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■嬉璃のお願い■

滝照直樹
【0332】【九尾・桐伯】【バーテンダー】
【データ修復中】
あやかし荘奇譚・嬉璃のお願い

◆九尾桐白の場合
「ほほう、なるほど、嬉璃さんが」
九尾・桐白は嬉璃が出かけるという話を恵美に聞いて、和やかな表情を見せた。
「羽を伸ばすことは良いですよね」
「ですよね」
彼女にもいろいろ遊びに行く事だって良いではないか。
桐白は嬉璃と色々話するのが好きなので二つ返事で参加する。
嬉璃のカメラ恐怖症がどれほどのものかが心配だった。あと、服装である。彼女の格好は目立ちすぎる。
なので彼は管理人室に向かい、
「嬉璃さん、どれぐらいならカメラは大丈夫でしょうか?」
桐白は嬉璃に訊いた。
「主に言っても大丈夫ぢゃの…。恥ずかしい話、かめら自体見ても怖くはない。しかしぢゃ、それで撮られると思うと足がすくむのぢゃ」
「そうですか、なら…観光客が多いですが、浅草あたりが良いですね」
「浅草か。昔にはよく遊びに行ったものじゃ…」
彼女は昔を懐かしむように笑顔で答えた。
「後は服装ですね…。質素な子供服があれば良いのですけど」
桐白が思案するところ、
「あ、それなら私が持ってます。嬉璃ちゃんに気に入ってもらえると良いですけど」
恵美が答えた。
嬉璃は何故服が必要なのかわからなく首を傾げる。桐白は優しくいった。
「其れはですね、嬉璃さんの今の姿だと観光客達が珍しがって写真を撮ろうとするからですよ。普通の子供のような姿なら、誰も関わることなく遊ぶことが出来ますよ」
「なるほど、そう言うことなのぢゃな。良いことを聞いた。そしてありがとう…二人とも」
「礼には及びません」
嬉璃の照れくさい笑顔が桐白と恵美は嬉しかった。

都営地下鉄 浅草線に乗り込み、現地に着いた3人。数分歩けば有名な雷門の大きな提灯がある浅草寺を見ることが出来る。東京の23区は殆どが繁華街かビジネス街になっている代わり、この浅草は下町の情緒が残っている。義理人情がこの世知辛い世の中に残る街であろうか?
「恵美!恵美!こっち!こっち!」
可愛いく、動きやすい恵美のお下がり服、靴を履いた嬉璃はまるで本当に子供に戻った感じで、恵美の手を引っ張った。
「まってまって、浅草は逃げないから〜」
二人のやりとりを、微笑みながら見守る桐白。
茶屋で芋羊羹とお茶を楽しんだり、浅草池に泳ぐ鯉たちを眺めたり、思いっきり楽しんでいた。
「あそこの遊園地と言う所にいきたいのう」
嬉璃が言った。手元には何故かガイドブックがある。
「では行きますか?」
桐白はにこりと微笑む。
チケットを買い、嬉璃が楽しめる物はひたすら遊んだ。
「大きくなれればいいのぢゃがのう…」
嬉璃は日本初のジェットコースターを指さした。身長が足りなかったのだ。
「身長ですね…」
恵美と桐白は嬉璃が拗ねるのではないかと少し気になったが
「仕方ないか…しかしぢゃな?儂は座敷わらしで、じぇっとこーすたーに乗れるほど大きいというのを想像するとどうする?」
3人が思い思いの大きな嬉璃を想像する…。
同時に皆が笑った。
「お、おかしすぎる!嬉璃ちゃんが…」
恵美は想像が飛躍しすぎ老人の嬉璃を思った。姑さんを連想したのだろう…。
「私は、想像が出来ません」
桐白は、120cmの嬉璃を想像したのだが其れでは「嬉璃」が「嬉璃」でなくなる感じなので打ち消したのだ。其れほど今の嬉璃の印象が強いのだ。
嬉璃自身は、20歳ぐらいの姿の自分を想像したのでこれまた座敷わらしではない。
バラバラに想像したのだがお互い「嬉璃の姿」で笑った。どんな嬉璃を想像したのか迄は訊く事はなかった。
「ぢゃろ?」
無邪気に笑う嬉璃は「ジェットコースター」に乗らなくても楽しめると言うことを教えてくれたのかもしれない。

◆迷子発見
休憩でベンチに座り、桐白のカクテルを飲んでいた時である。
嬉璃が、桐白の袖を引っ張った。
「どうしたのです?」
「ほれ、あそこで子供が泣いておる…」
「あ、本当ですね…迷子でしょうか?」
確かに、通り道に大きな声で泣いて、何かを叫んでいる女の子がいる。
周りは見て知らぬふりではなく、本当に知らない感じだ。
仮に知っていたとしてもこう考えただろうか?駄々をこねているだけで、近くに母親がいると…。
「やはり迷子かと思います」
嬉璃と桐白の会話に気がついた、恵美はそう言った。
「確かに、誰かについて行く事はないですね。ずっと立ちっぱなしで泣いてますね…」
「ふむ、浅草は狭い感じがしても広いからの」
「どうします?」
「決まっておる。迷子を救うのぢゃ。困って探している事であろう母親を捜すのぢゃ!『母を訪ねて浅草周り』作戦ぢゃ!」
桐白の質問に握り拳を天に突き上げ嬉璃が言った。
迷子放送を使えば良いのだが、嬉璃にしてみれば時間の無駄という。やはり此処は浅草、義理人情で探すのが良いというのだろう。
「どうしたの?」
恵美が先に泣いている子供に尋ねた。よく見ると女の子だ。年は、嬉璃の姿に似ている。
「パパと、…ママが…居なくなっちゃっやった…ひっく」
泣きながら答える。
嬉璃が近くに来て、彼女の頭を撫でる。
「心配しなくていいのぢゃ…いや、心配ないよ。嬉璃のお姉ちゃんとお兄ちゃんが「ぱぱ」と「まま」を探してくれるって」
昔の「嬉璃」口調だ。
「え?本当?」
「うん。嬉璃たちに任せて」
嬉璃の口調は何となく人を落ち着かせる。座敷わらしの無邪気さがそうさせているといえるだろうか。
「周りで迷子を捜している親御さんが居ないか調べてみますか」
桐白は、遊園地内で耳を集中する。声を拾うことで場所を調べているのだ。
恵美は、迷子の子供の顔を拭いてあげ、桐白が用意していたノンアルコールカクテルを私で落ち着かせた。
嬉璃は、落ち着いた女の子が落ち着きを取り戻すと、恵美と共に遊んであげる。
「探している両親は今、事務所に迷子放送を頼みに行っているようです。もう一人は捜してますね…」
桐白は恵美と嬉璃に言った。
「事務所というと…遠いですね」
恵美が困った顔をする。しかし、嬉璃が
「おしゃべりしながら行けばいいよ。しりとりしよう、ね?」
「うん」
嬉璃は女の子としりとりをしながら、事務所まで歩いていく。恵美も参加した。
浅草の遊園地はそれほど大きくないのだが子供にとっては広い事は変わりない。しかし、3人のおかげで無事女の子は両親と会うことが出来た。
「ありがとーきりちゃん!」
「ご迷惑おかけして…済みませんでした」
謝罪と感謝されて別れを告げた。

親子の姿が見えなくなった時、恵美は嬉璃をじーっとみてこう言った。
「嬉璃ちゃんが、あんなしゃべり方するのは初めて」
「ん〜そうか?そりゃ50年前の口調ぢゃからの〜」
「あ〜もうちょっとさっきの言葉で喋って♪」
恵美は嬉璃にお願いするも
「いやぢゃ!アレは結構恥ずかしいんぢゃ!」
嬉璃は即答で拒否。
「それは其れで惜しい気がするんですけどね…」
「お主もそう言うか桐白!」
赤面するする嬉璃。しかしやはり楽しげだった。


◆〈あやかし荘〉までの帰り道。
嬉璃は一杯楽しんだのか、疲れ果てて眠ったので桐白がおぶっている。
「今日は楽しかったですね」
恵美は桐白に訊ねた。こくりと頷く桐白。
「あそこまで、無邪気な嬉璃さんを見たのは初めてですよ」
桐白もびっくりしているようだ。
しかし、この3人にとって良い思い出になったのは言うまでもない。
嬉璃の楽しげな寝顔を見るとわかる。夢の中でも楽しく遊んでいることだろう。

座敷わらしは憑いた家の住民に幸せを与える
それは先入観
本当は彼女達を信じ大事にする人々の思い…
関わる人に常に幸せを与えているのでは?
あなたの心の目で見てみよう…
そこに「彼女」がいると信じれば
彼女はにこやかに笑ってくれる
そして気づくだろう
あなたは今幸せなんだ…と


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0332/九尾・桐伯/男/27/バーテンダー】

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■         ライター通信          ■
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滝照です。どうも参加してくださりありがとうございます。
ほのぼというか、しんみりとした話になってしまいましたが如何でしたでしょうか?

東京在住でない私にとっては、東京の繁華街や観光名所の細部を調べるのにはWEBぐらいでしか無かったです(或る場所のみは何故か机上論で詳しいかも)。
其処の空気を感じとり、遊んだりしてみたいです。
取材という名目の旅行になりますけね(笑)

ではまた、機会があればお会いしましょう。

滝照直樹拝