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■亜空間へ行こう■ |
伊塚和水 |
【0233】【白神・空】【エスパー】 |
「――あら、ちょうどいいところに来たわ。ねぇあなた、暇?」
何か役に立つ物が転がっていないかとカガリの研究所を訪れた時、カガリに声をかけられた。
「ついにワームホールを作り出すことに成功したのよ。ちょっと行って見てきてくれない?」
とんでもないことをさらりと言う。
カガリの話によると、カガリはタイムESP所持者以外でもタイムトラベルができるようにと、タイムマシンの研究をしていたそうだ。
その結果ついに、タイムトラベルに必要なワームホールを作り出すことに成功したらしい。ちなみにワームホールというのは、"時空の虫食い穴"という意味である。
「亜空間に繋がっているみたいなの。何か研究対象になりそうな物や、発明材料になりそうな物があったら持ってきてね。持ってきてくれたら、その辺に転がってる発明品どれかあげるから」
まだ返事をしていないのに、いつの間にか行くことになっているようだ。
「私? 私は行かないわよ。万が一とじてしまったら、またあけなきゃならないじゃない」
確かに、戻ってこられなくなったら困る。
「じゃ、頑張って」
※亜空間へ行って、カガリが興味を示すような物を取ってきましょう。
※どんな場所(空間)へ行きたいかを必ずプレイングに入れて下さい。
行く場所は、参加者全員の希望場所をミックス(!)した形になります。
※取ってくる物や、最終的にカガリから貰う物まで指定していただいても構いません。
※このシナリオはプレイングにより何度でもお楽しみいただけます。
それではよい旅(?)を……。
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亜空間へ行こう
★☆★ 序 ★☆★
「――あら、ちょうどいいところに来たわ。ねぇあなた、暇?」
何か役に立つ物が転がっていないかとカガリの研究所を訪れた時、カガリに声をかけられた。
「ついにワームホールを作り出すことに成功したのよ。ちょっと行って見てきてくれない?」
とんでもないことをさらりと言う。
カガリの話によると、カガリはタイムESP所持者以外でもタイムトラベルができるようにと、タイムマシンの研究をしていたそうだ。
その結果ついに、タイムトラベルに必要なワームホールを作り出すことに成功したらしい。ちなみにワームホールというのは、"時空の虫食い穴"という意味である。
「亜空間に繋がっているみたいなの。何か研究対象になりそうな物や、発明材料になりそうな物があったら持ってきてね。持ってきてくれたら、その辺に転がってる発明品どれかあげるから」
まだ返事をしていないのに、いつの間にか行くことになっているようだ。
「私? 私は行かないわよ。万が一とじてしまったら、またあけなきゃならないじゃない」
確かに、戻ってこられなくなったら困る。
「じゃ、頑張って」
★☆★ 視点⇒白神・空(しらがみ・くう) ★☆★
まるで宇宙空間のような、真っ暗な世界を通って光の先に出る。眩しさに目を細めたあたしが、その明るさに慣れる前に。
「――おお、ついに現れたか! 待ち焦がれていたぞ」
前方からそんな声が聞こえた。
(誰……?)
光を遮るように手で影を作ってから、少しずつ目を開けていく。
「あ、それ以上歩いたら……」
「え? きゃっ」
あたしは何かの台の上に出たようで、進みすぎて足を踏み外した。そのまま落ちそうになったあたしを、その誰かが抱きとめてくれる。
「大丈夫か?」
「あ、ありがと」
俗にいう"お姫様抱っこ"状態になったので、至近距離でその誰か――男の顔がよく見えた。
(あら……)
切れ長の目に自然と収まった鼻、薄い唇。かなりの美形だが、ゆったりと垂れた長い黒髪から2本の立派な角が生えている。
(一体どんな世界に来たのかしら?)
そういえばさっき、"待ち焦がれていた"とか言ってたけど……。
男はあたしをおろすと、今度は跪いてあたしの手を取った。
「よく来てくれた。これであの勇者をぎゃふんと言わせることができるだろう」
「ぎゃふん」
「――は?」
「いえ、何でも」
あたしは笑顔でごまかした。
(この人……)
こんなナリしてぎゃふんなんて言葉使うんだ。あたしはそれに"ぎゃふん"だ……。
(――とりあえず)
状況を整理してみよう。
どうやら、この人があたしをこの世界に呼び寄せたという設定になっているらしい。そしてその目的は勇者を陥れること?
(じゃあ……)
「あなたは何者?」
顔は果てしなく美形だけれど、角やその格好――妙にだぶっとした服を着ている――からして普通じゃない。
すると男はさも当たり前だという顔をして。
「我は魔王ぞ」
(魔王?!)
言われてみれば、周りにある物はどこかおどろおどろしいアイテムばかりだ。――と、その中の1つに妙な物を見つけた。
「……ねぇ魔王。あれなぁに?」
あたしがそれを指差して訊ねると、魔王は立ち上がって。
「さすが、いい物に目をつけるな。あれは姫のべったら漬けだ。あれを取り戻しに、じきに勇者がここへやってくる。その勇者から我を守ってほしい」
「………………」
ツッコミ所が多すぎて、あたしは瞬間言葉が出なかった。
「――えーとっ……ちょっと待って。べったら漬けって何よ?」
確かに、大きなビンの中になにやら液体が入っていて、その中に姫が(しかも服を着たまま)入っているが……
「それはもちろん漬け物だ。若い娘のべったら漬けほど美味いものはない!」
どうやらこの魔王は食にうるさいらしい。
「で、勇者があれを取り戻しにやってくる……ですって?」
「ああ、そうだ。もともとあれは勇者が作った物だからな。勇者と我はべったら漬け愛好会のメンバーだったのだが、勇者が姫のべったら漬けを独り占めしようとしたので奪って逃げてきたのだ」
「あー、はいはい」
なんだかだんだん話を聞くのが情けなくなってきた。
(子供のケンカに巻きこまれた気分だわ……)
「勇者くらい自分で何とかできないの? 魔王なんでしょ?」
「えー、だって怖いもん」
「”だって”も”もん”もない! そんなこと言ってるからいつも負けるのよっ」
「うっ、何故それを?!」
(やっぱりか……)
どのファンタジーでも、最終的に魔王は勇者に負けてしまうのが常。この世界も例外ではないようだ。もっとも、この魔王は"最終的に"どころか毎回負けているようだが。
「言っておくけどね、あたしはボランティアに来たわけじゃないの。助けてもいいけど、何か貰っていきますからね!」
「それはもちろん。望む物を用意しよう。――む、勇者が来たようだ。シールドが破られた」
不意に魔王が眉を顰める。
「頼むぞ……と、まだ名前を訊いていなかったな」
「白神・空よ。――1つ訊いていい?」
「なんだ?」
「勇者はまともな美形?」
あえて"まともな"とつけたのはもちろん、魔王がまともな美形ではないからだ。
「認めたくはないが……ブロマイドの売り上げはいつも我と1位2位を争っているぞ」
「やる気が出たわ」
キラーンと瞳を光らせてから、あたしはその部屋を飛び出した。
『我が勇者の所まで案内しよう』
そのあとを、光の玉が追ってくる。やがてその玉はあたしを追い越し、あたしを勇者のもとへと導いた。
(さすが……腐っても魔王ね)
建物がやたら広い。勇者側から見たら、ここが最終ダンジョンなのだろう。
(さしずめあたしがラスボス?)
本当のラスボスは魔王だけれど、ラスボスより1つ前のボスの方が強いのもお約束だ。
『いたぞ。あれが勇者だ』
長い階段を駆け下りると、確かに人の姿が見えた。実に勇者らしいスタイル。つんつんと立ち上がった髪、意味のないハチマキ(しかも赤)、無駄に重そうな剣、動きやすそうだけれどあまり防御力を期待できない服。
(でも……確かに美形だわ♪)
とりあえずそれだけで、あたしは満足する。
魔王とは違い、大きめの瞳がなかなか可愛らしくもある。ただその分、勇者というには少々弱そうにも見えるのだが。
「!」
あたしが勇者の前に立ちはだかると、勇者は至極驚いた顔をしてあたしを見つめた。
「き、君は?」
「魔王があなたとは遊びたくないんですって。代わりにあたしと遊んでくれない?」
「?!」
ギュっと、剣を握りしめる音が聞こえた。
(やる気?)
ならあたしは【玉藻姫】に変身するまでだ。こんな細腕の勇者には負けない。
勇者は真っ直ぐに剣を構えると。
「ひ」
「……ひ?」
「一晩いくらですかっ?!」
声をひっくり返しながら、真っ赤になりながら告げた。
「はぁ?!」
あたしの言い方が悪かったのか、それとも彼らはいつもそんな遊びをしていたのか(!)――いやいや、それは考えたくないっ。
倒錯の世界を振り払おうと必死なあたしを無視して、勇者はセリフを続ける。
「実は僕、姫以外の女性と長時間お話ししたことがないのです。ほら、勇者でしょう? ヒロインは決まっていて、それが姫だったのですが、姫があまりにもヤキモチ焼きでうるさかったので……」
「それでべったら漬けにしてしまった、と?」
「そうなんです! でも漬けてしまったらしまったで、他の人にも分けるのが嫌になってしまって」
「独り占めしたら魔王に奪われたというわけね」
「そう、そのとおりですっ。何故わかるんですか? まさかあなたは――運命の人?!」
瞳をうるうる輝かせて、勇者は期待をこめてあたしを見つめた。
(うーん……)
期待を裏切っちゃ悪いかな。
「実はそうなのよ。あたし違う世界から来たんだけどね。よかったら、帰る時一緒に来る?」
「ええ、ぜひ! 僕をこの世界から連れ出して下さいっ」
その時あたしの脳裏には、とんでもない計画が持ち上がっていた。
「――く、空っ。どういうつもりだ! 何故勇者をこの部屋に……」
勇者と共に魔王の部屋に戻ると、姫のべったら漬けのビンの陰に隠れた魔王が叫んだ。声と態度がかみ合っていない。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ、魔王。勇者はもう姫のべったら漬けのことなんてどうでもいいんだから」
「何?! ホントか……?」
「ええ。僕は空さんと共に新しい世界へ行くことにしました! そこで甘い生活を送るのですっ」
「何だと?」
ビンの陰から出てきた魔王は。
「ずるいぞっ、我も行く!」
(おやおや、また"獲物"が増えた♪)
あたしは心の中でほくそえんだ。
「じゃあ引っ越しってことで。ここにある物全部持っていくわよ!」
「え? 全部ですか?」
「もちろん姫のべったら漬けもね」
ワームホールは、あたしがこちらの空間に来た時と同様、台の上に開いたままになっていた。あたしたちはそれを使って何往復もかけて、魔王の部屋にあった物を全部カガリの研究所へと運んだのだった。
★
「勇者の剣に魔王のコレクション、か」
運ばれてきた数々の品を手にとって、カガリは呟く。
「それはいいのだが……」
次にあたしたちの方を向いて。
「ナマモノはさすがにまずくないか?」
あたしの両隣に座ってお茶を飲んでいる2人を、交互に見やった。
「えー、いい研究対象じゃない?」
「何を研究しろと……」
あたしは2人の傍を離れカガリに近づくと、カガリだけに聞こえるよう耳元で告げる。
「あたしが持ってきた物の中に、姫のべったら漬けがあったでしょ?」
「ああ、あったな」
「あれを研究してよ」
「!」
さすがは天才博士。それだけであたしの"目的"を悟ったようだ。
「まさか――」
「魔王は若い娘のべったら漬けが美味しいって言ってたのよね。でもあたしたちにとっては、若い男の方が美味しいと思わない?」
「……だな」
あたしたちはニヤリと笑いあった。
何も知らない魔王と勇者の、楽しそうな話し声を聞きながら――。
(了)
★☆★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★☆★
整理番号 ★ PC名 ★ 性別 ★ 年齢 ★ 職業
0233 ★ 白神・空 ★ 女 ★ 24 ★ エスパー
★☆★ ライター通信 ★☆★
初めまして、お申し込みありがとうございました。ライターの伊塚和水です^^
今回おひとりでしたので、私の方で多少アレンジさせて書かせていただきました。ご了承下さいませ_(._.)_
一応コメディを目指したつもりなのですが、何だかやけにシュールな作品になってしまいました(笑)。少しでも気に入っていただけたら幸いです。ご意見・ご感想などありましたら、テラコンからお気軽にどうぞ。
それでは、またお会いできることを願って……。
伊塚和水 拝
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