■夏だ!海だ!草間兄妹の海水浴1日目■
滝照直樹 |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
「暑い」
土産のスイカを頬張りながら、草間はそう呟いた。
カレンダーではもう、中旬。
「そういや海開きもしたな…市民プールなども開いているし」
何かブツブツ言っている。
「どうかしました?」
零が訊ねる。
猫の焔が相変わらず零の頭の上に乗っているのだ。この猫もまた暑さでへばっている。
「あ、そうだ、7月末に泊まりで海水浴に行かないか?」
「海水浴ですか?」
「季節的には海で遊ぶわけだ」
「いいですね♪」
「何人来るか分からないが…お前から誘ってみるのもどうだろう?」
「はい♪」
よほど嬉しいのか、電話で良く来てくれる人にかけている。
「息抜きには丁度良いだろう」
赤猫が寄ってきて、草間の頭に登ってにゃーと鳴いた。
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夏だ!海だ!草間兄妹の海水浴 1日目
■事務所でのお話
片っ端から、電話をする零。
場所は少し遠いが、海水浴場で穴場を見つけたそうだ。車より電車の旅もそう悪くはないかもしれない。
宿泊先は民宿「深淵(ふかぶち)」。民宿でもなかなかサービスがよく、料金が安い。
経理担当のシュライン・エマと、ある科学者が過去の自動人形の設計図を元に作った自動人形・七式は、すでに事務所にいる。電話で呼んだのは海原みなも、天薙撫子、白里焔寿、風野時音だった。
●乙女の準備と地域調査(海原みなも)
零の電話を受けて、
「はい!絶対いきます♪」
と、二つ返事。もう夏休みの宿題は、自由研究と読書感想文以外は全部済ましているし、妹の世話は久々に帰ってきた母親に頼んだ。母親は、
「良いわよ」
と、優しい笑顔+神速の早さで承認。
うきうきと準備を進める。旅行に必要な道具や着替え(こっそり女の子の必需品も入れなくてはならない)。他には、浴衣と水着は白の競泳もの。霊水入りのクッキーを作って、道中も楽しむことも考える。
ひとまず荷物はまとまったので、もう一度零に電話した。場所を詳しく知りたいからだ。
[兄さんが知ってるので、変わりますね]
と探偵に変わる…
[もしもし…にゃー]
「猫になったのですか?草間さん…」
[いや、頭の上に猫が居るんだよ にゃー]
あ、なるほど、と笑いをこらえるみなも。
場所を聞いた後、パソコンなどで地域を調べる。
「へぇ、こんな所に海水浴場あったんだ〜」
一寸遠いだけ。電車に揺られても昼には存分に遊べる。
ただ、気になるのは、「名も無き水の神」を祀っているという事だった。名前が無いというのは気にかかる。
「お姉様に聞いた方が良いかな?…」
近くに磯があり、洞窟もあるらしい。
旅行記サイトで「深淵」のことも分かった。かなりサービスが良く安い宿泊料。
写真を見ると…
「これが民宿?」
と驚いた。
■ハーレム状態?
はっきり言えば…時音家族を除くと…ハーレムだ。
言い方はなんだが、男一人ということだ。(あくまで時音は除く)
女の子達を連れて海というのはなかなかな物だ。だいたい今時の若い者でも、此処までは出来まい。
人生に勝利した気分の草間であるが、ポーカーフェイスを貫く。
しかし頭にシュラインが作ってくれた足袋をはめた焔が乗っかっており、間抜け。
何故、彼女が頭に乗っかるのかは分からない。
皆が事務所に集まってきた。待ち合わせ場所など駅前より此処の方が便利なのだ。
夏用の着物で落ち着いてやって来た天薙姉妹。
白のサマードレスと同色のリボン、つばの広い麦わら帽子に白のサンダルの姿の焔寿。チャームとアルシュは彼女の持っているバスケットの中に入って、二匹とも顔を出していた。
零は、いつもの服ではなく、動きやすい夏物の服だが、珍しく半袖のTシャツ、女性物のパンツの姿だ。草間に至っては…アロハシャツに短パン、ビーチサンダルという…、ハードボイルドどうこうではなかった。シュラインは、青いシャツに白いパンツだ。
時音はラフな極普通のカジュアルファッションで、歌姫は夏物の着物で赤子を抱いている。
ワイワイと女性陣はおしゃべりして、目的地に向かう。
徐々に都心から離れていくに連れ、電車の中は人が少なくなっていった。
そして、ローカル線に乗り換え、ゆったり昼食。
「あ、海が見えるよ!」
みなもが指をさして言う。綺麗な蒼が広がっていた。
ディーゼル車の車窓からの景色は、速くもなく遅くもなく、海の綺麗さを見せてくれてた。
そして事故も起こらず目的地に着いた。
民宿にしては…考えられない大きな家…まるで屋敷だ。
「本当に民宿?」
写真などを見ていない者は草間に訊いた。
「みろよ看板を…」
確かに民宿「深淵」だ。
屋敷といっても、西洋のものでなく、昔からその地の主がもつ瓦葺き屋敷だ。老舗の高級旅館としてでも通るはずだ。しかし何故に民宿なのだろう?
「謎があってステキですぅ」
亜真知はワクワクして言った。
「ま、そう言うことの方が良い」
と、草間。
「でも、どうして?」
まだ納得のいかない方々。
「簡単な話だ。ここを切り盛りしているのは若い兄妹と、二人の使用人しか居ないのだからな」
「その家族構成…気になります…」
「そんなことより、挨拶するぞ」
質問の嵐を浴びせられる前に、さくさくと草間は歩き出した。
「まってよ、兄さん」
「いらっしゃいませ、草間さん」
割烹着を着た笑顔の使用人らしき少女が出迎えてくれた。
「やぁ、夏美。久しぶり。今日は団体だから頼むよ。いつもの彼奴達は?」
「はい、わかりましたぁ。ええ、あのお二方はいつもの通りですよ、草間さん」
ニコニコと使用人は笑いながら答えてくれる。
「雪ちゃん、お客様のお荷物を」
「わかりました、姉さん」
同じく割烹着の少女がゆっくりとやって来て、深々とお辞儀をしてから、
「いらっしゃいませ、民宿深淵へ」
といい、荷物を持っていった。
「何時知ったのよ?教えてくれなかったじゃない前…」
「さーな」
シュラインの質問をさらりとかわす草間。
ぞろぞろと、雪とその姉、夏美に部屋を案内される。草間は1人。女性は2つに別れて、時音家族は1部屋となる。なかなか手際がよい。
「ではゆるりとしてくださいねー」
夏美がニッコリと微笑んで退室していった。
全員の部屋は、高級旅館を思わせるもので、窓からは一面の蒼い海が見渡せる。
「すご〜い♪」
感想はこの言葉だけで十分だ。
「さて、夕食の時間もありますし少し泳ぎに行きますか」
「さんせー!」
女性陣は、バカンスを楽しむことにしたのだった。
■浜辺での一時
海の家はかわうそらしき生き物が仕切っている。みなもは何処かで見た様な…と首を傾げる。
それ以外は、文句の付け所のない綺麗な海に最果てに磯。
男達がパラソルをたてたり、レジャーシートを広げたりしている間、七式が防水の為カッパをきて荷物を運ぶ。夏美が、美味しそうなスイカを持ってきてくれた。何とサービスが良いのだろう。
「準備体操忘れるなー」
大人達が、子供達にいう。特にはしゃいでいる零には注意しておかなくてはならないだろう。
歌姫の水着姿は珍しい。しかもすべすべの肌。時音を始め誰もその美しさに見とれた。
しかし、一部の女性達の心は。
「がんばらなきゃ」
と思っていたに違いない。
草間は、柄の入った海水パンツで仁王立ちしているが、相変わらず焔が頭に乗っているので間抜けである。
いつの間にかチャームとアルシュも乗っかっているので更に間抜け。絵になるのかはさておいて…。
「お…重い…」
草間は呟く。
零とみなもと亜真知は、さっそく波で遊んでいた。
押し寄せてくる波で零はきゃっきゃっと喜んでいた。みなもは白い競泳用の水着をきている。
まずは、零に初めての水遊びを楽しんで貰おうと一緒に遊んでいる。亜真知も一緒に久々と思われる海を楽しんでいた。
最初は水のかけあいっこ。
じょじょに、海の中に入っていく。
そして、零や亜真知に泳ぎ方(人魚ではなく人間として)をおしえて、数十分泳いだ。
撫子と、シュラインは日焼け止めをぬって、パラソルでゆっくりしている。撫子は本を読みながら、シュラインは荷物番だ。その隣に七式が不動の姿勢で立っている。
「泳がないの?」
「ええ、こうしてる方が性に合うのです」
「そう、じゃ、私も…」
あらかじめ用意していた、翻訳するための「仕事」の本を軽く読んでいた。
七式が気を利かせてか、二人のために麦茶を入れていた。
「ありがとう」
夏の浜辺でこういうゆったりとするのもいいだろう。
しかし、時音の様子が変だ…歌姫も何かおろおろしている。
まるで、敵を迎え撃つ様な気迫が彼を包んでいた。
「海から…敵が来るはずだ」
なにか、勘違いしてますよ。
まず、浜辺に、謎の幾何学模様を描く、そしてそれに両手を押し当てて、気合いを入れると…
轟音と共に砂城…いや、大きな要塞ができた…。まるで羽柴秀吉が3日で城を築いた様に…。
その屋上には時音が赤子を抱いて、高笑いしている。その側に呆然としている歌姫。
「ぼうや、これからは戦いが待っているよ、君は退魔の子、そのためには…」
と延々赤子に蘊蓄らしいことを話している。
「やはり退魔の人間…考え方が分からない…」
草間達は頭痛を起こしていた。
亜真知は「ソレ」を待っていたかの様にワクワクしている。
誰かがその砦の中に入っていった…
数分も経たず…男の断末魔が聞こえ…砦の壁が少し開き…砂で出来たバリスタに乗せられ…無慈悲にも…人間の矢となって海に飛ばされた。
「面白そう!」
みなもと零、亜真知の感想。
「どこがだ!」
草間は猫をバスケットにいれて、突っ込む。
「時音くん暴走してるわね」
のんきに答えるシュライン。
「しかしだな!あ、零はいるな!危険だ!」
「大丈夫よ、零ちゃんは丈夫なのだから」
「そうですよ、過保護すぎです」
とんでもない能力者が居ればこれぐらいは当たり前だろうと分かっていたシュラインと撫子だった。
時音の作ったトラップの数々を態とうけて、バリスタで海に飛ばされることを楽しんでいる3人の姿が暫く続いた。
そして、3人が屋上にたどり着いた時に、途中で見つけたハリセンを歌姫に渡して…。
浜辺に大きなハリセンの音が響き渡った…。
ちなみに謎の人物は全く攻略できなかったようで、いまでは沖まで流されている…とは誰も知らない。
面白いので、その砦は暫く残すことになる。
焔寿は、猫たちとブルーの秘密道具をもって1人、浜辺をあるいていた。遠くで砦の騒ぎを眺めてクスクス笑う。泳ぐことは出来るのだが、肌を焼きたくないことと、人に肌を見せるのは恥ずかしいことで泳がないことにした。
「どこいくの?」
アルシュが訊ねる。
「綺麗な貝殻をさがすの」
「ふ〜ん」
少し先に綺麗にきらめく砂浜を見つけた。
たどり着くと、美しい貝殻たちが流されてきていたようだ。
潮の流れに乗って海からみなもが出てくる。
「あれ?およがないの?焔寿さん」
「はい」
「楽しい…うんわかった、またね」
みなもは彼女の気持ちを察したのか海から出て、再び砦に向かっていった。
焔寿はそこで綺麗な貝殻を集めていった。
中に少し重い貝殻を拾ってしまい、にょきっと出てきたヤドカリに吃驚する。
「お、すまなんだ」
とヤドカリ。猫も喋るのだから驚く必要もない。
「済まないが、海に帰してくれないかな?」
「はい、分かりました」
ニッコリと答える焔寿。
そして、彼を海に放してあげた。
掌には…綺麗な黒真珠が乗っていた。
「ありがとう」
チャームは水が嫌いなので、遠くで見守る。虹猫2匹は、波で遊んでいる。流されるも、猫泳ぎで戻ってくるから、なかなか侮れない…。本当に猫?と思う焔寿だった。
零達が遠くで
「すいかわりしますよ〜」
と呼びかけてくれたので、彼女は猫をバスケットの中に入れ、焔を頭に乗せて戻っていった。
スイカ割りと聞いて亜真知はワクワクと気合いを入れている。
殺気にも似ている気迫に従姉の撫子はある意味怖がっている。
「其処まで張り切らなくても…」
と言いたいのだが、流石に神には言えない…。
実際、あの剣客と某巫女のような対等な立場ではないからだ。
たんこぶの出来た時音の案…砦の上にスイカを置いて先に割った者が勝つという…のは、全員からハリセンで却下される。最悪な事態…七式が海の藻屑と消えることを恐れてだ。
すでに、七式は涙を流しながらシュラインの陰に隠れていた。
「いやです!絶対イヤです!海に落ちたら…わ…わたくし!」
「落ち着いて、大丈夫だから…そんな事しないから」
泣いている七式をなだめるシュライン。
普通に目隠しして、スイカ割りを楽しんだ。そのあと極上のスイカの味を楽しんだ。
殆どのスイカを割ったのは亜真知と零であったりする。
■夜
夕食を終え、ロビーで談話している時に宿の女主人がやって来た。
「ようこそお越し下さいました、深淵の当主、青波紅葉と申します。ゆっくりしていって下さい」
「お世話になります」
と一行は返事する。
「兄の直也は?」
「草間さん、兄さんはまた逃げてます…困ったものです、謎の事件を解決した後また…」
草間の質問に溜息をついて紅葉は答えた。
「謎の事件?」
「ええ、でも兄さんなら大丈夫ですよ、ゆっくりしてくださいね」
紅葉は深々と礼をしてから、その場を去った。
「謎ね〜」
此処いる全員が怪奇事件に関わって居るものだから気になる。しかし、
「あの兄妹はなかなかの腕前だから気にすることもない。それに事件を解決したみたいだからな」
と草間がいった。バカンスに来てまで事件に関わりたくはない。
そろそろ就寝の時である。
亜真知が
「皆さんで海が見える窓を見てください!」
と言っていそいそと何処かに向かった。
皆は
「?」
という感じで、従う。
直ぐに意味が分かった。
河川敷の花火大会を思い出すかの様な綺麗な花火が夜空を明るくしていた。
良い夢が見られます様に…と亜真知からの想いであった。
こうして、浜辺に砂の砦を残し…一日は終わりを告げる。
二日目に続く。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0328 / 天薙・撫子 / 女 / 19 / 大学生】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1252 / 海原・みなも/ 女 / 13 / 中学生】
【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 /天翼の巫女】
【1593 / 榊船・亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】
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■ ライター通信 ■
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こんばんは
滝照直樹です。
『海水浴1日目』に参加してくださりありがとうございます。
また機会が有れば宜しくお願いします。
滝照直樹拝
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