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■剣客の下宿3 管理人さんにお礼を■

滝照直樹
【1323】【鳴神・時雨】【あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
エルハンドの部屋、蓮の間にて。
何か考えているエルハンド。
異世界の神にしてはおかしな悩み事でもあるようだ。
まずは何を悩んでいるのか訊いてみると…
「いきなりの入居を迎えてくれた管理人さんに何かお礼をしたくて…しかしこの世界ではどうすればいい変わらなくてな」
と神らしくない言葉。
やはり、微妙な感覚が理解出来ないのだろうか?
「能力を使わずして、心を込めて送りたいのだがね」
と、照れ笑いする。
でも考えてみれば、かなり前にこの世界にやってきたんじゃ無いのか?という突っ込みは避けるべきだろう。

ライターより
一緒に、エルハンドが恵美にプレゼントを送る手伝いをして下さい。
剣客の下宿3 管理人さんにお礼を

◆鳴神時雨の場合
「へーくっし」
−改造人間でも風邪はひくそうだ。鳴神時雨。
「ちがう、鼻がむず痒かったんだ」
−では花粉症か?
「違う。自分の部屋を掃除していたら、埃が一杯だったんだよ」
−はーさいで。
悪の秘密結社に脳まで改造されながらも、壊滅させ自由に生きている改造人間。赤いマフラーはついていない。のたれ死ぬ前に〈あやかし荘の〉補修を無償で行うかわり、居座るようになった。
それでも何かと付け、不思議事件に顔を出しているのではあるが、今回は少し違うのかもしれない。
「そりゃ、いろいろあるものだ。レースしたり、料理したり、でもレースは思い出したくはない」
−トラウマになってるな。
「で、どうしてお前がしゃしゃり出ている?」
−ん?私か?君の行動にボケたり突っ込んでみたりすると決めたんだ。
「…」
−あ、黙った。
「ちゃんと執筆しろ!俺を格好良く!」
−へいへい。お間抜けにと…
ゴスッ!
「あ…」


冗句はそのぐらいにして、鳴神時雨のところにも剣客の企画が持ち込まれたわけだった。
エルハンド自身はすでに何かするか決めているらしい。
「もう〆切か?」
「そうでもないぞ」
残念そうに呟く時雨を剣客は〆切など無いと否定する。
「お互い何らかの事情でここに住んでいるわけだから、自分で何か作ってあげれば良いではないか?」
「それもそうだな」
お茶を啜りながら話を続けていた。
小一時間…
「では、作ってくるよ」
と時雨は自分の部屋へ帰っていった。

数日間爆音が絶えることはなかった以外平穏な〈あやかし荘〉
「できた!」
時雨は大喜び。
「何が出来たのかな?」
剣客がやってきた
「ふふふ…こんな事も有ろうかと俺の身体の遺失技術を利用した強力掃除機「風神君アルティメットMk−V」だ。コードレスは便利だろう?リアクター(動力炉)内蔵だ、対消滅炉を搭載しそのエネルギーで擬似マイクロブラックホールを発生、塵芥を圧縮するのでダストパックも不要だ」
「危険性はないのだな?」
「もちろん無い。全作品は試験中に壊れたが、3度目の正直というだろう」
「…メカに関しては君の方が詳しいから何とも言えないが。本当に大丈夫なのか私がテストしよう」
テスト場所は、三下の〈ぺんぺん草の間〉…。
スイッチを入れて、エルハンドが掃除機をかけた。
確かにスムーズに動く。難点といえば恵美のサイズに合わせて作られているので身長の高いエルハンドには扱いづらい。しかし、彼女が持つと効果は倍増すると剣客は思った。
あらかたかけ終わった後…。ぷすんと掃除機が止まった。
「あ、」
「壊れたのか…」
時雨はがっくり肩を落とす。
「何がおかしかったのだろう」
時雨は自分の腹の中から工具を取りだし、掃除機を開けてみる。
動力炉が焦げている。過負荷がかかったようだ。
「耐久性に問題があるな」
焦げ臭い匂いを我慢し、エルハンドが呟く。
「そうだな」
彼は、修理に取りかかった。
原因は、動力炉のパワーが対塵消滅炉の必要パワーに追いついていない事であった。
「計算は合っていたはずだが…」
「設計図とかは?」
「頭の中だ」
「うーん」
二人して悩む。
エルハンドは懐の中から一つの宝石を取りだした。大きな黒い真珠のようだ。
「この封印石を回路につなげてみればいい」
「なんだ、それ?」
「過去に戦った敵の能力を宝石にして封印している。これは全てを無に帰す能力が込められている」
「便利なモンと言いたいが…そっちこそ危険はないのか?」
「そう簡単に壊れる代物ではない。消滅炉に使うと良いだろう」
「まぁ試してやってみるよ」
時雨はまた作業を始めた。動力炉を直し、消滅炉の回路と、この宝石の位置を考え作り直す。
100回ほどテストした結果、前より強力になったようだ。
「助かったよ。これで管理人さんに恩返しが出来る」
「其れは良かった」
二人とも微笑んだ。

−で、いつ渡すつもりですか?
「う、うるせー…か、考えてるんだよ!」
−どうも鳴神くんはプレゼントを渡すことに戸惑っているようです。赤面してます。結構純情なんだ。おっさんのくせに
「一言多い。否、多すぎだ!」
−更に反論している辺り図星のようです。ヒョッとして…惚れてますか?
「…(汗」
ボンッ!
−あ…。彼の感情処理チップがに過負荷を起こしてショートした模様です。今自動修復に入ってるようですな。…春ですなぁ(何処が?)


プレゼントの掃除機を渡すチャンスを考える時雨…。廊下を行ったり来たりするわけだが、そこで嬉璃と出くわした。
「どうした?今は補修する場所はないぞ?」
「お、嬉璃さん良いところに」
「ふむ、掃除機でも「こーど」がないの?」
「手軽にしたんだ」
「ほうほう、儂に少し使わしてくれぬか?」
嬉璃の意外な言葉に時雨は考えた。とはいっても0.00001秒しかからないが。
「OK」
彼は嬉璃に掃除機を渡すと子供のように喜ぶ嬉璃の顔が印象的に見えた。
「いくぞぅ」
スイッチを入れる嬉璃。
しかし、とんでもないことが起こる…。
「うわぁああああ!」
掃除機のパワーは恵美の体力や筋力に合わしているが、幽霊やお化けなどの非科学的存在の筋力(霊力)を計算はしていなかった。掃除機のパワーは嬉璃の言うことを聞かず、暴走するかのように勝手に前進し、周りにある物を吸い込んでいった。
「わあああ」
あわてて嬉璃を追いかけ掃除機のスイッチを切った。
跡は無惨に壊れた〈あやかし荘の〉壁や床…。
「この大バカもーん!」
嬉璃は、時雨に叫ぶ。
時雨は涙流しながら、補修に明け暮れた。

修復は一日と掛かることはなかったが…精神的に疲れたとも言える。
「はぁ…」
庭で大の字になって、夜空を見上げる。東京でも意外に星が多く見えた。
「近頃へまばかりだな…」
溜息混じりで呟く。
掃除機を作ったにせよ、どういう理由があるにせよ〈あやかし荘〉をこわしてしまった事で自責の念にかられた。
「これでは管理人さんに顔見せできない…もう少しまともな物を作るとするか…」
彼は掃除機を手に取り、自分の腕で壊そうと…
「時雨さん?」
後ろで女性の声がする。腕が止まった。
「か…管理人さん!」
そう、恵美だった。
「皆さんから聞きました…起こったことは仕方ないですよ」
「でも、俺は…恩を仇で返してしまった…すみません」
「気にしなくていいですよ。良くあることじゃない。此処でいろいろな騒ぎなんて」
「管理人さん…」
彼女の寛大さに感激する時雨。涙を隠そうと後ろを振り向く。
「その掃除機…すごく強力と聞いてますよ…私のために作ってくれたんですね」
「え、あ、はい」
「ありがとうございます時雨さん」
無意識か時雨は掃除機を大事そうに持ち、恵美に渡した。
にこやかに笑う恵美の顔が星明かりでいっそうに美しく見えたのは気のせいではない。
そのあと、暫く二人して、空を眺めていた。

「成功して何よりだ」
剣客は時雨を誘い駅前の屋台ラーメンで塩ラーメンを食べながら言った。
「奢るからと誘ってくれたのは良いが…何故屋台なんだ?」
「義理人情などは屋台にあると、この世界の情報収集映像装置から「見て」知った。だからそうした」
「TVといえTVと。前はメカって言っていたくせに」
この異世界の神…この世界の生き物をバカにしているのかと少し思った。妙なことくだらない事は知っているわりに、肝心なものは抜けているのかと。
しかし彼が手伝ってくれなかったら、あの掃除機「風神君アルティメットMk−V Ver1.5」は完成しなかっただろう。
「オヤジ、塩チャーシューおかわり」
時雨は追加を注文する。
「あいよ」
「オイオイまだ食うのか?此で何杯目だ?」
「5杯目。昨日はつかれたからな」
「私の財布のことも気にして貰いたい物だ」
「おごりといったらそのときに遠慮無くいただく」
「いや其れは違うな」
「ばれたか…焼け食いとわかったか?」
「そうしか見えないね、好きなだけ食え。どのみちお前の腹にも消滅炉入っているのだろ」
「掃除機に一緒にするな!」
冗談交じりで笑いながら、二人の男はラーメンを食べていた。

「風神君アルティメットMk−V」は、恵美の掃除の時に切り札として愛用されている。使われていなくても、しっかりと手入れがなされていることは言うまでもない。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1323/鳴神・時雨/32/あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】

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■         ライター通信          ■
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『管理人さんにお礼を』に参加して頂きありがとうございます。
あーだこーだと考えましたが、拙い作品になってしまい済みません。

また機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝