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■三下忠雄ビューティー計画■

佳楽季生
【0424】【水野・想司】【吸血鬼ハンター(埋葬騎士)】
珍しく早く帰宅した三下は、夕食と称するカップ麺を啜りながらぼんやりとテレビを眺めていた。
イメージチェンジする事によってコンプレックスや悩みを克服すると言う番組だ。
化粧やファッション、外見を変える事で美しく生まれ変わった人々。
新たな人生を切り開くきっかけを得た人々が、満面に笑みを浮かべてスポットライトを浴びている。
ふと、三下は考えた。
この自分の冴えないパッとしない人生も、外見を変えることによって目覚ましく花開くのでなかはなかろうか。
テレビの中でスポットライトを浴びた人々のように、輝き、生まれ変わる事が出来るのではなかろうか。
鬱陶しい前髪の奧、やや油ぎった眼鏡のそのまた奧の、三下の目がキラリと光る。
これだ。
これしかない。
三下は思わず箸を堅く握りしめた。
そして、散らかった部屋の中で、ひっそりと宣言する。
「生まれ変わって、恵美さんに僕の気持ちを分かって貰うんだっ!」

……果たして三下は華やかに生まれ変わる事が出来るのだろうか。

三下忠雄ビューティー計画

やや暑い土曜の午後。
別に何か用があると言う訳でもないのだが、妙に三下を見たくなった想司は彼が働く白王社を目指して歩いていた。
想司には、何かしら三下に対してのみ働く嗅覚と言うか、聴覚と言うか、触覚と言うか、三下が放つ信号をキャッチする器官が備わっているのかも知れない。不思議と、三下を見たいと思う時に限って何かしら楽しい事態が待っているのだ。
果たして今日はどんな出来事が三下の身に起こり、自分を楽しませてくれるのだろうか。
「三下さんっ☆三下さんっ★三下さ〜んっ♪」
意味のない節を付けて名を呼びながら歩いていると、ふと白王社横の喫茶店に見知った顔があるのを見つけた。
「発見っ☆」
窓際のテーブルに座った、今日も今日とて冴えない三下忠雄だ。
猫背気味の背を何時も以上に丸め、もそもそとアイスコーヒーを飲む姿は、窓越しに見てもどこかむさ苦しい。
視線を移すと、三下の正面には男が1人座っている。
時折白王社で見かけるカメラマン・武田隆之。
仕事の話しでもしているのだろうか、と思ったがどうも違う。
世間話しでもしているのだろう、二人の前には銀色の盆を胸に抱いた店員が立っている。
名前は鏑木花と言っただろうか。以前三下にコーヒーを奢らせ……奢って貰った時に、名前を聞いたような気がする。
花がゆっくりと首を傾げて微笑む。と、隆之が三下を指さして何か言った。
「何の話しかな」
何の話しだか分からないが、自分の中の三下レーダーが激しく点滅するのを、想司ははっきりと感じた。
きっと楽しい何かがある予感。
想司はゆっくりと喫茶店内に入り、3人に気付かれないよう近くのテーブルに座った。
軽くエアコンを利かした店内は快適に涼しく、程々に客が入っていた。
エアコンの冷気と、冷たいコーヒーで20分程度休息しようと言う会社員が多い。
冷水とおしぼりを持って現れた店員にミックスジュースを注文し、3人の会話にそっと耳をそばだてる。
ハッキリと聞き取りやすい隆之の声と、ほんわりした花の声。そして、くぐもったような聞き取りにくい三下の声。
主に話しているのは隆之で、三下は頷いたり溜息を付いたり、短い返事ばかりを返しているが、話しの主役は三下だ。
「成る程成る程」
冷水を少し舐めて、想司はにんまりと笑う。
どうやら、三下が外見を変えて華々しく生まれ変わりたいと言っているらしい。
パリッと清潔感のある立派な男になって、彼の住むアパートの管理人に思いを告げたいらしい。
それを手伝おうと言う隆之と花。
「成る程成る程っ☆」
聞けば聞くほど、楽しめそうな話しである。
店員が運んできたミックスジュースにストローを挿しながら想司は1人で頷いた。
日頃何かと楽しませてくれる三下の為だ。
ここは自分が一肌脱いでおくべきだろう。いや、一肌脱がねばなるまい。
出来る限りの特訓を施して、ダメダメな三下を見目麗しい立派な人間に仕立て上げよう。
なになに、簡単な事だ。想司は三下リニューアル方法を脳裏に思い描く。
今日、何やら無性に三下を見たいと思ったのは、これだったのだ。
「三下さんの為ならエーンヤコーラっ♪」
妙な節で歌い、想司は素早くミックスジュースを飲み干して、そっと三下達のテーブルに向かった。


***
「OKっ☆これで三下さんの『美』は約束されたよっ♪」
突然の想司の乱入に、三下・隆之・花が思わず「へ」と口を開いた。
想司は構わずにっこりと笑う。
「嬉しいなぁっ♪三下さんが、自分の口で僕に訓練をお願いしてくるなんて☆」
「ええっ…!?」
想司の言葉に、三下が声を上げる。
一体何時から店内にいて、何処から話しを聞いていたのだろうか、と言うか、何時誰が特訓をお願いしただろうか。
と思うのだが、3人はそれを口に出さない。
「あ、あの…?」
素早く三下の隣に腰掛けて、想司はうふふっと笑った。
「相手が管理人さんだろうと『帝国軍』だろうと互角以上の戦いが出来るようにしてあげるねっ☆(はあと)」
帝国軍って何だ。戦いって何だ。
と思うのだが、3人はそれも口を出さない。
何か勘違いしているのか、わざとなのか、楽しげ且つ真剣な面持ちの想司からは計り知れないが、隆之は想司の登場を素直に喜んだ。
若い女性と若い少年の感覚で言う処のパリッと清潔感のある男とはどんなものか、何かとアドバイスが得られると思ったからだ。
「よし、それじゃ早速今夜にでも計画に移ろう。それぞれ、コイツをどうしたら変えられるか考えてくるように」
午後8時にあやかし荘内三下の部屋に集合。
それぞれの予定を聞き出して時間と集合場所を決めると、隆之はアイスコーヒーの料金をテーブルに置いて仕事に戻っていった。
「じゃ、三下さんっ☆夜にねっ♪」
素早く自分の伝票を三下の手に握らせて、想司も店を出る。
溜息混じりに自分と想司の料金を支払う三下に、花はにこりと微笑んで言った。
「やっぱり、パッと見印象に残るのって眼鏡ですよね。どうです?思いきってコンタクト作りません?もし痛くて入れられないならフレームを変えましょうか。そこだけでも印象変わりますよ。」
「はあ……そ、そうですね……」
夜までにコンタクトか別の眼鏡を用意すると約束して、三下も店を出た。
思いの外協力者が現れて喜ばしいが、少々不安にもなっていた事に誰も気付かなかった。


***
午後8時30分。
あやかし荘内の三下の部屋に集まった3人は、部屋の主である三下の帰宅を待っていた。
と言うのも、コンタクトは恐ろしくて出来ないと、新しい眼鏡を作った三下がそれを受け取るのに少々時間がかかるからで、先に部屋で待つ様にと言われたのだ。管理人に頼んで鍵を開けて貰い、入った室内はまるで三下忠雄の代名詞のようだった。つまり、むさ苦しく冴えない。そこかしこに衣類や物を積み上げ、ゴミ箱からゴミがはみ出している。
これからパリッとした男になろうと言う者の部屋には相応しくない。
が、今は部屋を掃除している場合ではない。
きちんとアイロンの掛かった服を着る事も、外見を変える一つの手段だと主張する花がせっせとカッターシャツにアイロンを掛け、霧吹きで水を拭きかけてはスーツのシワを伸ばそうと苦戦している。
その横では隆之が、カメラケースから愛用のカメラを取り出し、万全な状態で生まれ変わった三下が撮れるよう準備をする。
想司はと言うと、何かを入れて来たらしいカバンを大事そうに抱え、時計を気にしている。
「遅いですね」
と、花がアイロン台から顔を上げた処で、三下が戻ってきた。
「すみません、遅くなってしまいまして……」
と言う三下の手には、大手眼鏡スーパーの紙袋が握られている。
「おっそーい三下さんっ!」
「ご、ごめんごめん……」
想司が素直に不平を漏らしたが、そう怒っている様子はない。
「じゃ、主役が来たところで早速取り掛かるか」
ポン、と隆之が手を打つと、
「こっちは準備出来ました」
と、花がアイロンのスイッチを切る。
「さあさあ、三下さん、真ん中へどうぞっ☆」
散らかった部屋の真ん中へ手を引いて立たせると、3人は三下の周りを囲んで立つ。
イメージチェンジの為と言うよりも、子供の頃にやったカゴメカゴメか何かのようだ。
「眼鏡、どんなものになさったんですか」
花に促されて三下は紙袋から眼鏡ケースを取り出した。
受け取った花が開くと、中には縁のない薄い眼鏡が収まっている。
「あ、良いですね」
現在の黒縁・牛乳瓶の底眼鏡に比べれば素晴らしいものだ。これだけで随分印象が変わるだろう。
早速掛け替えさせたが、残念な事に伸びすぎた前髪であまり効果が現れない。
「髪をセットすれば、また随分印象が変わりますよ。服も着替えて……」
「あんたは姿勢が悪いのも問題だ」
バシッと隆之が背中を叩く。
よろめいた三下を支えつつ、隆之は知り合いのスタイリストやモデルに聞き出した姿勢を指導する。
背筋を伸ばして、顎はやや引き気味。だらりと垂れた手を組ませ、少しだけ歩幅を取らせるとごく僅かだがピリッとして見える。
少なくとも、週末に酔っぱらって電車の中で居眠りしてしまうサラリーマンくらいには。
「まだまだ前途多難だけど随分マシになったね」
と、想司もその変わり様を認める。
「先に着替えて貰いましょうか、髪は最後で……」
シワのないワイシャツとスーツを渡して、着替えるように言うと、隆之も頷く。
「そうだな。折角姿勢が良くなってもこの格好じゃな……。それじゃ、着替える間に髪型を考えよう」
隆之は知り合いのヘアメイクから借りたメンズ雑誌を取りだし、三下に似合いそうな髪型を探した。
花はコンビニで買ったムースとジェル、鋏を散らかったテーブルに並べる。
「仕上げは僕にやらせてよねっ☆」
相変わらずカバンを抱えたまま、想司はにっこりと笑った。


***
1時間後。
髪を切るとなるとやや逃げ腰になった三下をどうにかこうにか丸め込んで……ではなく、説得して、理想の形に揃えた花と隆之がホッと息を付いてケープを外した。
きちんとアイロンの掛かったシワ一つないスーツに、首が絞まる程ピシッと締めたネクタイ。
全体的にすいて軽くなった頭。前髪は少し長めに残して、ジェルで後方へ撫でつけた。
「ホラホラ、姿勢に気を付けて」
背中を叩かれた三下が慌てて丸めた背筋を伸ばす。
「ちょっと失礼しますね」
と、ずれた眼鏡を、花が細い指で押し上げる。
「うーん……変わるもんだなぁ……」
どことなく借り物の様な雰囲気があるが、慣れれば大丈夫だろう。
帰宅した時とは打って変わって、立派なぴりっとしたサラリーマンに仕立て上がっている。
感心しつつ離れたり近付いたりして三下を見る隆之。
「三下さん、素敵です……」
言いながら花は微笑んだ。
「でも、外見を変えてもそれは所詮上辺だけの変化でしかないと思いますよ?」
外見こそパリッとしていても、薄いレンズの向こうの目は頼りなく、自信がなさそうだ。
「問題は、三下さん自身がいかに自信を持つかだと思います。そういった物が表に滲み出て本当にその人の印象を変えるのだと思いますよ」
「は、はぁ……。そうですねぇ……」
しょんぼりとした声は、相変わらずボソボソと聞き取りにくい。
「……ちょっと、厳しい事いってますか?すみません。」
「いっいえっ、とんでもないです。花さんの言う通りで……」
頬を掻く三下。
「そうそう、アンタの言う通り。気にしなくて良いよ」
と、隆之も頷く。
どんなに外見が変わっても、中身が変わらなければ同じことだ。
勿論、中身を変える為に外見を変えてきっかけを作るのは善い事だが。
「私は、今の三下さんだって三下さんなんですから…とても素敵な方なんですから、自分に自信を持って欲しいんです」
と言ってから、ニヤニヤ笑う隆之に気付いて、花は顔を両手で覆った。
「…って、私何言ってるんでしょう…っ。ええっと、あ、想司君、仕上げをするんですよねっ!?」
真っ赤になりつつ、慌てて話題を変えると、三下の変身振りを座って見ていた想司が 勢いよく立ち上がった。
「内容は極めて簡単!」
言って、抱えたカバンから何やら取り出す想司を見て、三下は少しイヤな予感がしていた。


***
「はいっ三下さん。これ持ってっ☆」
想司がカバンから最初に取り出して押しつけたのは、奇妙な棒のようなものだった。
「そ、想司君、これは何かな……」
律儀に受け取ってから、三下は尋ねる。
「吸血鬼ハンターの由緒正しい伝統の武器『釘バット』だよっ☆」
想司は満面の笑みで答え、バットを持った三下を暫し眺める。
何の為に持つのかな、とは三下は尋ねなかった。
「…………?」
「…………?」
予想もしないアイテムの出現に、隆之と花は意味が分からず顔を見合わせる。
「それから、はいコレっ☆」
と、想司は次に取り出したヘルメットを三下の頭に被せる。
「ああっ!」
思わず花が声を上げた。
折角セットした髪が台無しだ。しかもフルフェイス状で顔も覆い隠されてしまう。
「そりゃ一体何だ……?」
「謎な古代文明が造り上げた視界と聴覚を封じるヘルメットだよっ☆」
謎な古代文明とは何だ、とは隆之も花も聞かなかった。
「想司君、これ、前が見えないよ……?」
と言う三下の言葉は無視して、想司は三下の手を引いて部屋を出る。
「あ、ど、何処へ?」
慌てて後を追う花と隆之。
「想司く〜んっ!何だか、音も聞こえないんだけど〜っ!?」
「大丈夫大丈夫っ☆」
フラフラ足元のおぼつかない三下を引っ張って、何処へ行くのかと思いきや想司は建物内を出て裏庭へ向かう。
「みんなが来るまでに、トラップを仕掛けておいたよっ☆勿論三下さんの為にね!」
トン。と背を押して、裏庭にスーツにヘルメット、バットと言った奇妙な出で立ちの三下を放り込む。
一体何のトラップだ、とは、隆之も花も聞かなかった。
突然襲い来る目に見えない、音さえも分からないものから、四つん這いになって逃げる三下。
折角の髪も、眼鏡も、姿勢も、スーツも勿論台無しだ。
「三下さんがダメダメ人間なのは、自分の内なる才能を信じていないからだよっ☆」
例え三下に内なる才能があったとしても、想司の仕掛けたトラップから身を守れただろうか。
ひたすら悲鳴を上げながら頭を振り、手に持ったバットを手当たり次第振る三下に、さっきまでのパリッとした印象は欠片もない。
「はぁ………」
ヒィヒィと裏庭中を情けなくはい回る三下に、花は溜息をつく。
ちょっと涙が出そうだ。
「あ〜あ………」
情けなさ極まる三下の様子に、隆之も溜息を付く。付かざるを得ない。
そんな二人には構わず、腰に手を当てた想司少年は逃げ回る三下に高らかに告げた。
「がんばっ☆(はあと)」
「うわぁぁぁぁぁっひぃぃぃぃっぎゃっ!」
勿論その声は、三下に届いていない。


***
「ご苦労様でした」
と花が差し出すタオルを受け取って、三下は盛大な溜息を付いた。
裏庭に放り出されてから40分程度、結局トラップは全て想司が始末する事になった。
漸く脱いだヘルメットの下を流れる汗をタオルで拭って、三下は背を丸めた。
スーツは泥にまみれ、眼鏡は鼻のあたりまでずり落ち、髪はぐしゃぐしゃ。
涙と泥で汚れた頬には涙が伝う。
結局、生まれ変わる事は出来ないのだと言う寂しさが、どうしようもなく胸に迫る。
どんなに着飾っても、中身は変わらない。
強くなれる訳でもなし、特別な能力を得られる訳でもなし、最終的に、三下は三下のまま。
冴えない男は冴えない男のまま、一生を送るしかないのかも知れない。
そっと想いを寄せる管理人にも、一生気持を伝えられないまま、同じ毎日繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し………。
駄目な男は駄目な男のまま、終わる。
ガックリと肩を落とす三下の背に妙な哀愁と寂しさを感じて、隆之は力強くその背を叩く。
「まぁまぁ、そう落ち込むな!」
よろりとよろめく三下の肩を支えつつ、隆之は精一杯笑ってみせる。
「人間は外見だけじゃないと思うぞ。三下くんは美男ではないかもしれないが人生を背負った深みのある味がある顔だ。カメラマンが言うんだから間違いない」
「そうですよ!三下さんは今のままで充分素敵なんです!変わる必要なんて、ないです!」
慌てて花も隆之に合わせたが、三下は殆ど聞く耳を持っていないかのようにボンヤリと空を見上げた。
「僕の人生って、一体何なんでしょう………」
笑うに笑えない、下手に言葉も掛けられない質問だったのだが。
「どこまで行っても冴えない、三下さんらしい人生だよねっ☆」
と、にこやかな想司の追い打ちを受けて、三下は心身共にめっこりと凹んだ。




end




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター
1466 / 武田・隆之 / 男 / 35 / カメラマン 
1476 / 鏑木・花  / 女 / 24 / 喫茶店店員
  
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■         ライター通信          ■
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タイフーン4号の影響で薔薇が駄目になってしまい凹んでいる佳楽です、
こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
参加者の皆様には台風の被害はありませんでしたか?あと、地震ですね。
地震・雷・火事・オヤジ。
恐いのは地震だけです。
ではでは、また何時かお目にかかれたら幸いです。