■あやかし荘奇譚 剣客の下宿8 師範代の素行調査■
滝照直樹 |
【1687】【黒乃・楓】【賞金稼ぎ】 |
有る事件が終わった後だが…義昭君に想い人ができたとか、なんとかと…。
天空剣師範代織田義昭。神の剣を操る高校生。
「青春だな。良いことだ」
とエルハンドは麦茶を飲んでご隠居のようす。
しかしながら、幼なじみの茜や、事件で知り合った瀬名雫にとっては由々しき事態。
茜「よしちゃん…わたしは…(赤面」
雫「初恋は成就しないって言うけど、迷信だって証明してみせる」
エルハンド「夏真っ盛り。平和だな」
あんたはそう見えるでしょうけど当の二人はそれどころではないんですが?
さて義昭君の思い人は?誰でしょうか?
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あやかし荘奇譚 剣客の下宿8 師範代の素行調査
■夏だというのに
―若さというモノは良いものだ。
エルハンドは素麺を食べながらそう思った。
自分の部屋で、甚平を着て団扇を仰ぐ。すっかり日本の夏を楽しんでいる…。
或る事件を切っ掛けに、天空剣師範代織田義昭に様々な友人が出来た。
それである珍事件が加わる。
茜と瀬名雫がある魔物に襲われ、義昭が助けに入った時…瀬名雫は彼に一目惚れしたというのだ。
魔物のことも問題だが…瀬名雫と言えばオカルト関係以外殆ど興味を示さない女子中学生というではないか。魔物退治と三角関係…。稽古に学業、青春と大忙しの愛弟子。
魔物退治は片づいたとしても、想い人が出来たという妙な噂。
「義昭も此でだいぶ明るくなるだろう…っと言いたいのだが」
あやかし荘の狭い部屋に…雫、長谷茜が集まっていた。
「何故私の部屋でその話をする?」
エルハンドは溜息をつきながら2人に訊く。
「私、織田さんのこと分からないし…茜さんは教えてくれそうにもないし…だからエルハンドさんに訊こうと」
「だって…私だって…よしちゃんのこと…それに共通して…」
一間置いて
「「想い人って言う噂自体何か、おかしいもん」」
「ハモるな…。此処は恋愛相談所じゃない…」
剣客は溜息をついた。
「義昭は、夏休みに入ってしっかり稽古もしているし変わったところはない。心当たり…稽古の休憩時に上の空ってのは…良くあるな。悩みがあるなら第一茜に先に言うものだが…私にすら相談してこない」
麦茶を飲みながら自分が知る限りの事を言う。
「片想いの人が出来た?」
「かなぁ?」
茜と雫は首を傾げうんうん唸って考える。
「私はそう言うのは管轄外だ。私にだって分からないものは分からん。帰った、帰った」
「ぶ――!」
半ば追い出される形で2人は帰っていった。
数分後剣客は溜息をついて…静寂な部屋に戻ったのでほっとした。
「まったく…」
「この暑い中。二人とも元気やねぇ。若い者にはかなわんわ」
いきなりの関西弁にエルハンドは飲みかけの麦茶を吹き出しかけた。
玄関に大曽根つばさが立っているのだ。
「ノックもせずにいきなり喋るな…」
「ちょこっとだけ耳にしたさかい。瀬名ちゃんのことを気になってここに来たらあんじょうその話で…」
「先ほどの台詞…若い君が言う言葉じゃないと思うが」
「そやね。でもウチの正直な感想や」
麦茶を差し出すエルハンドに素直に答えるつばさ。
「ま、ウチはどっちに着くかは分かっているやろうけど、エルハンドさんは…」
「雫だな」
「もちろん」
元気な笑みを見せるつばさ。
「んじゃ、詳しいことは此処では分からんと言うのは分かったし。ほな、ごちそうさま」
麦茶のカップを空にしてパタパタと部屋から去るつばさ。
―はぁ
剣客は溜息を吐いた。
エルハンドが稽古するために長谷神社に出かける途中、
「エルハンド様こんにちは」
「撫子か、こんにちは」
天薙撫子と出会う。
「丁度お会い出来てよかったです」
「ああ…」
エルハンドの顔つきがおかしいと感づく撫子は
「織田君のことですか?」
「そう言うことだな…」
「確か…道場の中でも義昭君に片想いの人がいるとか何とか噂になっております」
「それ以上のことは誰も知らん。私もな」
エルハンドは肩を竦める。
「茜と雫が躍起になって真相を突き止めようとしている。ヒョッとしたら『自分』じゃないかとな」
「あらら、元気が良いですね」
クスクスと口元を手でおさえて笑う撫子。それにつられ笑みを浮かべる剣客。
喋りながら、神社に着き普通の稽古と「超越者」としての修行を行いその日は極普通に終わった。
実のところ…エルハンドはこの騒動(?)の結末がどうなるか知っている。
「先見能力」が有れば分かるものだ。
楽しくおかしく、若い者に青春して貰おうと考えていた。
稽古中、織田師範代がある「人物」ばかり眺めているのを知っている。
「義昭も…成長したものだ」
と心の中で思うエルハンド。
伊達に義昭を師範代まで鍛え上げた訳ではないのだから…。
■大きくなる騒動
数日後のことである。
「織田義昭に彼女が出来た!」
という噂は、尾ひれ背びれが付いて、しかも
「実はショタコン趣味のお兄さんと!」
「着物のお姉さん好き」
「萌えの暗黒面に覚醒した」
とか、かなーり混沌とした噂もオマケでついていた。
学校でもネタになる義昭。
「俺の安息の地はないのか…特にオマケは要らないぞ。オマケだったら天使のマークがいい…」
と呑気なボケを言いながら、頭抱える義昭君。
「誰だ!こんな噂を流したのは!俺はそんな訳分からない趣味は無い!」
と屋上で叫んでも意味は…一応あった。やり場のない怒りのあまり神気が発散されたのだ。
ガラスぐらい、粉みじんに砕くほどの威力を放出したのだ。足下のコンクリートも少しえぐれている…。
「はぁ」
溜息をつく。
しかし…
「よしちゃ〜ん」
嫉妬の焔を纏っている茜が現れた。効果音が有れば…ズゴゴゴゴゴゴと出ていることだろう。
―あああ、あの噂を本気で信じているよ…茜ちゃん…。
義昭は項垂れる。
「おいおい、真実ぐらい見抜こうぜ、茜…?だ…だから、そ…そのハリセンを常備するのは…やめろぉ!」
説得むなしく…屋上で大きくハリセンの音が響いた…。
―それでも義昭君の受難は続くのです。
●黒乃楓
かなり時間は遡る。ある日のネットカフェで…
「雫タン、漏れが君の依頼をこなすぜぇ」
「はぁ?その壷がトレードマークの大型掲示板言葉でいきなり話しかけないでよ…」
謎の高校生黒乃楓が、瀬名雫の行動を知り、依頼料が〈美食軒〉特盛チャーシューということで話をしていたのだ。
「任せとけ〜雫タン♪依頼は、最後は織田タンに告白することなんだろぅ〜!漏れは力一杯頑張っちゃうぜぇーー♪」
「告白じゃなくて…返事が聞きたいの!でもさ、ラーメン店美食軒の特盛チャーシューでいいの?凄い安上がり…」
「まっかせとっけ〜雫タン!」
そう、其処のラーメン屋は美味しいのは確かなのだが…知る人ぞ知る店であり、常連客しか来ない。それにくわえて破格の値段なのだ。特盛チャーシューは700円するところ450円という…。
「いいわ、あまり期待しないけど…はい、先に渡しておくね、依頼料」
「では逝ってくるぜぇ〜期待して待っててくれ〜」
―いえ、期待はしてないんだけど…。
そして、現在…。
黒乃は夕刻…義昭の出会う学校の下駄箱に…ラブレターを入れた。
其れも2通である。
瀬名雫の、もう1つは茜だ。
完全に彼は人の筆跡をコピー出来る能力を持っている。
しかし、しゃべり方からして、電波故に…詰めが甘いしボケ倒すことが宿命と思いこんでいる。
強力な力を持ちながらも…結局萌え者なので…人生終わりなのだ。
―ホントにもったいない。
内容はいたってベタである。
雫の筆跡を真似た方は
〜お話ししたいことがあります。大切なことです。助けて貰った場所で待っています〜
茜の方は
〜大事な話があるの。霊木前で待ってるから…〜
と書いている。
どちらを選ぶかを観察し一足先に現場で待つ計画だ。
当然その先には黒乃以外いない。
下校時刻…
散々クラスメートにからかわれ、茜にも屋上で叩かれ…心身ともボロボロの義昭。
力無く下駄箱を開けると、2通の手紙…。
「ラブレターか…小学や中学のとき貰ってたな…懐かしい」
とはいっても…常に茜と一緒だった為にそんなに貰ったことはないし、天空剣修行時だったため付き合えるほど心に余裕がない時代だった。
相手を見ると少し驚く。
「はぁ、まったく直に言えばいいのではないのかねぇ?」
頭をかきながら2通の手紙を見比べる。
「?」
何か感じ取ったようだ。
「雫ちゃんの所によるか…。今の茜には会いたくもねぇ…」
場所は魔物と戦った場所…、雫に告白をされた切っ掛け。
「どっちにしても…俺の噂のことなんだろうけど…」
溜息ばかりついている自分に嫌気をさしていた時。
ギターを弾きながら、恋愛系フォークソングを歌う男がやって来た。
「やっぱりな」
と、呟く義昭。
黒乃楓は彼が怒り心頭なことを全く知らず…歌の内容は…。
『漏れは織田タンのことが好きです…ハァハァ』
だったりする。
その歌が終わった瞬間…義昭の神格が爆発。神格具現剣『水晶』で黒乃を思いっきり水平で峰打ちするが、神格力を込めすぎたので…。
「ぐはぁ!」
黒乃は吹っ飛び壁に激突した。全部の骨は砕け、内蔵も破損する重傷を負った。
本気で斬っていたら、黒乃は蘇生も出来ない状態になっていただろう…。
しかし、仕事人はしっかり任務をこなすようだ。
「萌え者は…死を賭してボケないといけないのだよ、織田君…。いつか人は死ぬものだ…。明日…死ぬかもしれない人間には言いたい事をちゃんと言うのを漏れはお勧めするぜぇ〜♪其れが漏れの言いたいことだ…がくっ」
といって黒乃は気絶した。
―萌え者にまで心配されるなんてなぁ…。
仕方ないので、一応神格を使って怪我を治し、そのまま放置して去っていく義昭だった。
―救急車ぐらい呼べよ…。
■呑気に歓談?
あやかし荘に、また人が集まった。
撫子と、義昭、つばさに白里焔寿である。
焔寿は久々に皆元気でいるかなぁとフルーツケーキを持って遊びに来たのである。
撫子はいつもの綺麗な着物、焔寿の服装はグレーのツーピースですが、生地は夏用に薄手の半袖です。髪は白のレースのリボンでポニーテール。猫のチャームとアルシュを連れてスイカ模様のリボン付きだ。
「せんせーですか?噂を広めたのは?」
怒り口調でエルハンドに詰め寄る義昭。
「私が何故そんなことをしなくてはならぬのだ?」
笑いをこらえて答えた。
「面白い魔術師さんとは出会いましたけど…。茜は誤解してるし、学校の連れにはからかわれるし、しまいには、萌え者とかいう変な人物にもつけ狙われ…。つばさちゃんにまで訊かれるし…。大体…此を見ておもしろがるのはせんせーと宗家ぐらいです!」
かなりご立腹の義昭。
エルハンドは其れを止める気はないようだ。
「義昭君、少しは落ち着いて。焔寿さんが持って来てくださったフルーツケーキを食べましょう」
撫子が義昭を宥める。
「あ、はい…撫子さん」
いきなり、大人しくなる義昭。ケーキを食べて一言。
「美味しい」
まるでさっきの気迫は何処へやらの平和な顔だ。
「何か分からん人やなぁつくづく」
つばさは呆れかえる
「一体どうされたのですか?」
焔寿が良く分からないので尋ねる。
「いや、義昭に片想いの人が出来たとかなんとか妙な噂がたってね。茜と雫、そして義昭も困り果ててるって所だ」
「そうなんですか♪茜さんって…」
「俺の幼なじみで…撫子さんと同じ巫女だよ。少し能力は違うけどね…後性格はえらい違いだ…」
紅茶を飲んで一息ついている義昭が答えた。
「幼なじみですか…いいですねぇ」
「そうでもないさ…変な誤解を良く受けるしな…」
あまり茜のことは悪く言いたくないが、正直に話した方が良いのだろうかと悩む義昭。
「夫婦ハリセン漫才は上手いな。義昭がボケでツッコミが茜」
エルハンドはクククと笑う。
「茜さんはハリセンで人を蘇生したことも有りますよ」
「凄い〜」
「ハリセンで…人間業ではないわ」
撫子が付け加えるとつばさと焔寿は吃驚する。
すると、大きな足音が迫ってきた。
「もう!私はハリセン使いじゃないもん!」
茜本人参上。
「噂をすればとやらだ」
エルハンドの言葉に茜以外は笑う。
「ちがうったらちがう〜」
地団駄を踏んで抗議する茜だった。
【義昭の好きな人は誰か】
という座談会…もとい審問会がエルハンドの部屋で行われる。
「先生…」
義昭がエルハンドに訊いた。
「何故其処まで…するのです?」
「珍しく楽しい事件だ。たまには息抜きが必要なのだよ」
「やっぱり、宗家と同じだ…」
「で…誰がすきなんや?」
「其ればかりかよ」
「よしちゃんこの際、はっきりと!」
逃げ場なし…
「当然、私でしょう。ヨ・シ・ア・キ♪」
「何故、シェランさんがいるんだ!」
「其れはサンシタに護符を売ってきたところ何ですよ☆」
「漏れもいるぜぇ」
黒乃とシェランも現れる。
「どうなってんだよ〜」
義昭は、叫んだ。
■後日談
あれから数日後…。
「義昭の好きな人」という噂は全く聞かなくなった。
まるで…その噂自体がないような…。
「暗黒天空剣でもつかったのかな?先生…」
河川敷で寝っ転がっている義昭はそう呟いた。
噂を消すぐらいエルハンドなら簡単なことだ。
しかし、まるで夢のような出来事だったな…。
まぁ失恋も悪くない。
相変わらず、茜と雫との三角関係は続いている。
愉快な知人も出来た。
「今日より明日!」
義昭は身を起こし、エルハンドの住まうあやかし荘に向かった。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0328 / 天薙・撫子 / 女 / 19 / 大学生】
【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 /天翼の神女】
【1366 / シェラン・ギリアム / 男 / 25 /放浪の魔術師】
【1466 / 大曽根・つばさ / 女 / 13 / 中学生・退魔師】
【1678 / 黒乃・楓 /男 / 17 / 賞金稼ぎ】
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿8』に参加していただきありがとうございます。
VSN『神の剣』とリンクしていますが、パラレルワールドとして書かせていただきました。
天薙様、白里様いつも参加ありがとうございます。
また、初参加のシェラン様、大曽根様、黒乃様ありがとうございます。
また機会が有れば宜しくお願いします。
滝照直樹拝
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