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■今夜は朝までパワフルポーカー■

高原恵
【0332】【九尾・桐伯】【バーテンダー】
●オープニング【0】
 夜明けの程近いあやかし荘。いつもであれば明かりの消えている部屋がほとんどだが、この日ばかりは違っていた。どの部屋も、赤々と明かりがついているのだ。
 それにはもちろん理由がある。実はあやかし荘では昨日の夜からポーカー大会が行われていたのである。終了予定は夜明け頃……つまり、もう間もなくだ。
 参加者たちはチップ代わりのお菓子を手に、各部屋を股に掛けてポーカーに興じていた。各部屋では、基本的にその部屋の住人が親となって参加者たちを待っていたのである。
 管理人室では、嬉璃が親となって参加者たちを迎え撃っていた。ちなみに管理人である因幡恵美は、空いている部屋に移ってそこで親をしている。
「夜明け近くぢゃな」
 カードをシャッフルしながら、嬉璃が窓の外を見た。空がうっすらと明るくなり始めている。
「そろそろ最後の勝負になるぢゃろうなあ」
 確かに、その通り。皆の体力的なことも考えると、この辺りが潮時だろう。
「少し提案があるんぢゃが」
 ふと手を止めて、嬉璃が含み笑いを浮かべた。……何か妙なこと企んでるのか?
「どうぢゃ、最後の一勝負は一番強い役で勝った者の言うことを聞くというのは? ただし、簡単にすぐ実行出来るようなことぢゃ」
 そう来ましたか。ふむ、最後の一勝負には相応しい内容かもしれない。
 しかし、ということは、あんなことやこんなこともやっていい……と?
「分かっておろうが、あんまり酷いことはダメぢゃぞ」
 ええ、ええ、分かってますとも。
 何はともあれ……その提案乗ったぁっ!


〈ライター主観による依頼傾向(5段階評価)〉
戦闘:ある意味5/推理:ある意味5/心霊:?/危険度:?
ほのぼの:5/コメディ:3/恋愛:?
*プレイング内容により、傾向が変動する可能性は否定しません
*以下の設定文は必ず目を通しておいてください

【募集予定人数:1〜10人】

今夜は朝までパワフルポーカー

●VS嬉璃【1B】
 あやかし荘の管理人室――ここにはテーブルを囲む2人の姿があった。1人はあやかし荘の主にして、この部屋の住人である嬉璃。そしてもう1人は、よく嬉璃と密談している姿も目撃されている九尾桐伯であった。
「お主と差しのようぢゃなあ」
 カードをシャッフルしながら嬉璃がつぶやいた。慣れているのか妙に手際がよかった。
「差しのようですね」
 明るくなってきていた窓の外に目をやったまま桐伯が答える。さすがに夏が近い日の朝は早い。
「これでは普段と変わらんぢゃろう。他に誰ぞ来ようという者は居らんのか……つまらぬのう」
 やや不機嫌な嬉璃は、桐伯と交互に1枚ずつカードを配り始めた。
「恵美の部屋には結構人数が行ったようぢゃが」
「3……4人ほどでしたか」
 嬉璃のつぶやきに、桐伯が入口の方に振り向いて言った。今頃別の部屋で、恵美を親にして最後のゲームをしているはずである。
「三下の所に誰も居らぬなら、彼奴を引っ張ってくるものを。彼奴の所にも誰か行ったようぢゃしなあ」
 ぶつぶつとそんなことを言いながらも、嬉璃は5枚ずつカードを配り終えた。
「差しでは退屈ですか」
 質問を投げかける桐伯。捉えようによっては少し意地悪い質問かもしれない。が、嬉璃はさらっとこう答えた。
「大勢を相手にする楽しみもあるぢゃろ? まあ、差しは差しなりの楽しみもあるんぢゃが」
「なるほど、そういうものですか」
「そういうものぢゃ」
 嬉璃は大きく頷くと、目の前の手札を手に取った。桐伯もそれに続く。
「お主からぢゃぞ、順番は」
「おや、私からですか? では……」
 桐伯は自らの手札に目を通してみた。

●カードチェンジ・桐伯1回目【2B】
〈ハート   K〉
〈ハート   6〉
〈ハート   Q〉
〈ダイヤ   3〉
〈クラブ   Q〉

(ふむ)
 手札には一応Qのワンペアが成立していた。問題はここからどう発展させてゆくかである。
 順当に考えればスリーカードからフォーカード、あるいはツーペアからフルハウスという線が妥当だろう。
 またハートが3枚揃っていることから、フラッシュを狙うことも出来る。だがその場合、すでに揃っているワンペアを崩す必要が出てくる。
 桐伯は一旦手札から視線を外し、嬉璃の表情を見てみた。嬉璃は手札を見つめたまま、不敵な笑みを浮かべている。
(いい手札だったのか、それともブラフか……嬉璃さんなら後者の可能性も高いですが)
 さすがに何度となく会っていると、嬉璃の性格も多少なりとも読めてくる。わざとそういう表情をしている可能性もあるのだ。
 そこで桐伯は、嬉璃の心臓の鼓動に注意してみることにした。ソナーに匹敵する聴覚を持つ桐伯なら、そのくらいは容易なことだった。
(ただ嬉璃さんですからね)
 内心で苦笑する桐伯。案の定――嬉璃の鼓動は特に変化もなく、大きな判断材料になるとは言えなかった。ブラフだから変化がないのか、元々変化がないのか判断が下せないのである。
 結局桐伯はブラフである可能性も考えて、フルハウス狙いにすることにした。つまりワンペアを残す方向に出たのだ。これでもし嬉璃がノーペアであれば、ワンペア揃っている桐伯の勝ちになるのだから。
 桐伯は手札から3枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

捨て札:〈ハート   K〉
捨て札:〈ハート   6〉
捨て札:〈ダイヤ   3〉

●カードチェンジ・嬉璃1回目【3B】
「3枚も捨てるんぢゃな」
 桐伯の捨て札を見て、嬉璃がぼそっとつぶやいた。
「そりゃあ必要ですからね。次は嬉璃さんですよ」
「分かっておる。さて、何にするか」
 自分のカードチェンジの順番が来た嬉璃は、しばし手をうろうろとさせていたが、1枚選んで場に捨てた。

捨て札:〈ハート   9〉

「おや、1枚だけですか」
「それは必要ぢゃからな」
 先程と反対のやり取りに、嬉璃がニィッと笑った。
 それはそれとして、1枚だけのカードチェンジということは、嬉璃の手札の方向性が固まっているとみていいだろう。
 嬉璃が山札からカードを1枚引き手札に加え、そしてゲームは2回目のカードチェンジに入っていった。

●カードチェンジ・桐伯2回目【4B】
〈ハート   Q〉
〈クラブ   Q〉
〈クラブ   4〉
〈ダイヤ   4〉
〈スペード  8〉

 2回目のカードチェンジを前に、桐伯の手札にはツーペアが成立していた。こうくると、後はもう1枚Qか4が来るのを待つばかりである。
 チェンジするカードは当然決まっている。〈スペード  8〉しかない。桐伯はカードを捨てる前に、また嬉璃の表情を見てみた。嬉璃は先程と同様に手札を見つめている。
(ん?)
 いや――違う。視線は手札ではなくてその先、場の方にあった。
(手札を見る必要がない、そういうことですか)
 これを素直に捉えるなら、いい役が出来ていると考えられる。しかし、桐伯の判断を狂わせるためにわざとやっている可能性もゼロではない訳で。
 どちらにせよ、桐伯の取り得る行動はただ1つ。〈スペード  8〉を場に捨て、新たに山札を引くことだけだった。
 桐伯は手札から迷うことなく1枚捨て、山札からカードを引いた。

捨て札:〈スペード  8〉

●カードチェンジ・嬉璃2回目【5B】
 さて、桐伯のカードチェンジが終わり、嬉璃の最後のカードチェンジの順番になった。
「ふーむ……このままでいいぢゃろ」
 しばし手札を見ていた嬉璃は、そう言うと手札をそのまま場に伏せた。
「おや、交換しないんですか」
「これ以上よくなるとも思えんのぢゃ」
 桐伯の言葉にきっぱりと答える嬉璃。この言葉から、何がしかの役が出来ているのはほぼ確実だった。

●ショーダウン・VS嬉璃【6B】
 さあ、いよいよショーダウンとなった。
「では、お主の手札を見せてもらおうか」
 嬉璃のその言葉に桐伯は小さく頷くと、一気に手札を開いてみせた。

〈ハート   Q〉
〈クラブ   Q〉
〈クラブ   4〉
〈ダイヤ   4〉
〈スペード  A〉

「Qと4のツーペアです」
 結局フルハウスにすることは出来なかったものの、手堅くツーペアとなっていた。
「今度は嬉璃さんの手札を見せていただきましょうか」
 嬉璃の手札がスリーカード以上であれば、もちろん桐伯の負け。ツーペアであれば、Q以上のペアがない限りは桐伯の勝ち。ワンペア以下なら、言うまでもなく桐伯の勝ちである。
「うむ。こんな手ぢゃ」
 嬉璃は伏せてあった手札をつかむと、一息にひっくり返してみせた。

〈ダイヤ   A〉
〈スペード  2〉
〈スペード  4〉
〈クラブ   5〉
〈ジョーカー  〉

「すとれぇと、ぢゃな」
 得意げな表情を見せる嬉璃。そう、嬉璃の手札はストレートが成立していたのである。
「参りましたね、ジョーカーがあったんですか」
 桐伯が苦笑いを浮かべた。〈ジョーカー  〉があったのでは、負けたのも仕方ないと言えるだろう。
 かくして、最後のゲームは嬉璃の勝利で終わったのだった。

●病み付きになっていたので【7B】
「それではお主に何をさせてやろうか……」
 腕組みをしながら、嬉璃が楽し気に言った。勝った嬉璃が桐伯への命令を思案しているのである。
「お手柔らかに」
 と言った桐伯の表情は、仕方がないという雰囲気であった。おとなしく命令に従うつもりなのだろう。
「よし、そうぢゃ」
 嬉璃がぽんっと手を叩いた。
「お主、鋼糸は持ってきておるか?」
「はい? ええ、一応は」
 懐に手を当てる桐伯。
「なら話は早い。この間の鍼灸術をまた施してもらおうかの」
「ああ」
 桐伯が大きく頷いた。先日、嬉璃に対して鋼糸を用いた鍼灸術を施していたのである。嬉璃が言っているのはそのことだった。
「分かりました。させていただきましょう」
「うむ、頼むぞ。やはり徹夜は負担がかかるようぢゃ……鍼灸術ですっきりしたいものぢゃな」
 嬉璃はそう言うと、ごろんとうつ伏せになった。桐伯は懐から鋼糸を取り出すと、準備を始めた。
 そして嬉璃は桐伯の鍼灸術を受け、しばし恍惚の表情を浮かべることとなった。
 あやかし荘中に響き渡る三下の悲鳴を耳にしたのは、ちょうどそんな時であった――。

【今夜は朝までパワフルポーカー 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
                   / 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・九尾桐伯さん、22度目のご参加ありがとうございます。いい所まではいったような気がするんですけどね、惜しかったですね。鼓動を読むのは他の参加者が居たら、もっと有効に働いていたかもしれませんね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。