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■剣客の下宿3 管理人さんにお礼を■

滝照直樹
【1355】【蒼乃・歩】【未来世界異能者戦闘部隊班長】
エルハンドの部屋、蓮の間にて。
何か考えているエルハンド。
異世界の神にしてはおかしな悩み事でもあるようだ。
まずは何を悩んでいるのか訊いてみると…
「いきなりの入居を迎えてくれた管理人さんに何かお礼をしたくて…しかしこの世界ではどうすればいい変わらなくてな」
と神らしくない言葉。
やはり、微妙な感覚が理解出来ないのだろうか?
「能力を使わずして、心を込めて送りたいのだがね」
と、照れ笑いする。
でも考えてみれば、かなり前にこの世界にやってきたんじゃ無いのか?という突っ込みは避けるべきだろう。

ライターより
一緒に、エルハンドが恵美にプレゼントを送る手伝いをして下さい。
剣客の下宿3 管理人さんにお礼を

◆蒼乃歩の場合
「ふみゅ〜」
なんだかよく分からない言葉を発する歩。
自宅で友達に借りたゲームで遊んでいる。その中ででてくる女の子にはまったのだろうか?
「ばかー!彼奴をこっち側に引き寄せるために研究してるのよ!」
何!?
では、説得方法をそのギャルゲーで研究している…ごっふぅ…
「外野は黙って…いやお前はちゃんと執筆すればいいのよ!」
いつつ…へいへい。
普通なら、大手メーカーの耽美系がいいのではと思ったがこれ以上突っ込みを入れようとすれば殺されるので止めておこう。
蒼乃歩、16歳。時空跳躍者にして未来世界異能者戦闘部隊班長。【おわらない戦争】のときから風野時音と幼なじみだが、考え方の違いから人を信頼する/しないことで彼と決別してしまう。数日前に彼女は時音に恋人がいると言うことで大きなショックを…おおっと、まぁなんだ、何とか弟のような時音を説得して人間を殲滅する派閥に加えようとしているわけだ。
しかしながら、現在の時代にはまんざら悪くないと思っているので、平時は学生になってオタク女の子として細々と生きているという感じだろう。〈あやかし荘〉にいる三下と柚葉とはとても仲がよい。自覚はしていないだろうが、人に心を許し始めている証でもある。

あまり事件はなかったりすれば、三下をからかい、妹のような柚葉と遊ぶことがいつものことなので、〈あやかし荘〉に赴くと柚葉の口から管理人因幡恵美に感謝のプレゼントについてどうするかという相談を聞いたのだ。
「へぇ〜、おもしろそうね」
「でしょ♪」
「俺も何か贈ろう。合作ってのいうはどう?」
「いいとおもう」
「決まりだね。あとは三下さんを呼ぼう」
「うんうん」
アトラス編集部で雑用をしている三下を見つけた歩。碇の許可を得てお借りすることが出来た。
「僕も管理人さんに何かプレゼント贈りたいと思っていたのですよ」
「でも一体だれからそんなことが?」
そもそも、企画者が誰なのか柚葉も知らないそうだ。
「嬉璃さんなら知っていそうだけど…」
「誰が企画したかは関係ない。実行あるのみ」
歩は張り切っていた。しかし、二人は〈あやかし荘〉に時音が居候していることは口が裂けても言えない。いったらどちらかに殺されそうだ。願わくは〈あやかし荘〉で二人が対峙しないことを祈るしかない。

「で、これをどうかしたいのだけど、アイデアはない?」
歩は二つの宝原石をとりだした。蒼と緑である。加工すればかなりの価値のある、大きな純度の高いものだ。
「さいころをつくるとか?」
柚葉は何となく言った。ちなみに近頃貴金属でさいころが作られている洒落物がおおいのも卓上ゲーム界では密かに有名な話だ。
「其れはつまらないと思うよ、さすがに」
三下が突っ込む
「う〜ん」
考え込む柚葉。
「「「アクセサリに絞られるよねー」」」
3人は恵美の写真をみてはもる。宝石→加工→アクセサリといった単純明快な発想だが、それ以外何があるといったものだ。
「じゃーきまり。早速アクセサリ屋でパーツを取り寄せよう」
「うん」
3人は近くの商店街に向かっていった。
近くで取り寄せた資料と、道具でどうデザインするかでアトラス編集部の仮眠室を陣取り、あーでもない、こうでもないと考える3人。
珍しく碇が差し入れでケーキと珈琲を持ってきてくれた。
事情が事情なだけ、三下の分も用意されている。其れは三下にとって感激だった。
(この役立たずでも、必死にがんばってるからアメを上げないとね…)
碇の頭にはそんな事を考えながら鼻歌交じりで帰っていった。
「さぁ頑張りましょう!」
俄然張り切る三下だった。

数時間後、ある程度加工して、可愛いネックレスとイヤリングを作ることが出来た。其れをセットで付けると似合うようなデザインだ。試着で柚葉が付けると本当に可愛かった。
少し余った原石は、さいころになってしまったが、其れはご愛敬だろう。
「やったー」
「ばんざい〜」
「これで、プレゼント贈れるね♪」
「だな。因幡さんはどう反応してくれるかな?」
渡したときに、嬉しい顔を思い浮かべる歩だった。
同時にふと時音のことを思い出した。
歩の瞳から涙が頬つたう。
「どうしたの?」
柚葉が訊ねる。
「ううん、何でもない…」
「体の具合が悪いとか?」
「大丈夫、大丈夫!」
三下と柚葉が心配するが、否定する。
昔、仲が良かったときの時音がプレゼントを貰ったことを思い出したのだ。今となっては悲しくも敵同士。本当なら戦いたくない。しかし、彼の考えを変えることは出来ない自分の弱さに苛立ちや、悲しみもあった。
「早速、渡しに行こう!」
元気に歩は言った。


3人は公園を通り抜け、〈あやかし荘〉まで向かう。そこには歩にとってやっかいな存在が立っていた。
男であった。春なのにコートをはおり、胸にはあらゆる武器などを装備している。
「人間となれ合いとは、異能者戦闘隊のお前も甘くなったな」
「破壊者!式顎!」
「全ては破壊するためにある。わかるか?君も人間の存在を憎しみ、異能者の理想郷を作るとほざいているが、其れは無意味だ。いずれ、私によって全て破壊されることが世の理だ」
冷たい気迫が辺りを支配する。
「俺をどうするつもり?」
「そうだな…まずは…時音を呼ぶ為の餌にするか」
顎は光刃を召還した。しかし他の光刃よりも違う。漆黒のレイピアだった。
「暗黒光刃…とうとう【魔】に…」
「すでに知っているだろう?退魔剣はもともと【魔】の力だからな!」
「三下さん柚葉ちゃんにげて!」
「情が移ったか!異能者!」
隙を見いだし、間合いをつめた顎。しかし歩は光刃を跳ね返す念動障壁を自動発動して受け流す。
そのあとは、念動弾で顎が間合いに入らせないようにするのが精一杯だった。
力量は歴然、勝てるわけがない。しかし、歩には今守らないと行けない物がある。この時代で得た大切な友達。そして弟のような時音。其れが足かせになっていることは承知の上だった。
「いま、あのお人好しが来たらややこしくなる…俺が何とかしなくては」
能力を連続して行使し分身をつくる。しかし、式顎の力は其れさえも打ち破った。光刃の弾丸が全ての幻影を打ち消したのだ。
「甘くなったな!」
「しまった!」
後ろを取られた歩に、式の一撃が決まった。腕を貫かれ、そこから分解されていく。苦痛を我慢し、三下達を庇うように跳躍した。
「急所は外した。しかし、お前が消滅するのは時間の問題だ」
顎は不敵な笑みをこぼす。
すでに、力が失いつつある歩。
「歩さん!」
「だめ、にげて!」
「でも、歩さんを置いて逃げるわけには行けないよ!」
「そうだよ」
三下と柚葉は、怖がりながらも、その場を動かなかった。
「大切な友達を…おいて逃げること出来ない」
三下の言葉に歩は胸をうたれる。
時音が人間を信じることの意味が少しだけ分かった気がした。
しかし、今の状況では自分はこの【魔】に殺され三下も柚葉も殺されてしまうだろう。
大事なときに無力だった。
そのとき、懐かしい声が聞こえた。
風野時音であった。

「歩!」
「ばか…おそいんだよ…人間になんか」
「しっかりしろ、其れはお前だって同じじゃないか…」
彼女の後ろには、彼女が必死に守ろうとする二人の人間…三下と柚葉がいたのだ。
まだ、人を信じてくれている事が時音には嬉しかった。本当なら憎しみで彼らさえも殺すはずだった彼女が…。
光刃の能力で、徐々に体が崩れていく歩…。治す術は神陰流の時間逆流と同じ効果しかない。が…そこまでの能力は時音にはなかった。
「きたか…風野時音!」
「式顎…」
時音は歩を抱きしめて顎を睨む。顎は、二人の会話を傍観するかのように待っていた。虚空のような目で…。
「お前はにげろ…三下さん達を連れて」
歩は時音に訴えた
「馬鹿なことが言えるか!同じ跳躍者に「距離」はない。式にしたって同じだ。それに…」
「それに?」
「お前が…人を守ろうとすることが嬉しかった。敵のまえに本当にキミは僕の幼なじみだ…」
時音が涙した。歩は其れを頬に受け止め、
「バカ…。だから破滅的お人好しなんだよ、お前は…」
涙を流す歩。
「退魔剣は使わず…アイツを倒す」
「え?アレしか持って無いじゃない!」
歩は時音の言葉を聞いて驚きの声を上げる。
「…三下さん」
「は、はい」
「歩を頼みます。それに危険なのでこの場所から最低5kmは離れて下さい」
「わ、分かりました」
重傷の能力者を担いだ三下は、柚葉と一緒にその場から離れた。
「決着だ…破壊者、式」

途中で、三下達はエルハンドと歌姫にばったりあった。エルハンドは彼らの状況を見て気付く。
「時音君を助けて下さい。そしてこの人も」
三下は剣客に懇願する。おぶっている歩…どんどん塵になっていく。
「時音は心配ない。先に彼女と君たちの手当が必要だ。近くに君の仕事場があるだろそこを借りるぞ」
皆は急いで月刊アトラス編集部まで走っていった。

彼女は薄れていく意識の中で夢を見ている。
人に裏切られ、破滅の未来の中必死に生きた時音とその仲間達。
しかし、あの時代正義も何もなかった。生き延びるだけで精一杯だった。
「俺も終わりかな…」
心までも光刃の分解が進み始めていることをしる歩。
しかし、1人の陰が現れた。
「お前は誰だ?」
「正当神格保持者…通称「神」だな」
「神だって?うそだ!神がいるわけ…」
「事実ぐらい受け止めろ」
溜息混じりに神が言った。
「…で、その神様が何のようだ?俺を裁判にかけて地獄に送り込むのか?」
「助けに来ただけだが?」
神と名乗る男はそういうと、歩は吃驚した。
「今まで助けてくれなかったのに何故?」
「ただいまサービス期間中ですが何か?」
「冗談いうな」
おちょくられていると思った歩は腹を立てる。
「お前が恨んでいる人間からの純粋な思いに応えただけだ」
真剣に応える男。
「人間が?」
「三下と、柚葉…そしてお前の大切な人からの願いからだ」
「…時音…」
神は何か呟くと、そのままかき消えた。
其れと同時に、時間をさかのぼる感じを覚える。傷が癒えて、分解速度も止まり、体が修復される。
気がついたら、アトラス編集部の仕事場だった。

エルハンドの時間魔法「時間治癒」により歩は一命を取り留めた。「光刃で貫かれた【時間】を『巻き戻した』」ということである。
涙ながらに喜ぶ柚葉達にとまどいを隠せない歩を見て時音は笑った。
「な…何がおかしいんだよ」
「人間もまんざらでもないとおもってるだろ?」
「ま…」
否定しようとする歩だが…目の前の「友達」の姿をみて言うのを止めた。
「こ…今回は手足引きちぎって、お前を…連れて帰るのは止めるわ。助けてもらったし」
赤面しながら歩は言った
「ありがと」
そのまま彼女は跳躍して消えた。
「素直じゃないようだ」
エルハンドがそう言うと、その場にいた碇編集長や仕事場にいる人々が笑った。

ある日の夕方。恵美は学校帰りに歩に出会う。
「こんにちは」
「…こんにちは…」
少しぎこちない歩。
「えっと、色々世話になってるから、そのお礼にこれをあげます」
可愛くラッピングした紙袋を赤面して恵美に渡した。
「え?」
「じゃ!これで」
そのまま逃げるように走る歩。
「ちょっとまって、歩さん!?」
何故急いで逃げるのか分からない恵美…。

公園まで必死に走る歩。
息を切らして、木にもたれかかり叫ぶように泣くのであった。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【0970 / 式・顎 / 男 / 58 / 未来世界の破壊者】
【1355 / 蒼乃・歩 / 女 / 16 / 未来世界異能者戦闘部隊班長】

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■         ライター通信          ■
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どうも滝照です。
剣客の下宿3に参加して頂きありがとうございます。
またこんどお会いしましょう。
短い通信ですみません。

滝照直樹拝