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■今夜は朝までパワフルポーカー■

高原恵
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
●オープニング【0】
 夜明けの程近いあやかし荘。いつもであれば明かりの消えている部屋がほとんどだが、この日ばかりは違っていた。どの部屋も、赤々と明かりがついているのだ。
 それにはもちろん理由がある。実はあやかし荘では昨日の夜からポーカー大会が行われていたのである。終了予定は夜明け頃……つまり、もう間もなくだ。
 参加者たちはチップ代わりのお菓子を手に、各部屋を股に掛けてポーカーに興じていた。各部屋では、基本的にその部屋の住人が親となって参加者たちを待っていたのである。
 管理人室では、嬉璃が親となって参加者たちを迎え撃っていた。ちなみに管理人である因幡恵美は、空いている部屋に移ってそこで親をしている。
「夜明け近くぢゃな」
 カードをシャッフルしながら、嬉璃が窓の外を見た。空がうっすらと明るくなり始めている。
「そろそろ最後の勝負になるぢゃろうなあ」
 確かに、その通り。皆の体力的なことも考えると、この辺りが潮時だろう。
「少し提案があるんぢゃが」
 ふと手を止めて、嬉璃が含み笑いを浮かべた。……何か妙なこと企んでるのか?
「どうぢゃ、最後の一勝負は一番強い役で勝った者の言うことを聞くというのは? ただし、簡単にすぐ実行出来るようなことぢゃ」
 そう来ましたか。ふむ、最後の一勝負には相応しい内容かもしれない。
 しかし、ということは、あんなことやこんなこともやっていい……と?
「分かっておろうが、あんまり酷いことはダメぢゃぞ」
 ええ、ええ、分かってますとも。
 何はともあれ……その提案乗ったぁっ!


〈ライター主観による依頼傾向(5段階評価)〉
戦闘:ある意味5/推理:ある意味5/心霊:?/危険度:?
ほのぼの:5/コメディ:3/恋愛:?
*プレイング内容により、傾向が変動する可能性は否定しません
*以下の設定文は必ず目を通しておいてください

【募集予定人数:1〜10人】

今夜は朝までパワフルポーカー

●VS天王寺綾【1E】
 あやかし荘『桔梗の間』――外観には似つかわしくない豪華さの漂うこの部屋にはテーブルを囲む2人の女性の姿があった。
 1人はおおよそ想像がつくかもしれないが、この部屋の住人である天王寺綾だ。そしてテーブルを挟んでもう1人、綾の正面に座っているのはシュライン・エマである。
「……んー……」
 シュラインは落ち着かない様子で、ちらちらと室内を見回していた。
「別にたいしたもんはあらへんで。安物ばっかりや」
 綾はカードをシャッフルしながら、さらりと言ってのけた。
(安物って言っても……桁1つ違うんじゃないの?)
 シュラインは内心そんなことを思っていた。家具や何やと詳しくない人間でも、この部屋に入ればたぶんいい物が置いてあることは分かるだろう。つまりそういう部屋なのだ。余談だが、綾がシャッフルしているカードも他の部屋の物に比べて質が高いような気がする。
(事務所と大違いだわ)
 比べちゃいけないのだろうが、つい比べてしまうシュライン。まあ、草間に同じレベルを求めるのは酷だろう。
「遊びでも、うちは負けへんで」
 綾はニッと笑ってみせると、シャッフルを終えたカードを配り始めた。最初にシュライン、次に綾、1枚ずつその繰り返しである。
 そして5枚ずつ配り終えると、綾は残りのカードを山札として場に置いた。
「一応こっちも負けたくはないんだけど」
 そう言ってシュラインは、目の前に置かれたカードを手に取った。綾もそれに続いた。さあ、ゲーム開始である。

●カードチェンジ・シュライン1回目【2G】
〈ダイヤ   4〉
〈スペード  6〉
〈クラブ   7〉
〈ダイヤ   8〉
〈スペード  3〉

「ん……っと」
 シュラインは手札のカードを並び変えると、これからどうするかを思案してみた。
 現時点ではノーペアである。けれども数字の並びを見てみると、上手くストレートを狙えるような並びになっていた。
(強め強めの役は狙っていきたいけど……?)
 この手札内容だったら、ストレートを狙うのが妥当なのかもしれない。その場合、どのカードを捨てるべきかという問題がある。〈ダイヤ   8〉を捨てて5を待つか、それとも〈スペード  3〉を捨てて5を待つかだ。
(広がりがありそうなのは、スペードの3を捨てることかしら)
 例えば〈スペード  3〉を捨てて次に9が来たなら、5だけでなく10も待つことが可能となる。逆に〈ダイヤ   8〉を捨てたなら、5しか待つことが出来ない。確率を考えたら、断然前者だろう。
 シュラインは一旦手札から視線を外すと、綾の方を見てみた。綾は相変わらず自信たっぷりの表情を浮かべていた。
(読めないわねえ)
 綾の表情から手札の内容を察するのは、どうやら難しそうである。
 シュラインは手札からカードを1枚選んで場に捨てると、山札から新しくカードを引いた。

捨て札:〈スペード  3〉

●カードチェンジ・綾1回目【3E】
 シュラインのカードチェンジが終わると、今度は綾のカードチェンジである。
「ちゃっちゃと行かなな、ちゃっちゃと」
 綾は思案もそこそこに、手札からカードを2枚選び出して場に捨てた。

捨て札:〈クラブ   6〉
捨て札:〈スペード  K〉

 そして山札から新たにカードを2枚引く綾。
「何かあれやなあ」
 綾がぼそっとつぶやいたのを、シュラインは聞き逃さなかった。
(まだいい役は出来てないみたいね)
 つぶやきからシュラインはそう踏んだ。仮に役が出来ていたとしても、大きな役ではないだろう。勝てる可能性は十分にあった。
 ゲームは2回目のカードチェンジへと入っていった。

●カードチェンジ・シュライン2回目【4G】
〈ダイヤ   4〉
〈スペード  6〉
〈クラブ   7〉
〈ダイヤ   8〉
〈スペード  Q〉

「むー……」
 思案顔のシュライン。それも無理はない。何しろ3がQに変わっただけなのだから。
(このままストレート狙いで押し進めるしかないかしら。ちょっと危険だけど、せっかくのお遊びだしねえ)
 5が出なければ、ノーペア確定である。しかし5が出てくれれば、たちまちストレートに化ける。まさに生きるか死ぬか、である。
 結局シュラインは、先程引いたカードをそのまま場に捨てることにした。

捨て札:〈スペード  Q〉

 山札から新たに1枚カードを引くシュライン。そして手札に加えようとした瞬間、カードを見てぎょっとした。
(え? これって……)
 はてさて、いったい何のカードが来たのだろうか。

●カードチェンジ・綾2回目【5E】
 シュラインの2回目のカードチェンジも終わり、綾の最後のカードチェンジを迎えた。
「勝負かけんとしゃーないかな」
 綾はそう言って、手際よく手札からカードを2枚選び出して場に捨てた。

捨て札:〈ダイヤ   A〉
捨て札:〈クラブ   9〉

 捨てたら今度は引かなければならない。綾は山札からカードを2枚引いて手札に加えた。
 シュラインは綾の表情を注意深く見ていた。すると、引いたカードを手札に加える瞬間に綾の口元が一瞬ゆるんでいた。
(狙ってたカードが来たのかしら?)
 この反応はそうとしか考えられない。問題はその結果、どのような役が成立したかである。
 ゲームはついにショーダウンへと入っていった。

●ショーダウン・VS天王寺綾【6E】
 さて、ショーダウンである。先に手札を開くのはシュラインだった。
「最後にいいカードが来ちゃって……ね」
 と言って、シュラインは手札を開いてみせた。

〈ダイヤ   4〉
〈スペード  6〉
〈クラブ   7〉
〈ダイヤ   8〉
〈ジョーカー  〉

「ストレートよ」
 何と、最後にシュラインが引いたのは〈ジョーカー  〉であった。その結果、土壇場でストレートが成立したのである。
 シュラインにストレートを出されて、綾は意気消沈するかと思われた。けれども綾は不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ほな、今度はうちの番。うちは……これや!」
 綾は一気に手札を開いてみせた。

〈ハート   2〉
〈ハート   3〉
〈ハート   Q〉
〈ハート   8〉
〈ハート  10〉

「ええっ!?」
 驚くシュライン。何と何と、綾の手札にはフラッシュが成立していたのである。こちらも土壇場、最後のカードチェンジで成立したのだった。
 ストレートとフラッシュ、強いのはもちろんフラッシュである。
「うわあ……やられちゃったわ」
 シュラインが天を仰いだ。かくして最後のゲームは土壇場の大逆転、綾の勝利で終わったのだった。

●マッサージでGO!【7E】
「……お加減はいかがでございますか、お嬢様」
「うんうん、わらわは満足じゃ。ほめてつかわそう」
 どこの時代の話だと言いたくなる会話だが、この会話はシュラインと綾によって交わされていた。
 綾はマッサージチェアに座ってゆったりと、そしてシュラインはそんな綾の足をマッサージしていた。
 綾の出した命令、それはフットマッサージをするという物であった。しかもその間は、『お嬢様と従者』という設定で会話するという条件までつけられて……いやはや、何と言いますか、これは。
(うう……どこでこうなったのかしら)
 何となく釈然としない思いを抱きながら、夜明けのフットマッサージを続けるシュライン。続けているうちに微妙に上手くなってきたような気がするのが、少し悲しかった。
「そこ……そこをもう少し強く」
「……ここでございますね、お嬢様」
 言われた通りに、シュラインは足の裏を押した。恍惚の表情を浮かべる綾。上手くツボに入り、気持ちがいいようだ。
 あやかし荘中に響き渡る三下の悲鳴を耳にしたのは、ちょうどそんな時であった――。

【今夜は朝までパワフルポーカー 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0170 / 大曽根・千春(おおぞね・ちはる)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0506 / 奉丈・遮那(ほうじょう・しゃな)
                   / 男 / 17 / 占い師 】
【 1207 / 淡兎・エディヒソイ(あわと・えでぃひそい)
                   / 男 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ゲームノベル あやかし荘奇譚』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全39場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、変り種なポーカー大会の模様をようやくお届けいたします。過去何度かやったことのあるポーカー依頼ですが、実際にカードを使いながら書いているので結構手間がかかっていたりします。
・今回は参加者が分散しましたので、4つの部屋で1対1の戦いとなりました。ちなみに誰も行かなかったのは柚葉の部屋でしたね……恐らく待ちくたびれて、眠ってしまったことでしょう。
・結果についてはご覧の通りです。部屋によってお話は異なっていますね。まあちょっとした共通項が存在してはいるのですが。
・シュライン・エマさん、54度目のご参加ありがとうございます。何とも惜しかったですねえ。たぶん一番接戦だったのが、この部屋だったのではないかと思います。ああ、フットマッサージ何となく慣れたみたいです、どうやら。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。