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■今夜は朝までパワフルポーカー■

高原恵
【0506】【奉丈・遮那】【占い師】
●オープニング【0】
 夜明けの程近いあやかし荘。いつもであれば明かりの消えている部屋がほとんどだが、この日ばかりは違っていた。どの部屋も、赤々と明かりがついているのだ。
 それにはもちろん理由がある。実はあやかし荘では昨日の夜からポーカー大会が行われていたのである。終了予定は夜明け頃……つまり、もう間もなくだ。
 参加者たちはチップ代わりのお菓子を手に、各部屋を股に掛けてポーカーに興じていた。各部屋では、基本的にその部屋の住人が親となって参加者たちを待っていたのである。
 管理人室では、嬉璃が親となって参加者たちを迎え撃っていた。ちなみに管理人である因幡恵美は、空いている部屋に移ってそこで親をしている。
「夜明け近くぢゃな」
 カードをシャッフルしながら、嬉璃が窓の外を見た。空がうっすらと明るくなり始めている。
「そろそろ最後の勝負になるぢゃろうなあ」
 確かに、その通り。皆の体力的なことも考えると、この辺りが潮時だろう。
「少し提案があるんぢゃが」
 ふと手を止めて、嬉璃が含み笑いを浮かべた。……何か妙なこと企んでるのか?
「どうぢゃ、最後の一勝負は一番強い役で勝った者の言うことを聞くというのは? ただし、簡単にすぐ実行出来るようなことぢゃ」
 そう来ましたか。ふむ、最後の一勝負には相応しい内容かもしれない。
 しかし、ということは、あんなことやこんなこともやっていい……と?
「分かっておろうが、あんまり酷いことはダメぢゃぞ」
 ええ、ええ、分かってますとも。
 何はともあれ……その提案乗ったぁっ!


〈ライター主観による依頼傾向(5段階評価)〉
戦闘:ある意味5/推理:ある意味5/心霊:?/危険度:?
ほのぼの:5/コメディ:3/恋愛:?
*プレイング内容により、傾向が変動する可能性は否定しません
*以下の設定文は必ず目を通しておいてください

【募集予定人数:1〜10人】

今夜は朝までパワフルポーカー

●VS因幡恵美【1C】
 あやかし荘の管理人室――ではなくて、全く別の部屋。ここにはテーブルを囲む5人の姿があった。まず、そのうちの1人はあやかし荘の管理人である因幡恵美だ。他の4人を順番に紹介してゆこう。
 恵美から見て右隣、そこには相変わらずほえほえとした笑顔を浮かべているファルナ・新宮が座っていた。背後にはメイドであるファルファの姿もある。
 今度は恵美の真正面、そこには眠た気な目を擦る奉丈遮那が座っていた。昨夜から延々と続くポーカー大会に、眠さもピークに達しつつあったようである。ちなみに最初からずっとこの部屋に居たというのは、公然の秘密である。
 そして最後は恵美の左隣、そこにはおっとりとした雰囲気を漂わせる、ポニーテールで眼鏡をかけた少女が座っていた。大曽根千春である。
「こんなに来るとは思ってなかったです」
 カードをシャッフルしながら、恵美が言った。恵美の言うように、一番人が集まったのがこの部屋であった。
「私もぉ……ここに来るとは思ってもみなかったですぅ」
 千春がゆっくりと言った。こんな言葉が出るのも無理もない。気付いた時には、千春はすでにあやかし荘に来ていたのだから。誰が連れてきたのか、さっぱり分からないままに。
「うふふふふ……楽しいですねえ〜」
 ファルナが会話に加わってきた。が、徹夜モードに入ってしまったせいなのだろう、いつもの笑みに見えるのだが妙に目が据わってしまっていた。
 そんな2人に挟まれた遮那はというと、眠た気な目をしながらもじっと恵美がシャッフルする様子を見つめていた。何をいわんや、である。
「じゃあ、配りますね」
 シャッフルを終えた恵美は、ファルナ、遮那、千春、そして自分という順番でカードを1枚ずつ配っていった。
 全員に5枚ずつ行き渡った所で、皆一斉に目の前のカードを手に取った。
「あのぉ、どういった順番なんですかぁ?」
 千春が手札に目を通す前に、他の者たちに尋ねた。
「ファルナさんから順番で、最後があたしです」
 手札から顔を上げ、答える恵美。
「わたくしからなんですね〜」
「僕は2番目ですね」
 ファルナと遮那が口々に言った。さあ、ゲームの始まりである。

●カードチェンジ・遮那1回目【2D】
〈クラブ   5〉
〈クラブ   6〉
〈クラブ   9〉
〈ダイヤ   3〉
〈ダイヤ   4〉

(どうしようかな?)
 遮那は眠た気な目で手札を見つめ、思案していた。というのも、少々判断に困る手札内容だったからである。
 まずスーツを見てみると、クラブが3枚にダイヤが2枚と固まっている。次に数字を見てみると、これまた旨い具合に並んでいる。これで悩むなという方が無理だろう。
 考える遮那。考えている間にも、目がとろんとなってきてしまう。長く考えていると、力尽きてこのまま眠ってしまうかもしれない。
(……眠いなあ……)
 遮那はごしごしと目を擦った。それからふと役の強弱を考えてみた。
(ストレートとフラッシュ、どっちが上だったかなあ?)
 上の役はフラッシュである。これで狙う役は決まった。大きい役を狙うなら……選ぶのはあっちだ。
 遮那は手札から2枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

捨て札:〈ダイヤ   3〉
捨て札:〈ダイヤ   4〉

●カードチェンジ・恵美1回目【3C】
ファルナ捨て札:〈クラブ   2〉

遮那捨て札:〈ダイヤ   3〉
遮那捨て札:〈ダイヤ   4〉

千春捨て札:〈ダイヤ   A〉
千春捨て札:〈スペード  Q〉

 3人がカードチェンジを終えた所で、よいよ恵美の順番が回ってきた。その途中に、ファルナが『やっぱりハートのストレートフラッシュが綺麗ですよね〜』などと言っているのが少々気になる所ではあるけれども。
「うーん、どうしよう」
 眉をひそめ悩む恵美。どうやら選ぶのが難しい手札内容のようだ。
「もう何か役が出来ているんですか〜」
 ファルナが何気なく言ったが、恵美は何も言わずに苦笑するだけだった。
「えっと、じゃあこれで」
 しばし悩んだ末に、恵美は手札から1枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

恵美捨て札:〈ダイヤ   K〉

 これで1回目のカードチェンジが全員終わり、次から2回目に突入することになる。

●カードチェンジ・遮那2回目【4D】
〈クラブ   5〉
〈クラブ   6〉
〈クラブ   9〉
〈ダイヤ   J〉
〈スペード  6〉

「……むー……」
 これで何度目になるか、遮那はまたごしごしと眠い目を擦って手札を見た。
 状況は先程とほとんど変わっていない。ノーペアがワンペアになっただけである。しかし、ここでフラッシュ狙いを止めてスリーカードやフォーカードを狙うという選択肢も出てきていた。
(うーん……)
 思案……というか、うとうととしながらどうするか考える遮那。
 先程恵美がチェンジしたカードは1枚。これはある程度、手札が固まっていると見る方が正しいだろう。とすると、ワンペアやツーペア程度では太刀打ち出来ない可能性も高い。ツーペアが出来ていて、フルハウス狙いかもしれないのだから。
 遮那は結局、引いてきたカードをそのまま場に捨てることにした。

捨て札:〈ダイヤ   J〉
捨て札:〈スペード  6〉

●カードチェンジ・恵美2回目【5C】
ファルナ捨て札:〈スペード 10〉

遮那捨て札:〈ダイヤ   J〉
遮那捨て札:〈スペード  6〉

 ファルナが1枚、遮那が2枚各々カードチェンジし、恵美に順番が回ってきていた。ちなみに千春は2回目のカードチェンジを行わなかった。
「うーん……」
 1回目同様、眉をひそめている恵美。しかし1回目とは違って、手がすっと動いている。そしておもむろに手札から1枚つかむと、それを場に捨てた。

恵美捨て札:〈ハート   Q〉

「全員終わりましたね〜」
「終わったんですかぁ」
「終わ……あふ……」
 恵美が山札からカードを1枚引いたのを見て、ファルナ、千春、遮那が口々に言った。もっとも遮那に関しては、あくびが出て言葉が尻切れとんぼになってしまっていたが。

●ショーダウン・VS因幡恵美【6C】
 さあ、いよいよショーダウンとなった。最初に手札を開くのはファルナである。
「こうなりました〜」

〈クラブ   4〉
〈ハート   5〉
〈ダイヤ   6〉
〈クラブ   7〉
〈ハート   6〉

 ファルナの手札はワンペアが成立していた。少なくとも勝つ可能性はあるということだ。
 次に手札を開くのは遮那だ。
「えっと……僕はこうです」

〈クラブ   5〉
〈クラブ   6〉
〈クラブ   9〉
〈スペード  A〉
〈スペード  4〉

 遮那は手札を開くとがっくりとうなだれた。
「勝ちたかったなあ……」
 遮那の手札はノーペア、何の役も出来ていなかった。今の所、ファルナが暫定トップである。
「あのぉ……開けばいいんですよねぇ?」
 3番目、千春はそう言いながら1枚ずつ手札を開いていった。

〈ハート   2〉
〈ハート   9〉
〈ハート   3〉
〈ハート   K〉
〈ジョーカー  〉

「フラッシュだ……」
 恵美が驚いたように言った。
「あら〜、ハートばかりでいいですね〜」
 うらやましそうなファルナ。何も言わない遮那も、千春の手札をうらやましそうに見ている。だが当の千春は、ただにこにことしていた。
「あーあ、負けちゃったなあ」
 恵美は溜息を吐き、自分の手札を開いた。

〈スペード  J〉
〈スペード  2〉
〈スペード  8〉
〈スペード  7〉
〈ダイヤ   5〉

 恵美の手札はノーペアだった。この時点で勝者が決定した。最後のゲームに勝ったのは意外や意外、千春であった。

●連鎖反応【7C】
「勝っちゃいましたねぇ」
 千春がぽつりとつぶやいた。勝者は簡単な内容を1つ命令出来る。他の皆は、千春の言葉を待っていた。
「そうですねぇ……」
 上目遣いになり、思案する千春。唇に自然と指が触れていた。やがて千春が決めた命令の内容は、次のような物であった。
「……肩が凝ってるのでぇ、肩を揉んでもらえますかぁ?」
 千春がにっこり笑顔で言った。無難な内容といえば無難であろう。
「あ、はい。じゃああたしから揉みますね」
 すくっと立ち上がり言う恵美。そして千春の背後に回ると、そっと肩に手を置いた。
「このくらい?」
 恵美が千春の肩を揉み始めた。力加減を尋ねる恵美に対し、千春は小さくこくこくと頷いていた。ちょうどいい感じらしい。
「……順番で揉んでゆくんですよね、これって?」
 そろそろ眠さも限界なのだろう、遮那が両手を目に押し当てたまま尋ねた。
「順番ですか〜。なら、次はわたくしが揉みたいですね〜。スキンシップは大切ですから〜」
 ファルナはそう言うとゆっくりと立ち上がり、とことこと千春の方へ近付いていった。
「あら〜?」
 が――徹夜のためか、それとも何かにつまずいたのか、ファルナの身体が前に向かって倒れていった。
「ひあぁっ!」
「きゃっ!」
 前に居るのはもちろん千春と恵美。横からファルナに倒れ込まれた2人は、まるでドミノのように真横に倒れていった。
「わわっ!」
 ファルナが倒れ込んだのを見た遮那は、当然のごとく千春と恵美が倒れるのを阻止するため、支えようとした。しかし、かかってくる体重は少女ばかりとはいえ3人分。小柄な遮那はひとたまりもなかった。
 かくして、一瞬にして遮那は3人に押しつぶされる形になったのである。不幸中の幸いと言えるのは、遮那の直接上に倒れていたのが恵美だったことだろうか。
 あやかし荘中に響き渡る三下の悲鳴を耳にしたのは、ちょうどそんな時であった――。

【今夜は朝までパワフルポーカー 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
                   / 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・奉丈遮那さん、2度目のご参加ありがとうございます。いやはや、残念ながら負けてしまいましたね。おまけに押しつぶされてますし。ただ、恵美とは密着した状態ではあるんですけれども。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。