■花見に行きましょう■
滝照直樹 |
【0276】【冬野・蛍】【死神?】 |
3月下旬、ポカポカ陽気の洗濯日和。
あやかし荘管理人因幡恵美は、洗濯物を干している。嬉璃はぬくぬく縁側でひなたぼっこ。
そろそろ本当の春も近い。
あやかし荘にある桜が、少しずつ綺麗な花を咲かせている。
「そろそろあの時期ぢゃな」
「ええ、そうね嬉璃ちゃん」
ふたりはにっこりと微笑む。
「花見をするべく皆を呼ぼうぢゃないか」
「はい、場所は大所帯を考えて近くの桜並木公園が良いでしょう」
「うむ。今から楽しみぢゃ」
桜はそろそろ8分咲きを知らせている。心躍る良い天気である。
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花見に行きましょう
■【もう8分咲き】
嬉璃の企画から数日…、外の桜は満開まで後わずか。
少し皆の様子を覗いてみようじゃないか、諸君。
冬野蛍は、桜の木の上で、前にあった時音を見つけた。
彼女は黒と白フリル付きのブラウスにスカートでマント、杖のような物を持っている。
「ああ、まだあの剣術使ってるみたい」
溜息混じりに呟く。
「いまじゃもう、訃時も根元もいないのに…捨てないのかしら?」
危険を感知し、其れを伝える報告人としての仕事を再開する。
時音の反応は今ひとつだった。剣を捨てることは出来ない感じである。
「まだ、気になっているのかなぁ?あのままだと廃人か魔王だよ〜。あの女の人が可哀相だよ〜」
また溜息をつく蛍。
「また、人に迷惑な助言をしているのか?」
聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「あ!エル兄様」
「な〜に〜が、エル兄様だ。お節介やきが!」
エルハンド・ダークライツは蛍を猫掴みする。
「本当のことを知らせるのがボクの仕事だもん!」
頬を膨らませて反論する蛍。
「アストラル界で警告を邪魔した時以来かもな」
「なぜボクの邪魔をしたの?」
蛍は昔に出逢ったときのことを訊く。
「お前の警告すべき相手は間違っていたから」
「でもボクの仕事の邪魔をした」
「知らないな」
「ひどーい」
蛍は剣客の素っ気ない言葉に拗ねる
「今回は時音に対してお節介のようだが…何か悪いこと考えているなら容赦はしないぞ」
「悪いことしないもん」
蛍は猫掴みされたまま反論していた。
■待ち合わせは〈あやかし荘〉
春の暖かさが心地よい。野猫は屋根でひなたぼっこしている。
近くの公園にある桜は満開である。しかも快晴で花見日よりだ。
三下と時音は困っていた。
「くー」
いつの間にか、桜の木の下に少女がマントにくるまり静かに眠っているのだ。
「風邪を引くといけないから、起こしましょうか…」
三下がそう言ってるときに、少女が起きた。
「ふわぁ…おはようございまふぁ」
挨拶があくびに変わる。
「「君?どうしたの?」」
男2人同時に訊ねた。
「あ、ボク…冬野蛍です!…え、えっとー…」
自分が此処で寝ていることが分かってないようだ。
「ここは、寝るところじゃないよ。家の人が心配してますよ」
時音が優しく諭す。
「問題ないよ。いつもだから」
蛍はそう答えた。
「こまったなぁ」
困り果てるふたり。
「大丈夫だから♪」
説得力がいまひとつ(全然ない)な蛍の言葉だった。
その後に、遮那がやってきて3人そろって悩むことになる。
■宴のはじまり
あやかし荘で集まった一行は、三下が手を振る場所までゆっくりと、歩いていった。
春の暖かさを感じ、時折風が吹いて散る桜を眺めて。
近くの公園にある一番大きい桜の木の下で、茣蓙がひかれている。
「ちゃんと茣蓙だ☆」
悠也は喜んだ。
「青いビニールシートだと…殺人現場を思い出すからね」
「ははは」
皆は笑って、真ん中にお重を並べる。
エルハンドは、ジュースの入った箱をおいてから、ポケットから小さい白い箱をどこからともなく取り出した。
「バーテンダーの九尾がカクテルを作りやすいように用意してきた」
「ほう其れが?」
桐伯は白い箱を眺める。只の小さな箱だった。
剣客は何か唱えると、それは、小さいバーのカウンターに似た物となった。しかも、デザインは花見の場に全く違和感がない。ふつうに地べたに座ってもカクテルが作りやすいように出来ている。
「ありがとうございます。遠慮無く使わせて頂きます」
桐伯は、剣客に礼を述べた。
「始める前に…」
嬉璃が言い始めた。
「ひさしぶりじゃ、蛍」
「蛍ちゃんおひさしぶり!」
「嬉璃さん、柚葉ちゃんおひさしぶりです!」
嬉璃と柚葉は蛍と顔見知りであるようだ。今まで心配していた、時音と遮那、三下は安堵した。
皆はお酒かジュースを各自選んでコップやグラスに注ぐ。そして嬉璃の
「乾杯ぢゃ!」
の一声で、宴が始まった。
時音と歌姫はのんびりと昼食を摂ってから、一緒に散歩をしていた。
後ろに蛍を猫つかみしているエルハンドがやってきた。
「どうしました?」
時音がエルハンドに気付き訊ねた。
「この、おちびさんが…」
「おちびさんじゃないもん!蛍ってちゃんと名前があるもん!」
「名前があろうと、ちびはちびだ」
「うぐぅ…」
「とにかく、大事な話が二人にあるそうだ」
「え?」
時音と歌姫が蛍をみる。
剣客は彼女を放した。
「先日…時音さんに『退魔剣神陰流』は危険って伝えたのはボクなの…」
真剣に報告する蛍。
「このままじゃ、未来でも現在でも【廃人】か【魔】になっちゃうって」
「あのときの言葉は君だったのか…」
時音は自分の置く宿命に葛藤していた。歌姫は心配そうに時音を見つめる。
「自分だけで解決したい事だったのに」
時音は、吐き捨てるように呟く。
「確かに、退魔剣はかなりの精神力を使う能力だ。同じ事は私でも出来る」
エルハンドの手から、いとも簡単に光刃をだした。それに驚く時音達。
「しかし、生身の定命者がこの剣を使うことは、まさしく命と引き替えになる。蛍が言っていることは嘘ではない」
「分かってます…」
光刃を消した剣客は、一間おいてこう言った。
「時音…、その退魔剣を手放しても、同じ効果を得られる方法はある」
「それは?」
「私の主流剣技…天空剣だ」
「それは、神にしか使えないはず…?」
伝説では天空剣は神々が使う技であり、能力者でも神格域まで達しないと習得不可能らしい。
エルハンドが道場で教えているのは、特殊能力無しの居合い、剣道、試斬の三者一体だけだ。
「光刃をすでに二つ手にしているお前なら問題ない。蛍の助言と、今の恋人を大切にするか。それとも…そのまま自滅するか自分で選ぶが良い」
「…」
時音は黙ったままだった。
剣客の誘いは有りがたい事だったが…今更剣を捨てることは出来ない…。
その胸中を察するかのように、剣客は一息つき、
「しばらく考えるのだな。私はこの食いしん坊のお守りを続けるよ」
「ボク食いしん坊じゃないもん!」
「三下の弁当を丸飲みした奴が何をほざく」
「はなして〜ボクは猫じゃないよ〜!」
エルハンドは反論する蛍を又猫掴みにして、花見に戻っていった。
「僕は…どうすればいいのだろう…」
拳を握り、悩んだ…。
■たけなわ
夕日が花見の終わりを告げる。
皆が各自分担で、片づけをお小なって、〈あやかし荘〉まで向かうことになった。
三下がこの現場に残って後かたづけするのは確定事項で…。
「今回は兄様のおかげで良かったけど…」
「何がだ?」
公園にあるベンチで蛍とエルハンドが座っていた。
「異空間を旅しているときに兄様に偶然会ってなかったら、そして兄様が助けて上げなかったら…あのひとホントに壊れちゃう」
「お前のお節介は、真実を述べている。しかし、其れを回避できるかどうかは本人次第だ。本来私が出る必要はなかったのだがな…。」
エルハンドは蛍の問いに、己の指針を告げるが、
「今の幸せを、壊すだけしか術がないのはな…。不憫だから助言した」
「いつもじゃないの?」
「あまりな」
「でも、神の業を持ってしまったら…彼自身どうなるのかな?」
「力に溺れ魔になりえる可能性はあるが…退魔剣を使うより確率は低くなる…」
風が一吹きし、桜の花びらが舞う。其れを簡易魔法でもてあそぶエルハンド。
「ふーん、ボクはいぢめるのにあの人には優しいのは…妬いちゃうなぁ」
「ガキに妬かれても、嬉しくもなんともない」
「いぢわる…」
蛍は拗ねた。
また、風が吹いた。
「あ、移動の時間だ…眠い」
蛍は眠気を訴え始めた。彼女は異空間に旅立つときに必ず異様な睡魔がおこる。
「あまり、お節介ばかりするな」
「エル兄様こそ…ふぁ…おやすみ〜」
「普通さよならだろ…」
剣客が突っ込みを入れる前に冬野蛍は霞のように消えた。
桜は人の想いを受け止め、て又来年も美しく咲くだろう。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0121/羽柴・戒那/女/35/大学助教授】
【0164/斎・悠也/男/21/大学生、バイトでホスト】
【0276/冬野・蛍/女/12/死神?】
【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】
【0506/奉丈・遮那/男/17/占い師】
【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】
※番号順です。
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚・花見に行きましょう』に参加して頂きありがとうございます。
初めての7人参加なのでどうしようかと悩んでいましたが、何とかお花見季節の4月に間に合ったようです。
家族のような仲の良い関係のシュライン様、悠也様、戒那様、桐伯様がすてきだなと思いましたが、上手く表現出来なくて申し訳ありません。
遮那様、今回もどうでしたでしょうか?
時音様と蛍様、今後はどうするかお考え下さいませ。
殆どの方の描写は異なっておりますので、他の方の作品も御覧下さい。
では、又の機会にお会いできたら幸いです。
滝照直樹拝
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