■哀しい夢■
在原飛鳥 |
【1493】【藤田・エリゴネ】【無職】 |
『まだ誰も知らないところへ行こう、とあなたは言うの。
そこへ一緒に行けるんだと思うととても嬉しくて、私はあなたに手を伸ばす。
けれど、そこは誰にも赦されない場所だった。
おねがい、だれか。誰か彼を止めて。一分でも一秒でも早く彼に追いついて。
誰でもいいの。誰か。だれか…………おねがい。』
「……とまあ、こういう感じなんだが」
表示された文字を指で示して、自称「紹介屋」の太巻大介(うずまきだいすけ)は振り返った。
「ネットサーフをしていると、突然画面が切り替わって、スクリーンにこのメッセージが表示されるんだな。スピーカーをオフにしていても、しっかり電源が入って音楽が流れるっつぅスグレモノだ。…で」
太巻が再びエンターキーを叩くと、スクリーンに新しい文章が浮かび上がる。
・貴方の大事なものはなんですか?
・貴方が一番心に残っている思い出は?
質問の下で、答えを待つかのようにカーソルがチカチカと瞬いている。
「コイツが一体なんなのか、確かめて欲しいって依頼だ。こんな簡単なことで小遣いもらえるんだから、ボロい商売だよ。どうだ?受けてくれるんなら、このサイトに辿り着く方法を教えてやるよ。大丈夫、コイツのせいで人が死んだなんてことはねぇからさ。……たぶん」
最後にぼそりと付け加え、肩肘を突いた銜え煙草で太巻は返答を待っている。
<<おねがい>>
貴方のキャラクターが依頼を受けてキーボードに手を置くと、質問の答えが本人の意思とは関係なく打ち込まれます。
ご注文いただける際には、キャラクターの大事なもの&心に残っている思い出をお知らせください。小説作成の参考にさせていただきます。(任意ですので、思い浮かばない場合は無理に書いていただく必要はありません)
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哀しい夢
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『まだ誰も知らないところへ行こう、とあなたは言うの。
そこへ一緒に行けるんだと思うととても嬉しくて、私はあなたに手を伸ばす。
けれど、そこは誰にも赦されない場所だった。
おねがい、だれか。誰か彼を止めて。一分でも一秒でも早く彼に追いついて。
誰でもいいの。誰か。だれか…………おねがい。』
「……とまあ、こういう感じなんだが」
表示された文字を指で示して、自称「紹介屋」の太巻大介(うずまきだいすけ)は振り返った。
「ネットサーフをしていると、突然画面が切り替わって、スクリーンにこのメッセージが表示されるんだな。スピーカーをオフにしていても、しっかり電源が入って音楽が流れるっつぅスグレモノだ。…で」
太巻が再びエンターキーを叩くと、スクリーンに新しい文章が浮かび上がる。
・貴方の大事なものはなんですか?
・貴方が一番心に残っている思い出は?
質問の下で、答えを待つかのようにカーソルがチカチカと瞬いている。
「コイツが一体なんなのか、確かめて欲しいって依頼だ。こんな簡単なことで小遣いもらえるんだから、ボロい商売だよ。どうだ?受けてくれるんなら、このサイトに辿り着く方法を教えてやるよ。大丈夫、コイツのせいで人が死ぬなんてことはねぇからさ。……たぶん」
最後にぼそりと付け加え、片肘を突いた銜え煙草で太巻は返答を待っている。
□―――ゴーストネット
「…にゃあ」
エリゴネと向かい合って、太巻が零した第一声がそれだった。からかったのかと言えばそういうわけでもなく。単純に、口をついて出てしまったらしい。
「猫の姿ではいけませんでしたか」
「いやそういうわけでもないがな」
足元にちょこんと座った灰色の毛並みの猫を、太巻は手を伸ばして掬い上げた。ふわりと漂う煙草の匂いに、エリゴネのひげがひくひくする。
「話をするのは猫でもできる。パソコンを扱う時は…やっぱ人の姿のほうがいいけどな」
ネコの姿のままのエリゴネと話をしていると、一般人から見れば太巻はちょっと危ない人である。
店の隅の人目のつかないところに移動して、太巻はエリゴネを机の上に下ろした。そうすると、エリゴネと太巻の視線はほぼ同じ位置にくるのだ。
机に両肘をついて頭を支え、太巻は再びエリゴネをまじまじと見つめる。
「猫がくるとは思わなかった」
「迷惑だったでしょうか」
そんなことはねぇよと笑って、太巻は椅子に座りなおした。切り替えが早いのか、猫に声をかけられて呆気に取られていた名残は見受けられない。
「仕事の話をしよう。この質問に答えた先に何があるのか、あんたに確認してきてほしいんだ」
モニターでは、チカチカと答えを待つようにカーソルが瞬いている。
大事なものはなんですか?思い出は?…と。
「わかりました。お引き受けいたしましょう」
猫の姿のまま、エリゴネはしっかりと頷くのだった。
□───ゴーストネット/個室
人の目がないゴーストネットの個室で、エリゴネは人化して太巻の前に現れた。今度は「にゃあ」とは言われなかったが、太巻はまるでいたずらを教師に見つかった生徒のような顔をする。
「…年上ってカンジ」
「はい、それはもう。戦争を体験している世代でございます」
やりにくそうに頭を掻いて、太巻はエリゴネの為に椅子を引いた。
「座って。どうしたらあのサイトにいけるのか、説明するからさ」
太巻から教わった方法で操作をすると、見慣れた検索サイトが突然ぷつりと消失して、くだんの文字が浮かび上がった。バックグラウンドに、哀しげな旋律が流れている。
大事なものはなんですか?と文字が流れてエリゴネに訊ねる。
すぐに浮かぶのは、猫の身で過ごす今の生活と、仲間達だ。
思い出は?と聞かれて脳裏を過ぎるのは、ずっと昔、彼女がまだフランスに居た頃に彼女を飼っていた主人のことである。エリゴネのラストネームである「藤田」は、その主人から取ったものだ。
(こういうことを質問してくるということは、それにつけこまれる可能性があるということだから)
ただでさえ得体の知れない話だ。用心はするに越したことはない。何が起こっても対処できるように、何度も自分に言い聞かせて、エリゴネは両手をキーボードに置いた。
彼女が文字を打ち込み始めるよりもはやく、指は何かにつられたように動き出す。
まるで彼女の頭の中を読んだかのように、指の動きは、エリゴネがものを考えるのと同じスピードで文字を打っていく。
自分の意識とは異なる指の動きに、思わず瞬きをした。霊を捉えることもできる彼女の視界だが、予想に反して、コンピューターに特に変わったものは見られない。
(どういう仕組みなんでしょう……)
エリゴネの動揺などものともせずに、指は的確に、淀みなくその答えを打ち込んでいった。指の動きは、質問に対してエリゴネが考えをめぐらせるのを先取りする。
カタカタと規則的な音が鼓膜を打つ。次第に視線はモニターに吸い込まれるように釘付けになり、見えているはずだった周囲の景色が狭まっていく。まるでフィルターをかけたかのように視界がぼやけ、モニターにゆるゆるとたゆたう靄が、視界の外側から次第にものの輪郭を押しつぶしていく。
いつの間にか、目に映るすべてが靄だけになっていた。まるで深い霧の中に迷い込んでしまった時のように。
夢でも見ているのだろうか。
思わず首を巡らせて向かい合っていたはずのコンピューターと、太巻が出て行った個室のドアを探す。
何も見えない。顔を向けた先には、灰色の世界ばかりが広がっていた。
□―――霧の中
目を開けると、奇妙な空間に浮かんでいた。
辺りは乳白色の靄(もや)に包まれている。そこには上もなく下もなく、不安定になった自分の足が地面を探して頼りなく揺れる。見下ろしてみて初めて気づいたが、エリゴネの人化は解けていた。視線の先には、小さな自分の四つ足が靄の中に霞んでいる。
何度あたりを見回してみても、目に付く限りが灰色の世界である。
「一体……?」
エリゴネは頭をめぐらせた。景色があまりに変わらないので、自分が視線を動かしたかどうかもおぼつかない。
静まり返っていて人の気配はなく、風もないのに取り巻いた煙はゆっくりと移動し続けている。誰も居ない世界。彼女を取り巻く白濁は、ずっと昔に見たフランスの街並みを思い出させた。
どこからともなく微かに、空耳とも間違うような哀しげな旋律が流れてくる。
あのページで流れていた音だ、とすぐに気が付いた。哀歌のように、それは細く霧の中を漂って染み渡る。
その音にあわせて、誰かが歌っている。歌声が遠くなったり近くなったりするたびに、心が震えた。まるで打ち寄せる波のように、エリゴネの心をざわつかせるのは理由のない不安。化け猫になってから、もう長いことこんな気持ちは忘れていた。
足を踏み出しかねて佇んでいるエリゴネを促すように、ふわりと温い風が吹いた。息苦しいほどに立ち込めている靄が、重たい腰を上げてゆっくりと揺らぐ。
さぁっと見る間に靄が左右に割れて、エリゴネの行く道を作った。細く長い道である。どこを見ても相変わらず靄に包まれているが、少なくとも目の前に拓けた道だけは他に比べて明るくなっている。
「この先に何があるのか、確かめること」
ここがどこだかはわからないが、この世界の先にあるものを確かめるために、エリゴネは太巻に呼ばれたのだ。自分が存在しているのだということを確かめ、自分に言い聞かせるために一人呟いて、エリゴネは歩き出した。
足の裏が地面につく感覚がないので、漕ぐように足を動かす。エリゴネが歩くたびに、ふわりと靄は動いて低い位置にあるエリゴネの身体をくすぐった。
人間よりも短い足だったが、エリゴネの動きは流れるようだ。すっすっと音もなく、靄の中をまっすぐに突き進む。歩いていくうちに周囲は少しずつ明るくなり始めていた。相変わらず靄の中に佇んでいたが、辺りはさっきよりもずっと光が強い。
「薄くはなるけれど、靄が晴れる気配はありませんね……」
どこを見渡しても、靄ばかりが続いていて、それがとても心許無い。どこを向いても圧し掛かる靄に、どんどん息苦しくなっていく。目的を見失うことへの本能的な恐怖だ。
暗闇の中ではレーダーの役目を果たすはずのヒゲも、靄が相手では何の意味も果たさない。心臓の鼓動までが大きくなって、内側からエリゴネを揺すぶっていた。この不吉な予感はなんだろう。まるで、この先の展開を知っている夢のようだ。よくないことが起こると分かっていて、分かっているから、今か今かと息を詰める。
エリゴネのまわりで、靄はゆっくりと揺れて渦を巻いた。「それ」は近づいてきている。息を殺して、エリゴネの様子を伺いながら、すぐそこまでやってきている。まだ自分が若い一匹の猫だった頃、暗がりに潜んだ犬の気配を恐れたように、エリゴネは靄の中からくる「何か」を恐れた。
どんどん大きくなっていく胸のざわめきが、エリゴネを緊張させる。
エリゴネはピンと尻尾を逆立てた。
靄はゆっくりと楕円形に移動しつづけ、次第にそこに色がつき始めた。
立ち止まったりはしない。恐怖に竦んでしまったら命取りだということを、彼女の本能は次げているのだ。だからエリゴネは同じ速度で先に進む。
だんだん「それ」が近くなっていく気配がする。
エリゴネの視界の先に、人影が映った。ニャア、と甘えた鳴き声がする。
(どこかで聞いたような声……)
にゃあ、とまたネコが鳴いた。エリゴネは思い当たる。まだ若く普通のネコだったころの、これは彼女の声だ。
「おまえの名前には、『春に生まれる女』という意味があるんだ」
懐かしい声に、エリゴネは立ち止まった。染みとおるように静かで、優しい声。この声を聞いたのは何十年ぶりだろうか。
靄がすぅっと晴れて行き、霞んでいた人影がはっきりと見て取れるようになる。
エリゴネは藤田の代わりといえるものを、なに一つ持っていない。写真もないし、服の切れ端一つとしてない。あるのは遠い昔の記憶だけで、それも最近は膜がかかったようにおぼろげだった。
けれど、今、藤田は鮮やかな輪郭と面影を持って、エリゴネの前に居る。その声も、顔も表情も、こうして見れば忘れようもないほどに懐かしかった。
まだようやく大人になったばかりのエリゴネに、藤田は話しかけている。
「藤田さん……」
幻だということは、心のどこかではきちんと理解していた。
けれどそれは、あまりにも甘く切ない思い出だ。
エリゴネは一歩踏み出した。
ひやりと冷えた風がエリゴネの毛並みを撫でる。
気がつくと、エリゴネの前には敷布団が敷いてあった。ぽつんと、中の綿など殆どつぶれてぺしゃんこになったせんべい布団だ。
真ん中だけが、人の形をしてわずかに膨れている。遠目から見ても、そこに寝かされている人が健康でないことはわかった。痩せ細っているのだ。
エリゴネは布団をかけられた人の顔を覗き込んだ。そしてその場に立ち尽くす。
横たわっていたのは、あまりに変わり果てた主人の姿だった。
痩せ衰え、肌は不健康な土気色をしている。唇はかさかさに乾いていて、呼気はかろうじて聞き取れるほどに浅い。死にかけているのだ、と直感でわかった。
彼を追いかけてエリゴネが日本にたどり着いた頃には、藤田は流行り病でこの世を去っていた。
(これは、藤田さんのその時の姿……?)
布団の周りには、死のにおいが立ち込めている。死を迎えるものだけが持つ、特有のにおいだ。
藤田さん、と言ったつもりだったが、「にゃあ」と鳴き声が出ただけだった。
虚空を眺めて焦点を結ばない藤田の瞳が揺れる。
エリゴネの声に反応したのかと、彼女は必死に藤田に呼びかけた。いくら声を出そうとしても、どうしてもネコの鳴き声にしかならない。
(何か、何か言って元気付けなくては)
そうしないと藤田は死んでしまう。
けれどどんな気持ちも、言葉にならない。にゃあ、と藤田にはわからないネコの鳴き声が出るだけだ。
エリゴネは必死で呼びかけた。藤田が耳を澄ましている。
ふ、と藤田の吐息が聞こえた。
まるで、何かを諦めたかのような。
(藤田さん!)
にゃあ、と喉が鳴る。藤田の瞳はもう揺らぐことはなく、ぴくりとも動かなくなっていた。
鼻面を寄せてみると、藤田の呼吸は止まっていた。
□―――哀しい夢
気が付くと、エリゴネはまた一人、靄の中に取り残されていた。
か細い旋律が再びあたりに流れていた。途切れ途切れだが、誰かの歌声が音楽と一緒に流れてくる。哀しげな調べは、太巻が見せたスクリーンのメッセージを思い出させる。
「アキラを止めて。……おねがい」
泣きそうな歌声が祈っている。そこでようやく思い出した。今まで自分が体験した事は、現実ではないかもしれないということを。大事なものや思い出。コンピューターに打ち込んだそれらの情報が、どういう理由か彼女の前に現れただけなのだ。
エリゴネが前を見据えるとさあっと靄が晴れた。重苦しい世界に慣れていた視界が、突然広くなる。
その先に、一人の少女が座り込んでいた。俯き加減に見せる横顔がとても寂しげな印象だ。白いワンピースから覗く肩が、細くて痛々しい。
いつの間にか歌も音楽も止み、少女からもれる微かな嗚咽だけが聞こえてくる。視線に気づいて顔を上げた彼女は、涙に濡れた目を驚きに見開く。
「あなたは……?」
「藤田・エリゴネと申します」
少女はネコの姿の彼女を見て、一度、二度と瞬きをした。黒い瞳でエリゴネを見つめ、震える声でかろうじて「ナミ」と自分の名前を呟く。それからはらりと涙を零した。
涙が漂っている靄に落ち、ふわりと靄を揺らして消えてしまうと、胸に小さな痛みが走った。また、藤田の顔を思い出した。
「ここにいると、誰もが哀しい夢を見続けてしまうの。アキラがそういう風に、世界を作ったの」
ナミは言った。聡明そうな目をしているが、涙の跡が残る彼女の顔は、やつれてしまって儚い。
「アキラという方が、あなたが止めて欲しがっている人ですの?」
「…そうです。アキラは……、アキラは人を操る方法を研究していました。そうすれば人は神になれるんだって言って……。でもそんなことは意味がないんだって、誰かに彼を止めてもらいたくて、私はずっと呼びかけていたの」
彼女の歌声はこの靄の世界に響き、どこからかコンピューターのスクリーンに表示されたのだ。
そして、少女は哀しい夢を見続ける。一人で、何もない世界で、「アキラ」という男のことを嘆きながら。
「それが、あなた言う赦されはしないことなんですか?」
「…そうです。私には、アキラのしていることが良いことだとは思えない」
泣きはらした目に、一瞬だけ強い光が宿ってナミはエリゴネを見つめた。
「アキラを、止めてください。私はここから出られないんです」
きっとずっと長い間、アキラの夢を見続けて泣いている少女を前に、エリゴネは安心させるように頷いてみせる。
「お話を伺う限り、『彼』のことを止めたほうがよさそうですわね。……私にできるのなら、ですけれど」
靄に掠れ行く視界の中で、安心したのかナミは小さく笑ったようだった。
□―――ゴーストネット/個室再び
気が付くと、エリゴネはモニターに向かったまま椅子に座り込んでいた。ネコの姿ではなく、普段は着慣れない洋服の感覚が身体を包んでいる。
暗い部屋、青白い光を発して明るいコンピューターディスプレイ。周りを取り囲んでいた靄はどこにもないし、ナミという名の少女も居なかった。モニターの中には、チカチカと動画広告が切り替わる何の変哲もない検索サイトが表示されている。
長くて疲れる夢を見た後のように、身体は気だるい。
と、背後で扉が開いて、人の気配が顔を覗かせた。同時に漂ってくるタバコのにおい。振り返らなくても、それが太巻であることはすぐに分かった。
「終わった?」
「はい。今、すぐご報告いたしましょうか」
いいよ、と太巻は笑って片手を伸ばし、部屋の電気をつける。
「飯を食いながらでも遅くはない。その格好のまま、たまには人間の行くレストランでも行ってみる?」
ありがたいお誘いかもしれないが、ネコの生活に慣れすぎているエリゴネには今ひとつぴんとこなかった。首を傾げて考えた末、
「大変ありがたいのですが、それでしたら私の仲間たちにお食事をご馳走していただけないでしょうか」
ふかっと煙を吐き出して太巻は眉を上げ、やがて笑みを浮かべて「いいよ」と請け合った。
「キャットフードだな。スーパーに行こう。好きなの選んでいいよ」
来い来い、というように太巻が腰を曲げて手招きする。
エリゴネはネコの姿に戻ると、タバコの匂いがしみついた腕に抱き上げられた。
「嫌な夢を見た?」
「いいえ」
太巻が喋るたびに身体を通して伝わってくる振動を感じながら、エリゴネは答える。
生きている藤田にもう一度会いたかったと、後悔しなかったといえば嘘になる。
だからこそ、死に際の彼の姿を見てしまったのだろう。
しかし、エリゴネには彼女が藤田を慕うのと同じように、彼女を慕ってくれる仲間が出来た。同じように、エリゴネにとっても彼らは大切な存在だ。
だからこそ思い出に囚われて先に進めなくなるのはやめようと思う。
太巻の腕に抱かれながら、エリゴネは目を細めた。
「とても懐かしい人に逢えました」
そうか、とそれ以上は何も聞かずに、太巻は夜の街を、灰色のネコを片手に歩いていく。
太巻の肩ごしに見上げた空は、もうすっかり夏の夜空の色をしていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
・1493 / 藤田・エリゴネ / 女 / 73 / 無職
NPC
・1583 / 太巻大介(うずまきだいすけ)/ 男 / 不詳 / 紹介屋
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■ ライター通信 ■
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おま、お待たせしました!そしてはじめまして。ボンジュール!(落ち着きなさい)
依頼の受理、ありがとうございます!
そして先に謝っておこう…エリゴネさんの名前、別の意味があったらすいません(滅殺)
おとめ座の由来候補にもなっている名前だそうですね。なんとなくエリゴネさん(人Ver.)はノーブル・レディなイメージです。
さてさて、お届けが遅れがちで申し訳ないです!プレイングはむしろとっても書きやすかったですよう。気を揉んでいらしたらごめんなさい!
そんなわけで、こっそりと、まずは第一陣のお届けです。
どうもありがとうございました。ボンボヤージュ!(語学力のレベルがばれるからやめましょう)
在原飛鳥
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