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■こちら邪神温泉地獄一丁目前旅館■ |
姫野里美 |
【0085】【ガブリエラ・ホフマン】【エスパー】 |
ある日、皆のもとに、封筒が送りつけられてきた。真っ白なそれには、差出人の名前はなく、宛名もプリントアウトされたものだ。
それには、和紙で出来た『招待状』が2通入っており、それと共に、こんな手紙が入っていた。
『前略。日ごろお忙しい日々を過ごされている皆様へ。そんな皆様をねぎらい、我が一丁目温泉に御招待することとなりました』
そこまでは普通の文章だ。だが、穏やかな文面に混じって、表示されていた温泉の効能。それには、とんでもない効能が表示されていたのだ。
『なお、当家では、普段中々言えないことを、包み隠さず告白していただきたいとの配慮から、男女の湯の間は、非常に声が通りやすくなっております。また、普段中々意思の疎通が図りづらいカップル様、片思い中の方々の為、性転換の湯などもございます。この外にも、子供になれる湯、大人になれる湯、また動物に変化する湯、人体に無害なれど服の溶ける湯など、様々な効能を持つ温泉を御用意いたしておりますので、皆様ふるって御来館下さい』
並べられただけでも、まともな湯は一つもない。むろん、きちんとした湯はあるのだろうが、その文面から察するに、是非その不可思議な湯に浸かって欲しいとの意図が丸見えだった。
そもそも、温泉の名前からして怪しげである。だが、面白そうな事件が待ち受けている事は間違いない。
興味を引かれた彼らは、その信用性の欠片もない怪しげな招待状の導くまま、己の好奇心とそれぞれの動機をもとに、『邪神温泉地獄一丁目旅館』へと赴くのだった。
【ライターより】
と言うわけで、面白そうな効能の温泉を多数用意してみました。むろん、これ以外にも楽しそうな効能の温泉はたくさんあると思います。是非そこで騒動を起こし、巻き込まれてみてください。
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こちら邪神温泉地獄一丁目前旅館
●服の溶ける湯〜ケーナズの受難編〜
「あー、酷い目にあった。いきなり問答無用だもんなー」
ぶつぶつとそう呟くケーナズ。うまい事子供‥‥いや、幼児になって、あちこちの温泉に入り倒していたのだが、いずれも大体彼氏や保護者が居て、彼は頭やほっぺたやお尻に紅葉を三つも四つも作っていた。
「さて、ここは・・・・?」
きょろきょろと辺りを見回すケーナズ。挙句の果てが、その一人に鉄拳制裁を食らい、広い敷地のハズレの方へと、追いやられてしまったのだ。
「おおっ! 迷って来てみれば、ここは御婦人方の湯!」
だが、神は彼を見放さなかった。散々迷った挙句、湯冷めしてきたのか、10歳くらいになったケーナズを待ち受けていたのは、『姫湯』と書かれた温泉の入り口だった。
「と言う事は、中にはあーんなのや、こーんなのが一山いくらでてんこもりッ!! 待っててねー♪ 乙女達っ」
喜び勇んで入り口にかけられた暖簾をくぐるケーナズ。
ところが。
「ダレデスカ? イタズラヲシタノハ。コマッタモノデスネ」
その直後、従業員が外した暖簾の内側には『殿湯』と書かれていた。
どうやら、彼のお導きをしたのは、勝利の女神様ではなく、耽美の邪神様だったらしい。
「あの後ろ姿は、間違いなくかぐわしき乙女のもの!」
が、そんな事なぞケーナズはつゆ知らず、いつものノリで、がらりと扉を開ける。
「お姉さんっ。一緒に入ろっ」
湯気の向こうに使って居るのは、アップにした銀髪の美女。白いうなじも色っぽく、その『美女』は、低い声で湯船から立ち上がった。
「いらっしゃい。待ってたよ‥‥」
「へ?」
状況を理解していないケーナズ。と、彼は呆然としているケーナズを、湯船の中に引き釣り込むように招き入れ、耳元に吐息を噴きかけながら、こう囁いた。
「君だね? 女性達にちょっかいを出しているって言う、困った坊やってのは・・・・」
「し、失礼しましたぁっ!」
ケーナズにその趣味はない。くるりと回れ右をして、さようならをする。
「ああっ! やっぱり! マスターってば、なんだか美少年と怪しい事に・・・・!!」
もちろん、その先はお子様立ち入り禁止の世界なので、状況説明は、隠れてこっそりその様子を観察していたガビィに任せる事にしよう。
「おっと。逃れられると思わない事だな」
「ひぃやぁぁぁ」
背中を撫でられて、腰の力が抜けた。どぼんっと肩のあたりまで浸かってしまったケーナズの、唯一身にまとっていたタオルに、手をかける謎の美青年。
「さぁ、邪魔なものなど、脱いでしまうが良い」
「離せッ! このッ! ミンチにされてぇか!」
今までの少年口調を潜め、元のケーナズそのままな、乱暴な口調で、暴れる彼。
「いけないよ。言葉遣いが悪い」
「んぁっ!?」
体格の差で、押さえつけられたケーナズの腰から、タオルが消えた。
「あ、あ、あんなトコに、あんなコトをっ! いけませんマスター。きゃあ、刺激的過ぎますわ〜」
顔を紅潮させながら、その光景に魅入るガビィ。
「おねーさん、どうしたの? 早く入ろうよ」
「ああっ。そんなトコに、そんな‥‥。それは、大変な事になりますわ・・・・っ」
後ろから、プティが『どいてよー』と、突付くが、まったく動かない。
「ふふ、可愛いですよ・・・・」
「ガーン・・・・。そんな‥‥。あたしは捨てられてしまったのでしょうか・・・・」
それ以前に、相手は近親相姦ネタに走っている様なものなのだが、頭に血の上った彼女は、そんな事には気付いていない。
「こうなったら自棄ですわ・・・・!」
「さようなら。俺の貞操・・・・」
ケーナズが、覚悟完了して、己の貞操を娘に捧げる事を決めたその時だった。
「マスター・レーナ!」
「えっ!?」
洗い場に響く大声。
「こ、こっぺりあ!? 何でここに!?」
「丁度いい! 助けて〜!!」
目を丸くする2人だが、ケーナズは現金なものである。即座に可愛い声を作って、上にのしかかっている青年から、逃げ出そうとする。
「そんなお子様を相手になどなさらないで下さい! でないと、あたし・・・・」
涙ぐんだガビィが向いた方向。そこには、『キケン』だの『毒』だの『どくろマーク』だの、人目でやばそうだとわかる湯船。
「うわぁぁぁっ、待った! ちょっと待ったー!」
「マスターに捨てられるくらいなら、どうなろうとも・・・・」
止めようとするレーナと、他人の振りするケーナズ。
と。
「お姉ちゃん。早く入ってよーう。次がつっかえてるんだからさぁ」
「あ」
プティがえいっと、少し怒った表情のまま、ガビィを押した。
水音、悲鳴、煙。
「おおー!」
それらが収まった時、そこには服の溶けきったガビィの姿があった。
「きゃぁぁぁっ。見ないでぇぇぇ!」
「いやー。いい物を見せてもらった。じゃ、僕は上がるから」
複眼複眼♪ と、しらーんぷりして、ケーナズが上がろうとした刹那。
「待ちなさぁぁぁいッ」
「まだ、何か?」
おどろおどろしい声を出すレーナ。
「あたしのコッペリアの裸見ておいて、ただで帰れるとお思い? お父様」
「な、何を言っているんだ。僕は決してケーナズじゃ・・・・」
図星を突かれ、引きつった表情で、そう言うケーナズ。
「誰も名前言ってませんよ」
「しまったぁぁぁっ」
自ら名乗った事を、ガビィに指摘され、頭を抱えてしまう。
「お仕置きですわーーーー!!」
「うっぎゃぁぁぁぁぁ!!」
彼が、レーナからどんな制裁を受けたかは‥‥そりゃあもう、ここでは伏字だらけになってしまうので、まったく書けない。
「大人の世界って、恐いなー」
上がってきたプティは、そう言うカップルの所には、絶対に行かないぞっと、心に決めるのだった。
本日の教訓‥‥自業自得。
●チェックアウト〜お会計〜
「結局ここでは何もわからなかったですね‥‥」
散々調べまわったクルスは、不満そうにそう答えている。
「楽しかったー。またこようねっ」
プティは、遊園地を後にするときの様に、上機嫌のままだ。
「私も、お兄様とまた来たいですわ」
「あ、あははは‥‥」
彩の隣では、その兄貴が引きつった笑みを浮かべていたり。
「ぶー‥‥」
「何か、機嫌が悪いんだが」
「しらん」
ネイナの所は、連れの子供の機嫌の悪さに、その子を抱いた青年が、情けない表情をして居る。
「どこのご家庭もご亭主は大変ですわねー」
「マスター・レーナ。それ以前に、これ、どうしましょう」
その様子に、レーナがほほえましく言った。と、隣でガビィが尋ねてくる。そう、たった一人、元に戻らなかったのもいたのだ。
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
「しばらく放っておけば元に戻りますわ。オールサイバーだから、元にも戻りにくいんでしょう」
ケーナズである。お仕置きと幼児化の湯の相乗効果で、未だに赤ん坊状態だ。
「何か、まだ頭がボーっとする‥‥」
黎司は、湯あたりを起こしてしまったようだ。しばらく風に当たっていれば平気だろうが、はたしてその原因は、温泉疲れだけだろうか。
「大丈夫ですか? 熱に弱いのに、無茶するからですよ」
「うん‥‥」
もう1人、湯あたりを起こしてしまった青年が居る。シオンと共に来たキウィもそうだ。
「あたたた、腰が‥‥」
「無理するからですよ。まったく、温泉に来て、ぎっくり腰になるなんて‥‥」
ローゼンクロイツはと言えば、年寄りの冷や水で無茶をしすぎて、ルツにさすってもらっている。
と、そんな彼らに、旅館を代表して、礼服を着た一番血色の悪そうな従業員が、こう言った。
「アリガトウゴザイマス。ミナサマノオカゲで、貴重な生体エネルギーが手に入りましたわ」
「あ、血色が良くなった」
見る見るうちに、その血色が良くなっていき、言葉も滑らかな発音になって行く。
「これで、しばらくは行動できます。また、何人かには招待状を渡すかもしれませんが、その時には、別の趣向を凝らしますので、楽しみに待っていてくださいましね‥‥」
だが、ソレとともに、旅館は次第にその姿を薄くして行った。
「消えた?」
後に残ったのは、雑草の生い茂る野原。申し訳程度に、建物の跡はあるが、温泉も従業員も、影も形もなく消えている。
「ホログラフか‥‥。実体を伴うなんて、どこの技術だよ‥‥」
世の中には、まだ自分の知らない技術があるようだ。そう思うクルス。
ところが。
「あれ? そういえば‥‥。ここ、戦争か何かで、一回崩壊した城の跡とか言う話を聞いた覚えが‥‥」
「「「「なにぃぃぃぃっ!!?」」」
黎司の言葉が、一同の温泉熱を、一気に零下まで、湯冷めさせてしまったのは、言うまでもなかった‥‥。
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