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■哀しい夢■

在原飛鳥
【1555】【倉塚・将之】【怪奇専門の何でも屋】
『まだ誰も知らないところへ行こう、とあなたは言うの。
そこへ一緒に行けるんだと思うととても嬉しくて、私はあなたに手を伸ばす。
けれど、そこは誰にも赦されない場所だった。
おねがい、だれか。誰か彼を止めて。一分でも一秒でも早く彼に追いついて。
誰でもいいの。誰か。だれか…………おねがい。』

「……とまあ、こういう感じなんだが」
表示された文字を指で示して、自称「紹介屋」の太巻大介(うずまきだいすけ)は振り返った。
「ネットサーフをしていると、突然画面が切り替わって、スクリーンにこのメッセージが表示されるんだな。スピーカーをオフにしていても、しっかり電源が入って音楽が流れるっつぅスグレモノだ。…で」
太巻が再びエンターキーを叩くと、スクリーンに新しい文章が浮かび上がる。

・貴方の大事なものはなんですか?
・貴方が一番心に残っている思い出は?

質問の下で、答えを待つかのようにカーソルがチカチカと瞬いている。
「コイツが一体なんなのか、確かめて欲しいって依頼だ。こんな簡単なことで小遣いもらえるんだから、ボロい商売だよ。どうだ?受けてくれるんなら、このサイトに辿り着く方法を教えてやるよ。大丈夫、コイツのせいで人が死んだなんてことはねぇからさ。……たぶん」
最後にぼそりと付け加え、肩肘を突いた銜え煙草で太巻は返答を待っている。


<<おねがい>>
貴方のキャラクターが依頼を受けてキーボードに手を置くと、質問の答えが本人の意思とは関係なく打ち込まれます。
ご注文いただける際には、キャラクターの大事なもの&心に残っている思い出をお知らせください。小説作成の参考にさせていただきます。(任意ですので、思い浮かばない場合は無理に書いていただく必要はありません)

哀しい夢
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『まだ誰も知らないところへ行こう、とあなたは言うの。
そこへ一緒に行けるんだと思うととても嬉しくて、私はあなたに手を伸ばす。
けれど、そこは誰にも赦されない場所だった。
おねがい、だれか。誰か彼を止めて。一分でも一秒でも早く彼に追いついて。
誰でもいいの。誰か。だれか…………おねがい。』

「……とまあ、こういう感じなんだが」
表示された文字を指で示して、自称「紹介屋」の太巻大介(うずまきだいすけ)は振り返った。
「ネットサーフをしていると、突然画面が切り替わって、スクリーンにこのメッセージが表示されるんだな。スピーカーをオフにしていても、しっかり電源が入って音楽が流れるっつぅスグレモノだ。…で」
太巻が再びエンターキーを叩くと、スクリーンに新しい文章が浮かび上がる。

・貴方の大事なものはなんですか?
・貴方が一番心に残っている思い出は?

質問の下で、答えを待つかのようにカーソルがチカチカと瞬いている。
「コイツが一体なんなのか、確かめて欲しいって依頼だ。こんな簡単なことで小遣いもらえるんだから、ボロい商売だよ。どうだ?受けてくれるんなら、このサイトに辿り着く方法を教えてやるよ。大丈夫、コイツのせいで人が死んだなんてことはねぇからさ。……たぶん」
最後にぼそりと付け加え、肩肘を突いた銜え煙草で太巻は返答を待っている。

□―――ゴーストネット
「多分ってのが怪しいよなあ」
ゆらりと立ち上るタバコの煙の向こうを見透かして、倉塚将之は言ってみた。臆したわけではないが、仕事に危険はつきものだ。危険に対して準備万端怠らないのが、プロというものだと将之は思っている。
「100パーセントの保障なんて、あるほうが怪しいだろ?」
不審な顔をした将之に応えて、太巻は笑った。着崩したスーツといい、その風貌といい、つくづくカタギの人間には見えない男である。
「ま、ね」
確かにその通りではある。将之は肩を竦めた。迷っていても始まらない。そもそもこの話に興味を覚えたからここにいるのだ。せっかくここまで足を運んだのだから、今更引き返すのもばからしい。
持ち前の楽天的な気分で、どうにかなるだろう、と小さな不安を片付けた。
「この依頼、引き受けるよ。どうしたらいいか教えてくれ」
よし、とわが意を得たりとばかりに太巻が笑みを深める。
「ついて来いよ。個室のほうが都合がいいんだ」
言い捨てるなり、太巻は椅子を立って店の奥へと歩いていった。

□―――ゴーストネット :個室
照明を落とした個室で太巻に教えられたとおりの作業をすると、ほどなく何の変哲もないページが突然切り替わり、先ほどのメッセージが現れた。音源が入り、哀しげな旋律が流れ出して個室を満たす。
落とした証明と、どこか尾を引く音楽、よく見ると少しずつ変化しているモニターのバックグラウンド。
(アレだよな。宗教団体の儀式っぽいのを連想するっつーか)
ふと引き込まれる何かがある。それはむしろ行動を操られるのに似て、どうも落ち着かない。
「一応、ヤバいことが起きたらおれを呼んでもいいぜ」
とお義理のように太巻は言うが、声にはまったく誠意がない。まあ、好きで男を助けようなんて思うほうがおかしいから、そりゃ当然というものだが。
「自分でどうにかするからいいよ」
「ああ、そうしろ」
男を助けたくないのも、男に助けられたくないのも、お互い様である。言外に二人の意思は一致して、将之はモニターに向き直った。
「じゃ、よろしく頼んだぜ」
言い残して、太巻は部屋を出て行く。室内は急に静かになって、コンピューターの音源から流れ出す音がやけに大きく聞こえるようになった。
「さて、と。始めるか」
両手を擦り合わせてから、指をキーボードに触れさせる。
「俺あんまりタイプ得意じゃないんだよなー」
ぼやいた将之だったが、実際には悩む必要はなかった。モニターを見つめて答えを入力しょうとした瞬間、指が勝手に動き始めた。
「うわ!な、なんだ?」
ぎょっとして手を引こうとするが、日ごろの将之よりも早い指の動きは止まらない。あれよという間に答えを入力した将之の指は、そのままの勢いでエンターキーをヒットする。

□―――靄の中
気がつくと、右も左も、それどころか上下の感覚すらない深い靄の中に立ち尽くしていた。一体いつからここに立ち尽くしていたのか、予想もつかない。
ついさっきまで、コンピューターの前に座っていたはずだった。どんな仕掛けがあったのかわからないが、何者かの手によって、将之は靄ばかりの世界に連れて来られたのだ。
「……どうなってんだ、これは」
将之の表情は一変して、するどく引き締まる。そうすると普段の高校生然とした空気が身を潜めて、将之の身の回りに緊張感が漂った。右手に持った愛刀「破神」の重みが心強い。
背筋を伸ばして立ったまま周囲の気配を探る。
どこまでも靄ばかりの世界では、殺気どころか生き物の気配すら感じられなかった。立ち込めた靄はゆっくりとたゆたい、将之の周りを取り巻いていく。その動きは緩慢だ。
「じっとしてても何もはじまらないな」
一人呟いて、将之は「破神」を持ち直した。方向を定めて、一寸先も見えないような靄の中を歩き出す。
時間の感覚は怪しく、規則的に足を動かしていると感覚が麻痺してきた。そのくせ、妙に心がざわつく。
誰かに見られているような、今にも「そいつ」が現れるのではないかというような、漠然とした不安だ。なのに、その不安に将之は心当たりがない。
落ち着かない気持ちは突然将之の心に飛来していた。
「わけがわからないな」
思わず呟いたその声も、誰に聞かれるともなく靄の中にかき消えてしまう。静まり返った世界に、不安はいやでも増長した。
ざわついた気持ちを振り払うように頭を振って、将之は靄の中に人影を見る。
(人がいるのか……?)
目を凝らすと、靄の向こうには、確かに人がいる。遠目にも体格がいい男だ。手には棒のようなものを持っている。
用心して「破神」の鞘を握りながら、将之は眉をひそめた。
(気配に気づかなかった?)
靄越しの相手に殺気はないのだ、確かに。だが、こんなに近くまで侵入を赦すほど、自分が警戒を解いていたとも思えない。
(どうも……勝手が違うな)
多くの危険を潜り抜けてきた本能がそう言っている。慎重に相手に意識を集中させながら、将之は待った。
相手がゆっくりと近づいてきているのだ。
相手に殺気はないから、すぐに襲われる心配はないとは思いつつ、身体はすでに戦闘体制を整えている。すぐに刀を抜けるように筋肉を緊張させながら、ようやく輪郭が見えてきた相手を透かし見た。
「……なッ…!?」
思いつく限りの事態を想定して備えていたはずだったが、向かい合った相手が靄の向こうから現れた瞬間、将之は思わず身体が揺れた。
向かい合ったのは、将之の知った顔だった。しかし、居るはずのない人物でもある。
なぜなら、その男はもう死んでいるのだから。
「……親父!?」
父は将之の言葉にも答えない。その手が、すっと刀の柄に伸びた。
慌てて将之は自分が手にした刀を確認する。あった。特徴のある鍔と、鞘。見間違えるはずがない。
信じられない気持ちで、将之は父の手に握られた刀を見る。
そこにも、将之が持っているものとまったく同じ形をした、一振りの刀があった。
「その刀は、お前が持っていていいものではない」
父の顔をした男が言った。その声は記憶にあるのと同じで、深い。父が将之の刀に手を伸ばそうとする。
「触るな!」
その手を振り払って、将之は男から距離を取った。
手の中で、「破神」の重みだけが、その存在を真実だと伝えてくれる。父の形見の刀である。
(見間違うはずがないだろ…!)
「その刀は、お前のものではない。その手で触れるな」
それは、本物の父親に拒絶されたような傷みを伴って将之の心を襲った。
将之は奥歯を噛み締める。ニセモノだ、と言い聞かせ、自分に納得させるために、強く手にした「破神」を握り締めた。
「……ニセモノだろ。お前は!親父の姿なんか借りるんじゃねえ!」
居合いとともに抜き放った刀が、白く軌跡を描いて靄を切った。
空気が割れる音がする。
……確かに届いたはずだった切っ先は父の姿に届くことはなく、刀はむなしく靄を切り裂いた。
父親の姿も、彼が持った「破神」の刀身も、もはやどこにも見られない。

しばらく、自分の呼吸を聞いて将之は立ち尽くしていた。ぎこちなく刀を下ろし、鞘にしまう。意識して、強張っていた体の緊張を解くと、ようやく耳が音を捉えた。
ゆらゆらと行く当てもなく揺れる靄。どこからともなく流れてくる哀しげな旋律。
将之は顔を上げた。
―――アキラを止めて。お願い…。
泣きそうな歌声が、誰にともなく祈っている。気持ちを切り替えて歩き出した。
靄を掻き分けるようにして、一歩一歩進む。歌声は、段々に近づいてくる。
ある一線を踏み越えると、視界が突然拓けた。さぁっと靄が引いていき、将之はそこに、細い肩をした少女を見た。年のころは17,8だろうか。病的なほど、痩せ衰えている。将之の気配に気づいたのか、彼女は顔を上げた。
「君だよな、誰かを止めてくれって言ってたの」
将之が確かめると、戸惑うように瞳を揺らして、少女はこくりと頷いた。名前を尋ねると、「ナミ」とか細い声が返ってくる。腹の底に残っていた気分の悪さの名残を消化するように、将之はため息を吐いた。
「ここにくるまでに見た幻も、あれもナミさんが俺に見せたの?」
質問を重ねると、少女は弱々しく首を振る。
「それは……アキラです」
そして「ごめんなさい」と消え入りそうな声で謝った。
「私がいるこの世界は、アキラが作りました。足を踏み入れる者に、哀しい夢を見せる世界。…あたしは、アキラが作ったこの世界でしか生きられないんです」
言っていることはわかるのだが、具体的なことが見えてこない。
「なんでそのアキラってやつを止めたいんだ?」
ナミが痩せてとがった顎を引く。
「アキラは……、アキラは人を操る方法を研究していました。そうすれば人は神になれるんだって言って。でもそんなことは意味がないんだってあたしが止めると、アキラは一人で行ってしまいました。誰かに彼を止めてもらいたくて、私はずっと呼びかけていたの」
お願い、と蚊の鳴くような声でナミが言った。
「アキラを、止めてもらえませんか」
涙のたまった少女に見つめられて、将之は居心地悪く頭を掻いた。こういう状況には滅法弱いのである。
「そりゃ、出来ることがあるなら俺だってしてあげたいよ」
「ご迷惑なのは承知しています。お願いできませんか?」
ナミの眉が下がって、彼女の喉が、泣くのを堪えるように上下した。将之は慌てる。
「わ、わかった!わかったよ。そのアキラってヤツを見かけたら、ちゃんとどうにかしてあげるから、泣かないでくれよ」
まだ泣き出しそうな顔をしていたが、ナミは涙を堪えてこっくりと頷く。
まるでそれが合図だったかのように、少女の姿がぼやけ始めた。

□―――ゴーストネット:再び個室
気がつくと、将之はモニターを見つめて椅子に身体を埋めていた。映っているのは、何の変哲もない検索サイトである。チカチカと移り変わる広告アニメーションが鬱陶しい。
モニターには、ナミという少女の姿も、さっきまで画面を占領して将之を異世界に誘っていた妙なページも見当たらない。
「夢……ってわけでもないよな」
狐に化かされた気分で髪を掻き混ぜた。
ノロノロと起き上がって、将之は個室を後にする。
「よ、済んだか」
扉を開けると、廊下に設置された灰皿の側で太巻がタバコを吸っていた。夢から覚めたような将之の顔を見てちらりと笑みを浮かべる。
「寝覚めはどうだ?現実と夢の区別がつかないってツラだぜ」
「目は覚めてる」
太巻の声で、ようやく醒めてきたといったほうが正しい。将之は、頭を振って夢の残滓を頭の隅から振り払った。
晩飯でも食ってから帰るか、という太巻の誘いに乗って歩き出しながら、将之は窓の外を見遣った。夕方くらいに店に入ったと思ったが、外はもうすっかり明るい。
ガラスごしの車のテールランプとヘッドライトの赤と白が、通りに洪水のように流れていた。
ナミとの約束が頭に蘇る。
「変なことを頼まれちゃったよなぁ」
思わずぼやきながら、将之は夜の街を眺めた。
黒い闇に突然浮かぶネオンの広告は、まるでそれそのものが電脳世界であるかのようで、今の将之には少し刺激が強すぎた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 ・1555 / 倉塚・将之 / 男 / 17 / 高校生兼怪奇専門の何でも屋

NPC
 ・1583 / 太巻大介(うずまきだいすけ)/ 男 / 不詳 / 紹介屋 
  外見年齢30前後。迷惑と面倒を運ぶと噂の仕事斡旋屋。
 ・アキラ /人を操り、神になろうとしている青年
 ・ナミ / アキラの知り合い。ネット「哀しい夢」で生き続ける少女。

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■         ライター通信          ■
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始めましてこんばんは!そしてお待たせいたしました。
うっかり週末に突入してしまいました(殴)。すすす、すいませ……!そんなわけで月曜日発です。やっほう!(自棄)。…………。……ごめんなさい曜日間違えてました………(撲殺)
色々こちらに任せていただいたところが多かったので、今までとはちょっと違った意味で楽しませていただきました。面白かったです!
刀とか若者とか高校男子とか、仕事中はがらっとクールになる将之君とか、楽しかったです。
またどこかで機会がありましたら、これに懲りずに遊んでやってください。
どうもありがとうございました!

在原飛鳥