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■殺虫衝動 『影の擬態』■

モロクっち
【1651】【賈・花霞】【小学生】
 御国将がメールを受け取ったのは、某月某日。
 そう言えば、昨日もワイドショーは殺人事件の報道に時間を割いていた。ここのところ立て続けに起きている殺人事件は、いよいよ世間の人々にとっても深刻な問題となりつつあるようだ。
 全く、世間は始動に時間がかかる。
 だが一度問題になってしまえば後はずるずると解決まで一直線だ。時事を動かすには、まず世論。
 将とコンタクトを取ろうとしているのは、件のメールの差出人だけではなかった。県警の嘉島刑事もだ。最近、よく電話をかけてくる。彼は知りたがっているだけの様子だった。

 ムシは、一体、何なのだ。

 将はあの日から影を恐れている。時折ちょろりと視界をかすめる蟲にも、いちいち飛び上がりそうだ。
 とりあえず、三下が一番危ないか。ムシを見せてはならない。いや、編集長もか。彼女もなかなかストレスを抱えていそうだ。
 びくびくしながら1日また1日と食い潰していく――それもまた、大きなストレスに繋がる。
 解決しなければ。自分のためにも、世間のためにも。
 ことの真相を知る者とともに。いや、その力をすがりたい。

 ムシを、殺せ。

 メールに記されていた待ち合わせ場所は、つい最近傷害事件があった現場のすぐ近くだった。
殺虫衝動『影の擬態』


■序■

 御国将がメールを受け取ったのは、某月某日。
 そう言えば、昨日もワイドショーは殺人事件の報道に時間を割いていた。ここのところ立て続けに起きている殺人事件は、いよいよ世間の人々にとっても深刻な問題となりつつあるようだ。
 全く、世間は始動に時間がかかる。
 だが一度問題になってしまえば後はずるずると解決まで一直線だ。時事を動かすには、まず世論。
 将とコンタクトを取ろうとしているのは、件のメールの差出人だけではなかった。埼玉県警の嘉島刑事もだ。最近、よく電話をかけてくる。彼は知りたがっているだけの様子だった。

 ムシは、一体、何なのだ。

 将はあの日から影を恐れている。時折ちょろりと視界をかすめる蟲にも、いちいち飛び上がりそうだ。
 とりあえず、三下が一番危ないか。ムシを見せてはならない。いや、編集長もか。彼女もなかなかストレスを抱えていそうだ。
 びくびくしながら1日また1日と食い潰していく――それもまた、大きなストレスに繋がる。
 解決しなければ。自分のためにも、世間のためにも。
 ことの真相を知る者とともに。いや、その力にすがりたい。

 ムシを、殺せ。

 メールに記されていた待ち合わせ場所は、つい最近傷害事件があった現場のすぐ近くだった。
 わざわざそんなところを指定してくるとは――
 将は迷い、考えた末に、ひとりの少女にメールを送った。あれが少女の姿をしているだけで、実は少女ではなく――それどころか人間でさえもないことは知っていたが――将の新しい友人であり、協力者であることは紛れもない事実だった。
 彼女は真実とともに、友人の失踪した兄を探している。それがきっかけであり、彼女を動かす動機だ。呼びかければきっと、応えてくれる――
 将は信じて、メールを送信した。


■こころの咆哮■

 背負ったランドセルの中は、がちゃがちゃと大騒ぎをしていた。
 持ち主の賈花霞が全速力で走っているのだ。ここは東京のど真ん中、もう少しで白王社ビルの出入口が見えてくる。花霞はずっと走っていた。その間ガタゴトと揺さぶられ続けているランドセルの中は、いよいよ大変なことになっていた。こっそり彼女が入れておいたポテトチップス、その袋の口をとめておいたクリップが外れて、教科書とノートと筆箱が大きな被害を受けていたのだ。
 しかし彼女がそれに気がつくのは実に十数時間も後のことになる。
 彼女はとても急いでいた。
 昨晩、彼女の新しい友人から連絡があったからだった。電話ではなく、メールだった。花霞はよほど今日の授業をサボろうと考えたが、きっとあの友人は学校に行かなかったことを咎めるだろう。そんな歳の男だから。
 月刊アトラス編集部は、相変わらず忙しそうだった。ここのところ販売部数が上がっていて、景気がいいらしい。いま不景気な日本の中にあっては、喜ばしいことだろう。ぴりぴりしている麗香や走り回っている三下、つまらなさそうな顔でパソコンに向かっている御国将――何一つ、以前花霞が来たときと変わってはいない。
「『ウラガ』さん! こーんにーちはっ!」
 編集部内の一角に響き渡ったちいさな女の子の声に、何人かがぎょっとしていた。
 御国将もその中のひとりだったが、彼だけはぎょっとした後、顔にうっすらとした笑みを浮かべた。
「よう、『フラワー』」
 簡潔に挨拶をした彼は、すぐにつまらなさそうな顔になって、パソコン画面に目を戻した。
 なぜ花霞が『フラワー』であり、将が『ウラガ』であったか。答えは今のご時世だと簡単なものだ。ふたりのハンドルネームである。
「学校帰りか?」
 将の声はぶっきらぼうなものだった。しかしそれは、花霞がただの小学生ではないことを前提にして話をしようとしているからかもしれない。微妙にドライになりきれていないのは、ちょうど花霞が彼の第二子と同じくらいの歳(の外見)だからだろうか。
「そだよ。ほんとは学校休んで来たかったけど、ミクニさん怒ると思ったから」
「怒りはしないさ。だが運が悪いと補導されるぞ」
「心配してくれてるの?」
「そうかもな」
「花霞より自分の心配したほうがいいよ」
 将は何とも言えない複雑な表情で花霞を見やり、
 それからふたりは、将の影に目を落とした。
「大丈夫だ。大人しくしてる」
「そうみたいだね」
花霞が笑っているのは、安心したからだった。将が安堵していたのと同じように、彼女も胸を撫で下ろしている。
 というのも、将の影は、影であったからだった。
あの歪な事件からちょうどひと月経った。麗香も将の家族も、彼の数日間の失踪はそろそろ許し始めていたし、月刊アトラスの新刊も出版されている。同時に、以前と変わらぬ日常に戻ったことだ――ストレスも悪い具合に溜まっているかもしれない。
が、彼の影を見る限り、将はまだストレスを手懐けている様子だった。
 花霞は人間の負の感情がどれほど厄介で、どれほど強力なものなのかをよく知っている。誰よりも知っていた――おそらく、渦中の将よりも。
「そいで、何があったの? ……友だちの哥々、みつかった?」
「いや……」
 将はゆっくり首を横に振って、メーラーを起動した。
「少し進展があっただけだ」
「そっか……でも花霞、あせんないよ。ちょっとずつすすめていこう」
 花霞は落胆の色を見せず、にこにこと無邪気に微笑んで、パソコン画面を見つめた。


「今、ムシ関連の噂の中で『平』っていう人間の話が持ち上がってる」
「『たいら』……?」
「平本人は多分どこにも出てきてないようだが、メールアドレスはあちこちに流れててな。手当たり次第にメールを送ったら、返信があった」
 将は問題のメールを開いた。

  差出人:平
  件名:待っている

  ウラガ君へ。
  興味を持ってくれて嬉しい。本日21時、鳩見公園で会おう。

「へえ」
「受け取ったのは昨日――とは言っても、夜中の2時だ。今日の夜9時……どう思う?」
「イタズラかもしんないよ? ネットってそういうの多いもん」
 ごもっとも、と将は肩をすくめた。
「しかし鳩見公園は最近物騒でな。少し前から通り魔が出てる。今朝は死体が出た。そんなとこをわざわざ指定してるから――」
 将の言葉は、携帯の着信音に遮られた。
 将は面倒臭そうな顔(いや、いつもそんな顔なのだが)で携帯を取り出したが、ディスプレイに表示された名前を見て、出る気になったようだった。花霞に軽く目配せすると、彼は席を立ち、普段は誰も居ない応接間に入っていった。彼は周囲が五月蝿いと電話に集中できないらしい。彼自身の声も非常にぶっきらぼうなので、相手から聞き返されるのも煩わしいのだそうだ。自分がハキハキ話す努力をしたら済むことなのではと、よく尤もな突っ込みをされるらしい。花霞もいちど突っ込んだが、将はとても迷惑そうな顔をしただけだった。
 将の背中を見送って、花霞はパソコンの画面に目を移した。
 平――。
 この無機質な電子のメールさえも貫き、異様な感情が伝わってくる。それは花霞がこれまでに触れてきたものと似通っているようで、どこか違っていた。
 花霞は首を傾げることしか出来なかった。


 将は5分ほどしてから戻ってきた。彼の顔はどうにも複雑そうで、曇っているようにも見て取れた。
「だれ? 奥さん?」
「全然違う。……嘉島っていう刑事だ。俺の記事を読んで、個人的に『ムシ』を調べてるんだと」
「カンいい刑事さんなのかもね」
「会いたいって言ってきた――今夜、な。電話ではもう何度か話してるんだが、会ったことはないんだ」
 翳る将の顔を見て、仕方ないなあ、と花霞はすこし口を尖らせた。
「会うか会わないかまよってるんだね」
「そりゃな。もしこれが、その……伝染病みたいなものだったら――」
「だったとしたら、今ごろ、麗香さんも三下ちゃんもみんなムシにとりつかれてるよ。そうでしょ?」
 花霞の言葉に、将は何かを言いかけていた。
 確かに。
 だが、見る限りでは、将のものの他には誰の影も揺らめいてはいない。
「もっと自信もたなくちゃだめだよ。ミクニさん、まだ40年しか生きてないみたいだけど、にんげんの中じゃ年上なほうでしょ? もっと自分を知っててもいいのに。なさけないよお!」
 しいん。
 花霞の檄に、編集部は一瞬鎮まりかえった。彼女の外見には似合わない言葉だったためもあるだろうか。
 言われた将はむっつり顔に拍車をかけていた。
「……歳を引き合いに出さないでくれ」


■決断と決行■

 嘉島刑事は、将より若干年上らしい、中肉中背の男だった。ピーター・フォークのコロンボを思わせるいでたちであったが、コロンボと違い(或いは将に似て)、いささかぶっきらぼうな態度であった。将には何度も会いたいと願い出ていたらしい。花霞の一喝のおかげで、ようやく嘉島は将に会えたのだ。めでたいことなのかもしれない。
 場所は、鳩見公園の茂みが見える喫茶店だ。21時までという制限つきで、将と花霞は嘉島と会った。花霞はちゃっかりショコラパフェを頼んでいた。
「……娘さんかい?」
 パフェを前にして喜色満面の花霞を見やり、嘉島はそんなことを口走った。将と花霞は揃って激しくかぶりを振った。
「ちがうよ!」
「ちがう――いや、ちがいますよ。仕事をたまに手伝ってもらってるだけで……こう見えても頼りになるんです」
 将が口走った最後の方の余計なつけたしは、いささか小さくなっていた。花霞は『こう見えても』の部分で、むっと頬を膨らませる。もっとも、将は言ってから後悔したようだ。目で『悪かった許せ今の発言は撤回する』と謝っていた。
 嘉島は東京の裏で息づく付喪神のことも、蟲のことも(まだ)知らない。「ふうん」と言ったきりで、それ以上追求してはこなかった。
「最近、埼玉じゃ蒸発や殺しが多くなった。同僚はみんなバカにするが、おれはあんたの記事が気になってね」
「『ムシ』?」
 花霞が首を傾げると、嘉島は煙草をくわえながら生返事をした。
「消えた人間や死んだ人間は、大体パソコンを持ってて――インターネットをやってた。おれも最近勉強したもんでね、多少はネットのことがわかってるつもりだ。……共通項はお察しの通り、『ムシ』だよ」
 花霞と将はちかりと目を見合わせた。
 素人ではなかなか掴めない情報だが、さすがは警察か。
「そして、『平』だ」

 時刻は、午後8時40分。

「……これから、その平と会うことになってます」
「本当か?」
「俺に話があるそうで」
「やめといた方がいいと思うんだがなあ」
 嘉島はばりばりとうなじを掻いた。
「なんで?」
 花霞は唇についたクリームを舐めてから、首を傾げた。
「勘だよ」
「『刑事のカン』ってやつだね」
「そう思うのは自由だ。ともかく、おれは反対する」
「黙っていては事態は動きませんから」
 将は仏頂面で言い切った。
 しかし花霞は微笑んだ。さきの檄はちゃんと将の心に届いていたらしい。それがわかったから、嬉しかった。

 時間が迫ってきていた。
 花霞と将は、21時5分前に喫茶店を出て、嘉島刑事と別れた。
 別れ際、花霞は嘉島の袖を掴んだ。
 この男は刑事だ。会っている間、すっかり忘れていた。人捜しのプロではないか。自分も動いているわけだが、ここで頼んでおくに限る。
「花霞ね、友だちの哥々さがしてるの。刑事さんも、いっしょにさがして!」
「いいとも」
 刑事の態度は、子供に対するものだった。
「でも、刑事さんもいなくなったら『もともこもない』から、気をつけてね」
「……難しい言葉知ってるんだな」
「花霞、見かけによらないんだよ」
 胸を張る花霞の後ろで、将が少しばかりばつの悪そうな顔をした。賈花霞は、わりと根に持つ性分なのかもしれない。


■午後9時の悪夢■

 人気の無い鳩見公園、午後9時。
 住宅地とはまだ離れているここは、喫茶店やブティックが集まった閑静な商店街だった。午後8時にもなると店は閉まり始め、静けさを帯びてくる。9時にはすっかり静まりかえるのが常だった。ここのところ血生臭い事件も相次いでいることから、通り抜けようとする人も現れていない。皆遠回りをしてでも、明るい歩道を通っている様子だ。
 ふたりは歩いて鳩見公園の広場に向かった。
 約束の時間だが、それらしい人影どころか、誰も広場にはいなかった。
 街灯の白い光が、ふたりを照らし出す。深淵よりも深い影が地面に落ちている。

 かさこそ――

 その音を聞いて、ふたりは立ち止まった。
 花霞は、将の袖を引っ張った。苛立ち、敵意、破壊衝動、それらの感情の流れを読み取って、音の出所を突き止めたのである。それは、茂みの中からのものだった。
 かさこそかさこそ、かさかさかさかさ、
「来るな」
 近づくと、囁き声が届き始めた。
 かさかさかさ、
「くそっ……くそっ、来てほしくなかった」
「――平か?」
「なんで来たんだ」
 かすれた将の問いにも、男の声は答えない。
 茂みの中から、ただひたすらに呪詛を絞り出すだけだ。かさこそという薄気味の悪い音とともに。
 感情の流れは収束し、急激に速まって、怒涛のように押し寄せてきた。
 来やがった何で来たんだ来なければいいと思ってたのに何で来たんだ何であいつの言う通りになったんだ来ちまいやがってああ、ああ、ああ、来やがったな!
「ミクニさん!」
 花霞が警告する。
 それと同時に、茂みを切り裂いて、1匹の蟲が飛び出してきた。66対の脚を持つ蜂だ。尻から飛び出した針は、ささくれ立っている。蜘蛛のような顎と、9つの複眼。血管が飛び出した翅は、かさこそと音を立てていた。
 短い悲鳴を上げて、将が倒れた。蟲が彼の身体に組みついたのだ。ぞわぞわと脚が蠢き、将の身体を戒め、ぎちぎちと針を動かす。蜂は明らかに将を狙っていた。その紅い複眼のいずれにも、花霞の姿など捉えてはいないようだった。

 何とか将が影の中に閉じ込めていたあの蟲が、動き出す。

「ウラガ!!」
 将が叫んだ。
「大人しくしろ!」
 それから、花霞に助けを求めた。
「花霞! こいつを! 頼む!!」

 花霞は、思い出した。
 以前彼女は彼女自身の刃で、将の蟲を薙ぎ払った。そのとき将はどうなった……?
 蟲のあぎとを切り裂いたはずなのに、将の唇までもがぱくりと裂けた。
 身体がこころを形作っているのではない――その逆でもない。だが、人間のこころはずっと強いものだ。あまりにも強すぎるから、時折、賈花霞のような存在を作り出す。
 蟲もまた、花霞のようなものなのだ。
 あれは、こころの形なのだから。

 花霞はきつく口を結び、舞うような動きで腕を打ち振った。
 風の動きは見えなかった。ささくれた針を将に向けている蜂にも、将にも、将の蠢く影にも、花霞自身にも。
 だが間違いなく、蜂の脚が30本ほど斬り落とされて、ばらばらと草むらに飛び散った。将の身体はたちまち開放された。
 蜂が飛び上がる――
 しかしそのとき、将の影がわらりと裂け、たちまち巨大な百足になった。
 百足はひどく苛立っていた。赤々と燃えるその瞳から、敵意と怒りと苛立ちがにじみ出ている。
「……だめ!」
 花霞の静止は届かなかった。肝心の持ち主が止めなかったからだ。止める余裕をもっていなかったのであるる
 たちまち百足は鎌首をもたげ、ぐわッとあぎとを開いて蜂に咬みついた。そのままばりばりとすべてを咬み砕いた。破片がばらばらと草むらに落ち――蜂は影になり――音もなく、茂みの中へと帰っていった。


■始まり■

 花霞は慌てて茂みの中を覗きこんだ。
 汚れたTシャツを着た男がひとり、血を吐いてのびていた。その身体の下には影がある。とりあえず生きてはいるようだが、事情は聞けそうもない。
 振り向くと、将の蟲はぎちぎちとそこに佇んでいた。
 その赤い目は禍禍しいものだったが、いまはどこか空虚でもあった。つき先程見せた無差別な敵意や苛立ちはない。
「ウラガっていうんだ、その蟲。ミクニさんのハンドルと同じだね」
「ああ。名前をつけたら大人しくなってな」
 将は面倒臭そうに、蟲の頭を小突いた。
「戻れ、ホラ。まったく、またでかくなりやがったな」
 ぎゅう、と地面に押しつけた。
「ウラガ! 戻れ!」
 蟲が地面にめり込んだように見えた。次の瞬間には――将の足元に、影が戻っていた。花霞はその様子を見て微笑む。
「なあんだ――将さん、花霞が思ってたより、しっかりしてるんだね」
「おまえのおかげだと思うがな」
 台詞のわりには、あまり感謝していないような表情だった。
 それでも、花霞が気に留めるはずもない。彼女はパフェを前にしたときのように顔いっぱいで笑って、将の腕を取った。

 21時半になったが、誰も姿を現さなかった。



 花霞は日を改めて、月刊アトラスに顔を出した。今度は、自主的に。将からはしばらく何の連絡もなかったが、『平』のことは頭から離れなかった。
「ミクニさーん、こーんにちはー!」
「……おまえか」
 花霞がとびついても、将はそんなそっけない反応を示した。しかしながらその眠たげな目は安堵したような様子でもあった。大きな安堵だ。母とでも会ったかのような。
「学校には行ったのか? 随分早いぞ」
「今日は午前中でおわりだったの。……あー、なんか信じてない顔してる。花霞、うそつかないよ!」
 将はこめかみを押さえたが、それ以上突っ込まず、パソコンに向かった。
「まあ、見てくれ」
 とりあえず、花霞の言葉を信じたらしい。彼はメーラーを開き、受信メールボックスを花霞に見せた。


  差出人:平
  件名:ようこそ

  ウラガ君へ。
  きみのムシを見た。それと、娘さんも。
  面白い娘さんをお持ちのようだな。
  だがとにかく、我々はきみを受け入れる準備を終え、
  きみは我々と目的をともにする権利を勝ち取った。
  おめでとう。『殺虫倶楽部』にようこそ。


「だ、そうだ」
 将は肩をすくめた。
「俺は何もしてなかったことも、向こうは見てた。それでも何か知らんが勧誘をしてきてる。……どう思う?」
 問われて、花霞は真顔で考えこんだ。
 将の溜息まじりの付け足しが追い討ちをかけてくる。
「あとな、……あの嘉島って刑事、消えたらしい」

 かさこそ、

 見れば、ウラガが将の影の中で蠢いていた。




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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【1651/賈・花霞/女/600/小学生】

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               ライター通信
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 どうも、モロクっちです。
 花霞さま、続編へのご参加有難うございます! 『殺虫衝動』第2話をお届けします。今回は、『平』との接触、そして将との再会でした。
 個人的に女の子&オヤジという組み合わせが大好きでして、何だか将とのやり取りはほのぼのとしたものになってしまっています。花霞さんの中身は600歳だとわかっていても……(笑)
 もしよろしければ、ようやく受注を始められた第3話にもご参加くださいませ。ちなみに『ウラガ』は、海上自衛隊が保有する巡視船の名前です。将はフネ好きですから(笑)

 それでは、この辺で。
 またお会いできれば幸いです。