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■今夜は朝までパワフルポーカー■

高原恵
【1207】【淡兎・エディヒソイ】【高校生】
●オープニング【0】
 夜明けの程近いあやかし荘。いつもであれば明かりの消えている部屋がほとんどだが、この日ばかりは違っていた。どの部屋も、赤々と明かりがついているのだ。
 それにはもちろん理由がある。実はあやかし荘では昨日の夜からポーカー大会が行われていたのである。終了予定は夜明け頃……つまり、もう間もなくだ。
 参加者たちはチップ代わりのお菓子を手に、各部屋を股に掛けてポーカーに興じていた。各部屋では、基本的にその部屋の住人が親となって参加者たちを待っていたのである。
 管理人室では、嬉璃が親となって参加者たちを迎え撃っていた。ちなみに管理人である因幡恵美は、空いている部屋に移ってそこで親をしている。
「夜明け近くぢゃな」
 カードをシャッフルしながら、嬉璃が窓の外を見た。空がうっすらと明るくなり始めている。
「そろそろ最後の勝負になるぢゃろうなあ」
 確かに、その通り。皆の体力的なことも考えると、この辺りが潮時だろう。
「少し提案があるんぢゃが」
 ふと手を止めて、嬉璃が含み笑いを浮かべた。……何か妙なこと企んでるのか?
「どうぢゃ、最後の一勝負は一番強い役で勝った者の言うことを聞くというのは? ただし、簡単にすぐ実行出来るようなことぢゃ」
 そう来ましたか。ふむ、最後の一勝負には相応しい内容かもしれない。
 しかし、ということは、あんなことやこんなこともやっていい……と?
「分かっておろうが、あんまり酷いことはダメぢゃぞ」
 ええ、ええ、分かってますとも。
 何はともあれ……その提案乗ったぁっ!


〈ライター主観による依頼傾向(5段階評価)〉
戦闘:ある意味5/推理:ある意味5/心霊:?/危険度:?
ほのぼの:5/コメディ:3/恋愛:?
*プレイング内容により、傾向が変動する可能性は否定しません
*以下の設定文は必ず目を通しておいてください

【募集予定人数:1〜10人】

今夜は朝までパワフルポーカー

●VS三下忠雄【1D】
 あやかし荘『ぺんぺん草の間』――まあ本当はちゃんとした名前があるのだが、その名前で呼ぶ者はほとんど居ない。
 ここにはテーブルを囲む2人の男性の姿があった。1人はこの部屋の住人で、今回のポーカー大会に無理矢理参加させられてしまった三下忠雄だ。そしてもう1人、テーブルを挟んだ三下の前には銀髪で眼鏡をかけた細身の少年が居た。淡兎・エディヒソイだ。ちなみに『淡兎』が名字である、念のため。
「どうして僕はこんなことをやってるんでしょう……今日も早くから仕事なのに」
 首を傾げつつも、カードのシャッフルは続ける三下。いかにも徹夜明けといった雰囲気を漂わせていた。
「知らへん」
 さらっと答えるエディヒソイ。さすがに高校生、こちらはまだ大丈夫そうである。まあ、事実分からなかったからそう答えたまでのことなのだが。
 三下の場合、やはり無理矢理参加させられたことがまだ尾を引いているのかもしれない。だが、それもこれもこの1回で終わりである。……命令を果たし終えたら、という条件はつくけれども。
「あの……痛いとか苦しいって命令は、出来れば避けてほしいな……なんて」
 シャッフルを終えた三下は、エディヒソイと交互に1枚ずつカードを配りながらおずおずと言った。
「あー、大丈夫。それはない、はず」
 『はず』というのが少々気になるが、エディヒソイの頭の中には痛いや苦しいとは関係ない命令がすでに用意されているようである。
 やがてカードを5枚ずつ配り終えると、三下は残りを山札として場に置いた。
「ワイからやったっけ?」
 目の前のカードを手に取り、順番を確認するエディヒソイ。
「あ、そうです。僕は後です」
 三下は質問に答えると、自分も配られたカードを手に取った。ゲーム開始だ。

●カードチェンジ・エディヒソイ1回目【2F】
〈クラブ   6〉
〈スペード  6〉
〈スペード  9〉
〈ハート   J〉
〈スペード 10〉

「ふーん……」
 エディヒソイは手札を見ると、そうとだけつぶやいた。
(ワンペアやな)
 手札が配られた時点ですでにワンペアが成立していた。これがスリーカードだったらよりゲームもやりやすくなっていたのだろうが、まだノーペアでなかっただけましと言えよう。
(さて、どないしょ)
 思案するエディヒソイ。ここからどう展開させるかが問題である。素直に考えれば、ワンペアを生かしてツーペアやスリーカード、さらにフルハウスやフォーカードを狙ってゆくのが普通だろう。
 しかしちょっと冒険をして、ストレートやフラッシュを狙ってみるのも面白いかもしれない。手札を見れば、そちらへ転がろうと思えば転がることが出来そうなのだから。
 だがエディヒソイは、確実さの方を選んだ。つまりワンペアを生かす方に出たのである。
 エディヒソイは手札から2枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

捨て札:〈スペード  9〉
捨て札:〈スペード 10〉

●カードチェンジ・三下1回目【3D】
 エディヒソイのカードチェンジが終わると、今度は三下のカードチェンジである。
「最初のん、終わったで」
「あ、はいっ! うう……どうしよう……」
 エディヒソイに声をかけられた三下は、手札をしっかと握ったまま凝視していた。
「何捨てようかなあ……」
 エディヒソイは、三下が困っている様子がはっきりと分かった。というか、ポーカーフェイスうんぬん以前の問題である。あまりにも分かりやすすぎる。
「……これなんでしょうかねえ」
 どうにも煮え切らない様子ながらも、三下は手札から2枚選び取ると場に捨てた。

捨て札:〈ハート   6〉
捨て札:〈ダイヤ   J〉

 そして山札から新たに2枚引いて手札に加える三下。2枚目を手札に加えた瞬間、三下の表情に驚きが見えた。
「ん?」
 エディヒソイはそれを見逃さなかった。
「何かええのん来たんちゃう?」
 ニヤッと笑って、カマをかけてみるエディヒソイ。すると三下は、慌ててふるふると頭を振った。
「い、いえっ、何もっ、何も来てませんよっ!」(ばればれやん)
 エディヒソイは三下の態度につい苦笑した。これは、いいカードが回ったと考えるべきだろう。
 ゲームは2回目のカードチェンジへと入っていった。

●カードチェンジ・エディヒソイ2回目【4F】
〈クラブ   6〉
〈スペード  6〉
〈ハート   J〉
〈ダイヤ   3〉
〈ダイヤ   4〉

(代わり映えせんやん)
 手札を見て、エディヒソイはそう思った。ワンペアのまま、先程と何ら変わっていないからである。
 エディヒソイはちらっと三下を見た。三下はどこかそわそわとしていて、落ち着きがなかった。
(そこそこええ役なんやろな)
 再び手札に視線を戻すエディヒソイ。三下の手札がそこそこいいと仮定すると、ワンペアでは到底勝てないのは間違いない。
 ならスリーカードやフォーカードを狙えばいいのだろうが、フォーカードは〈ジョーカー  〉が来ない限り無理である。何故なら先程、三下が〈ハート   6〉を場に捨てていたのだから。
 エディヒソイはしばし思案してから、手札より3枚を選び出して場に捨てた。そうしないと勝ち目はないと踏んだのである。

捨て札:〈ハート   J〉
捨て札:〈ダイヤ   3〉
捨て札:〈ダイヤ   4〉

●カードチェンジ・三下2回目【5D】
 エディヒソイの2回目のカードチェンジも終わり、三下の最後のカードチェンジを迎えた。
「また順番回ってきたで」
 三下を急かすエディヒソイ。しかし三下は、申し訳なさそうにこう言った。
「すみません。僕、これで……」
 何とカードチェンジしないというのだ。これで何がしかの役が成立していることは確定となった。三下にブラフという真似は出来やしないのだから。
(参ったな)
 口元をへの字に結ぶエディヒソイ。ゲームは最終局面、ショーダウンへと入っていった。

●ショーダウン・VS三下忠雄【6D】
 さて、ショーダウンである。先に手札を開くのはエディヒソイの方だった。
「ワイの手はこれや」

〈クラブ   6〉
〈スペード  6〉
〈スペード  Q〉
〈ダイヤ   A〉
〈クラブ   7〉

 難しい表情をしているエディヒソイの手札は、結局ワンペアのまま変わらずであった。
 続いて三下が手札を開く番である。三下は申し訳なさそうな表情でこう言った。
「すみません……こうなっちゃいました」

〈クラブ   2〉
〈クラブ   5〉
〈クラブ   8〉
〈クラブ   A〉
〈クラブ   4〉

 何と! 三下の手札はフラッシュが成立していたのだ。驚きである。
「ほんまかいな……」
 エディヒソイは三下の手札を見て、がくっとうなだれた。でもこれは事実である。
 かくして、最後のゲームは予想外にも三下の勝利で終わったのだった。

●大いに腕を振るい【7D】
(せっかく、朝飯食わせよう思ってたんやけどなあ……)
 うなだれたままのエディヒソイ。考えていた命令はそれであった。が、負けた以上はもう仕方がない。素直に三下の命令に従わなければならない。
 エディヒソイは三下の言葉を待った。しかし三下は思案したまま、なかなか命令を口にしようとはしなかった。本人もまさか勝つとは思ってなくて、命令を考えていなかったのだろう。と、そんな時だ。
 ぎゅるるるるるるぅぅぅぅぅ。
 部屋に腹の鳴る音が響いた。エディヒソイの方ではない、三下の方からだ。
「ああ、もう朝なんですよね。うーん……お腹も空いたし、朝食を作ってもらうのはダメ……ですか?」
 三下がエディヒソイに尋ねた。こういうのを『ひょうたんから駒』とでも言うのだろうか、エディヒソイは首を横に振ると三下の気が変わらないうちに朝食作りを引き受けた。
「よっしゃ、ワイに任せとき!」
 だが三下のその行動は、こう言うに相応しい物であった。『飛んで火に入る夏の虫』と。
 しばらくして、三下の前には皿に盛られた料理が並べられていた。しかしそれは料理と呼ぶより、奥地の軟体生物か、それとも宇宙からの飛来物かと呼んだ方が適しているように見えた。
「さあ、ワイが作った朝食残さず食いぃや!」
 一仕事終え、すっきり満足げな表情のエディヒソイ。それとは対照的に、三下はすっかり困惑した表情を浮かべていた。
 あやかし荘中に三下の悲鳴が響き渡ったのは、それから間もなくのことであった――。

【今夜は朝までパワフルポーカー 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
                   / 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・淡兎・エディヒソイさん、初めましてですね。残念ながら負けてはしまいましたが、三下の判断により朝食を作ることが出来ました。よかった……んでしょうねえ、たぶん? ちなみに戦術が見当たりませんでしたので、設定などを参考にしてこちらで決めさせていただきました。あと、OMCイラストをイメージの参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。