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■剣客の下宿4 1日だけの再会■

滝照直樹
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】
空を見上げてエルハンドは
「まさか…」
と驚きと不安の声を上げた。

恋人がやって来ると言うのだが、普通なら嬉しいはずだが、険しい顔つきである。
「私の恋人も正当神格保持者だが、器がない純エネルギー体で存在しているのだ。もし此処で高熱量を持つエネルギーが暴走するとどうなるか…」
と言う。
恋人の到来=東京消滅の可能性が高いのだと…。

「相手も神である故…私の先見能力でも何処に現れるかわからない…」
其れが彼の不安だった。

しかし、現れる理由とは?
どんな人なのだろうか…?
それ以上のことは彼も教えてくれなかった。
一日だけの再会

◆時間跳躍者の決着。
●序
エルハンドは憂鬱な顔をして、あやかし荘で佇んでいる。何かの呪文を念じたのか、周りに魔力の障壁を作り出した。
「…まだ来ていないようだな」
呪文が成功した事の安堵のため息。
「あいつが…此処に来ると言うことは…この世界事態の成り行きが大きく変わろうとしている証だ…」
彼は、呟いた。

風野時音と奉丈遮那は神の不安な背中を見ていた。
「師があれほど悩むとは…」
「逢いたいのでしょうね…本当は」
実際どうすればわからない二人。エルハンドの恋人も神らしい。しかも、呪文や超能力は何かしら変異効果を現すというのだ。送り出したいが、この先にある困難な事件が気がかりで仕方なかった。

1羽の烏がエルハンドにとまった。カァと鳴いている。
「蛍の使いか…?何用だ?」
烏に喋るエルハンド。烏は何かしら鳴いて伝えた。
「そうか…ありがとう」
空を見上げると、東京中の烏が、エルハンドを見守るかのように羽ばたいていた。そしてちりぢりに何かを探すかのように飛んでいった。

時音は不安になり神に駆け寄る。
「どうしたのですか?」
「蛍が今の状態を教えてくれただけだ…しかもお前にも関わることだがな」
「え?」
「訃時が来る…」
「!彼女はすでに封印されているはず…」
「彼奴の正体は…」
エルハンドが言いかける時に、詩織の姿で現れた訃時が立っていた。
「お出ましのようだな」
「訃時!」
時音は、天空剣に耐えうる刀を抜刀しようとするが、エルハンドが制した。
「分かってるようね、流石神。私の正体をご存じだったのね」
「正体?」
「そうよ、坊や忘れたの?私は…此処にいて居ないのよ」
ゆっくりと歩み寄って来る訃時。冷たい微笑は、いつでも殺されても良いマゾヒズムな感じだった。
「つまり…時間そのもの?」
時音は訊いた。嬉しそうに微笑む訃時。正解のようだ。
「神様、あなたはあなたのやりたいことをすればいいの。私は時音に話があるだけ」
「真実を知るのはお前だけだからな。そしてお前が死ぬと言うことも覚悟している。趣味が悪い…」
「何とでも言ってね。タイムパラドックスを生まないように「今」【私】も【彼ら】も居るのだから」
緊迫した沈黙…。遮那はエルハンドに近づいた。
沈黙を破ったのは…時音だった。
「話を聞こう…訃時。此処では皆が危ないから近くの桜公園で」
「良いわよ」
「しかし、しばらく待ってくれないか?」
時音は訃時に言うと、構わないわと言った感じで彼女は頷く。

「エルハンドさん、今だけしか逢えないなら…逢うべきですよ」
「俺の恋人か…」
「ええ…何が起ころうとも「絆」があれば大丈夫です」
「元からそのつもりだ…ただ心配があってな…しかし何とかなるだろう」
「?」
最後の言葉が時音には分からなかった…。
そして時音は、訃時と共に公園に向かう。
「まて」
「?」
剣客は時音に深紅の宝石を投げてよこした。
「いざというときに…割れ」

エルハンドは遮那と…恋人を捜すために出かけていった。


●破:時音
「此処であなたは詩織に見つけられたのよ」
訃時が桜並木公園の隅を指した。
「あなたは捨て子で、もうすぐしたら飢え死にしそうだった」
話は続く。
時音は、エルハンドから聞いたとおり、訃時が『時間存在』というならば全ての真実を知っていることになる。先日…霧のかかった詩織の涙した夢を見たからこの存在の話に興味を持った。
「その後を話してほしい?」
「…ああ」
気は抜かない。隙を見たら…殺される。そう思っているそれに、未来の皆の敵だ…。
「実はね…時音…あなたは『現在』の子供なのよ」
「!?」
「詩織さんがね…禁忌と知って未来をよくするために連れて戻ってきたのよ。あなたは天性的に退魔能力者だったわけ」
「まさか…」
事実を知った時音の声が震えた。
「そして、あの戦争が始まって、過去に旅立たせたの詩織さんが。当然退魔も異能者も戦力は激減するよね?その後は分かるでしょ?」
「人間達の…異能者殲滅…」
「あ・た・り。そして世界の均衡のために私が生まれたのよ」
無邪気に笑う訃時。
時音は、膝をつき拳を地面に叩き付けた。
「いったい、いったい何のために!僕は!」
「すでに…戦争前から人から…いや全てから裏切られていたって訳よ。未来は変わらない。それに「この時代」に残ることも出来ないの。永遠にね♪」
訃時は、絶望している時音の耳に囁く。
「可哀想に、人にも、詩織さんにも裏切られたなんてね。そして幼なじみも裏切ったのだから。でも安心して…私はあなたを愛しているから…」
訃時は言葉の中に、魅了呪を込めて話しかけるが…
魔法のエネルギーが中ではじけた。
「?」
時音と訃時は感じた…魔法や超能力の循環が狂っている。
「異世界の神が降り立ったのね…エルハンドの恋人が…」
舌打ちするように訃時が悔しがる。魔法が全く効果を無くすか変異効果を発する。
世界の均衡自体を修正する神が居ると聞く…。時間軸さえも…。
「やっかいよね…」
訃時はきびすを返し、神のもとに向かおうとするが、時音が立ちはだかった。
時音は、日本刀を構えていた。そして…深紅の宝石を持っていた。
「戦っても無駄なのよ?未来は変わらないから」
「変わる!変わるから今此処にいる!過去のことなどは関係ない」
「其れは自分で思っているだけ…世界からはあなたは歯車でしかない。「終われない戦争」のね」
肩を竦めて訃時は言った。
「計算違いだ、訃時。変わる方法は一つ…「現在」そのものを「消せ」ばいい」
時音は深紅の宝石を日本刀で砕いた。
「天空剣…解。…封印した物、呪縛などを神気で解呪する」
すると…宝石から「もうひとり」の訃時が現れた。
「時音!自らタイムパラドックスを!」
同一人物が同じ時間に同時に存在した場合…「唯一が2つその場にいる矛盾」が起きる。時間的存在の訃時にとって…時間の流れそのものだから…過去も未来もない。有るのは一つ…融合による大きな時間変動だ。
いきなりの行動に、戸惑う訃時。しかし遅かった…。
時間の渦が…全てを巻き込もうとしていた。


●急:時音
訃時を永遠に殺す方法は…「未来」自体無くすしかない。いまや時空の渦に巻き込まれ、「終わらない戦争時代」と「現在」を切り離す。二人とも消滅することで、「戦争」自体を無くすことが出来る。未来とは…もとから無いと考えれば良いのだ。
神格保持者となった時音にとって、覚悟の上だ。絶望する必要もない。方向に変わるというなら…この命もろとも未来を消すことが、訃時の存在や、詩織の禁忌を止める事につながる。
時間流に流され続け意識がなくなる中…訃時を探す。
訃時は、時間の狂いから自分自身にとまどいを覚えているようだ。何を言っているのか全く分からない。
言葉ではない。今までの歴史を一気に受け止めることで、自分の「存在」が無くなる悲鳴をあげているのだ。訃時自体が消滅した時…新しい訃時が生まれるだろう。その前に片を付け無ければならない。
自ら未来に帰って、詩織と「もう一人の自分と仲間達」が時間跳躍するところを止めなければならないのだ。
「これで全てが終わるんだ」
時間流を未来に進むことは容易い。それは川のような物だ。灰色の霧で覆われる精神世界に似通った世界。アストラル界と同じように人の寿命を指し示す銀の帯。
そして…目的の自分の時代に戻った。

「ふぅ」
彼はため息をついた。荒廃した東京。殆ど見る影もない。所々で人間が異能者狩りを行っている銃撃戦が聞こえる。もっとも、正当神格保持者の時音が彼らの武器で傷つくことはない。すでに…神…になっている。この時点で「神の居ない世界」は無くなった。「今」此処に「神」がいることで。
「あそこに!」
異能者狩りの人間が時音を見つけた。
「無駄だ、逃げた方が良い。これは神としての忠告だ」
「異能者が神と称するな!神は居ない!」
人間達は攻撃を仕掛けるも、全く歯が立たないことを知る人間達は恐れおののき逃げてしまう。
「ば、化け物だぁ!」
すでに神が居ないということから神は「魔」か「異能者」扱いである。実際そんな陳腐な物で片づけられるのは悲しいと時音は思うわけだが、異能者狩りも「魔」にも目をくれず、時空跳躍で詩織の場所に跳んだ。

詩織と旅立つ仲間と「自分」が居る広場。
「ここから先は私も分からない…ごめんね…でもこの方法しかないから…」
詩織は悲しそうに送る言葉を言う。しかし、若者達は元気に彼女を励ました。
「過去に戻って、未来を変えてくるよ」
「訃時を倒すために!」
その場の「時音」の幼なじみはギュッと彼の腕を握って言った。当然彼とは、時空跳躍前の風野時音である。このとき退魔剣は習得していたが、光刃は持っていない。
「本当に…過去に行って…良い時代に変えられるのかな?もう俺…人間が信じられない」
幼なじみは言った。
「馬鹿だな…人は…まだ信じられるよ。だから心配しない方が良いよ」
「でも、でも!お前の両親も、俺の家族も皆!人間の奴らや「魔」に殺されたんだよ!其れでまだ人を信じれるわけ?」
「ああ、あのとき泣いた時から過ちは繰り返さないと誓った。だから過去に行って、お前も人が好きに慣れるように…」
「うそ!」
幼なじみは泣いた。無理もない…敵に家族や友人を殺されて其れを赦せるわけも無かろう…。
旅立つ退魔と異能者の若者はそれぞれの思いを秘めて跳躍準備に入ろうとした。

そのときに、「神・時音」が現れた。みなは時音が二人いることで驚きを隠せない。
「過去に跳躍をしても…何も変わらない…」
「あんたは時音?」
「ああ、時空旅行から過去に行き、未来に戻ってきた」
「では?」
皆がざわめく
「全く変わらない…むしろ悪化の一途だな…」
「時音…」
「詩織さん…貴女は無茶な事をしている。全て…訃時から聞いた」
その言葉で皆は驚愕する。
「お、お前!訃時に魅了されたのか!」
「見損なった!」
仲間から罵声が飛ぶ。しかし時音は
「黙れ!もしそうだったら、すでに有無を言わさず殺しを楽しんでいる!自分が傷つきながらお前達を!嬉々としてな!」
怒りをあらわにして神格を解放した。その気迫で皆は押し黙る…。
退魔の時音は…自分がこうなるのかと思い、怖がっている幼なじみを庇っていた。
「…話してやろう…訃時はこの世界自体のゆがみで…出来た魔ということを」
其れを話し始めようとした時、詩織が光刃で時音を斬ろうとした。しかし、簡単に人差し指で受け止められる。
「事の発端は、裏切り…しかし、詩織姉さん…いやその姿をした此処にいる訃時の計画だった!」
「ふ…訃時!」
「…馬鹿なことを言わないで?」
詩織が戸惑うように言う。
「禁忌を犯した僕の師詩織は此処にいない」
時音は一刀の元、詩織を切り捨てた。
「ま…まさか…簡単に…ばれて…」
声は詩織ではなく…訃時の醜い断末魔だった…。
その周りにいる皆は呆然とする…。何が起こったのか分からない…。
神の時音は…真実を皆に告げ始めた。
皆は、その真実をどう受け止めるべきか…戸惑うしかなかった。
「過去に行ったとしても、この世界になる。回避する方法は、この時代自身消えることだ。訃時も今過去で消えている。僕も、其処の自分と共に消えるだろう。皆…人を恨むな、魔を恨むな…。信じるんだ、自然とその流れを…」
其れと同時に、最後の言葉で彼は霞のように消えはじめる…。まだ若い跳躍前の時音と共に。
そして…過去と未来が閃光によって消滅し始める…。
(しかし存在していたことは歴史的に修正される…安心しろ)
幼なじみの声…あやかし荘にいる人々、歌姫の姿、エルハンド…全ての記憶がなくなる…しかしこれで良い。終わらない戦争の原因は過去と未来の狭間で生きた自分と訃時の用意周到な計画だったのだ。

「全く…世話がかかるやつだ」
聞き慣れた声がした。
「無茶して正当な「半神」になるから…過負荷を起こしたのだ。もっとも、これが手っ取り早いか…お前が取った行動は…。しかたないしばらく封印するか。すでに未来は消えた。訃時や終わらない戦争の未来は無くなった。お前は…只のあやかし荘に住んでいる私の弟子だ。もっとも、神格から鍛え直さないとな」
「ど…うい…う?」
「簡単なことだ。愛する人が悲しむ顔を見たくはあるまい」

時間の修正行動は大きく世界自体を飲み込んでいる。その中で平気な神は知っている限り一人。
時間を操る神…エルハンド。

気がつけば…桜並木公園にいた。あれから記憶がない…
「?」
徐々に思い出す。あ、師匠にしごかれて…気を失っていたんだ。
しかし頭に何かあって柔らかい。
「?歌姫?」
上を見上げると、和装の少女が微笑んだ。膝枕してくれていたのだ。
「おーい、なにやってます?」
奉丈遮那の声がする。
「先生怒ってますよ〜。早くしないと素振り50000回だって!」
「其れを早く言いってくれよ!」
遮那が何か言おうとすると、幼なじみの少女が割り込んでいった。
「その風景はネタになるねーあついあつい!!」
「おい!まて、このオタク娘!」
からかわれて、赤面する時音。
日々のくだらない会話。
すでに、時音の頭には…未来の悲しい出来事はなかった。
あやかし荘に住む少し特殊能力を持った高校生なのだ。
耳に小さい青い宝石のピアスをつけている以外は…。


End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1136 / 訃・時 / 女 / 999 / 世界を滅ぼした魔】
【0506 / 奉丈・遮那 / 17 / 占い師】
【0276 / 冬野・蛍 / 12 /死に神?】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿4』に参加していただきありがとうございます。
時音さまと訃時さま。今回で私の所では時空跳躍における『終わらない戦争』に関する事件は終了しました。それは、本文を読んでくださるとおり、「未来」が無くなったからです。
時間的存在というなれば、いつでも現れると思われますが、発生環境自体が無くなった今、彼女は再び現れることはないです。
しかしながら、跳躍してきた時音とその仲間達は、「跳躍した事実」は「別の事象」で再構成され、時音と同じように現在にいます。
未来は、過去ではなく…先にあるから未来です。運命の退魔剣士や関係する仲間はその束縛から解放されました。

では機会があればまたお会いしましょう。

滝照直樹拝