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■剣客の下宿4 1日だけの再会■

滝照直樹
【0506】【奉丈・遮那】【占い師】
空を見上げてエルハンドは
「まさか…」
と驚きと不安の声を上げた。

恋人がやって来ると言うのだが、普通なら嬉しいはずだが、険しい顔つきである。
「私の恋人も正当神格保持者だが、器がない純エネルギー体で存在しているのだ。もし此処で高熱量を持つエネルギーが暴走するとどうなるか…」
と言う。
恋人の到来=東京消滅の可能性が高いのだと…。

「相手も神である故…私の先見能力でも何処に現れるかわからない…」
其れが彼の不安だった。

しかし、現れる理由とは?
どんな人なのだろうか…?
それ以上のことは彼も教えてくれなかった。
一日だけの再会

●序
エルハンドは憂鬱な顔をして、あやかし荘で佇んでいる。何かの呪文を念じたのか、周りに魔力の障壁を作り出した。
「…まだ来ていないようだな」
呪文が成功した事の安堵のため息。
「あいつが…此処に来ると言うことは…この世界事態の成り行きが大きく変わろうとしている証だ…」
彼は、呟いた。

風野時音と奉丈遮那は神の不安な背中を見ていた。
「師があれほど悩むとは…」
「逢いたいのでしょうね…本当は」
実際どうすればわからない二人。エルハンドの恋人も神らしい。しかも、呪文や超能力は何かしら変異効果を現すというのだ。送り出したいが、この先にある困難な事件が気がかりで仕方なかった。

1羽の烏がエルハンドにとまった。カァと鳴いている。
「蛍の使いか…?何用だ?」
烏に喋るエルハンド。烏は何かしら鳴いて伝えた。
「そうか…ありがとう」
空を見上げると、東京中の烏が、エルハンドを見守るかのように羽ばたいていた。そしてちりぢりに何かを探すかのように飛んでいった。

時音は不安になり神に駆け寄る。
「どうしたのですか?」
「蛍が今の状態を教えてくれただけだ…しかもお前にも関わることだがな」
「え?」
「訃時が来る…」
「!彼女はすでに封印されているはず…」
「彼奴の正体は…」
エルハンドが言いかける時に、詩織の姿で現れた訃時が立っていた。
「お出ましのようだな」
「訃時!」
時音は、天空剣に耐えうる刀を抜刀しようとするが、エルハンドが制した。
「分かってるようね、流石神。私の正体をご存じだったのね」
「正体?」
「そうよ、坊や忘れたの?私は…此処にいて居ないのよ」
ゆっくりと歩み寄って来る訃時。冷たい微笑は、いつでも殺されても良いマゾヒズムな感じだった。
「つまり…時間そのもの?」
時音は訊いた。嬉しそうに微笑む訃時。正解のようだ。
「神様、あなたはあなたのやりたいことをすればいいの。私は時音に話があるだけ」
「真実を知るのはお前だけだからな。そしてお前が死ぬと言うことも覚悟している。趣味が悪い…」
「何とでも言ってね。タイムパラドックスを生まないように「今」【私】も【彼ら】も居るのだから」
緊迫した沈黙…。遮那はエルハンドに近づいた。
沈黙を破ったのは…時音だった。
「話を聞こう…訃時。此処では皆が危ないから近くの桜公園で」
「良いわよ」
「しかし、しばらく待ってくれないか?」
時音は訃時に言うと、構わないわと言った感じで彼女は頷く。

「エルハンドさん、今だけしか逢えないなら…逢うべきですよ」
「俺の恋人か…」
「ええ…何が起ころうとも「絆」があれば大丈夫です」
「元からそのつもりだ…ただ心配があってな…しかし何とかなるだろう」
「?」
最後の言葉が時音には分からなかった…。
そして時音は、訃時と共に公園に向かう。
「まて」
「?」
剣客は時音に深紅の宝石を投げてよこした。
「いざというときに…割れ」

エルハンドは遮那と…恋人を捜すために出かけていった。


●破
歩きながら、遮那と剣客は恋人が降り立つとされる地点に向かった。
「時音さんは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろう。元から自分で決着をつけなければならないと思っているだろう…」
遮那の問いに素っ気なく答えたエルハンド。すでに結果が見えているからだろうか?
「まって〜」
後ろには大きなほうきのような棒状の物に乗って飛んでくる少女が居る、冬野蛍だ。
「僕もついて行く!」

「蛍が導いている烏たちの情報ではここから数km先の広場だな」
ここからは見えないが、遠くを眺めるようにしている剣客。今は、蛍の危険感知能力に頼るしかないのだ。
遮那が、エルハンドに訊いた。
「エルハンドさんの恋人ってどんな人なんですか?」
恋する人間にとって、やはり気になる事柄だ。エルハンドは少し困った顔をするが。
「僕も訊きたい」
蛍も興味津々だった。
溜息をついて、ぽつりぽつりとエルハンドが話し始めた。
「実際は、彼女は元人間だ。といっても私が生まれる前から数千年も転生を繰り返した女剣士。しかし私の世界で神々の戦いが終わった時…彼女は人間として寿命を全うした。しかし、世界は彼女を必要とした故、外世界の意志により、魂のみ正当神格保持者…神となったのだ。だいたい私が生まれた時と同じにな。幼なじみみたいな感じで育ったのだ。キャロル…其れが私の愛する人の名前だ」
「性格は?」
「強い意志を持っているが、あまり喋ることもない。過去人間だった時は結構ぶっきらぼうだったり、おてんばだったり、養父に甘えていたり…いろいろな顔を持ってる。流石の私も彼女の思考は読めない」
珍しく思い出話で微笑んでいるエルハンド。しかし…
「彼女が来ると言うことは、この世界は危うい…」
彼は溜息をついた。
「どうしてですか?」
遮那は訊いた。
「其れは会えば分かる…」
それ以上エルハンドは答えることはなかった。

探し始めて、数十分後…蛍が悲鳴を上げた。
「きゃー!烏ちゃんが!」
今まで協力していた烏が蛍に襲いかかってくる。
2人して烏の大群を追い払うのに必死だった。
何とかして追い払ったが蛍はかなり傷ついた。
「しっかり…」
遮那が彼女を抱きかかえるが、意識はあるがかなり参っている。
エルハンドは、懐から緊急の医療袋を取り出して、蛍を治療する。
「彼女が降り立った証拠だ…」
「え?」
「彼女がこの世界に来た時…魔法などは殆ど役に立たなくなる。自分自身が持っている神格を媒体とした魔法しか効果がない」
「どうしてです?」
遮那は訊いた。
「彼女の特殊能力だ。まだ上手く扱えないらしいな…相変わらず。彼女はこの世界では純エネルギー体のだ。魂だけが神格化したからな…他の世界で肉体保持などの能力を得るため訓練中なのだ」
「すると…」
「下手をすれば…エネルギーの暴走でこの世界が滅びる」
彼の不安が世界危機という事を知ったから遮那は黙ってしまう。
「エル様…」
「すまんな、巻き込んでしまって」
エルハンドの言葉に蛍は首を振る。
「エル様のせいじゃないよ。キャロルさんがどうしても会いたがっているとおもう。はやく…」
蛍はにこりと笑って気を失った。
遮那は彼女を抱きかかえて、エルハンドに言った。
「急いで行きましょう」


●急
目的地までつく。予想していたとおり、エネルギーの渦が広場を支配していた。マスコミ達と警察が集まっている。半径5mもある球体…目立たない筈はない。
そして…あやかし荘の方向に…竜巻が巻き起こっているのが見える。
「時間の渦!」
エルハンドが叫んだ。時間の渦だ。これに飲み込まれることは死に等しい。
「あれが!?…急いで!エルハンドさん!」
遮那はエルハンドを押した。
「分かった…行ってくる…」
彼は、彼女のもとに向かった。

「こら!此処は危険だ!立ち入りは…!」
エルハンドは人間以上の跳躍で飛び越えるが、後ろから遮那が警察をかわして付いてきている。
「何故ついてくる?」
「後ろに時間の渦。世界が滅びるなら人目見ておきたいモノです。あなたが愛している人の姿を」
遮那は冗句混じりなのか、微笑んだ。
「勝手にしろ」

エネルギー球体内に入った。かなり暑いのだが、魔法が安定して循環していることを知る。
「キャロル!」
エルハンドは叫んだ。しかし返事がない。
「瞑想かもしれませんね…」
遮那が言った。
「そのようだな…」
エルハンドは呟くように答えた。
「魔法の流れ…神格の安定を必死に行っているのでしょう…。エルハンドさん、少し力を貸してください」
「どうするのだ?」
「瞑想をしているということは、半分体と精神は寝ている事と思います。夢見で彼女と交渉してみようと思います」
「相手は神だぞ…?発狂するぞ…」
「はい、構いません…役に立ちたいから…」
「ならば…この青い封印石を媒体に力を使え…」
エルハンドは右目を隠している髪をあげて、右目を見せた。其処には青い宝石が埋め込まれていた。
そして彼は無理矢理宝石を引き抜く。赤い血がしたたり落ちるが、エネルギーの流れに吸い込まれた。
「エルハンドさん…」
「これは、俺の神格を込めた物だ。制御装置の一つだがこういった使い方もある」
遮那はうなずき、宝石に念を込めて眠りに付いた。

キャロルの精神世界に入る…。純粋なエネルギーの流れが遮那を導いている。ただ、神の精神が強力すぎる故、頭が恐ろしいほど痛い。この苦痛に耐えながら、中心部に向かった。
赤いバンダナで長い金髪を留めている美しい女性を見つけた。
彼女は中世の民族衣装を着ており、剣を前に置き、ずっと座っている。
「あの人がキャロル?」
遮那は思った。彼女の周りは真っ白で、徐々に力が安定している事が分かる。しばらく様子を見る遮那。今会話をすれば恐ろしいことになると思ったのだ。
しばらくすると、女性は目を開き、遮那を見る。
「あなたは?」
ダイレクトに脳に彼女の声が入る。激痛で苦しむ遮那。しかし
「ぼ…僕は…この世界の人間…奉丈遮那です」
「あ、ごめんなさい。今…力量を落とすわ…」
彼女は遮那が発狂しないように音声ボリュームを下げた。
「これなら…話が出来るわ。此処に人間が入ることは珍しいから…」
「すみません…実は…」
遮那は、事のあらましを告げた…。
「来てくれたの!あの人が!」
キャロルは涙を流す。うれし涙のようだ…。
「キャロルさん…あの人に会うために…来たのですよね?」
「はい…本当は父から禁じられていました…しかし会いたかったから」
遮那は彼女の気持ちは痛いほど分かった。エルハンドの言ったとおり修行中らしい。ならばと、彼はある行動に移った。
「キャロルさん…僕と会わせて精神統一をしてください…。貴女はまだこの世界になれていないから…」
「お願いします。恥ずかしいですけど…」
「さ、落ち着いて…」
二人は瞑想に入る…遮那のサポートで、徐々にエネルギーは安定し、急激に光は収まった。
外界では、その逆のようで、まぶしいほどの閃光がほとばしったようだ。
キャロルと遮那は、その閃光の中で目覚める。周りは…真っ白であった。
しかし、遮那をゆっくりと起こそうとするエルハンドを見つけた。
「エル…」
「馬鹿者、お前の父が決めた禁を破りおって…」
「どうしても逢いたかった…渡したかったの…これを…」
彼女は涙ながら、エルハンドに剣を渡した。神竜バハムートの神力石を埋め込んだ剣だ…。
「お前…また無茶を…」
「此処でのお仕事がんばって…私は…また元の世界に戻るね…。逢えて良かった…」
「…キャロル…」
エルハンドはキャロルを優しく抱きしめようとするが…彼女はそのまま光に飲み込まれるように消えた…。
光は、何事もなかったように…無くなった。
「エルハンドさん…」
遮那は、ずっと剣を見ているエルハンドに言える言葉がなかった…。
「私は、弟子の決着を見てくる…後は頼んだ」
といって、エルハンドは時間の渦に向かって行った…。
涙を流して…。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1136 / 訃・時 / 女 / 999 / 世界を滅ぼした魔】
【0506 / 奉丈・遮那 / 17 / 占い師】
【0276 / 冬野・蛍 / 12 /死に神?】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿4』に参加していただきありがとうございます。
結果的に、二人は顔を合わせることが出来たのですが…如何だったでしょうか?

では機会があればまたお会いしましょう。

滝照直樹拝