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■零が倒れた!?■

滝照直樹
【1109】【水瀬・夏紀】【若き退魔剣術使い】
平和な(ある程度は忙しいのだが)草間興信所。今日も草間・零は楽しく掃除をする。草間は、エルハンドを呼んでいた。くだらない用で来て貰っている。
「今回の競馬、何が当たるんだ?」
「それだけで私を呼ぶか?親父ならすぐ飛びつくだろうに」
「あいつは、何処をほっつき歩いて居るかわからん…」
本当に…くだらない。
「確かに私は未来視は出来るが、過去からに寄る先読みだぞ。親父の未来選択式ではないんだ…」
「難しいことは言うなよ…生活かかっているんだ…」
「はぁ…単に予想でいうなら1−5か3−8」
「それ…大穴…」
「しらん…」
エルハンドはソファーから立ち上がり、零が居るであろう台所に向おうとする。丁度…台所で大きな物音がした。
「零!」
草間は驚いた。

エルハンドが彼女を抱きかかえて戻ってきた。
「いつも元気なのに…」
「無理をしていたのだろう」
彼女はかなりの発熱で苦しそうに呻いている。意識はもうろうとしている。
「零、少し失礼するぞ…」
「おい?何を?」
エルハンドが彼女の服を少し脱がした。服から見えない関節部分…継ぎ目から腐食が始まっている。
「僅かに腐臭もする…霊力不足による…肉体崩壊だ…」
「どうして?」
「…零が永久機関と思っているだろうが、あくまで半永久的だ。様々な刺激を受けたため、この1年に体に過負荷をおこしているのだ…メンテナンスが必要だったわけだ…」
「治す方法は?」
「有ることはあるが…難しいぞ…」
エルハンドは
「霊力を供給できる存在を探すことだ「契約者」が必要だ…」
そう言った。更に…
「最悪、霊力を持つ人を殺さないと行けない」
と、哀しく草間に告げた。

ライターより
草間兄妹シリーズシリアス版です。
5人まで受け付けております。
なお今回、前述しています通り、シリアスなので「妹萌え」「シスコン」などの冗句はいっさい不可能でありますのでご注意下さい。
零が倒れた

●Death Door
不幸という物は突如やってくる。

興信所にいる人物は草間と彼の競馬の予想を頼まれて渋々来たエルハンド。そして経理に忙しいシュラインだけだった。そこで零が台所でいきなり倒れたのだ。「霊力不足の腐敗(寿命とも言える)」と神が言った。
シュラインが急いで消毒液や魔よけなどで用意していた聖水を使って零の腐食部分を拭いている。
草間は助っ人に電話をしていた。
エルハンドは、ある神封石を砕き、其れを粉にして零に少しずつ飲ませる。
「何其れは?」
「私の世界で亡くなった治癒を司る神の神封石だ。かなり弱まっているが…数日は持つかも知れない…」
「…大丈夫なの」
「おそらくな…」
一息ついて…エルハンドは続ける。
「「時間治癒呪文」では彼女の腐敗速度を遅らせるだけだ…。大きな一塊りの霊力がいる…。それが人一人分の魂なのだ」
そう言って、エルハンドは…
「草間の電話では時間がかかるだろう…一人…可能性を持つ奴を連れてくる」
といって瞬間移動で姿を消した。
水瀬・夏紀
魔物退治が終わって、一休みしていた時だった。
桜並木公園で、ゆっくりしている時に…神が降り立った。
「貴方はエルハンド?」
「名前を知っているのか」
「退魔関係の情報は知っているからね…何のよう」
「お前が…零に借りを返す時が来た…零が倒れた、霊力不足の腐敗だ」
「…」
「どうする?」
「当然、行くよ」
「決まりだ。お前の考えは最後の手段だからな」
「心を読んだ?ああ、未来が見えるんだったんだね」
「…行くぞ…」
神は彼の手を取って再び瞬間移動した。


●Magic Components of Ritual
応接室に集まった。ソファーに零が横になりシュラインが看病している。
すでに部屋には肉の腐臭が漂ってむせる。それだけ腐敗速度が速いのだろう。
「手短に質問に答える。実際彼女の人工生命体としてのBIOSと機構を読むには時間がかかるからな…」
エルハンドが言った。
「まず先に行っておく…複数分割で契約という方法は、不安定になる。輸血をする場合、同じ血液型がそろわないと、まとまったタンクに入れることが出来ないのだ。そして、陰陽道で知られているまた契約者といっても式神、使い魔を行使する程度の霊力では足りない」
みそのが手を挙げた。
「エルハンド様、では、強力な「存在」との契約が必要になる訳ですか?契約者は生きている物、それとも純粋な力で宜しいのでしょうか?」
「そうだな…私か…君の恋する「神様」との契約…其れをすると、何かと問題になる。氏神、土地神との承諾をえて供給することも似たような物だ。彼女の自由意志は剥奪される。純粋な力で有れば良いのだがな…」
「そうですか…しかし、今は一刻の猶予もありません。まずは零脈で、腐敗を遅らせるしかないですわね」
「そうだな…先ほど治癒神薬を飲ませたので、彼女が死ぬことはないが、肉体腐敗は進んでいる。頼む」
みそのは頷いて、零に零脈との接続を行った。地球からの「点滴」である。
「はっきり言ってくれ…」
しびれを切らした夏紀が言った。その言葉は冷たい。
「シュラインと草間には伝えている…。霊力を魂に換算すれば一人分の魂だ。それが彼女に必要な分」
「…それって…人を殺すのですか?」
焔寿が…訊ねた
「そうだな…」
「そんなの…それでは零さんは喜ばないですよ!」
「わたくしもそう思います…エルハンド様なにか他によい案はないのですか?」
焔寿と撫子はその方法に猛反対した。看病をしているシュラインも厳しい顔をしている。
しかし、其れに賛同する者が居た。夏紀だ。
「其れが早いなら…その方が良い。自殺する人間の魂でも、退魔対象の魔の魂でもいいのだろ?」
「そんな酷いこと…出来るわけ無いじゃない!」
反対するのは焔寿とアルシェ、撫子、シュラインだった。みそのは黙したままだ。
「実際時間がない。なら、確実に彼女を救う方法を他に探すんだ。分割、契約のリスクをふまえると、彼女を元に戻すことは、純粋なエネルギーのみ。其処の神のもっている神封石は何らかの意志を持っているというのは知っている。意志のない霊力…それを生み出すのは魂…そうだろ?」
夏紀が冷たく答える。殆どの者は彼を軽蔑する眼差しだった。彼は其れも気にしない。
「そうだ。しかし、会った時に言っただろう?『人の命を犠牲にするというのは最悪の手段』だと」
「では、全知全能のあんたは?」
「誰が全知全能だ。神だからってそう言う存在ではない。私だって、頭脳を何個も分割し計算している最中だ。だいたい50年以上の人口生命体…フレッシュゴーレム…の機構を調べているのだからな」
沈黙で時間だけが進む。草間は…そのやりとりを見守るしかない。兄として何か出来ないかという歯がゆさ…それは、シュラインもそれに此処に集まっている皆もそうだった。
みそのが零脈から零に「点滴」することで腐敗速度が止まった。
「しばらく大丈夫ですわ。わたくしも人をあやめるというのは賛同致し兼ねます」
シュラインが会話の中で引っ掛かることに気づく。撫子も何か気が付いた
「純粋な霊力を供給出来ればいいのよね?御神木や神社などは大丈夫よね?」
「私も澄んだ霊力を安定させるためのみの社などを考えました」
「それは良い考えですね!探しましょう」
皆の声に覇気が宿る。エルハンドも目で良い案だと言っている。
草間が口を挟む。
「東京には、数ある結界、神社、寺、社が多い。悪霊の巣窟もあるから探すのには手間がかかる。エルハンドの処方した薬では3日と聞いた。みその、零脈で腐敗を止めておくのはどれぐらいだ?」
「おそらく…2日と」
「分かった、手分けして、探すぞ。何だろうと移動手段は問わない!」


●Forget
ある開けた場所。其処には二人の影法師。
夏紀は、エルハンドに向かって
「殺してくれ」
と言った。
「未来視で、俺が命を捧げると言うのを見たというなら…殺してくれ」
エルハンドは黙したままだ。ただ、マントを外し、日本刀を帯刀している。
「私は神とは別に剣客だ。自殺する奴に刃を向ける事はしない。自分の光刃で死ねばいいだろう?」
「なに?」
「自殺が怖いか?それとも何かあるのか?」
「…知っているくせに、光刃は心の顕れ!自分を斬るということは出来ない!」
「確かに、自害する能力ではないな。具現剣の類の全てはな。それに…万物分解の光刃だと魂に傷が付く」
エルハンドは納得したように頷く。そして…
「最後に言いたいことはあるか?」
と訊いた。
「荒んだこの退魔道で…一時でも心の平穏を与えてくれた零さんにありがとうと…」
「…わかった…剣を抜け。しかしお前が私を殺すという意気込みでだ」
それに夏紀は頷いた。
過去は問わない。あくまで剣客同士の戦い。意地の張り合いでもある。
夏紀は光刃を制御して、エルハンドは日本刀を抜刀した。
正眼の構えで切っ先を相手に向ける。そして始まった…。
決着は瞬間だった。
夏紀が光刃を振るうよりも何倍も速く…剣客は彼の間合いに入って心臓を一突きしたのだ。
無言で倒れる夏紀、彼の顔には生気が無い。しかし、穏やかな顔だった。
血は流れていない…。神の剣にも血は付いていない。
「天空剣…新路開闢。目覚めた時、気が狂うような悲しい過去は無い。お前は只の人間だ…新しき人生を歩め…」
剣客は剣を空に納め、緑色の宝石を手にし、そのまま立ち去った。


●Present
零の回復祝いがささやかに行われた。
未成年が多いので、ジュースという形である。
全快したとはいえ、リハビリで週に一回はあの神社に寄ることになるがたいした距離ではない。
「バービカンで我慢するか」
草間は後々のことを考えてか、そう呟いた。
おそらく雰囲気酔いの少女達を送ると言うという仕事があるからだ。
アルシェと兄妹の赤猫、焔は再会を喜びじゃれ合っている。
お互い人の言葉を知っているから、クイズ等にも参加している。
楽しい風景だ。

宴も終わり、皆を送り、事務所に残ったのはシュラインと零、草間、そしてエルハンドだった。
「水瀬君来なかったね…」
零は窓を見上げていった。
「あのあと、電話で連絡したら用事は済んだといって戻らないと」
エルハンドが答える。そして、続けて。
「一緒にいた時に、彼は前の償いにこれをと」
彼が差し出したのは小さい…緑色の宝石が印象的なネックレスだった。
「…もし、会えるなら…ありがとうと言いたいです」
「そうか」
零の言葉に三人は微笑んだ。
ただ、もう会うことはない…剣客は心ではそう思っている。
水瀬夏紀は「死んだ」。新しい平和な人生を歩むために…「生き返る」。
そう…島から離れて自由になったこの少女の様に…。


数週間後
「今回はどうだ?」
「あのなー?また呼ぶか?」
「また神頼み?」
草間はまたエルハンドを呼び競馬を未来視して貰っている。
シュラインは溜息をつきながら言う。零の様子を見に来た皆も笑っている。
零は、頭に赤猫をのせてクスクス笑っている。
仕事もおわったので、皆で予想する事となった。
「おい、また大穴かよ…毎回あたるかってんだ!」
「いや、私の未来視は間違ってない。大体だな、お前頼んでおいて、いつも違う物買ってるだろ?」
「うう」
「私はえ〜っと、エルハンドさんに賛成!」
「おい零!」
「ん〜わたしもエルハンドさんの予想に賭けるわ」
「シュラインまで!わかったよ!俺が探偵の勘で当ててやる!」
「そうねーおもしろいわね。でもその使い方もったいないわ、探偵の勘」
「うるせー」
自棄を起こす草間。
「そろそろだな、さくっと買ってこよう」
エルハンドは、確認してから買いに行った。

レースが始まった。
結果…草間は惨敗。神様チームは大穴で、しかも万馬券だった。
「兄さん…だめです。でも私が当てたから生活には困らないです」
にこやかな笑顔で零は兄を慰めた。
「それは良いが…」
「贅沢は敵です。しばらくタバコ1日1箱だけです。マルボロは行けません」
「…はい。分かりました。零ちゃん」
頭を垂れる兄武彦。その光景に皆大笑いする。
「わらうなぁ!」
しょんぼり探偵は叫んだ。笑われて当然だと思うのだが…。

零の首には、あの緑色の宝石が輝いていた。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【1109 / 水瀬・夏紀 / 男 / 17 /若き退魔剣使い】
【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 /天翼の巫女】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女 】


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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『零が倒れた』に参加してくださりありがとうございます。
皆さんの考え方は殆ど同じだったので、良かったです。
零ちゃんを想う気持ちしっかり描写出来ていればいいなと思っております。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝