた。
「ほしいものない?」
「にゃ〜」
「にゃーじゃわからないよ」
「うにゃ〜ん」
「う〜ん、猫語って難しいなぁ」
一方、恵美達は仔猫のいたずらを防ぐため狭い部屋中を走り回っている。
一時間もすれば、恵美達はへとへとになっていた。猫たちは遊び疲れて、部屋の隅の方でチャームの体を枕にして寝ている。
「これはまさしく戦場ぢゃ」
嬉璃が疲れ果てた声が沈黙を破る。
「お疲れのようでしたら、クッキーいかがですか?」
焔寿が先ほど買ってきた洋菓子屋のクッキーを丁寧にコタツに置いた。
「おお、ありがたいことぢゃ」
「紅茶でも沸かしましょう」
「あたしもてつだう〜」
このまま茶会に直行すると、もう女の子同士お話タイムに明け暮れるのであった。
◆喋った!?
「あらもうこんな時間」
恵美は壁掛け時計の時刻をみて驚いた。夕方になっていた。
「すみません長居してしまって」
「いやいや、かまわんよ」
嬉璃が遠慮はいらないと珍しく優しい笑みを浮かべる。
「でも、本題わすれているし…」
「あ、そうやった」
恵美が気づいた。あのそろうと虹色になる猫達をどうするかだ。綾もすっかり忘れていた。
「引き取り手を募集しようと思って」
「今日中とは行かないからのう」
「そうなんだ〜。でもあたしの家では無理だなぁ」
ゆゆは鈴蘭の精であり、今は幻術により自分を大切に育ててくれた家の娘として暮らしている。自分の本体である鈴蘭が猫のいたずらで傷つくとやっかいである。しかし、猫を放っておく訳にはいかない。
しかし名案をひらめかせた。
「友達に頼んで、「サトオヤ」を捜す手伝いするよ。たぶん猫好きのヒトいっぱい知るから♪」
と明るく答えた。
「私は、引き取っても大丈夫です。友達が増えるのは良いことと思っています。チャームがお気に入りの紫猫を…」
そのときである。
紫猫がちょこちょことやってきて、辿々しいが、
「あ・り・が・と・う」
と答えた。
「え、ええ!?」
その場にいた皆は(ゆゆは除く)驚きを隠せなかった。
「なぜ猫が喋ってるんや?」
「猫又ならもう少し年相応の姿をしてると思うのぢゃが…」
「お化けは…ちょっと」
「でも、ゆゆも喋るから猫が喋ってもおかしくないよ」
「ゆゆちゃんが喋っても違和感はないんですけど…」
恵美達はコソコソとはなす。
また猫が喋り出した。今度は流暢に。
「助けてくれてありがとう」
「あの…ほかの猫たちは?」
「いや、ボクだけ喋ることが出来るの。たぶん猫の神様がボクに力をくれたと思う」
「そ、そうなんですか」
恵美達がこの奇妙体験を興味深く話を聞いた。
なんでも、自分の両親を飼っていた人間が自分たちを生んだ親が死んだこと、引っ越し先ではもうペットが飼えないことで、里親を捜すこともなく〈あやかし荘〉に置いていったらしい。無責任な飼い主に恵美達は怒りを感じるが、紫猫とその兄弟は飼い主だった人間を責めるつもりはないらしい。
しかし、事情がわかったところで、今の問題が解決したわけではない。
焔寿は自分の飼い猫が紫猫をくわえてきたので、紫猫を引き取ることにしたが、
「皆は、バラバラになることを恐れているかな?」
「それはないよ。皆で話し合ったから。悲しくなったら空を見ればいいと伝えているから」
紫猫はチャームにくわえられながら、焔寿のことを気遣って話した。
「じゃ!あたしは今から「サトオヤ」捜すね」
といって、ゆゆは〈あやかし荘〉を飛び出していった。外はすでに晴れて、季節はずれの虹が出ていた。
◆エンディング
この日の別れ際、紫猫がゆゆに近づいて小声で話した。
「これ以降、ボクはとんでもないことが起こるまでは喋らないし、君の正体も証すつもりもないから二人だけの秘密だよ」
「うんわかった、でもキミの名前…」
「まだない。でも今のご主人様はすごく優しいからいい名前もらえると思う」
「今度会うとき、一緒にあそぼ♪」
「いいよ」
紫猫は、そのまま新しい飼い主のもとに帰っていった。
数日のうちに仔猫はそれぞれ里親が見つかりバラバラになっていったが、彼らは優しく、常に仔猫の成長連絡が入りお互いに寂しい思いはしなくて良かった。時間さえ合えば『虹の猫の会』のような集まりが〈あやかし荘〉で行われている。
鈴代ゆゆの働きかけは、彼女に関係した人々の手によって善意有る者や、半ば強制的に里親にさせられたともいえる者もいる。
強制的に里親(?)になった代表的が、ある探偵事務所の探偵だった…。
「俺は慈善事業でやってるわけではないのだが…」
「いいじゃない♪『は〜どぼいるど』にはやっぱ動物は必要よ」
「違う…断じて違う…」
書斎机の上でじゃれる赤い仔猫を眺め、ため息をつく男。手にはタバコではなく猫じゃらしを持っている。
やっぱり猫のかわいさのあまりから、ゆゆが引き取ることにしたのだが、場所は〈本体〉のある家ではなく、よくやっかいになる探偵事務所に預かってもらっているのだ。
「それに招き猫って良いじゃない。商売繁盛〜」
「…」
無垢なゆゆの言葉に掃除をしている女性が微笑んだ。
「招き猫に商売繁盛ですか。いいですね、縁起が良いです」
「でしょ?」
「妙なあだ名が付かなきゃ良いが…」
男は又ため息をつき、遊んでとせがむ仔猫に猫じゃらしを振ってあげた。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1305/白里・焔寿/女/17/女子高生
0428/鈴代・ゆゆ/女/10〜15/鈴蘭の精
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■ ライター通信 ■
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どうも参加ありがとうございます。
箱の中身を何にしようかと色々考えましたが、素直に(猫派なので)猫にしました。
不思議な事件と言うより、本当に里親探しになりましたのは嬉しいです。不思議なのは虹猫たちですが(ぇ
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