■今度はツボですか？■
滝照直樹 |
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【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】 |
【データ修復中】
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今度はツボですか？
三下が描かれた壺…。箱の中身はこれだった。
なぜ壺なのか？
壺と言うより…大きなとっくり。嬉璃ぐらいあるとっくり。
ご丁寧に、それに合わせて、お猪口の様な陶器がふたのように壺の口をふさいでいる。
三下の哀れな姿がかかれていると思いきや…
…
……
どうしても楽しんでいるようにしか見えない…。酒で酔って、ネクタイを頭に結んで踊っている…
こんな壺があって良い物か？いや、あってはいけない…と思う…。
嬉璃も恵美もこんなけったいな物が送られてきたのが不思議だった。
騒ぎを聞きつけてきた風野時音にしても同じ…。
「何なのでしょう？」
「また奇妙な…」
「ですね…」
３人して首を傾げる…。三下を題材にしてこんな壺を作る輩はいるまい。
時音は、一応壺が入っていた「箱」の中身を調べてみた。
『宴会とっくり：体験版』、『宴会とっくり取扱説明書』という奇妙な冊子を見つけた。
読んで字の如く…であるが…。
「壺に…いえ、これにはとっくりと書いてます」
時音はそういうと、他の二人は頭を痛める。
「まず…体験版という冊子を読んでみましょうか？」
冒頭がこうだった。
【いきなり宴会をしたいけど、時間もお金もない、仲間が集まらないかたに朗報！この「宴会とっくり」を使えばたちまちお祭り気分！遠慮無くとっくりの中にお入り下さい！ただいま無料キャンペーン中!!】
「なんぢゃこりゃ！」
嬉璃が叫んだ。
簡単に言えば、一人寂しく酒を飲むより、この壺の中に入って宴会気分を楽しめるという代物らしいのだ。
世の中変な物を作った輩がいるものだ。
そう考えると、三下が何かのきっかけでこのとっくりの第一体験者になったといえるのだろう。
寝静まった夜に、残業帰りの三下がこの箱を調べ、のぞき込んだ…という事も考えられる。
耳を澄ませば…、このおおきなとっくりからどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。
手拍子、陶器の太鼓、笑い声…。
本当に宴会アイテムのようだ。
「ここはてんごくだぁ〜」
と、三下の嬉々とした声が…壺から聞こえた。其れを聞いた３人は呆れかえる。
「ほっといても良いかもしれんのぢゃがどうする？」
嬉璃の提案。
たしかに幸せそうに三下が宴会をしているだけなら、しっかり封印してぺんぺん草の間においておけばいい。下手なことが起こっても、後に泣くのは三下だけで最小限の被害で済む。
「う〜ん」
恵美も時音もその意見は賛同したい。前回に痛い目に遭ったのだから、あまりこの差出人不明の「箱の中身」には関わりたくない。三下の命に関わる事がない以上は…。
もっとも、嬉璃はこの壺が有効利用できるとするなら、全て三下に押しつけた形のもとで使用すると考えている。
しかし、嬉璃以外の二人は責任感があるためにそうはいかなかった。
「三下さんをここから出してから考えましょう…」
「そうよね…」
「ぢゃ、儂に良い考えがある！」
「？」
嬉璃の考えは何なのだろうか？
玄関でずっと話していたので、嬉璃は管理人室に戻ってきて、ＴＶショッピングで買ったらしい釣り竿を持ってきた。先には芋羊羹が引っ掛かっている…。
「嬉璃ちゃん？幾ら何でも其れは…」
「いや！彼奴なら絶対つり上がる！」
「嬉璃さんの言うことに、なぜか納得してしまう僕は悲しい…」
時音は嬉璃の釣り竿をよく見て項垂れた…。
芋羊羹だけではなかった…子供のころの可愛い恵美の写真もぶら下がっていた…。
「あー嬉璃ちゃん！それはだめぇ！」
わたわたと止めに入ろうとする恵美だが、嬉璃はそんなことお構いなしにとっくりの中に其れを入れた。
「嬉璃ちゃ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
恥ずかしい顔をして顔を覆う恵美…。
「あいつは、他の奴らに話に聞いたが「萌えの暗黒面」という部類らしいからな…。恵美のこの可愛い写真を見つけてたら飛びつくぢゃろう！」
−何処で聞いた何処で？
「僕はそんな三下さんではないと…」
時音がそう反論するまもなく…三下がいとも簡単に釣れてしまった…。しかも魚がえさに食らいつくように…。
当然、嬉璃は勝利を確信したようににやりと笑い、時音と恵美は燃え尽きたようにへたりと座り、自分とその周りが灰色になっていた。
酔っぱらっていて羽目を外しているとはいえ…此処までおかしい行動することはないだろうに…。
とにかく、時音は酔いつぶれている三下を寝かしてから、とっくりを…管理人室まで持っていった。
歌姫と柚葉も参加して、じっとこのアイテムを睨む。
「廃棄したいです…返却先もわからないし…捨てちゃいましょう」
恵美はそういった。
「もったいないよ〜楽しそうじゃない！」
「そうぢゃ、おもしろい品物ぢゃ」
嬉璃と柚葉はおいておくべきだと主張。
歌姫はスケッチブックで、とっくりの絵に赤く×の字を描いた。
時音は其れをみて頷く。いらないと言う意志表示だ。
２対２…最後は時音…。
「僕が先に、本当に安全か見てきますよ。それからでも遅くはないと…」
三下が大丈夫だったのはただの偶然で、危険な罠かもしれない。いつしか中で永遠にでられなくなるということになりかねないのだ。
「お主がそうしたかったら、かまわんぞ」
嬉璃が時音に答えた。
「今は無料きゃんぺーんぢゃと書いているしのう」
無料お試しキャンペーン期限はまだ数日先だ。
「では行ってきます」
時音は歌姫の心配そうな顔を見て「大丈夫」という笑顔で返す。
念動鋼糸を中に入れて規模を確認する。
サイズ的に、どんな大きな物でも吸い込まれるような魔力が働いていることが糸からわかる。
空間はかなり広い。
時音は、とっくりの中をのぞき込む…。
吸い込まれるかのように…とっくりの中に入っていった。
「…」
残った４人は彼が帰ってくることを待つしかない。
中は、明るかった。様々な庭園があり、それぞれ季節を表している。
満開の桜が咲く公園、花火がなる夜の川岸と橋、秋の様相をあらわす紅葉の森、そして…雪がつもった町並み…。
「様々な宴会場所をそろえているのか…」
時音は注意深く周りを見渡す。
桜並木から、はっぴを羽織った奇妙な男が踊りながらやってきた。
「さぁさぁ！此処は一人でも楽しめる宴会処〈とっくり〉だよ！どうだい兄さん、ここは一つ羽目を外して思いっきり日々の憂さを晴らさないかい！」
どうも街頭似よく見かける客引きのようだ。
「今はお試しキャンペーンだ。損はさせないよ」
時音に何か質問する暇を与えずマシンガントークで、会話を進める男…。
「さぁさぁ！花見を出来なかった人は桜の間！夏の涼しげな河原での一杯！そしてビアガーデン！秋限定の美味を味わう紅葉の森！かまくらで鍋と大吟醸！」
「僕は、宴会をするために来たわけではない」
時音はやっと男に意見を言えた。
「は？ではなぜここに入ったの？」
「安全かどうか見るためだ」
「…たしかにこの新製品を疑うお客さんはいるね。だから、こうしてお試しキャンペーンしてるのよ」
男は時音に困った顔をして答える。
「それか、安全かどうか見るっていて実はいい女の子の飲み屋を探している？」
ニヤリとイヤらしい笑いをして男は言った。
それに、怒りをあらわにする時音。
「僕はそんな不純な気持ちで来たわけではない！もしかして、風俗法違反に引っ掛かることをこの場でしているのだな！」
「お、お客さん落ち着いて…私達はそのような…」
男は時音の殺気に気圧され弁明しようとするが…時音の神気刀（神格を光刃のように具現化させる）が喉元に突きつけられしゃべれなくなる。
「ひっぃぃぃ！た、助けて〜！」
男は、恐怖のあまり逃げた。
「やはりこの壺はあってはいけない！」
生真面目君時音、もう彼はキレた…。
危ない事をしている企業というのは裏で何かと結んでいるというのは定石で…なかから用心棒が現れた。時音を迎え撃つために。姿からして…いかにも極道の人間。「ぼったくりバー」などの店員なかんじだ。
「おためしと言いながら…最後に、今日は期限切れているとかいって莫大な金を要求するつもりなんだったな」
「う…」
隠れていた、客引きの男が冷や汗をかいた。図星だったようだ。
しかし、男は
「しかし、若造。この数の先生方にどうやりあう気だい？」
偉そうに答える。
時音は鼻で笑った。
「ちんぴらに負けるもんか…。本当の死線をくぐり抜けた僕にはゴキブリにしか見えない」
「先生！やってください！」
男は用心棒に頼んだ。一斉に銃や刀で襲いかかる男達。
時音はこんな相手に剣を出すまでもなくゆっくりと深呼吸した…。
５分も経たない内に…用心棒を全滅させる。全て拳で倒したのだ。
「ひっぃぃぃ！」
男は逃げるが時音の跳躍から逃げられない。
「これで内容がわかったよ…そう言うことで僕は出て行くね」
「ど…どうぞ…」
男は時音の気迫に失神した。
時音はこの中にいる連中は…一種の霊体とわかった。生き霊とも言うのだろうか？
事務所らしい建物を見つけた時音は色々探してみる…。仕事の契約者は単に魂の一部だけをここにおいて働かせるシステムになっている。危険が起きても相手は死ぬことはいっさい無いそうだ。
なので、破壊しても問題ないようだ…。ここに生身で入った人間以外は…。
時空跳躍により、時音はこのいかがわしい空間の外にでた。
時音は全てを話すと、嬉璃はがっくりした。
「なので壊しますよ？いいですか？」
「かまわないですよ」
恵美はにっこり微笑む。
庭先で、時音はこの大きなとっくり壺を落として割った。
数日後…。
三下に見覚えのない請求書が届いた。
おそらく…宴会料だろう…。
彼は…中を見ると青ざめて失神する。
時音たちは、その請求書をみてみる
＞宴会料６０万円
＞とっくり破損弁償 １２００万円
「危険物だった…」
時音と恵美は深いため息をついた…。
End
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【1219 ／ 風野・時音 ／ 男 ／ 17 ／ 時空跳躍者】
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■ ライター通信 ■
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「今度はツボですか？」に参加していただきありがとうございます。
はやり、不審物には手をつけない方が得策というもので…。
では機会があればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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