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■雫のティーパーティ・2003☆■

高原恵
【1252】【海原・みなも】【女学生】
【データ修復中】
雫のティーパーティ・2003☆

●今年も日本全国五月晴れっ☆【1】
「うーん……すっごくいいお天気! 予報通り、晴れてよかったよねっ☆」
 雲一つない青空の下、雫は両手を高く振り上げて背伸びをしていた。その表情はとても気持ちがよさそうである。
 ここは都内にある某公園。去年ティーパーティを開いていたのと同じ公園だ。連続した休みが少ないとはいえ、やはりゴールデンウィーク。普段に比べて、人はそう見当たらない。だからこそ、公園でティーパーティが開けるのだけれど。
「ひたってないで、雫さんも手伝ってくださいよ」
 そんな雫に対して、抗議の声を上げる者が居た。海原みなもである。まあ抗議の声といっても、顔は笑っていたのだけれど。
「あはは、ごめんごめん」
 雫がくるっとみなもの方に向き直り、笑いながら頭を掻いた。木陰の下ではみなもと志神みかねが、2人で雫が持ってきていたレジャーシートを敷いている真っ最中だった。
「そうですよ。手伝ってくれれば、早くシートも敷き終わりますしね☆」
 みなもに続いて雫に言うみかねだったが、ふと手を止めて首を傾げた。
「……あれ? 前にも似た会話があったような?」
「あー、そういうことってよくあるよね。デジャヴだっけ? でも、あんまり気にしない方がいいみたいだよ」
「そうじゃなくって……あれぇ?」
「……去年も同じようなやり取りがあったわね」
 いよいよ考え込んでしまったみかねに、バスケットを抱え込んだ巳主神冴那が声をかけてきた。
「あ!」
 驚き、両手を口元へ持ってくるみかね。その拍子に、握っていたレジャーシートがはらりと地面の上に落ちた。
「え? 去年も、ですか?」
 みなもが雫に視線を向けると、雫は明後日の方を向いてしまっていた。
「んー……ほんとにいいお天気だよね。去年みたく暑すぎないし」
 話を逸らそうとしているのが、何とも見え見えであった。いやはや、分かりやすい。
 この雫の態度からも分かるように、去年も同じようなやり取りがあったのだ。もちろん、みかねと一緒にレジャーシートを敷いていたのは、みなもではなくて別の少女だったけど。
「はいはい、ごめんなさい。覚えてました、手伝いまーす」
 舌をぺろっと出して、レジャーシートに駆け寄ってくる雫。さすがに誤魔化し切れないと思ったのだろう。
「……若いうちは、動いた方がいいわよ」
 雫のその姿を見て、冴那がぼそっとつぶやいた。
「冴那さんも若いですよね?」
 不思議そうにみなもが言った。それに対し、冴那は無言で曖昧な表情を見せただけだった。ひょっとすると、くすりと笑っていたのかもしれないが。
「でも、若い人はもう1人居るよねー」
 レジャーシートを敷くのを手伝いながら、雫がちらっとある方向を見た。
 そこには、荷物がまとめて置かれていた。そしてその前には、1人の少女がしゃがみ込んでじっとしている。戸隠ソネ子だ。
 荷物を見張っているのか、それとも荷物の中身が気になっているのか。ともかくソネ子は、荷物を前にして微動だにしていなかった。
「おーい」
 ソネ子を呼んでみる雫。やはり動こうとする所か、こちらに顔を向けることもない。
「聞こえてないみたいですね」
 苦笑するみかね。そして何だかなあといった表情を見せる雫をなだめながら、3人できちんとレジャーシートを敷き終えた。
「広いですね、これ」
 敷いたレジャーシートを見回しながら、みなもがつぶやいた。5人では十分すぎる広さであった。
「んっとね、去年は10人くらいになっちゃったから、それに合わせて大きいの持ってきたんだけど」
 みなものつぶやきに雫が答えた。ちょっとこれは広すぎたのかもしれない。けれども広い分には、狭いよりもまだ構わない。5人はレジャーシートの上に座った。

●お菓子披露【2】
「今年はちゃんと珈琲を持ってきたよ」
 雫がそう言って、大きな水筒を見せた。それに続き、みなもが雫よりも大きい水筒を取り出した。
「あたしは紅茶を多めに」
 5人でなら、水筒2つ分の飲み物で事足りるだろう。飲み物があれば、今度はお菓子である。
「それから、これ焼いてきました」
 次にみなもは、容器を2つ出してきた。1つでなく2つということは、各々別の物が入っているのか。
「開けていい?」
「どうぞ」
 みなもに確認してから、雫が容器の蓋を連続して開けた。と、そこに入っていたのはクッキーと海苔の巻かれた煎餅。しかし、見た所クッキーは普通のようだが、煎餅の方は少し変わっていた。何か混ぜ物をしているのか、赤やら黒やら緑やらの粒が見えていた。
「……海の匂いがするわね」
 ぼそりと冴那がつぶやくと、みなもが大きく頷いた。
「はい。こっちのお煎餅は、芝えびとかオキアミも混ぜてありますから。みそのお姉様からいただいた物ですけれど」
 みそのとは、みなもの姉である。また他にも色々と海産物を使っているということだった。その説明の間、ソネ子はじっと容器の中を覗き込んでいた。
「私もちゃんと持ってきましたよ。……貰い物ですけど」
 みかねが大きめの紙の箱を取り出した。そして丁寧に蓋を開くと、中から甘い香りが漂ってきた。
「洋菓子の詰め合わせです☆」
 笑顔で言うみかね。箱の中には、10種類前後の洋菓子がぎっしりと詰まっていた。紅茶と珈琲にはよく合う組み合わせである。
「この人数でこれだけあると、ちょっと残っちゃうかな? だけど、何だかんだ言いながら、全部食べちゃいそうだよね」
 笑って言う雫。一応、世の中には『お菓子は別腹』などという言葉もあるのだし、そうなる可能性は多分にあった。
「食べてイイノ……?」
 やはりこの洋菓子の詰め合わせも見つめていたソネ子が、誰に尋ねるともなく口を開いた。雫がくすっと笑った。
「そうだね、そろそろ食べちゃおか。じゃあ、飲み物入れて〜」
 紙コップに好きな飲み物を入れ、準備を済ませる5人。ともあれ、今年もティーパーティは始まったのだった。
 ちなみに――始まると同時に、ソネ子がお菓子に手を出していたのは言うまでもないことである。

●海にまつわるエトセトラ【3】
 穏やかな気候の中、飲み物片手にティーパーティは進んでゆく。もっとも、ソネ子みたいに食べ物片手と言った方がより正確な者も居たが……全体的に似たような傾向かもしれなかった。
 雫が少し話をしてから、急にみなもへ話を振った。
「みなもちゃん、何かお話持ってきてくれた?」
「あっ、はい。みそのお姉様からの、又聞きした昔話になりますけれど」
 そう前置きしてからみなもが話し出したのは、海にまつわるいくつかの話であった。
 最初に話したのは、天使が舞い降りてきて辺り一面を塩畑にしたという話。何でも瞬く間に、その一帯の海が干上がっていったとかいかなかったとか。
 次に話したのは、大洪水の話。といっても海の荒れ様を語ったのではない。海に落ちてきた――つまり流されてきた――死体や建物などの残骸の掃除の大変さを語っていた。その途中に、大洪水でもびくともしなかった方舟の話が挟まっていたけれども。
「し、死体ですか……」
 みかねが少し怯えたように言った。それを察したのか、みなもは今の話を程々に切り上げて、また別の話を口にした。
「海の中にも雪が降るんですよ。ご存知でしたか?」
「それ聞いたことあるなあ。マリンドロップだっけ?」
「マリンスノーです」
 うろ覚えで答えた雫に対し、みなもがくすっと微笑んだ。
「もちろん本当に雪が降っている訳じゃなくって、そんな風に見えるという話ですけど。とても綺麗で……神秘的な光景なんですよ、それは」
「へえ……。見てみたいなあ」
 神秘的という言葉に、みかねが反応した。だがこのマリンスノー、見ようとするなら深く潜らなければならないはずで……まあ、素潜りで見ることは出来ないのは確実だろう。
「後は……そうですね、都市伝説みたくなるんですけれど、鯨の墓場のお話が」
「鯨の墓場って何?」
 きょとんとなる雫。
「鯨は死期を悟ると、そこを目指して旅をするんだって、みそのお姉様が話してくれたんです。それと、その鯨の墓場を探し続けている船長が居るとか居ないとか……」
「……そういった墓場の話はよくあるわね」
 煎餅を食べる手を止めて、冴那が口を挟んだ。
「蛇にはあったかしら……」
 さあ、どうなんでしょう?

●蛇にまつわるエトセトラ【4】
「……せっかくだから蛇たちについて話しておきましょうか」
 話し手が、みなもから冴那へと移っていった。
「嫌われ者の蛇だけれど……本当はおとなしいのよ」
「え、そうなの?」
 驚いた雫の言葉に、冴那がこくんと頷いた。
「地を這っているがゆえに……足許を疎かにする人に踏まれて吃驚して……がぶり。縄張り意識があるものは当然……迂闊に踏み込んでしまった者に対して……がぶり。子供を生んでいる時期には当然……近くに踏み入れば、子供を守るために……がぶり。お腹を空かせていれば……とりあえず……がぶり」
 淡々と表情も変えずに話してゆく冴那。そこにみなもが疑問の言葉を挟んだ。
「途中までは何となく分からなくもないんですけど、最後のは……?」
「……説得力がなくなってきたわね……」
 最後のあれを除けば、冴那の言わんとすることは分かる。警戒心が強いがゆえに、敵と見なされるような行動を取った相手に対し、立ち向かっていく。恐らくはそう言いたいのだろう、たぶん。
 冴那は離れていたバスケットを、自らの傍らへと寄せてきた。その途中、少し揺れた気がしたのは気のせいだったろうか。
「そのバスケット……去年も持ってきてませんでした?」
 はっとして、みかねがバスケットを指差した。冴那はそれには答えず、また話を続けていった。
「とりあえず、この辺ではマムシに注意、かしら。口づけの場所によっては……それこそ恍惚の世界へ」
 一心不乱にぱくぱくと食べ続けているソネ子を除き、他の3人は自然と辺りを見回していた。何となく気になってしまう、というやつだ。
「アオダイショウやシマヘビは、毒はないけれど……刺激したら熱烈に迫ってくるのは皆一緒……。ヤマカガシは奥歯が危険……あまりに深い口づけはちょっと大変。ちなみにニシキヘビには毒はないけれど……熱い抱擁が大好き……その身を砕かんばかりに……」
「……抱擁って言うんですか、それ?」
 疑問を口にしたみかねの顔には、怯えたような表情が浮かんでいた。
「皆、虐げたれているから、愛に飢えているのよ……」
 最初から最後まで、表情も口調も変わらないので、冴那の言っていることが冗談なのか、本気なのか全く分からない。
「寂しいからって、身体を砕かれたくないなあ」
 苦笑しながら雫が言った。
「大丈夫……そのうちに、加減が分かってくるから」
 ぽつりと言う冴那。『加減』が蛇にかかるのか、それとも人間にかかるのか、謎である。
 と、その時だ――。
「アナタも食べル……? ……でも、食べられないノね……」
「ひっ!?」
 ソネ子の不意なつぶやきに、みかねが短い悲鳴を上げた。同時に、水筒が2つともバタンと倒れてしまった。ただ蓋を閉めていたので、中身はこぼれなかったのが幸いだ。
「何も居ませんよ」
「誰も居ないよ」
 みなもと雫の声が重なった。2人が言うように、蛇はおろか人も居ない。
 悲鳴を聞いて、ソネ子は一瞬動きを止めてみかねの方を見たが、やや首を傾げてから再び黙々と目の前のお菓子を食べ始めた。何をそんなに驚いているのだろう、といった雰囲気だ。
「そ……そうですよね。気にしすぎなのかな……あはは」
 乾いた笑いを見せるみかね。そんなみかねに、冴那がぼそっと言った。
「ええ、居ないわ……今は日光浴の最中だから」
 立て直したはずの水筒が、また倒れた。

●いつかどこかで聞いた話・再び【5】
「じゃっ、じゃあ今度はみかねちゃん!」
 気分を改めさせようと、雫は今度はみかねを指名した。
「はいっ? 私ですか?」
 自らを指差すみかね。雫がこくんと頷いた。
「えっと……」
 みかねが空を見上げて思案を始めた。何を話せばいいものか、困っているのだろう。しばらくして、みかねの口元が動いた。
「……変身する忍者さん……?」
「忍者さん?」
 みかねに顔を向け、みなもが言った。
「あっ、違いますっ、違いますっ!」
 慌ててぶんぶんと首を振るみかね。
「忍者さんでも鏡でもなくって……ええっと……あっ、鍋です、お鍋っ!」
 咄嗟に口から出てきた『鍋』という言葉。みかねは某草間興信所で何度か行われている鍋パーティの様子を話し、そこから何故か今まで多くの事件でやってきた数々の失敗へと話が変わっていった。
「本当にどうしてこんなに多いんでしょうね……山のように失敗が」
 最後の方は、自分で言っててちょっとした自己嫌悪に陥るみかねだった。
「大丈夫、『失敗は成功のもと』だし」
 雫はそう言ってみかねを慰めると、ソネ子の方に向き直った。
「黙々とずっと食べてるけど、何かお話持ってきてくれた?」
 ソネ子に話を振る雫。その瞬間、ぴたっとソネ子の手が止まった。
「お話……コワイ話?」
「別に怖くなくてもいいけど、ある?」
 再度雫が問うと、ソネ子は小さくこくりと頷いた。そしておもむろに話し出す。
「暗闇がコワイ。死がコワイ。霊がコワイ。目に見えないからコワイ。家鳴りがコワイ。ノイズがコワイ。突然鳴り響く電話もコワイ。聞こえる事が不自然なのもコワイ。悲鳴がコワイ。燃え盛る炎の音がコワイ。静寂の水音がコワイ。心の静寂を破る音もコワイ。包丁がコワイ。高い所がコワイ。狭い所がコワイ。無意識に潜むコワイ」
 怖い物を羅列しているだけなのだが、ソネ子の話し方のせいだろうか。そこはかとなく怖さを感じさせる物であった。その証拠に、みかねが耳に手を当てようかどうか迷っていたのだから。
 ところが――ここで様子が一変した。
「お饅頭がコワイ。お菓子がコワイ。じゅーすがコワイ。コワイコワイ……コワイ話」
 そう言ったかと思うと、ソネ子はまたもやお菓子を食べ始めた。しかも、さっきよりも若干早くなっている。
「何だか、聞いたことあるお話だよね」
「言われれば、確かにどこかで……」
 首を傾げる雫とみなも。みかねはといえば呆気に取られているし、冴那はマイペースで煎餅を食べていた。
 と、ようやく思い出したのだろう。雫とみなもが、顔を見合わせて叫んだ。2人の声がはもった。
「「『饅頭こわい』!!」」
 『饅頭こわい』――有名な落語の噺である。

●最後に写真を1枚【6】
 全員が一通り話をし、お菓子も残り少なくなってそろそろお開きかといった頃、雫が皆に提案した。
「使い捨てカメラ持ってきたから、皆で写真撮ろうよ☆」
 若干1名、不安を感じている者も居たが、公園に居た人に頼んで5人での写真を撮ってもらった。
「フィルム使い切ってから、写真持ってくるね」
 雫のそんな言葉があって、今日はこれでお開きとなった。
 それから1週間後、5人はネットカフェに集まった。雫の手には、ティーパーティの時の写真が入った袋が握られていた。
「驚かないでよ?」
 と、妙な前置きをする雫。そして雫が持ってきた写真を見るなり、みかねが声にならない言葉を発して卒倒した。
 それもそのはず、5人の集合写真には謎の怪発光やら青い光の筋、さらには怪し気な影まで写っていたのだから。
 やっぱり今年のティーパーティも、普通には終わらなかった模様である……。

【雫のティーパーティ・2003☆ 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
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【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。今回は皆さん同一内容となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、ゴールデンウィーク中に行われたティーパーティの模様をお届けいたします。それなりのオチは一応ついてはいますが……基本的にほのぼのとした雰囲気で進んでいたのではないかと思います。
・今回の各場面の一部タイトルは、ちょっとしたお遊びを含んでいます。たぶん、分かる方にはすぐ分かるのではないでしょうか。
・海原みなもさん、4度目のご参加ありがとうございます。お話の数々、多少アレンジさせてもらいつつ使わせていただきました。お煎餅は美味しそうでしたね。高原も食べてみたくなりました。そういえば、船の墓場なんてのもありますよね、海だと。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。