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■嬉璃のお願い■

滝照直樹
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】
【データ修復中】
あやかし荘奇譚・嬉璃のお願い

◆風野時音の場合
嬉璃が遊びに出かけるという話を聞きつけた、風野時音は昼食中だった。蕎麦に酒、みたらし団子である。
「面白いかも」
彼は思案した。このところどたばた続き、少し息抜きをした方が良いかと思っていた。なにぶん恋人の歌姫をほったらかしというのも、時音には重大な問題だ。
もしこのままの状態ならば、柚葉とスケッチブックを持った歌姫が並んで、かなり有名なお笑いコンビのまねをしかねない。
まずは新宿…×。それは異能者が1個小隊で襲いかかってくる可能性が非常に高い。
そして秋葉原…×。言わずとも、もうオタクとして覚醒している幼なじみが襲いかかってくる。当然同人誌即売会のメッカなど行けるはずもない。
しかし、そんなことを考える事もないのだ。彼の頭は「原宿」で決まっていたのだ。
今までの前振りは、時音の都合だともいえる。
大人のファッションと、若い者カジュアルな街。落ち着いた街。活気については新宿に引けをとることはない。駅前にしても、何となく落ち着きがあるし、近くに公園が有る。最大の理由は彼が「未来」で住んでいたこと。過去と未来ではどうなのか気になっていたため、暇な時には遊びに行っていたのだ。


時音はその案で嬉璃と恵美、歌姫に訊いてみた。
「原宿かOKぢゃ」
「決まりですね」
嬉璃と恵美は賛同する。歌姫は頷くだけだった。
「まさか時音」
「なんですか?」
「自分のでーとと一緒にするわけぢゃなかろうな?」
嬉璃がニヤリといつもの笑みを浮かべる。
図星だ。完全に図星だ。言い訳などこの凶悪最強の座敷わらしに効くはずがない。
時音は、顔に「はい、そうです」と書かれている状態で止まっていた。
「構わないぞ、別に」
嬉璃のにやり笑いは無くならないが、あっさりOKだった。
歌姫が時音の腕をがっしり持っているからであろう。
それより、嬉璃の様々な問題などに駆けつける事に感謝しているのは間違いないのだ。


原宿駅に下りて、本街道から少しずれる。人がまだらだが、昔からの意気込みを感じさせる商店が並んでいた。こだわりの店の通り。落ち着き、大人びたその感じがこの道にはあった。
「ほほう、いいかんじぢゃな」
嬉璃は敏感に感じ取った。
呉服屋もあるし、一寸した茶店があった。今ではノスタルジィで駄菓子屋が流行になっているが、老舗の駄菓子屋まであるのだ。
茶屋の芋羊羹とお茶は最高な味だった。
嬉璃は満足してあたりを見渡す。
それほど喧噪のない街・原宿。嬉璃はこの雰囲気や景色に魅入っていた。あやかし荘からあまりに出たことがない彼女にとって、原宿は新しい物に見えるようだ。


●女の子の買い物
恵美はいきなり声を上げた。
「あ、可愛い♪」
「なんぢゃ?」
「あの洋服店よ」
彼女は指さした先に、洋服店があった。見た目は極普通の女性用洋服店だが…。服のデザインが可愛い。
「歌姫さん、嬉璃ちゃん買い物しない?」
「儂は一向にかまわんが…」
嬉璃は歌姫を見るが、歌姫もにこりと微笑んで承諾した。
「きまりね♪」
「時音よ、すまんがそこで待ってくれぬか?」
「構いませんよ、行ってらっしゃい」
女性達が楽しく遊んでくれればいい。そう思ってる時音。
しかし、この洋服店…何処かで見たような?
まぁ、後で思い出すだろう。
それにしても…

……
長い…。
女の子の買い物って長いと聞くが…本当に長い…。
もし時音がタバコを吸うと仮定すれば、彼の足下に山と吸い殻があるだろう。
それほど長い。
しかし彼にとって待つというのはさほど気にもしていないのだが、独りぼっちというのは心細い。
「はー」
とうとうため息が出た。
平和な時代での買い物がここまで長いと言うことに心底驚いている。
仲間に入りたいのだが…、奥には下着コーナーもあるようなので…そこで話をしているとすれば…悲しいけど入れない。
その分、何か嬉しいことが有れば良いではないかと考えを改める時音。

「ごめんね〜」
「遅くなった」
恵美と嬉璃が戻ってきた。
「いえ、待つのは慣れてますから」
「ほほう。紳士ぢゃな」
一人足りない?…歌姫だ。
「気になるか?」
ニヤリと笑う嬉璃、恵美もいたずらっぽい笑みだ。
「ど…どうしたんです?」
「いやな、歌姫に似合うような洋服を買っていたんぢゃよ」
「最初は遠慮してたけど、やっぱりどんどん乗り気になってね♪」
時音は彼女らの会話で期待と不安が入り交じる。
「歌姫、恥ずかしがらず出てくるのぢゃ」
嬉璃が歌姫を呼んだ。
怖ず怖ずと、歌姫が現れる。
「…!」
時音は固まった。
いつも着物の歌姫が、洋服を着るという姿など想像できなかったのだが…今其処に!
薄い青系の女性用ジャケットに青いスカート、それに似合う靴だった。アクセントにピンクの花のピンバッチをつけている。
(似合うかな?)
と、歌姫は時音に目で訊ねた。時音は首を縦に振る。歌姫は喜んで頬を赤らめた。
時音は彼女の美しさのあまりに目を回して卒倒した。あわてて歌姫が彼をささえる。
「若いって良いのう」
嬉璃がニヤニヤ笑った。

数十分後のこと…
時音が虚ろに目を覚ましたのは、公園だった。
歌姫の変わった姿で目の前に現れて気絶したのは覚えている。
しかし、夢ではないようだ。
ベンチで歌姫の膝枕で横になっているのが感覚でわかる。
役得というのか何というのか…。二人にとっても幸せな時間だろう。
しばらく甘えていようと、時音は思ったのでそのまま眠りについた。
一方、嬉璃と恵美は遠くで見ていた。
「良い関係ぢゃの」
「ええ良い感じね」
「あやつ等を冷やかす隙がないのが一寸残念なのだが、儂らは儂らで楽しもう」
恵美と嬉璃は公園散策に出かけたのであった。


時音は今までの疲れがとれたかのように、大きくあくびをして起きた。
本当に眠ってしまったようだ。時間は夕刻。
「歌姫ごめん」
ずっと膝枕をしていた歌姫に謝る。しかし、歌姫はにこりと微笑むだけで気にしていないようだ。
「お、王子様のお目覚めの様ぢゃ」
嬉璃と恵美が紙袋一杯もって帰ってきた。
「原宿でたくさん買っちゃった♪」
恵美は洋服やらなかなか仕事で手に入らない物を今此処で買い漁ったようだ。嬉璃の洋服も入っているという。
「この格好だけぢゃ、外に行くと珍しいと言われるからのう」
嬉璃は面倒なことと思いながら内心は喜んでいるようだ。
「楽しかったですか?嬉璃さん」
「おう楽しかったぞ」
「其れは良かった」
時音は喜んでくれて良かったと微笑んだ。
「さて恵美、こいつは荷物持ちとして扱うぞ」
「そうね」
「え?」
時音にたくさんの買い物袋が手渡される。
「でーとの時の定石は、男は荷物持ちということぢゃ☆」
時音はしてやられた!と思ったが、歌姫と二人っきりの時間を満喫したことだし頷いた。
「さてかえるぞ〜」
「待って嬉璃ちゃん、歌姫さんを休憩させないと」
「どうしてぢゃ?」
「だって…ねぇ?」
「おおそうか!」
恵美と嬉璃はいたずらっぽく笑った。事情に気づく時音は赤面するしかない。
長時間時音の膝枕をしていたので、歌姫は足がしびれて立ち上がることが出来ないのだ。
しびれが収まる迄、自販機のジュースを手に、4人で談笑するのだった。


●あやかし荘帰宅
帰っても、恵美と嬉璃の原宿行脚についての会話はつきない。
特に嬉璃は、綾や柚葉にもそのことを喋り続けている。
よほど楽しかったのだろう。
今度は綾と柚葉と出かけるという話まで持ち上がった。

時音はというと…。
遠出につかれ寝息を立てて眠る歌姫の側でノンビリと読書をしていた。歌姫自身もそう外には出ない住人だからだ。
「…と…時音さん…」
寝言なのか…彼女が少し喋った。
時音は驚いた。しかし起こしてはならないと思ったので、声を出すのを我慢する。
歌うことしかできない彼女が、寝言でも普通に発言することは喜ぶべき事だ。

日常に幸せを感じること…そんな日々がずっと有ればいいと思った時音だった。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219/風野・時音/男/17/時空跳躍者】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
嬉璃のお願いに参加してくださりありがとうございます。
原宿を舞台にするのは結構苦労致しました。
このとき私が思ったこと。「取材行きたーい」(ぉい

時音様には幾度も参加してくださりありがとうございます。

では機会がありましたら、またお会いしましょう

滝照直樹拝