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■剣客の下宿5 似たもの同士の双子の兄■

滝照直樹
【1323】【鳴神・時雨】【あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
縁側で嬉璃はのんびり茶と饅頭を食べていた。
「格闘対戦げーむのどうキャラなかんじぢゃのう」
と。


しかし玄関先の庭では、2つの影。
一つはエルハンド。彼はその相手を睨んでいた。
もう一つは、エルハンドの父親にそっくりな金髪であり、エルハンドと色違いの服を着ていたのだ。
「何しにきた?馬鹿兄」
「可愛い弟のお前がしっかり此処で働いているかなと思って心配出来てみたのだよ」
「はぁ?不真面目な親父と一緒にするな」
「親と子は似ているというじゃないか」
「その性格は貴様だけで良い」
どうも、エルハンドはこの相手、つまり兄がとことん嫌いらしい。

「なんぢゃ双子の兄弟なのか。でも似ていると言えばにているのう」
又のんびり茶をすする嬉璃。
「長旅だったろう、くそまじめな其処のヤツよりおもしろそうぢゃ。色々話しを訊かせてくれぬか?」
「話のわかる方がいるとは」
と兄は嬉璃といつの間にか談話してる
「まて!本当のことを言ってからにしろ!…はぁ」
頭を抱えるエルハンドだった。
あやかし荘奇譚 剣客の下宿5 似たもの同士の双子神

●鈴代ゆゆの場合
茶菓子をたべてお茶を飲み、嬉璃とその場にいた鈴代ゆゆと談笑している兄のエルヴァーン。
気乗りではないエルハンドをよそ目に、盛り上がっていること…。

仕方ないのでエルハンドは庭でウォーミングアップをしていた。
神との戦いというのは本当に勘弁である。そう彼は思った。だいたい神同士が戦闘をすれば、この一帯は荒野と化す場合があるというのに。念のために神格力が流れ出てしまわないよう、結界を貼っておいたが自信はない。お互い半神位であるが(兄は実際下級〜中級位)、相乗効果は並大抵ではないのだから。

ゆゆは、エルハンドのことをあまり知らないのでこの神に色々訊きたかった。
「子供の時のエルハンドさんはどうだったのですか?」
「大したことのない極普通の子供だったよ。悪戯ばかりして迷惑した物だ」
「えーつまんないなー」
「…国一つが(だいたい北海道の面積で)滅びかける悪戯だったな」
「うわそれは酷いなー。そもそもそれって人間レベルでは大事というのでは?」
「そうだな。他には欺きの神の大事なマスクを盗んで隠すとか面白いことをやっていた記憶がある」
笑いながらエルハンドの過去の話を話し始める。
「其れやったのは兄貴だろ!」
エルハンドが縁側からつっこみを入れた。
「えー」
ゆゆはいきなりのエルハンドの反応に吃驚する。
お互い嘘を付くことは無いだろうが、兄弟仲がこうも不可思議な物も面白い。たぶん兄に無理矢理誘われてやったのだろう。そう思ったことでゆゆは笑いをこらえきれない。
「やっぱり、二人とも同じような悪戯していたんですね」
「うっ」
「まーそうなるか」



●鳴神・時雨の場合
あやかし荘の屋根を修理している時に、色違いのエルハンド2人を見ていた時雨。
世の中3人は似たような存在が居るというのは本当のようだと感心する時雨。しかし、すぐに其れは撤回。
双子というらしい。二人の会話があまりに大きかったから、関係が分かったのだ。只それだけ。
あの二人が、あやかし荘でノンビリ蕎麦を食べて酒を飲み交わし再会を喜び合うならばあまり気にしなくても良い。但し、修繕中のこのボロアパートを壊すというなら容赦はしないと心に決める改造人間鳴神時雨だった。


●本題・来た理由
「単に修行の結果や、私に会いたいという馬鹿げた目的でこの世界まで遊びに来た訳じゃ有るまい」
じと目で兄を睨むエルハンド。
「それぐらい確認しなくても良いだろう。事が起きるまではノンビリすれば良かろう」
と、兄の返事。
「事が起きる事自体が問題なんだよ…特にこのあやかし荘では…」
と、弟。
「どういう事?」
質問するゆゆ
「二人とも時間神の能力があるから先のことが分かるのだ」
「先のこと?」
「未来をね。分かるのは一緒だが、選んだ結果によって見る未来が異なる。俺が見る未来と、エルハンドの見る未来は微妙にもしくは、全く違っているということだ」
ゆゆの疑問に優しく教えている。
「過去を見て未来を先読みすることもあれば、すでに未来が見えていてそれに行き建つ選択項目を選ぶ場合もある。俺の場合は完全に未来選択、エルハンドは過去からの先読みなのだ」
「かといって、未来を他の者に伝えるとガラリと未来が変わるのであまり口出しが出来ない。個人では融通が利くが他人にはあまり意味がない能力だな、兄貴のは。私は過去から予測しているから、はずれる場合がある」
エルハンドが付け加えた。仲が悪そうでコンビネーションは良いらしい。
「兄弟でも能力がちがうんだ、ふーん…」
頭の中が混乱しているが一応分かった感覚を覚えるゆゆ。
「でも今は何が起こるか教えられないんだよね?二人とも」
「「そうだな…見ている先が一緒だと…ね…」」
ゆゆの言ったことに苦笑するしかない双子だった。

「さて、体を温めるために庭に出よう」
エルヴァーンが言った。
「そのために庭に用意しているよ」
溜息混じりでエルハンドが立ち上がった。
「試合をするようぢゃな」
「そうね〜♪」


●神の戦い。本気ではないですけどね…。
結界内に入る二人。
縁側で、ゆゆと嬉璃がお茶を飲みながら準備を眺めているところ、屋根から時雨が飛び降りて来て着地した。
「修繕終わった」
「ご苦労。おぬしも見ていくか?神の戦い」
「そのつもりだ…」
縁側に座り、ゆゆがいれてくれた茶を飲む時雨。
「壊したら容赦しない」
彼はぽつりと呟いた。

「型と礼儀、神格制御はまずまずだな。後少しこう…」
「手厳しいな。しかし、鈍ってるぞ。」
「それはお互い様だ」
試合前に、互いの動きなどを注意、助言など稽古をつけているように見える。武道として二人は真剣に取り組んでいるようだ。天空剣自体が神でもかなり扱いが難しいと言うのだろうか?
「さて、真剣で手合わせだ」
「…分かった」
二人して、木刀を隅に置き、刀を召還した。神力に耐える事の出来る特別製の真剣。
刀礼し、正眼の構えで向き合う。
「ほほう」
嬉璃が感嘆する。
戦いが出来ない嬉璃とゆゆは彼らの気迫に注目していた。
時雨も、この二人の手合わせに興味津々になる。
結界が貼っていても、神格のオーラが見物人たちにひしひしと伝わってくる。それは畏怖もあるが…何より高揚感が高かった。二人とも真剣であり、且つ楽しんでいる。
二人とも動かない。
「どうしてだろう?」
ゆゆが呟く。
「先読みで動けないのぢゃろ」
「ああ、そうか」
ゆゆは手をポンとたたいて納得した。
「更に言うなら、達人以上なら…本当の一撃ならば一瞬で決まる」
時雨が呟いた。
二人とも動く。
鍔迫り合いから始まり、その波動は結界に一つヒビを作らせた。一旦飛び退き体勢を立て直す。
そこから、幾度か剣を交える事があった。そのたびに結界が割れていく。
結界から漏れる気の風が、あやかし荘に当たる。時雨は心配になってきた。
今は核弾頭が争っていると考えるなら…あやかし荘だけが壊れるという生やさしい物ではない…。関東一円いや、地球自体が消滅してもおかしくはない…。
「止めるべきだ」
彼の計算回路はそう答えを導き出した。
すっと立ち上がる時雨。
それに疑問をもったゆゆと嬉璃。
そして…神の親子は最後の一撃を寸止めで終わった。
エルヴァーンは弟の首を突く様に、エルハンドは兄の頭を斬る形で止まっていた。
丁度、結界が破れ気の風が辺り吹き荒れた。
その風は、激しくはあったが、そこかしこに存在していた下級の悪霊の気配が消えただけで、あやかし荘や時雨達に何ら影響はなかった。
「引き分けだ。勝てば親父に言って正式に継がせる手続きが出来たのだがな」
構え直し、礼をして、刀をしまう。
「ひやひやさせやがって…」
時雨の不安は杞憂に終わった。力が抜けるように縁側に腰を下ろした。
実のところ、エルハンドも彼と同じ気持ちで居たりする。

エルヴァーンは、あやかし荘を向き、真剣な顔つきで言った。
「そろそろ…本番だぞ…弟」
と。
「…そんな頃か…」
時間が早いなと思ったような言い方をするエルハンド。
彼らの会話に酷く不安を感じた時雨は、
「二人とも、あやかし荘から離れろ」
と言って、神二人の元に走っていった。
「な?何が起こるの?」
ゆゆは、エルハンドの兄の目的を訊きたかったが、其れを止められていたのを思い出した。
勇者のような超常能力者が二人以上いる時は何か大きな問題がある…とファンタジー小説ではたまにあるシチュエーションだ。
「魔王(某魔王ではないけど)みたいなのが、あやかし荘に封印されている?」
「まさか、ありえん話ではないな…」
ゆゆのつぶやきに否定できない嬉璃だった。


●ミミック・ザ・プレーンコントローラー
あやかし荘全体が揺れた。まるで二人の神の力に反応するかのように。
「あやかし荘にある有害で奇怪な現象の一つ、「有害空間干渉」の魔物が出てきたな」
エルハンドはあやかし荘を睨み付けて言った。
時雨が駆けつけて
「どういう事か説明しろ」
エルハンドに訊いた。
「古い建築物には精霊などが宿る。しかし、あやかし荘にはやっかいなことに擬態捕食生物ミミック(特殊で空間を操れる希な奴だが)が居座り着いていたのだ。今までのあやかし荘で起こった空間関係の事件で何とか皆が無事だったのは運が良かっただけだ。あのままだと全員が喰われていただろうな」
「じゃあ何か?俺はそのミミックを直していたのか?」
「気にすることはない。本当に壊れているところを直していたのだ。君が直していたのはアレに「喰われた」所といえる」
エルハンドは愛剣「パラマンディウム」を召還していった。
「過去から導き出したことから察するにおびき寄せ、殺すには私と同質同格の力を持った者が必要だったが、兄貴が来たので嫌だった」
「好き嫌いもあるか」
溜息混じりの弟の説明にエルヴァーンが文句を言う。
「こうして、力を放出し、其れを「餌」におびき寄せて始末するという事だ。エルハンドの仕事は怪奇現象の研究と解決これにある。私は、事件に関わる時の魔物を退治するためだ」
「というと、あんたらはいいとして、俺等は我が家と戦うというのか?」
「「そう言うことになるな」」
しれっと答えた神二人。
「勘弁してくれ〜!」
時雨が叫ぶ。ゆゆも嬉璃もその事実を知って呆然とするしかない。
「しかしまぁ、こんなに成長しているとは、気長なミミックだ」
「ノンビリ言うな、疫病神!」
嬉璃が叫ぶ。
「気にしないまま喰われたかったのか?座敷わらし」
と兄が問うと、嬉璃は何も言えなかった。
あやかし荘の奇怪な現象がこの捕食生物から来ているとすれば、本当に困ったことだ。改めて考えると、嬉璃の座敷わらしとしての「幸福」能力が無いということはミミックに「能力を喰われて」いたと考えるとゾッとする。
そう話をしている間に、ヘドロ状態の黒い物体が、あやかし荘から離れて彼らの前に迫ってきた。
時雨は何も言わず、改造人間の戦闘モードに変身し、ヘドロに立ち向かおうとする。
嬉璃とゆゆは、ひとまずあやかし荘から離れる。
物体は、まず嬉璃とゆゆを狙おうと、ヘドロを時雨や神親子をまたいで進もうとした。
「させるか!」
腕にブレイカーを装着した時雨が物体を斬る。ヘドロ状なので一度は切れるが本体に吸収された。ダメージはないようだ。
腕のヒートでミミックを焼き払う。効果はあるが、物量的に自分に過負荷がくるので全部を焼き払うことは出来ない。
「どうすれば良いんだよ!」
と、戦いながら彼は神に向かって叫んだ。
「中にある心臓部・核を砕くのだ。其れしか方法はない」
すでに、二人とも、嬉璃とゆゆをかばうように、天空剣の技を繰り出しながら答えた。
「あんたら、時間や空間に長けている神なんだろ!パッとできないのか?」
「そうは行かないのだ。私たちも万能ではない。「手助けする」という範囲でしか動けないのだ」
剣を振るいながら、双子の神は魔法弾を放ち、じょじょに魔物の中身を穿つ。
「分かったよ!」
舌打ちしながら、時雨は、彼らが戦っている意味を理解した。とどめは俺がしろと言わんばかりの道を開いているだ。
中に入っていく時雨。

ゆゆは嬉璃を抱きかかえ、その戦いから逃げるしかない。おそってくる魔物の手をエルヴァーンが切り裂いてくれた。
「あとは、あの二人に任せる。俺はあなた達を守ろう。逃げようにもアレは執拗に妖力をもつあなた達を喰いに来る」
「うん」
おびえながら、ゆゆは頷いた。視界認識のないヘドロに自分の幻術は効果無いとおもったからだ。


時雨とエルハンドは、突き進んだ。
「アレだ」
エルハンドが剣先で先を指す。
大きな深紅の心臓が脈打っている。見ているだけで吐き気がするほどの…。
「アレを砕けばいいのか?」
「その前に障壁がある。其れは私の力をぶつけ、破壊する。その隙に強烈な一撃を与えるのだ」
「分かった」
エルハンドは突きの構えで、力をためている。その間に大きな隙が出来る事を知った、時雨はタイミングを気にしながらも迫ってくる魔手を攻撃した。
エルハンドの体から青白いオーラを発した時…彼は核に向かって水平跳躍していた。
「天空剣・破壁突!」
虹色の輝きが辺りを包む、神の剣が、核の障壁に大きな穴をあけた。丁度、人一人分。
「今だ!!」
時雨は、無理な体勢から跳躍し、そのまま「穴」に蹴りを入れた。
そのまま飲み込まれていく感じがあったが…核に穴が開き、血らしきモノが噴き出す。
「うわぁあ!」
そのまま二人は濁流に流されていった。

●今回は迷惑神でした
「なんだったの?これ?」
「儂等は、こんなところにずっと居たのか?」
ゆゆと嬉璃は、廃墟のようなあやかし荘を見て呆然としていた。
庭には、黒いヘドロ…、今のままでは人が住めそうにない建物…。
ミミック自体が「あやかし荘」だった感じである。現存しているのは時雨が今まで補修していた部分だ。
其れが綺麗に、いつ何処で直したか分かるぐらいあらわになっている。実際、時雨が立て直して、新築になっていただろうか?
ヘドロの中から、時雨とエルハンドがモゾモゾと出てきた。
「いったいどうすればいいんだ?コレ?」
ミミックの死体はコールタール並みの粘りと乾燥速度…。臭いがないぶんだけマシかと思うしかない。
「エルハンドとエルヴァーン…此処までした以上、先何するか分かっているよな?」
と時雨が二人の神に言った。
「分かっているけど其れを無視しようと逃げる奴が居るのは確かだ」
と、隣にいる見知った神がパラマンディウムをある方向に向かって投げた。
剣はこっそりと逃げようとした兄のマントに突き刺さる。
「…」
その場で沈黙する皆さん。
「ミミック退治の件はありがたかった。が…、アフターケアも大事だろ!あやかし荘を直せ!今すぐに!」
時雨は怒鳴った。

その後、神の力も使いながら、あやかし荘の改築が始まった。しばらく魔法の小屋で生活する羽目になるあやかし荘の皆さんではあるが…。

「だから、あんたが来るのは嫌だったんだ…。最後のところで姿を消して、後始末は他のモノに押しつけるというのは良くするからな…親父譲りの性格…」
とエルハンド。
「もう少し俺が楽に動ける選択肢が良かったかなぁ…」
「まてい…」
トンカチを兄に投げ飛ばすエルハンド。それにクリーンヒットする間抜けな兄。
「にたりよったりだよ、あんた等…」
時雨は呟いた。
其れを見物するゆゆ達も苦笑するしかない。

End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 /鈴蘭の精】
【1323/鳴神・時雨/32/あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】


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■         ライター通信          ■
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『剣客の下宿5 似たもの同士の双子神』に参加して頂きありがとうございます。
なんだかんだといって大仰な話になりました。

また機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝